変態ばかりの学園ものエロゲーに転生したからヒロイン全員清楚に調教する   作:ブラックカボチャ

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23話 天命者

 

 

極一般的なリビングでやるには洗練され過ぎた所作でティーカップを掴んだのは早乙女歌成。その装いは春らしいカジュアルなロングワンピースで、美しい所作も相まって良家のお嬢様の様な印象を受ける。

 

「急変。用意していた切札は、恐らく想定した通りの効果をなさない」

 

長い黒髪を耳にかけながら、歌成が紅茶に口を付けて顔を顰める。それを面白そうに眺めていたのは黒髪に真っ赤なインナカラーが特徴的な女だ。

 

「えっと、見た目も言動も歌成ちゃんだけど、雰囲気が微妙に違くない?今はどっちなの?歌成ちゃん?要ちゃん?それともぉ(・・・・・)?」

 

「悪趣味。歌成でいいですよ。まあ、姉さんが執拗にキャラクターを壊そうとしてきたので、要と少し混ざっていますが」

 

ニヤッと笑みを浮かべる女に冷たい視線を向けた歌成がため息を吐く。聖歌との対話によって感情を乱され、本来交じるはずのない『キャラクター』同士の境界が崩れかけている。

聖歌が真白への告白を終えた後も店に残り、要を待ったのはその対話によって真意を探るため。そのために聖歌は要の感情を揺さぶり、『キャラクター』の破壊を目論んでいた。

 

「キャラクターが崩れるなんて結構ギリギリだったんだ。聖歌ちゃんを相手にするには荷が重かったかな?」

 

「肯定。要はそういう目的で作ったキャラクターじゃないですからね。学園で生徒に好かれてチヤホヤされるような設定なので」

 

早乙女歌成、金剛要と名乗っている(・・・・・・)者は自らの目的に合わせて人格を作り出すことができる。

現在の人格である歌成や、真白の同級生・要はその目的に合わせて作られた人格であり、それは『キャラクター』と呼称されている。

キャラクターを切り替えることで、声も仕草も特技も変わり、その切り替わり様は変装と組み合わさることで知人ですらも完全に別人と錯覚させる超高精度だ。

但し、人格と称しているもののそれは、そうとしか考えられないほどの変化があるだけで実際は作り出した設定を演じているに過ぎない。

 

仮面怪演(ペルソナアクター)】。

そう、とある天才に名付けられたそれは、まるで複数の人格を持っているかのように錯覚させる程の異常な演技力であり、他の誰にも真似できない天賦の才である。

そして、そのような才を持つ者は総じて――

 

「君も聖歌ちゃんと同じ『天命者(てんめいしゃ)』の1人なんだから、もっと胸張りなよ」

 

――『天命者』と呼称されている。

この世界には時折、才能という言葉だけでは証明できないほどの卓越した能力を授かっている者が現れる。それは殆どの場合が生まれたときから持っているものであり、後天的に得る例は滅多に確認されていない。

 

この世界の人間が知ることはないが、『天命者』とはつまり――真白の言う『原作』においての『原作キャラクター』及びそれに付随した設定が存在する者である。

ゲームではフィクションとして物語を盛り上げるために付加された設定が、現実として反映されているのだ。それはまるで神から才能を与えられた超人のように感じられただろう。

この世界においてはそうした人間は、かつてより崇められこの国のトップとして君臨していた。

 

「否定。姉さんと比べればただの凡人ですよ」

 

「まあ、聖歌ちゃんは他の天命者と比べても別格だけどさ。私は君にならそれを超えられると思ってる」

 

キリッとした表情で真剣に歌成を見つめる女だったが、歌成は胡散臭そうにジト目を向ける。すると、にへっと笑ってダラダラとし始めたので先程の言葉にどれだけの真剣さがあったのかは謎である。さらに歌成からの視線が冷たくなったので女は話題を変えた。

 

「それで、切札の話だよね。私の見立てでは、背中を押すように絶望を押し付ければ勝手に崩れてくと思ってたんだけど……今の聖歌ちゃんの様子を聞いた感じだと、それじゃあ無理そうだ」

 

神宮寺聖歌を打倒できるのは神宮寺聖歌だけ。

歌成は半信半疑であったが、女曰く、神宮寺聖歌には昔から自罰的なところがあり、自身への嫌悪感があったという。切札とはつまり、それを増幅させる火種。神宮寺聖歌に神宮寺聖歌を殺させる程の情報であった。

歌成はその情報を女から得て、切札としていたのである。しかし、聖歌の精神が聞いていたよりも安定していて、それが揺らぎ、壊れるとは到底思えなかったため、切ることはなかったのだ。

 

「下準備は大変……でもすごい面白いプランがあるんだけど、乗る?」

 

「論外。快楽主義な上に、誰かを不幸にするのが大好きな先輩のプランなんて碌なもんじゃない」

 

「いやいや、私も改心したんだって。それに私が好きなのは私のことを想って失意に墜ちた、いじらしい様子だから。別に人の不幸が好きなわけじゃないから」

 

「笑止。ドクズであることに変わりないんで」

 

付き合いの長さだけなら真白よりも長いこの女のことを歌成は、自分以上のクズだと認識している。純粋に、無邪気に、無垢に、人を悲しませて曇らせることで悦に浸る異常性癖者。その女のプランなど1ミリも良い予感がしない。

 

「えっ、好きな子の曇り顔とか見たくない?」

 

「…………否定。別に興味ない」

 

「ちょっと葛藤してんじゃん。歌成ちゃんのむっつりー」

 

このこのーっと頬をつついてくるのを振り払うも、頭をくしゃくしゃと撫で回される。別に「真白が自分のために悲しそうにしてたらそれは最高かもしれない」なんて全く思っていないと歌成は心の中で強く否定する。特に思ってはいなかったが念入りに否定しておいた。

 

「めっちゃ酷い言われようけど、歌成ちゃんさ。誰が君に真白を紹介してあげたと思ってるの?」

 

「老害。昔のことをいつまでも偉そうに」

 

「そーんな昔から紹介してあげてたのに、ライバル登場で焦ってるヘタレさんもいたっけなぁ〜」

 

「……忘却。話を戻して、プランがどうとかという話を聞こうか」

 

親友というポジションに満足し慢心していたのは否めない。真白の周りに女が近寄らないよう常に操作もしていたし、高校に入ってからもクラスメイトとして真白を守ってきたが、どこかで自分が真白の一番だと思っていた。

それに『真白が恋愛感情というものを一切持っていない』ことに気がつき真っ先に親友というポジションを確立した自分が負けるはずがないという確信がある。恋人が存在し得ないのならば、次に重要なポジションは親友だというのが歌成の結論だった。

それこそ、久し振りに再会した幼馴染みだとか、昔結婚の約束をした運命の相手だとか、フィクションの世界にしか現れなそうな存在でも出現しない限り揺らぐはずのない事実だった。

なのに、そこへよりによって神宮寺聖歌の介入。それもあの表情、聖歌が真白へ抱く執着は間違いなく――恋。

 

「……あのスケコマシが」

 

「ふふ、本当に聖歌ちゃん誑し込んだのなら真白も最早『天命者』レベルだよ」

 

神宮寺聖歌を手に入れるということはこの国を取るということに等しい。これからこの国で行われるであろう権力争いは、結局のところ神宮寺聖歌を巡った戦いに過ぎないのだから。

ただ、女の考えは違う。そんな決まり切った未来など面白くもなんともない。世界は面白く、人は愉快に、涙は最高の美酒。だから変える。神宮寺聖歌を――へし折る。

 

「さてさて、それじゃあお教えしましょうかね。最高に刺激的なプランを、さ」

 

拗ねたように頬を膨れさせている歌成に笑いながら、女は歌成の要求通りに話題を忘却し、話を先に進めることにした。

 

「はぁ……悲劇。先輩みたいな最低で最悪なドクズサイコパス女と一蓮托生とは。先輩が――真白の姉(・・・・)でなければ」

 

「ふふ、そんなこと言わずに一緒に拝みましょうよ。可愛い可愛い神宮寺聖歌の格別な曇り顔を、さ♡」

 

聖歌の曇り顔を思い浮かべて恍惚の笑みを晒してる女にドン引いた様子の歌成であったが、この表情を浮かべているときの女がどれだけ綿密で狡猾なことを仕出かすかは良く知っていた。

 

「ふはっ、面白くなってきたねぇ、聖歌ちゃん。また(・・)一緒に遊ぼうよ」

 

ゾッと鳥肌が立った歌成に、女――綾辻真白の姉である綾辻白亜(はくあ)は、己のプランを口にした。

人を曇らせることに至上の快楽を覚えるサイコパス女が、静かに動き出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【神宮寺聖歌、23時〜24時の間に家の外壁を飛び越えて外出する習慣あり(外壁センサーの一部に故障、もしくは不具合が存在する模様)】

 

【外出後、コンビニエンスストアにて甘味を購入し、夜の散歩を決まったルートで行う。帰宅時間は正確で外出後30分誤差1分以内で帰宅する】

 

【頻度は週に1〜2回、木曜日が高頻度】

 

歌成が紅茶のおかわりを用意するべく台所に消えると、白亜は自身のスマートフォンに記録した情報をなぞりながらニヤニヤと笑う。

 

「……まあ、聖歌ちゃんに真白けしかけたの私だけどね♡」

 

歌成の入れ込みようから、聖歌も真白に入れ込むのではないか、と思いついたのがきっかけだった。あの2人は結局のところ似た者同士なのだ、もしかしたら上手くいくかもと、ちょっとしたお遊びのつもりだったのである。

 

学校内は調査が困難であったが、学校外であれば調べる手段などいくらでもある。神宮寺聖歌の行動パターンを調べ上げ、そのルートに当たるように真白をパシった。

 

『ポテチ食べたい、買ってきて』

 

聖歌が外出する頻度の高い木曜日は、深夜アニメのリアルタイム視聴のために真白は起きているため、そうお願いすればコンビニまで誘導するのは容易かった。

まずはそうして何度か真白を外出させ聖歌と会うように仕向け、お互いを何となく認識してきた頃にイベントを起こさせて距離を近づけさせてみようと、そう思っていたのだ。なのに。

 

『帰り遅すぎじゃない?』

 

『いや、ちょっと知り合いにあって。えっと、その、女の子だし!夜危ないから家まで送ってきた!』

 

『はぁ?真白にそんな親しい女の子の知り合いなんているわけないじゃん。……歌成ちゃんが見張っているんだから

 

『い、いるかもしれないじゃん!夜中にコンビニまでパシらせた弟に良くそんな酷いことが言えますね、お姉様!』

 

『ポテチ一つまともにお使いできない弟にはそれくらい言っても許されるのだよ。なんならもっと言っても構わぬよ、年齢=彼女いない、純情少年よ。お姉ちゃんがお手々くらい繋いであげようか?』

 

『よし、お姉様。この高級アイスを献上致しますのでお怒りを鎮めて頂けないでしょうか』

 

『うむ、苦しゅうない。これからも励めよ』

 

帰りが遅かった真白を詰めれば間違いなく何かあった様子。歌成から真白がデートをするという話を聞いたのはその翌々日だ。真白と聖歌が出会ったのはこの夜で間違いない。

 

それはつまり、ただの一回で聖歌は真白に入れ込むどころが、完全に恋をしているということ。

日本中の権力者の大人達が媚びへつらい、もしくはどう追い落とそうかと苦心している中、ただの高校生があっさりと神宮寺聖歌を手にしようとしている。

 

どうしてそうなったのか、1回目じゃどうもならないだろうと、真白を尾行しておかなかったことに後悔しかないが、理由はともかく、現実として神宮寺聖歌の心は完全に真白へ向けられていることは確か。

 

「流れが来てる……これなら考えていたよりずっと早く手が届く――この国の『王』に」

 

日本という国において絶大な権力を持つ三家。神宮寺家を含めたこの三家による権力争い、『王』を決める戦いは近い。

神宮寺聖歌が真白に落ちればその戦いを制するのは容易くなる。

 

「私がきっとあなた(・・・)を王にしてみせる」

 

白亜にとって『王』に相応しいのは神宮寺聖歌ではない。『王』となるべき人間は、『神』のように傲慢ではなく、『天』のように見下さない――心優しき『竜』こそが『王』となるに相応しい。いや、そうあるべきなのだ。故にそのためであれば。

 

 

「――例え真白を失うことになったとしても」

 

 

何であっても犠牲にできる。





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では、次話もよろしくお願いします。
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