この時代には存在しないはずの自転車が道を走っている。
「~♪~♪」
自転車の前方、カゴの部分に足を突っ込み立っているもろははよく分からない歌を歌っていた。そんなもろはに声をかける少女がいるハンドルを握りペダルをこいでいるとわだ、その後ろにはせつなもいる。
「おいもろは!も~ろ~は!」
「なんだよとわ?」
「その自慢の脚力を使って少しは走ったらどうだ⁉邪魔だし重いよ!」
怒鳴られた本人は気にした様子を見せず、むしろとわの視界を塞ぐように尻を押し付けた。
「何が邪魔だって?あたしは見張りをしてやってるんだぞ~それにこんな便利な物があるのに何で走らなきゃいけないんだよ」
「だったら俺はどうして走らされてんだ!」
そう叫ぶと二人はバツが悪そうに眼を背けた。
そう、このメンバーで行くことが決まった時、流れるように三人が自転車に乗りこぎ始めたせいで俺だけが走って依頼の場所まで行く羽目になったのだ。
「いや~まあ龍牙は体力あるしこんぐらいの距離なら大丈夫だろ!」
「流石に自転車じゃあこれが限界だし…私、龍牙より体力無いから…」
「お前らなぁ…」とかなりしんどいが自転車と並走していると後ろに座っていたせつなが突然「前を見ろ!」と声を荒げた。それに従い前を見ると小さな女の子が茂みの中から飛び出してきた。
「とわ!ブレーキ!」
「止まらないぃぃ!龍牙何とかしてぇぇ!」
元々下り坂だったのもあってかブレーキをかけても自転車は止まらずかなりのスピードで進んでいく。俺はスピードを上げ自転車よりも前に出て、女の子を抱えて横に飛び後から来た自転車を避ける。
「裏切り者~!」と聞こえてきたが最早どうしようもあるまい。南無三
木にぶつかり文字通り吹っ飛んだ三人と合流し少し休憩中。
さっきの女の子も一緒だ。
「にしてもよくがっついてんなあ~」
もろはに差し出されたお菓子の包みを奪うような勢いで取り中身をどんどん食べていく。
「親が猫にかまけて世話をしないんだからしょうがないよ、正にネグレクトってやつ」
「飯なんてそこら辺からかっぱらってくればいいじゃねえか」
「皆が皆、お前みたいに逞しくはないんだよ」
水筒を開けて渡すとこれもまた凄い勢いで飲んでいく。
にしてもこの子の親だけじゃなくて村全体で同じことが起きてるとはねぇ…これも妖怪の仕業なんだろうな。
「君の住んでる村はどこにあるの?」
「村は峠の麓だよ」
「古寺までの通り道だ、少し寄っていこうよ」
流石に放っておく訳にはいかないので、女の子を村に送るついでにその村に寄って村人たちの様子を見ることにした。
村についてみると尋常じゃない数の猫たちがいた。とわは猫島ならぬ猫村なんて言ってるが、これはそんな可愛い話じゃなさそうだ。一緒にいた女の子も自分の親を見つけて駆け寄るが相手はまるで相手にしていない、どこもかしこも異常だ。
不意に一匹の猫がとわに近づいてきた。とわは無警戒にその猫を抱き上げようとするが、それよりも早く俺が蹴り飛ばす。
「龍牙⁉」
「まだ気づかないのか?」
せつなの言葉に「え?」と疑問を浮かべるとわにもろはがすぐさま答えた。
「お前の鼻はでっぱりか?村中、妖怪の匂いだらけじゃねえか」
そう言いもろはとせつなが武器を構える。気づけば村にいた全ての化け猫たちが敵意をむき出しにして集まって来ていた。
「なんにせよ、こいつらをとっとと追い払おう。夜までには寺に着いておきたいしな」
そう言い放つと同時に襲ってきた化け猫たちを迎撃し始めるのであった。
龍牙たちが化け猫を蹴散らしている姿を離れた場所から観察している男がいた。
「あいつが言ってた夜叉姫と龍の末裔ってのはあれの事か…」
その男は手に持っている桃を喰うと嘲笑うかのように言った。
「・・・大したことなさそうだな」