変態ばかりの学園ものエロゲーに転生したからヒロイン全員清楚に調教する 作:ブラックカボチャ
聖歌さんに半ば連行されるように入店した店内は、営業していないのだから当然のように貸切で、聖歌さんは手慣れた様子で茶葉を選ぶと、紅茶をいれてくれた。お茶菓子まで用意されていたので、ここでお茶会をすることは店のオーナーも了承済みなのだろう。ランチをしたときに依頼したのか、元々の計画に入っていたのかは分からないけど。
手際の良い聖歌さんによってティータイムの準備は整い、テーブルの上にはオレンジの輪切りが煌めくパウンドケーキと、聖歌さんが手ずからいれてくれたミルクティー。最初の話題はやはりその味になる。
パウンドケーキなんて滅多に食べないけれど、今日のこれは格別に美味しいことは間違いない。オレンジの爽やかな酸味とケーキ自体のほのかな甘さが絶妙で、そこにまろやかな甘さのミルクティーが合わさることでなんとも言えない満足感が溢れる。
「このケーキは甘さが控えめなので、渋みが強くない紅茶が合うのですが、私としてはストレートよりもミルクティーの方がおすすめなのです」
「詳しいんですね。ぼくはこれまでの人生で紅茶の種類なんて気にしたこともありませんでした」
「茶葉、淹れ方、温度、少しの変化で味が変わりますから、一口に紅茶と言っても、奥深く繊細なものなのですよ」
得意気に話す聖歌さんの様子は何とも珍しく、本気で好きなんだなというのが伝わってくる。生徒会室に何種類もの茶葉や本格的なティーセットを用意していたくらいだから何となくそんな気はしていたけど。
「『聖女』が紅茶を好きなことに違和感はないでしょ?趣味として都合が良かったのです」
ぼくの考えていることを察したのか、聖歌さんは気恥ずかしそうに言い訳をした。そう、言い訳。あの語り口はオタクが好きなアニメについて語っているときのそれだった。キッカケは本当にそうだったのかもしれないけど、今となっては都合が良いとかそんなんじゃなくて、きっと純粋に楽しんでいる。聖歌さんにもそういうものがあったことに少し安心する。そういえば、歌成も聖歌さん程じゃないけど、紅茶とか拘りがあって詳しいんだよな。
『採点。この紅茶はドブ川に浸した落ち葉の味がする』
なんてことをそこそこでかい声で言って店の雰囲気が地獄になったことがあったくらいだ。なんでも子供の頃から飲んでたせいで舌が肥えたのと、無駄に知りたくもなかった知識があるから妥協できないってことだったけど、身内に紅茶好きでもいるんだろうか。あいつは家族の話とかしないし、しない方が良さそうな感じだからあまり知らないんだよな。
「こんなに美味しいと興味が出てきますね、ぼくもちょっと勉強しようかな」
「それは良い心がけだと思いますよ!今度一緒に茶葉選びに行きましょう!」
何となく呟いただけだったのに聖歌さんの食い付きが凄かった。キラキラのお目々はそれはもう期待に満ちていて、とても断れるような状況ではない。勿論、断ろうなんて思っていないし、こんなにワクワクを隠し切れない聖歌さんは微笑ましく、是非ともお供させて頂こう。紅茶に詳しくなれば歌成にドヤ顔できるかもしれないしね。
「楽しみなことが増えてしまいました」
こんなことくらいで楽しみにしてもらえるのなら、ぼくの役割としては十分な働きだろう。
ぼくの役割、つまりは聖歌さんが露出だなんて凶行に走ってしまった様なストレスを溜めさせず、健やかに過ごせるよう、良き理解者、
そんなぼくの考えをまさか読んだとは思わないけど、それくらい絶妙なタイミングで聖歌さんは次の話題を放り込んできた。
「真白君は、私がどうして薫に『私と真白君が付き合っている』と宣言したと思いましたか?」
「副会長に色々問いただされるのは嫌ですし、恋人ということにしてしまえば、副会長の性格ですから深く突っ込んでこないと思ったんですよね?」
やけに真剣な声色で投げ掛けられたその質問に、ぼくは当時思ったことや、今日の交流の中で感じたことから何となく導き出していた意味を答えた。
聖歌さんが咄嗟の嘘だったために混乱して、恋人ということにしてしまったのかとも思っていたけど、偶然遭遇した要への対応で確信した。副会長に対して『友達』ではなく『恋人』ということにしたのは副会長の性格を加味してのことだったのだろう。実際あの時、副会長は色々無理矢理過ぎる誤魔化しにも触れることなく呆然自失といった具合で去ってしまった。ピンチを乗り切れたのは友達ではなく、恋人という超インパクトのある答えだったからだ。後から考えれば、聖歌さんのミスではなく意図した発言だったのは明白。流石の頭脳だと感心するばかりだ。
「はぁ………」
聖歌さんの意図を今更ながらでも完全に理解できたと思っていたのに、返ってきたのは、心底駄目だというような、海よりも深く、梅雨のようにじっとりとした長い長いため息。
「……一応聞いておきますが、その後、私はデートにお誘いしましたよね?結局四人になってしまいましたが、
「気兼ねなく遊びたいってことですよね!ぼくは会長の事情を理解してますし、プレッシャーとか使命感とか、そういうのを忘れてリラックスしてもらえればって思ってます。なのでいつでも誘って下さい」
『聖女』なんて忘れて、普通の高校生みたいに楽しんでくれたら嬉しいって思っていたんだけど、何だかんだで四人行動になってしまったものの、凄く高校生らしく楽しめたんじゃないだろうか。そう今日のことを感じていたぼくは、こうして聖歌さんにどんどん楽しいことを提供していきたいと改めて思ったわけで、さっきの茶葉選びとか、これからも遠慮なく誘ってほしいと思っているのだ。ちょっと恐れ多いかもしれないけど、何か思いついたらぼくからも誘ったりして、本当に気兼ねない友人になっていきたいな。
「はぁ………………」
百点満点の回答のはずが、聖歌さんのクソデカため息が静寂の中、重く伸し掛る。先程より長いように感じるため息が途切れた頃には、聖歌さんがちょっとやばいくらい怒っているかもしれないと、最近中々察しが良くなってきたぼくは気がついた。
「あの……聖歌さん、もしかしてお怒りになっていらっしゃいます?」
「いえ、そんなことないですよ?」
恐る恐る訊ねると、綺麗に微笑む聖歌さん。いや聖歌様。どう考えても、そんなことない人の笑顔ではない。
「真白君がどう答えるか、95%程は想定通りでしたが、残りの5%が随分と酷かったもので、引っ叩こうかと思ったのを止めたくらいです」
「それは怒っているのでは!?なんでぼくは今日だけで2回も引っ叩かれそうになってるんですか!?」
「ふふ、冗談がお上手ですね。ちなみに今ので3回目になりましたので更新してください」
「なんて理不尽!」
ぼくに対して『聖女』の仮面をすっかり外してくれていると好意的に捉えるにしては酷すぎる。そんなに頻繁に叩かれてたら漫画みたいな腫れ方するんじゃないだろうか。ヘッドギア買っておこうかな!
ぼくがあまりの理不尽に現実逃避している間も、聖歌さんは何やら小声で呟いている。俯いていても分かるくらい顔が紅潮しているのはそれだけ怒っているということなのか。ヘッドギア、明日には届くやつを探そう!
「……全く、なんて理不尽はこちらの台詞ですよ……ここまで言われて、それでも
突然、意を決したように聖歌さんが立ち上がる。何事かとぼくが目線を上げて聖歌さんに合わせれば、そのあまりの真剣さと気迫に言葉を挟むことも出来なくて。
だから、その後に続いた聖歌さんの言葉は何の準備も出来ていないまま、ぼくに降り注いだ。
「――私は……神宮寺聖歌は、綾辻真白君のことが好きなんです」
震えを無理矢理抑えたような声は、決して大きくなかったのに、自分達以外、世界が止まってしまったと錯覚するほどに良く響いて。
発せられた言葉の意味を理解する前に、その、止まった世界で聖歌さんの言葉は続く。
「私の全てを捧げてもいい。これまでの何もかもを投げ捨ててもいい。ただ貴方だけが欲しいんです」
『聖女』として相応しくあろうとしてきた少女の、剥き出しの感情が、代えがたい願いが、深淵からの渇望が、痛いくらいに伝わる。
「何回でも言います。私は貴方のことが好きです。愛しています」
それはストレートで、勘違いのしようもなくて。紅潮し熱に浮かされたような艶のある表情、ぼくだけをいっぱいに映した蒼穹の潤んだ瞳、緊張と深い感情が込められた甘く透き通った声。
どこまでも真剣で、限りなく真摯なそれは、紛れもなく告白で。
文武両道、容姿端麗、羞花閉月の高嶺の花、全校生徒の憧れ、『聖女』神宮寺聖歌に、ぼくみたいな、なんの取り柄もないやつが告白されるなんてシチュエーションは、それこそ1000回転生したって起きないような奇跡なわけで。
なのに、どうして、ぼくの口は開くことなく、ただ馬鹿みたいに、聖歌さんの美術品みたいな顔を見つめるばかりなのか。
「やはりそうですか……」
何も答えられないぼくに、最低最悪なぼくに、どうしてか聖歌さんは、凄く穏やかな表情を向けた。そして、ゆっくりとその口を開き、
「真白君、貴方には――『
蘇る記憶。
黒く塗り潰されたように顔は見えないのに、その一挙一投足が昨日のことのように動き出し、心臓は震えるように鼓動を速くする。
『はぁ?あんたとか財布だから財布!何、彼氏面してんのよ、鏡見たことあんの?オタクがいつまでも夢見てんじゃねーよ、キモいんだよ!』
そんな、もう忘れたい、なのに
感想・高評価・ここすき、本当にありがとうございます。
ありがたいことに、とても沢山の感想を頂き、返信が間に合っておりませんが、目は通しているので大変モチベーションになっております。
また、小説家になろう様にも投稿しておりますので、ハーメルン版共々よろしくお願いします。
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では、次話もよろしくお願いします。