変態ばかりの学園ものエロゲーに転生したからヒロイン全員清楚に調教する   作:ブラックカボチャ

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生徒会長・神宮寺聖歌編《2》
6話 親友


タワーになったケーキスタンドに、やや小ぶりなケーキ達が宝石のような輝きを放ち、並べられている。

目の前の友人はそれを熱心にスマフォで写真に収めると、イチゴがふんだんに載せられたショートケーキと、シンプルに粉砂糖のみで装飾されたガトーショコラを自分の皿に移した。

 

「なあ、親友よ。何故、ぼくたちは男二人で、このメルヘンでファンシーなケーキ屋でデザートバイキングなんかしてるんだ?」

 

「回答1、それは今日が土曜日で、お互いに暇で、俺がケーキを食べたかったからだ」

 

土曜日。

ぼくは白とピンクで配色された街で流行りのパティスリー(たぶんケーキ屋のオシャレな言い方)に来ていた。姉さんが来たいと言っていた程度には女子に人気のこの店は当然ながら、女子中高生や大学生のお姉様方で溢れかえっている。幸いなのはデザートを所定の場所に各々取りに行く形式ではなく、注文する形式であるため、席を立つ必要がないということだ。

 

「周り女子ばかりで気まずいです。帰りたいです」

 

こんな空間に男二人でいては多少なりとも注目されるのは必然だが、しかし、ぼくが耐えかねているのはそういう類の、珍種を見るような視線ではなく、ぼくと親友との関係を疑問視するようなものだ。

 

「回答2、安心しろ。周囲の奴らからみたら(・・・・・・・・・・)、俺達は男女に(・・・)見えている。そして何より――」

 

そう、男女に見えている(・・・・・・・・)からこそ疑問視される。男女でケーキバイキングなんて、それは基本的にカップルのデートという捉え方をされることになるわけで、そうなるとぼくと、この親友の容姿を比較されたりするわけだけど。

 

「――その辺の有象無象より俺の方が可愛い(・・・・・・・)超可愛い(・・・・)

 

言ってることは最低だが、それをナルシストと切り捨てられない程度にはその容姿は客観的には(・・・・・)、整っている。いや、整い過ぎている。

 

早乙女(さおとめ)歌成(かな)

本日の装いは黒髪ロングに、黒のワンピース。その上からカーディガンを羽織った由緒正しいコテコテお嬢様スタイル。どっからどう見ても美少女であるが――生物学上は彼、つまりは()である。

 

主題を先に短くまとめてから話し出す独特の口調で、一人称も俺と話し方は男らしいが、その声は中性的といえば中性的ではあるが普通に女の子だ。声は女装している時は変えているらしいが、そもそもぼくはこいつが女装していない時を見たことがないので、素の声は知らない。

 

ただ、ぼくにとっては一番の親友であるのは確かでそんなことは些細なことだ。

 

 

「だから気まずいんだよ。皆のなんであんな奴が?という視線が女子から向けられるからめっちゃ傷つく」

 

同性からの視線であれば、持たざる者の嫉妬と流すことも出来るが、異性からのぼくらの組み合わせを疑問視するような視線は本当にダメージが大きい。

 

「解決案1。真白も女装すれば良い。君の顔なら俺ほどとは言わないが、その視線の主達よりは余程可愛くなるぞ」

 

「それは男のぼくには望みはないということでしょうか」

 

もはや、男としては歌成の容姿に釣り合うことは不可能と、言われているような気がしないでもなかったので訊いてみる。

 

「非回答。それに言及するのは止めておこう。真白が可哀想だ」

 

「実質言ってますよね、それ!」

 

容赦なき友人の言葉にツッコんでみるが、悪いとも思っていない友人は愛らしくリップの塗られたお口で、満足そうにケーキを食べている。こいつはぼくが困ったり、嫌がるのが大好きな意地悪な奴なのである。そんなだからぼくしか友達がいないのだ。

 

そういう気持ちを込めてジトッと視線を向ければ、その意味を察したのか、フォークに刺したイチゴをぼくに向けて。

 

「訂正。俺にはオトモダチが沢山いる。そして、真白こそ俺しか友達いないだろ」

 

こいつの言うオトモダチというのは表面上の付き合いをしている、謂わば、知り合いくらいの人達のことだ。まあ、クラスに話す知り合いもいないくらいのぼくよりマシなことは確かではあるけど、どんぐりの背比べじゃないだろうか。

 

「一人いれば十分。お前ほど変わった奴と友達ならそれは百人分に換算できないか」

 

 

友達なら歌成がいれば退屈しないし、楽しいし、十分だ。

それに、女装男子、それもこのクオリティ、街中を堂々と歩いて、十人が十人、美少女と認識するレベルの奴は中々いない。友達としてのレアリティなら相当なもの。

 

本音と、若干の皮肉としてそれを口にしたわけだが、こういう時妙に素直に受け取るのが早乙女歌成の憎めないところである。

 

ぼくの言葉を聞いた歌成は得意気に髪を払った。男の癖にケーキより甘い、花みたいな匂いが香る。

 

「賛同。分かっているじゃないか。喜べ、俺は友達百人以上に相当する可愛さ、美しさだ」

 

「ご機嫌で何よりだ」

 

基本的に無愛想で表情に起伏があまりない歌成ではあるが、ぼくくらいになると、些細な変化からその感情を読み取ることも容易。どうやら珍しいくらいご機嫌らしい。ずっと来たかった店らしいし、楽しんでいるのなら、本当に何より。

 

まあ、歌成と行動していれば大なり小なりそういう視線は向けられるものだ。今日はケーキバイキングということで場所柄いつもより視線が痛かったため口に出したが、そんなに深刻なわけじゃない。それを分かっているから歌成も冗談みたいに話しているのだ。こいつは我儘で意地悪だけど人が本気で嫌がることはしない。

 

「本題。それで、相談とはなんだ?」

 

そして、真剣に話さなくてはならないのはこれからだ。大体、お互いに暇な土曜日には自然と二人で集まるが、今日に限ってはぼくから相談を持ち掛けた。

 

今ぼくは、かつてない危機に瀕している。

これを解決するため相談できるのは親友である歌成しかいないだろう。

 

ぼくは意を決して口を開く。

 

「――実は明日、女の子とデートをすることになったんだがぼくは一体どうしたらいいんだ」

 

「笑止。嘘ならもっとマシな嘘吐けよ、童貞」

 

笑われた。いや、嘲笑われた。男と分かっていても、美少女顔のこいつにこんなこと言われると傷つくので切実に止めてほしい。言い方が悪いよね、ぼくは単に貞操を守っているだけなのに。

 

このままではぼくはこいつの中で、妄想に取り憑かれた哀れな童貞ということになってしまいそうなので、訂正するためにも、昨日のことを振り返りつつ、説明するしかないようだ。

 

そう、ぼくが生徒会長・神宮寺聖歌を清楚に調教してエロゲーヒロインを脱却させることを宣誓し、そこへ悪魔みたいなタイミングで副会長である二階堂薫が入ってきてしまった、混沌の修羅場から、こうして生き残った顛末を。




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