変態ばかりの学園ものエロゲーに転生したからヒロイン全員清楚に調教する 作:ブラックカボチャ
会長の宣言に混乱した二階堂先輩は、茫然自失といった様子で数分間停止した後、今日のところは考えを整理してくる、と去っていた。待って、置いていかないで。
「ふふ、私達お付き合いすることになりました♡」
相変わらず腕に抱きついたまま、見上げるように会長が言う。ちょっと顔が赤いのはさっきまで露出して興奮していたからか。
ぼくは腕を包む柔らかい感触の正体から意識を逸らすのに精一杯で、まだ状況を理解できていない。
「私では不満ですか?」
小首を傾げる会長に、未だ混乱の最中にいるぼくは思ったことをそのまま正直に答えてしまう。
「はい」
あっ、と思った瞬間、笑顔の会長に物凄い勢いで足を踏まれた。そしてグリグリされている。上履きなので防御力が乏しくマジで痛い。
「私では不満ですか?」
会長が微笑を浮かべて、一語一句違わずにまた聞いてくる。ちなみに足は踏まれたままだ。
「会長、痛いです」
「私では不満ですか?」
NPCかな!?
どうやら、ぼくが会長にとって満足のいく回答をするまで質問を繰り返すつもりらしい。心なしか語尾のイントネーションが強くなっているし、笑顔の圧が凄い。あと足も痛い。
「不満というか……」
言い淀むぼくに、会長の笑顔の圧が上がる。それに比例して物理的に足を踏む力も強くなるという非情なシステム。聖女とか呼ばれているのに、ぼくにだけなんかちょっとバイオレンスなの酷くない!?
女性に清楚を求める以上はやはり自分も女性に誠実であるべき。
当然ながら、会長に不満があるとか、そんな不敬なことは考えてはいないけど、昨日知り合ったばかりで、いきなり、それもこんな形で付き合うだなんてお互いにとって良くないはずだ。
「薫のことなら気にしなくて良いですよ。彼女は男性が苦手で、攻撃的な態度を取ってしまうんです」
黙り込んだぼくに、副会長に言及されたことを気にしていると思ったのか会長が言う。
副会長の言動については、あのシチュエーションでなら、ぼく的には至極真っ当だった気がするけど、確かに些か攻撃的だった気がしないでもない。
ぼくが前世でプレイしたルートでは副会長はあまり登場しなくて、詳しくは知らないのだけど、確か、序盤で用務員の手に堕ちた会長を救うため、会長の解放を条件に身代りとして、用務員に服従を誓うみたいな感じだったはず。
自分の身を犠牲にしてでも友人を救おうとする程のその友情の厚さは、先程のやり取りでも感じたし、ぼくは悪い印象は受けていない。むしろその友達の前で露出して興奮していた会長よりは清楚ポイントは高い。
「もう良いですっ!真白君がヘタレなのは良く分かりました!」
いつまでも答えなかったぼくに、ぷんぷんと、今時アニメキャラでもやらないような可愛らしい膨れっ面で、拗ねてしまった会長。足をやっとどけてくれたけど、なんだろうこのぼくが全部悪いみたいな雰囲気。ぼくはヘタレじゃなくて硬派なんだと主張したい。
それと、いつの間にか名前呼びになっているけど、後輩だし、減るものでもないし、スルーする。
金剛といい、会長といい、いきなり名前呼びしてくるのコミュニケーション能力の高さを感じる。あの二人の容姿の良さとか、人望もあるのだろうけど、名前呼びされても全然不快じゃないし、すんなり受け入れてしまうのだ。
ぼくなんて、この街に引っ越してきたのが高校入学前の3月だとはいえ、友達の一人も出来やしないっていうのに。
この学校って近隣にある同系列の中学校からごっそり進学するから、最初からグループが出来ていたりして地元民じゃないと結構つらいんだよね。
まあ、金剛も高校かららしいけど全然馴染んでてクラスの中心人物になってるし、ぼくが単純に陰キャなだけなんだけども!
「仕方ないのでデート1回で許してあげます」
脳内で自らの雑魚さに気付かされていると、会長が何やら良く分からないことを言い出した。
「私は真白君のヘタレによって乙女心を傷つけられました。よって、デートを要求します」
ここは譲らない、とばかりにびしっとぼくを指差す会長。
昔、滅茶苦茶仲良くしていた友達に突然、縁を切られたことがある。
仲直りしようにも理由が分からず、そのままぼくが引っ越してしまったのでそれ以来会えていないのだけど、どうやらぼくは気付かない内に人を怒らせる言動をしてしまうことが多々あるらしい。
そんなぼくに、乙女心なんて繊細でファンタジーみたいなものを認識できるはずもなく、会長がなんで怒っているのか、こんなことを言い出したのか、まるで分からない。
歌成とか一回機嫌が悪くなったときの持続時間が長いから、不機嫌の原因が分からないときはとりあえず謝って甘いものを与えるようにしているけど、会長とはまだ付き合いが浅いので、そういう対処策もない。
大体、会長がなんで急に付き合ってますと副会長に宣言したのか、その意図が分からないのだ。
会長からは前に面と向かって「貴方、さてはモテませんね」というありがたいお言葉を頂いているし、会長にとってぼくは恋愛対象でもなんでもないわけで、言うならば、素の自分で接することの出来る友達で、露出し放題の相手、というところか。
つまり、今後も副会長に色々問いただされるのは嫌なので、付き合ってることにしたってこと?うわ、そう考えたら不満しかなかった。
ただまあ、それならデートと言いつつ友達と遊びに行くみたいなものだ。
会長とぼくが並んで歩いていたら疑問の視線が凄そうだけど、それは歌成で慣れているし、ぼくは色々と会長の事情を知ってしまっているからか、ぼくといるときは会長も素の自分を出せているようだし、いつも気張っている会長の良いリフレッシュになるかもしれない。
プレッシャーも使命感も何も感じず、ただ楽しくおしゃべりできる相手。
ぼくは会長にとってそういう存在になれればと思っている。
会長がまた精神的に追い込まれて、露出とか、自分を傷つけるようなことをしようとしたときには、それを全力で止めるし、説教もするし、反省もさせるけど、そうならないように話を聞いてあげて、多少甘やかしてもあげる。
そうやってゆっくりとでも会長がいつも自然体でいられるようになれば良いな、と思う。
だって会長は、こうして取り繕わない方がずっと素敵だから。
「ぼくと行っても楽しくないと思いますけど、それで良いなら」
「では決まりですね!」
何がそんなに嬉しいのか、ニパッと笑う会長。こんなに喜んでもらえると、当日つまらない気持ちにさせるわけにはいかなくなる。
やばい、女の子と二人で出掛けたりしたことなんてまともにないんだけど。
歌成と遊ぶときは、買い物に付き合わされて服を選んだり、映画を見たり、甘いものを食べたりするけど、あいつは男だから参考にならないしな。
姉さんはぼくの中で一般女子の枠に収まっていないのでこれも勿論参考外だ。
まずは連絡先を交換しましょう、と早速お互いの連絡先を登録すべく、スマフォを取り出している会長を尻目に、ぼくは頭を悩ませた。
とりあえず、乙女心とかいうものを数%は持っていてもおかしくなさそうな歌成に相談するしかないか。
「…………やはり流されやすいですね、このまま段階を踏んで徐々に依存させて……ふふふ♡」
「会長、何か言いました?」
「いいえ?」
楽しそうな会長を前にして、ぼくはそれを台無しにしないため、親友を頼ることに決めたのだった。
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次話もよろしくお願いします。