変態ばかりの学園ものエロゲーに転生したからヒロイン全員清楚に調教する 作:ブラックカボチャ
ゲームやアニメにおいて、現実世界と寸分変わらない世界観が舞台だったとしても、ありえない設定や描写は付き物だ。
それはフィクションとして物語を盛り上げるためには必要不可欠なエッセンスであり、それがあるから現実を忘れて楽しめるエンターテイメントとして成り立つわけであるが、仮にそれが現実となったらどうだろうか。
例えば髪色や瞳の色。
前世の記憶を取り戻すまで全く何にも疑問に思わなかったが、そもそも純日本人の会長が銀髪碧眼というのは、明らかにゲームの設定があらゆる法則に優先して、世界に反映されている証明だ。
つまりは、神宮寺聖歌という人間は、その髪色が設定通り反映されている以上、ゲーム通りの
ゲームにおいて序盤で早々に用務員の餌食になり、R18展開に突入するため、そのスペックが発揮されることは殆ど無かったが、ゲームの物語に直接的に関係しないからとゲームの制作陣が盛り過ぎたのか、そのスペックはチート級、運動能力・頭脳・家柄・容姿、全てにおいて秀でた完全無欠の才女だ。
つまり。
神宮寺聖歌は露出性癖こそあるが、それ以外においてほぼ完璧な性能を持つ超人。
故に彼女は、下着姿をブランケットで隠して、
その行動は早かった。
「ふもっ!?」
体に巻いていたブランケットを投げる。投げ方は既にぼくのを見ている。彼女であれば、それだけでコントロールは完璧、狙い通りにブランケットは二階堂薫先輩の顔面で広がり、覆い隠した。
そして、それを実行したことがあるが故に、ぼくも会長の意図に気が付き、咄嗟に反応することが出来た。
二階堂先輩の顔面を覆ったそれを取られる前に、正面に陣取り、その視界を遮ったのだ。
見事な機転、完璧な連携、それを持ってして、稼げた時間は十秒にも満たない。
「何をする聖……歌?」
二階堂先輩は煩わしそうにブランケットを取り払い、目の前のぼくをキッと一瞬睨むと、視線を会長に向ける。そこにいたのは――
「ごめんなさい、急に入ってくるものだから驚いてしまって。何かあったのですか、薫?」
――制服をきっちりと着こなし、小首を傾げている会長だった。
◆
ぼくと会長が並んで座り、テーブルを挟んだ向かい側に生徒会副会長、二階堂薫先輩が座った。その目にはまだ疑いの色が色濃くあり、出された紅茶とマカロンにも口を付けずに、腕を組んでじっとこっちを見ている。
「私の目には聖歌が下着姿でそこの男に襲われているように見えたのだが……」
困惑した様子の二階堂先輩に心底同情しつつ、ここで頷いては、ぼくは無実の罪で人生終了となるため、スルーする。そもそも、襲ってないし、むしろぼくが襲われてたし、この状況で最大の被害者はぼくだと切実に訴えたい。
「薫。学校、それも私達の生徒会室でそんな不埒な事許すわけがないでしょう?」
と、1番不埒な張本人が申しております。学校、それも生徒会室で露出して覚醒した変態は誰でしたっけ?
真顔で二階堂先輩を諭す会長に思わずそう言いたくなったが、ぼくの人生が人質となっているため黙っているしかない。
そんなぼくに、会長が貸しですよ、とばかりに視線を送ってくるが、勿論、ただのマッチポンプなので、後で説教するだけだ。マジでこの人のせいで人生終了しそうだったのだから、誤魔化せたとしても大説教コースである。そもそも会長が急に脱ぎ出したりしなければこんなことにならなかったからね!
「だが私は確かに……」
「そうだ薫、今日は生徒会活動はお休みなのにどうかしたのかしら?」
二階堂先輩の呟きを遮り、畳み掛けるように質問する会長。そうして二階堂先輩の意識を逸していき、有耶無耶にしようという作戦なのだろう。シンプルながら角の立たない作戦だ。
「えっ、ああ。なんでも聖歌が1年生の男子と楽しそうに歩いていたと話題になっていてな、気になって来てみたんだが……」
作戦失敗。
話はまたぼくに戻ってきた上に、二階堂先輩が滅茶苦茶怖い顔でこちらを睨んでいる。美人の怒り顔は本当に怖い。
「あら、そんなことで態々?」
「そんなこと、ではない。聖歌が生徒会メンバー以外を贔屓にしたんだぞ?それも一年生の男子だ」
本来であれば『そんなこと』で済むようなことが『そんなこと』ではなくなってしまうのが、聖女と呼ばれている程に崇拝され、神聖視すらされている神宮寺聖歌なのだ。
生徒会長・神宮寺聖歌は平等だ。
それ故に、親友であり生徒会副会長・二階堂薫先輩や、他の生徒会メンバー以外とは特別親しくしたりすることはない。誰にでも優しく、誰にでも笑いかけ、ただ誰かを贔屓したりはしない。それ故の聖女。
常に完璧で、美しく、平等で、慈悲深いことを当然とされている。彼女の立場が、彼女の能力が、彼女の周囲の人間が、そうさせているのだ。
それはどんなに重いプレッシャーなのだろうか。
神宮寺聖歌という狭い箱に閉じ込められて、聖女というラベルを貼られて、一挙手一投足をその箱の中で、ラベルのイメージ通りに遂行しなくてはならないのは。
「私は嬉しかったぞ。お前は少々優等生過ぎるからな」
この、二階堂先輩が会長の親友足り得ているのは、彼女が神宮寺聖歌を対等として扱い、会長がそうして神宮寺聖歌を演じていることを察しているからなのだろう。
それを気遣い、ただ責めたり咎めたりもせず、心を許せる友として共に歩み、見守ることの出来る人格者なのだ。
「――だが、距離が些か近過ぎやしないか?」
その会長の親友が、会長が平等に接さなかったとしても騒ぐことはしないだろう理解者が、こうまでぼくに突っかかるのは、会長が露出していたせいで、未だぼくに婦女暴行的な疑いがかけられていることと――
「そうでしょうか?」
――会長がそれはもうぼくにピッタリとくっついているからだ。ぼくと二階堂先輩に面識がない以上、会長がぼくの隣に座ることは極自然なんだけど、椅子をこれでもかと近づけて、肩と肩どころが腕と腕が重なるくらい近くに座っているのはおかしくないですか?
二階堂先輩でなくても、疑問に思うし、この人には何とか雑に誤魔化したとはいえ、会長の露出現場を見られているというのにそんなことをしては、ぼくと会長に何かあります、と言っているようなものだ。
そりゃ、ぼくのこと睨むよ!全然態度が軟化しないわけだよ!
「聖歌が私達以外とも仲良く接するのは大いに結構。しかし、それが不埒な輩ならば、黙って見過ごすわけにはいかない」
ドンッ、と机に両手を置き身を乗り出した二階堂先輩が真剣な顔でぼくらを見る。
その丁寧に磨かれた黒曜石のような瞳からは、心の底から親友の身を心配する不安感と、私が親友を守るという正義感とが見え隠れして、会長との確かな友情を感じた。
それはきっと、会長にも伝わったのだろう。
会長は、ふっと、微笑むように優しく笑みを零すと、その瞳に信頼を返すように、強く見つめてゆっくり口を開いた。
「彼は綾辻真白君。実はこの度――」
ぐいっと引き寄せられたかと思うと、これまでの人生で感じたことのない柔らかい感触が腕を包み、思考が真っ白になってしまって、それが会長がぼくの腕に抱きついているからだと気がついたときにはもう遅かった。
「――彼と私はお付き合いすることになりました」
飛び切りの笑顔で、そう荒唐無稽なことを宣言する会長。
ああ、もうお家帰りたい……。
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