バーチャルリング   作:群武

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樋口楓は世界の主人公である。

これは決定事項であり、本人がどれだけ嫌がろうとも変えることのできない世界の理である。しかし、彼女には魔法少女の様な力もエルフの様な魔力も持っていないただの高校2年生。

彼女の知り合いには異世界の勇者や皇女、女神に悪魔、吸血鬼にファイアードレイクと彼女よりも主人公に向いている能力や立場の人間は数多く存在している。。

それでも彼女を中心に世界が回ってしまうのは何故か?

理由は単純、彼女が物語…いや、世界の主人公に選ばれてしまったからである。

 

 

「ふぁ〜」

 

とあるゲームのシーズンが新しくなったので珍しく深夜までゲーム配信を行っていた為、寝不足になり大きな欠伸が抑えきれない。

 

「楓ちゃん、朝から大きな欠伸ですね」

 

後ろから声をかけられたのに対して振り向く。

自分の束ねた銀髪のポニーテールが一瞬視界に入るが、とある人物に視線を持っていかれあまり気にならない。

 

「おはよ美兎ちゃん」

 

視線の先にいる彼女の名前は月ノ美兎(つきのみと)。

同じ高校に通う同級生でクラスの委員長。碧眼で髪は艷やかな黒髪を腰まで伸ばした見た目は清楚で生真面目な学級委員長を具現化した様な人物。

そんな彼女は学園で最も有名な1人である。

見た目と話し方から清楚なイメージを持たれがちな彼女ではあるが、実際はかなりの奇人であり変人である。

「そう言えば凛先輩は?」

 

「少し遅れるらしいですよ」

 

凛先輩とは私らの通うにじさんじ学園の先輩で本名は静凛(しずかりん)。

妖艶な見た目に穏やかな性格、それに加え落ち着いたトーンで話す彼女は学年問わずの人気者である。

私と美兎ちゃん、それにしずりんの3人合わせてJK組と呼ばれ、よく一緒に行動を共にしている。

 

「まだ時間もあるし少し待っとこか」

 

「それはいい案ですね。ところでずっと気になってたんですが、その小動物はなんですか?」

 

美兎ちゃんの指摘に気づいたのか小動物は怯えたのか少しこちらを警戒体勢に入る。

 

「わからへん」

 

「見た感じは猫っぽいですが、楓ちゃんが触れるってことは猫ではない?」

 

「そういう事になるんかな?それにしてもめっちゃ可愛ない?」

 

猫アレルギーの私は日頃触れない不満をぶつけるかのように小動物を可愛がる。

「楓ちゃん。撫ですぎですよ」

 

「美兎ちゃんも撫でてみ。めっちゃ気持ちいし」

 

「本当ですね。これは癖になりそう」

 

私達は学校に行くことを忘れじゃれ合い続ける。

そんな事を10分ほど行っていると突然声が聞こえる。

 

「ナッツ!やっと見つけた!」

 

「「あっ」」

 

呼び声に反応してかずっと撫で続けられていた小動物が声の主の方へ駆け寄る。

そこには栗色でツンツンの髪に優しい瞳をした少年が立っていた。

 

「その子、君のとこの?」

 

「ヒッ!…そ、そうです」

 

そんな私の声に怯えたのか小動物の様にビクビクする。それに連動してかナッツと言われた小動物も同じように萎縮している。

威圧したつもりもないのにここまで怯えられるとこちらが罪悪感を感じてしまう。

 

「そんな怯えんでも…」

 

「楓ちゃんは顔はいいけど怖いんですよね」

 

「美兎ちゃん、なんか言った?」

 

美兎ちゃんがボソッっと言った一言を聞き逃さなかった私は敢えてドスの効いた声で聞き返す。

私達の距離感ではこの様なやり取りは日常茶飯事だが少年萎縮してしまい固まってしまう。

予想外に怖がられてしまった為、空気が固まったのが分かる。

 

「10代目〜」

 

「ツナ〜」

 

そんな中、少し離れた所から2つの影が駆け寄ってくる。

片方は女性の中では長身な私より10センチは高く、走ってくるフォームから体を鍛えているのが分かる。それでも特に威圧感を感じないのは彼の表情が優しくずっとニコニコしているからだろう。

もう一方は私とほぼ変わらない身長に多数のアクセサリーを身につけおり、見た目の良さも相まってチャラい印象がある。彼は逆に私と美兎ちゃんの2人を警戒するようにガンを飛ばす。

私はその視線を真っ向から睨み返す。

 

「10代目!ご無事ですか!?この女に何かやられてませんか!?」

 

「あぁん?」

 

不当な悪人扱いされ不愉快に感じたので先程と同じようにドスの効いた声で対応する。

 

「ちょっと獄寺くん!初対面の人に失礼じゃないか!何もされてないしナッツの事を可愛がってくれてただけなんだから」

 

「そうでしたか。それは失礼しました」

 

獄寺と呼ばれた彼は先程とは打って変わって忠犬の様に尻尾が見えるくらい従順になる。

「ナッツを見つけてくれてありがとな。俺はツナの親友で山本武(やまもとたけし)って言うんだ。よろしくな」

 

太陽と見間違う様な笑顔に私達は自然と「よろしく」と返事をしていた。

山本くんの自己紹介を皮切りに今度はツナと呼ばれた栗色の髪の毛をした少年の口が開いた。

 

「俺は沢田綱吉。並盛中学2年です。ほら獄寺くんも」

 

「はい10代目!俺はボンゴレ10代目の右腕獄寺隼人」

 

どうやら獄寺はまだ私達に対して心を開いていないようで警戒し続けている。

別に敵対してる訳でもないのにそんな警戒する必要ある?

 

「獄寺くんそんなに警戒しなくていいよ」

 

「でも10代目…」

 

「この人たちは悪人じゃないよ。それにこの世界は未来と違って安全なんだから少しは気を緩めたら?」

 

「そうですね…10代目がそう言うなら」

 

どうやら獄寺の方が折れたようで少し警戒の色が弱まる。

 

「いや〜、この子凄く可愛いですね〜」

 

警戒が緩んだのも束の間、ツナの後ろで少し怯えているナッツに対して頬が緩みきった状態でなでなでしている人物が居た。

その声を聞いた瞬間、ツナ、山本くん、獄寺の3人はその場から飛び退き臨戦態勢に入る。

その動きは機敏で先程まで弱々しかったツナですら瞳に警戒の色が見える。

 

「凛先輩やっと来た」

 

「遅いですよ凛」

声の人物は先程から私達が待っていた人物の静凛であった。

遅れて来たしずりんはナッツを少し撫でてから「お待たせしました」と言いながら警戒する3人を無視して私達と合流する。

 

「お二人共おはようございます。あちらの方達はお知り合いですか?」

 

凛先輩の質問に対して、美兎ちゃんが先程聞いた自己紹介の内容をそのまま伝える。

一通り聞き終えた凛先輩は疑問を持ったようで、後ろに立っている3人へ向き直す。

 

「あの〜、ボンゴレとか10代目ってどういう事ですか?それに並盛中学ってこの辺には無い学校名ですよね」

 

私らが生活している地域の近くに並盛中学という学校も地名もない。

凛先輩の質問に対して今度はツナ、山本くん、獄寺の3人が首を傾げる。

どうやらお互いの認識に誤差が生まれているらしい。

 

「確かにさっきから獄寺が10代目って言ってるけどツナくんは何かチームのトップなん?」

 

凛先輩の質問に続いて私も気になっていたところを質問する。

 

「10代目って何かマフィアのボスみたいですね」

 

美兎ちゃんの冗談交じりに言った一言に対してツナの体がビクッと反応する。

 

「よく気づいたじゃねーか小さいの。こちらにおられるのはかの有名なマフィア、ボンゴレの現頭首の10代目だ」

 

「私(わたくし)には月ノ美兎って言うプリティーな名前があるんですー!」

 

「あれ?マフィアのボスって所はスルー?」

 

美兎ちゃんのツッコミがマフィアに対するものでは無かった事に驚くツナ

 

「まぁここら辺やったらマフィアのボスくらい居てもそこまで不思議じゃないよな」

 

「そうですね。悪魔に女神、エルフだって居ますからね。流石に背中が割れて中からプレデターでも出てきたら驚きますが」

 

「確かにまだにじさんじにプレデターは居ませんね」

 

私達はワハハと笑っているが今度はツナ達3人が話についていけずに頭の上でハテナを浮かべる。

 

「悪魔や女神がいるんですか?」

 

ツナが恐る恐る聞いた質問に対して私達は即答でYESと答える。

悪魔と言う言葉に獄寺が反応するが何か考えている為か口は挟まない。

 

「ここって地球ですよね?」

 

「地球にある日本ですよ」

 

「ですよね。でも俺の知ってる日本には悪魔や女神は居ないのに。…殺し屋の赤ん坊はいるけど」

 

ツナは戸惑いながら最後に小声で付け足す。

 

「赤ん坊って言うのは先程からこちらを覗いてるあの子の事ですか?」

 

しずりんはそう言って屋根の上を指を指す。

その先には大きな瞳とタレ眉とクルッと巻いたもみあげ。ボルサリーノのソフト帽に黒スーツを着込んだ赤ん坊が居た。

ついでに言えば帽子の上にはカメレオンもいる。

 

「んな!何でそんなとこに居るんだよリボーン!」

 

「おー小僧も来てたのか」

 

リボーンと呼ばれた赤ん坊は一瞬少し驚いた表情を見せるがすぐに表情を戻し屋根から飛び降りる。

 

「危ない!」

 

咄嗟に私はリボーンと呼ばれた赤ん坊の落下地点へ一直線に走り出そうとする。しかし、その心配を他所にリボーンは頭の上に居たカメレオンがパラグライダーに変身し6人の方へ飛んでくる。

リボーンはスピードに乗って私の横を通り過ぎ斜め後ろにいたツナの方へ直進する。

 

「あがっ!」

 

「「「!?」」」

 

飛んできた勢いのままリボーンはツナへ飛び蹴りを食らわし、その反動を利用して器用に山本くんの肩へ着地する。

 

「何するんだよリボーン!」

 

「あれぐらい避けやがれダメツナ」

 

「大丈夫ですか10代目!」

 

蹴り飛ばされたツナへすぐさま獄寺が近寄り心配する。

山本くんは親友が蹴り飛ばされたと言うに心配どころか笑っている。

そんな光景を前に私達JK組は唖然とする。

一番最初に我に返ったしずりんが口を開く

 

「可愛いもみあげですね」

 

「待つんだ凛!今の光景で1番最初に言うことはそれじゃない!」

 

予想外の反応に美兎ちゃんは突っ込まずにはいられない。

 

「そやで凛。最初に褒めるのはスーツと帽子や」

 

「そうそう、この帽子高級品…って楓ちゃんも何言ってるんですか!」

 

美兎ちゃんはしずりんと私の2連続ボケに対してノリツッコミをしてしまう。

そんなボケた私達はツッコミには耳を貸さずにツナの心配をする。

 

「…って2人とも聞いてないし。それで沢田くん大丈夫ですか?」

 

「え…あ…はい。大丈夫です」

 

「ほらここ擦りむいてるで。これ使い」

 

「あ…ありがとうございます」

 

私は持っていた絆創膏を1つ渡す。

 

「おいツナ。こんな所で油を売ってないで早く学校へ行け」

 

リボーンはそう言ってツナのケツを蹴る。

 

「えー!未来から帰ってきたのに学校行くの!?今日くらい休ませてよ〜」

 

「甘えんじゃねぇ。じゃぁな」

 

もう1発食らわされたツナは渋々歩き出し、その後ろをリボーンを乗せた山本くんと獄寺が従うように歩く。

 

「そろそろ私達も学校に行きましょうか」

 

その後ろ姿を見送った私達は自分達が登校中である事を思い出し、登校を再開する。

 

 

「なぁ坊主」

 

先程まで能天気に笑っていた者と同一人物とは思えない程真剣な表情になる。

 

「いつからあの姉ちゃん居たんだ?」

 

「お前らが合流した時には居たぞ」

 

「マジか。ずっと警戒してたつもりなんだけどな」

 

少し困ったような表情になる山本。

剣士にとって背後を取られた事実は笑って見過ごせるものでは無いらしい。

 

「しかも俺に気付いたって事はお前ら以上に警戒心が強いみたいだな」

 

日頃人を褒めることが無いリボーンが初めて会った人物にここまで言わせるとは一体彼女らは何者なのか?

 

「そう言えば彼女らの名前聞きそびれちゃった」

 

「気にしなくてもすぐに会えるさ」

 

「何を根拠に言ってるんだ野球バカが!」

 

「でも山本が言うなら何だか会えそうだね」

 

「案外剣士の勘はバカにならないぞ」

 

以外にもツナとリボーンの意見が合致する。

 

「10代目とリボーンさんがそう言うなら…」

 

尊敬する2人からの後押しがあった為か渋々と言ったように折れる。

 

「それにしても少し変わった3人組だったね」

 

「そうっすね。やけにオーラがあるというか」

 

「案外身近に凄いやつが居るもんだな」

 

周りから見たら自分たちも充分に変わっているが、それには気づかない3人である。

 

「特にあの身長の高い人」

 

「関西弁で話して奴っすね」

 

3人は先程まで話していた銀髪のポニーテールで関西弁の女性を思い浮かべる。

ただの女子高生とは思えない程の威圧感。それはXANXUSや白蘭の様な凶悪な威圧感とは違う。どちらかと言うとハイパー死ぬ気モードのツナやキャバッローネファリミー10代目ボスディーノの様な安心感のあるオーラが漂っていた。

 

「流石のお前らも気づいたか」

 

「どういう事っすかリボーンさん」

 

何か意味深に放つリボーンの言葉に獄寺が真っ先に反応する。

 

「あいつは多分この世界の主人公だ」

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