「チャイカさんあちらのお客さんはお知り合いですかぁ?」
真っ白な髪を背中まで伸ばし色々と丸い外見の椎名唯華は目の前に立っているメイド服を着たムキムキのオカマエルフの花畑チャイカに小声で話しかける。
「お前絶対見た目で判断しただろ」
いつも配信ではおちゃらけた雰囲気の花畑チャイカではあるが珍しく落ち着いたトーンでツッコミを入れる。
2人の視線の先には陽気なオカマがコーヒーを啜りながら何やらメモを取っているようだ。
「と言うかお前は働け」
「いやいや何言ってるんですかりぃだ。あてぃしは看板娘なんでここでお茶するのが仕事ですよぉ〜」
「看板娘をしたいならならしっかり働くんだよ」
「大丈夫ですよ〜。私の代わりにしっかり働いてくれる子いるじゃないですかぁ〜」
陽気なオカマの次に見たのは1人で注文を取りながら新しく入店してきたお客様を空いてる席へ案内する。
店内はそこまで広くないがウエイトレスが1人で回すには若干広く忙しそうにしている。
「夜見お茶〜」
自身がウエイトレスの立場という事を忘れた椎名唯華は注文しようとするが、流石にオーナーである花畑チャイカに止められる。
「ほらあんたも働くんだよ」
「しゃ〜ないな〜」
はぁとわざとらしくため息を着いて立ち上がった瞬間、タイミングを見計らったように注文が入る。
「ちょっといいかしら〜?」
注文の主は陽気なオカマのお客さんだった。椎名唯華は1度夜見れなの方を向いてアイコンタクトを送るが、当の本人はそれに気づけない位慌ただしく注文を取っていた。
夜見れなを身代わりに出来なかった為、次の囮として花畑チャイカを犠牲にしようとするが、そちらはそちらで料理に追われてそれどころでは無い。
いくらクズと言われている椎名唯華でも無視することは出来なかった為、メニューを取るべくオカマの所へ歩み寄る。
「もぉ〜来るのが遅いわよ〜」
口調はオカマというより少しオネェに近い感じで少し文句を言ってから特大パフェを1つ注文する。
「りいだぁ特大パフェ
「いや〜今日も忙しかったすね〜」
椎名唯華は特大パフェを美味しそうに頬張りながら言う。
「わざとオーダーミスして賄いにしてる奴が何言ってんだい」
「そうですよ〜。椎名先輩がサボってる間大変だったんですから〜」
甘い声質に黒と白の2色の髪色が特徴の夜見れなか少し文句を言いながらも椎名唯華から差し出されたパフェのソフトクリーム部分を食べて機嫌を治す。
「いやいやいや〜、お客さんも看板娘にオーダー取ってもらえて夜身はチヤホヤされて、りいだぁはお店が繁盛して、私は楽できてみんな幸せじゃないですか〜」
「最後の1文しか思ってないだろ」
「椎名先輩嘘ですよね」
日頃の行いの結果、椎名唯華の言い分は聞き入れて貰えずバッサリと切り捨てられる。
カラン
不意に扉に付けたドアベルがなり、視線が自然と扉に集まる。しかし、そこには誰も立っておらず人影もない。
風のイタズラか聞き間違いだと思い、3人は視線を戻すが……
「「!?」」
花畑チャイカと夜見れなはいつの間にか椎名唯華の後ろに立っていた人影に驚き身動きが取れなくなる。
当の本人はそれに気付いておらず相変わらずパフェを頬張る。その後ろで振りかぶられた拳が頭に当たる直前
「あっ、スプーン落とした」
いつもの幸運の結果か第1撃目を躱す。そして、硬直が治り身動きが取れるようになった夜見れなが懐に入れていたトランプを素早く投げつける。
「もぉやだわぁ〜」
トランプを投げつけられた人物は目にも止まらぬ速さの拳で打ち砕く。
「椎名!」
一瞬視線が外れたのを見逃さずに花畑チャイカは椎名唯華を抱えて店の外へ走り出す。
「あぁ〜私のパフェ〜」
状況を理解していない椎名唯華のセリフに2人はツッコミを入れる余裕もなく逃げる。
「「はぁはぁはぁ……」」
全速力で逃げた2人とわけも分からず抱えられていた1人は人気のない所で息を潜めていた。
「一体なんだったんだ…?」
「全然分からないです……でも椎名先輩を狙ってたのは確かです……」
「なぁ2人とも何言ってるん?」
未だに状況を理解出来ていない椎名唯華は我慢していた口を開く。椎名唯華はゲスや三下と呼ばれるが空気が読めない訳では無い、どちらかと言うと読める方ではあるが流石にこれ以上は我慢が出来なかったようだ。
あの状況を背にしていた椎名唯華に花畑チャイカは説明する。
「あてぃしそんな人から恨まれるような事したことないっすよ〜」
椎名唯華の発言に2人から「いや、あるだろ」と突っ込まれる。
「椎名あんた借金とかしてないだろうね?」
「流石のあてぃしでも命狙われるほどの借金はしないっすよ」
弁明する椎名唯華ではあるが、暗に命を狙われない程度にお金は借りた事があるらしい。
「もういいかしらぁ〜?」
どこからとも無くオカマの声が聞こえてくる。その声と話し方を聞いた瞬間、3人の頭の中に1人のオカマを思い浮かべる。
「最後のお別れの挨拶は済んだかしら?」
声のする方を向くとそこには予想通りオカマが立っていた。
「あんた何で椎名を狙うんだい?」
花畑チャイカは椎名唯華を隠すように前に立つ。
「命を狙ったわけじゃないのよ〜。本当の狙いはそこのお嬢ちゃんが付けてるゆ・び・わ♪」
そう指さされた先は椎名唯華の中指だった。そこには1つの指輪が嵌められている。
「もしかして盗んだ?」
万が一の可能性に花畑チャイカは恐る恐る聞くが、椎名唯華は全力で否定する。
「ちゃいますよりいだぁ!今朝起きたら届いててん!」
「椎名先輩罪を認めましょうよ」
「だから違うって〜。何となく気に入ったから付けてただけやねん。指輪如きで命狙われるくらいならこんなん捨てるわ」
そう言うと椎名唯華は自身の左中指に嵌めていた指輪を外し、花畑チャイカに渡す。
「椎名?これはどういう事?」
「いや、流石のあてぃしでも命狙ってきた奴に近付きたくないわ」
「そんなの私も同じよ。……全く、……いいわ。私が渡してくる」
いつもの癖で面倒事を押し付けられた花畑チャイカは意外と大人しくしていたオカマの方に指輪を持って近寄る。
残り10メートルを切るタイミングで花畑チャイカは軽くステップを踏んでから全力で遠投する。
「まぁ!なんて事するのぉ!」
あの指輪はかなり大切な物だったのだろう。3人を無視してオカマは自身の後方へ投げられた指輪を追いかけていく。
「ほらさっさと逃げるわよ」
いつの間にか装着したチャイカアーマーのフル出力で3人はその場を後にする。