あれから何週間かたち、ハジメ達はオルクス大迷宮に潜り、 ショウは城で執事としてのお仕事をこなしながら自身のレベルアップに力を入れていた。
「♪~」
『上機嫌ですね。ショウ』
「まあね、今日はハジメが帰ってくるし」
彼は今、ハジメが帰ってきた時の為のご馳走(日本食)を作っている。ホカホカのご飯に熱い味噌汁、大根おろしをかけた魚の炭火焼きに漬物。ご馳走と呼ぶには少し質素かもしれないが、この世界ではほとんど味わえない日本食だ。日本人にとっては十分にご馳走と言えるだろう。
そうして出来たご馳走を運んでいると、団体の人影──勇者一向が帰ってきた。
「いた!」
もしショウが犬だったら尻尾をブンブン振り回して喜んでいただろう。ショウはご馳走を運びながら最速で駆け付けようとするが彼の[全事象把握]が何かを捉え……否、捉えなかった。そう、ハジメの存在を捉えなかった。
一緒に遠征に行ってた遠藤の存在は元々捉えられないから別にどうでも良いがハジメ、それと香織の存在を捉えられなかった。ショウは日本食を異空間収納に仕舞い──
「天之河ァ!!」
「ゲボラァ!」
ひとまず糞勇者の顔にドロップキックをお見舞いする。
そのまま倒れる勇者(笑)に馬乗りになり
「お前!ハジメを何処やった!答えろ!散々守る守る言ってた矢先にこれかよ。おい!何とか言ったらどうだ!この偽善者がゴラァ!」
胸座を掴み何度も揺さぶり、頭を地面に打ち付けながら天之河を問い詰める。が、当の勇者(笑)は最初の一撃で気絶し答えられない。
「ちょ、蒼!待ってくれ!説明するから!な!な!?」
と気絶した雫を担いでた龍太郎が何とか宥める。
とりあえず落ち着き取り戻したショウは勇者を座布団にしながら龍太郎の話を聞いた。
「………要は檜山のせいでトラップにかかり、ハジメはベヒモスって言う牛を足止めして、逃げようとしたら地面の崩壊に巻き込まれ、白崎はんはそれを追った。と………」
「あ、ああ………」
「ふーん………」
ショウは
「お、おい!ショウ何処へ「ハジメ達を助けに行く」!? 無茶だ!お前じゃ「それでも行く」でもハジメは「生きてる」何を根拠に!?」
龍太郎の問いかけにショウは振り向いて答える
「根拠は無い。けど確信はある」
「それに」と付け加えて、堂々と言い放つ
「ハジメは強い。あの日からずっと、今も、誰よりも」
確かにハジメは限定的ではあるが、誰よりも強い。
だが、その言葉の本当の意味を理解出来る者は恐らくこの場には片手で数える位しかいないだろう。
「それでもお前が「もちろん死ぬつもりは無い。けど、この命はハジメの為に使う」」
「俺の命はハジメに貰った物だから。だから俺の全てはハジメの為に使うって決めたんだ。それじゃ」
「お待ちくださいませ」
ショウがそう言い残し立ち去ろうとしたその時、銀髪の修道女を連れたジジィ──イシュタルが制止の声をかける
「何だ?王宮の人手は足りているはずだが?」
「エヒト様からの神託です。貴方様にはエヒト様のいる神域までお越ししてもらいます」
「断る。大体、神とやらが雑魚の俺に何の用があるんだよ」
ショウは嫌そうな顔をして断るが、イシュタルはまるでそうなる事を想定していたかの様に返す
「貴方様がステータスを改竄してたのはお見通しです。何故隠していたのかは知りませんが、その力をエヒト様の為に使ってもらいたく「阿保かお前は。俺は言ったよな?『俺の全てはハジメの為に使う』って。どこぞの馬の骨に使う気は毛頭も無い」…………つまり、貴方はエヒト様のお言葉に「くどい。それとも耳が遠いのか老害」………」
「そうですか……では、力ずくで従ってもらうだけです!」
イシュタルの合図で神官らしき人間がぞろぞろと現れ、武器を向ける。
「おい、こんだけか?神から俺のステータス聞いてなかったのか?」
「聞くまでもありません。貴方が戦うのは彼らだけではございませんからね」
イシュタルがそう言い放つと、空から銀色の羽毛が降って来た。
見上げるとソコには、白を基調としたドレス甲冑の様なものを纏った銀髪碧眼の女達がいた。
背中から銀色に光り輝く一対の翼を広げ、ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている どう見ても戦闘服だ。まるでワルキューレの様である。それが1000体
そして、イシュタルの隣にいた修道女も同じ姿をして、ショウの前に立つ。
「統率を担当している『サウザ』と申します。“神の使徒”として、主の命を実行します。」
サウザと名乗った女と他の使徒は、そう言うと、ガントレットが一瞬輝き、次の瞬間には、その両手に白い鍔なしの大剣が握られていた。 銀色の魔力光を纏った二メートル近い大剣を装備していた。
が、当の本人はと言うと
「おい、老害。これっぽっちか?」
「ふむ、まだ状況が理解出来ないのですかな?いくら貴方様が強くても、この数では逃げる事など不可能なのです。」
「ならよーく見てな」
ショウはそう言うといつの間にかその姿を変えていた。
いつもの燕尾服の上着は白に青いラインの入ったロングコート、その上からベルトを巻き付け、腰には二丁のリボルバーソード。靴はごつめのメンズシューズと姿を変わる。
『祝え!今ここに、我らが主人公!蒼翔が真の力を解放し、救世主が降臨した瞬間である!』
脳内に響くアシストの祝福そして、次の瞬間。ショウは[全事象把握]で捉えたサウザの弱点と思われるコアを撃ち抜く。
一瞬の出来事にその場にいた者は誰一人反応出来ず、ショウの次の行動を許してしまった
「『集点』二つ」
『ただいまショウが発動した魔法は重力・魂魄複合魔法「集点」。魂魄魔法の〝選定〟によってショウが選んだ。もしくは選ばれなかった対象を重力魔法で一つの場所に収束させる魔法です。そして、ショウはそれを二個発動し、二つのジャンルに分けました。それは──』
「集点」は左右に別れると、右の方には本物の神の使徒。左には神官達が分別されるかの様にどんどん集まっていく。
「『天震』『蒼天』」
使徒には『天震』を当て、なるべく外を綺麗にコアを砕き遺体を異空間収束に回収。神官達は焼却処分で始末する。
そしてショウは老害の前に一瞬で姿を現し──
「神に伝えとけ『今回はハジメ達の命を優先してやるから見逃してやる。だが、次来たら
お前を殺す』と」
「ヒィイイイイイイ!」
あまりの出来事に腰を抜かすイシュタル。そう言い残して
「さて、行くか」
『そうですね。行きましょう』
当たり前かの様に宙に浮かび、オルクス大迷宮へと飛び立って行った。
その場に残ったのは静寂と、威厳も何も無くなった只の老害と事態を理解出来ないクラスメイト。そして、この世界の根幹となる神や使徒への謎だけだった………