時は巡って現在は原作開始、約一年前。
まずはここ数年の間にあったことを説明しよう。
ハドラー親衛騎団の面々が魔王軍の愉快な仲間に加わった事で我が軍に大きな変化があった。
まずは訓練、ハドラー親衛騎団は原作でも生まれながらの天才揃いだった、それはこの世界でも当てはまる。
ヒュンケル、ラーハルト、フレイザードの三人の修行に親衛騎団が加わったことでかなり内容が濃くなり、ついでにヒュンケルが鎧の魔剣、ラーハルトが鎧の魔槍をバーンから貰って(俺が知らんうちに貰ってた)から更に濃すぎてカオスな事になった。
あいつ等が練習場ぶっ壊してキレたアルビナスが全員に正座させて説教してるのも最早日常となりつつある。
ついでにとばっちりで俺も説教されるのにも慣れた。
いやあいつ等、修行を頑張るのは良いんだが熱くなりすぎるとやり過ぎるんだよね。
特にお互いをライバル視してる同士が模擬戦すると特にその傾向が酷い。
ヒュンケルとヒムの原作でもライバルだったコンビをはじめ、ラーハルトとシグマのスピード自慢コンビ、クロコダイン(ちょっと前に兵士集めを一区切り付けて戻ってきた)とブロックのパワー自慢コンビ、この3パターンで模擬戦すると特にやらす率が高い。
ついでに何かと運が無くて要領が悪いからアルビナスにシバかれる率が高いフェンブレンをフレイザードが慰めてる光景も日常となった。
……フェンブレンは強く生きろ。
だがやはり親衛騎団で最強はアルビナスだ、普段は修行に参加しないけどキレたら俺より強いんだよね、マジパネェ。
上記のメンバーをまとめてシバキあげる技量は本当に大したもんだと思うよ。
今のアルビナスならバランやキルバーンにも勝てる気がするのは気の所為じゃない気がしないでもない。
と、問題も起こす親衛騎団だが仕事はちゃんとやるんだよね。
特にシグマは頭も良く誠実な性格だから今では親衛騎団のサブリーダーのポジションに着いてる。
事務能力も高いし本当に助かるわ。
何気にブロックも見かけによらずに事務能力が高いのも助かる。
ただバカでかいアイツ用に特注で机と椅子と筆記用具一式揃えるのは中々の出費だったがね。
……うん、調子に乗って俺が自腹で出だすとか言わなきゃ良かったと後悔してる、おかげで一時期財布の中身が寂しい事になったし。
その二人とは逆に事務能力皆無なヒムとフェンブレンも中々役に立ってるよ。
普段の鬼岩城の警備とは別にヒムは持ち前の兄貴肌を活かすために六大魔団の兵士達を鍛えるトレーナーの仕事もさせてる。
特に団員数最大を誇る故にクロコダイン一人では面倒見きれん百獣魔団と、未だに団員集めに苦戦してる為に中々バランが帰って来れない超竜軍団の面倒を見てくれるのは本当に助かる。
……まぁラーハルトとはソリが合わないのか、しょっちゅう喧嘩してアルビナスに叱られてるのはご愛嬌だろ。
ちなみにクロコダインとはウマが合うみたいで仲良くしてるよ。
んで最後はフェンブレンだが……アイツは何というか……ご愁傷様としか言うしかない。
別に悪い奴じゃないんだが要領が悪く失敗が多いんだよね。
んで見かねたアルビナスが鍛えるために自分の助手と言う名のパシリにしちゃったのがアイツの運の尽き。
とにかく色んな雑用をアルビナスにやらされて、んで失敗する度にアルビナスに説教とおしおきされるんだよ。
見てて気の毒になったから何度か俺もアルビナスに手加減するように言ったんだが、その度に「ハドラー『様』は甘過ぎます!」と言われて俺も一緒に説教されるから俺も静観する事にした、アルビナス怖い。
まぁおかげでフェンブレンの要領の悪さも大分マシになって説教される回数も大分減ったよ。
ただちょっと前に失敗した罰として鬼岩城の裏にゴミ捨て場を掘ってる姿を見た時は俺も思わず目を逸らしたが。
「ワシのツインソードピニングはゴミ捨て用の穴を掘る為にあるんじゃなーい(泣)」
と、ガチ泣きながら叫んでたのがまた哀れ。
……本当に強く生きろよ。
とまあ、なんやかんやハドラー親衛騎団の面々は魔王軍に馴染んでました、ええ事だ(フェンブレンからは目を逸らしながら)。
あとコレは凄く重要な事だがザムザがついに超魔生物の基礎理論を構築した。
いやぁマジで良かった、本当に良かった!
ザムザ曰く「まだまだ荒削りで実験も必要ですが実用化はそれほど遠くないですよ」とのこと。
本当にザムザは優秀な研究者やわ。
俺、喜んだ勢いで思わずバーンにザムザを軍団長に昇格するように提案しちゃったわ、あっさり却下されたけど。
以外な事にバーンはザボエラをソコソコ気に入ってるんだよね、バーン曰く「卑怯で姑息なとこが見てて飽きない」んだと。
その事をザムザに謝るとザムザは落ち込むかと思ったら以外な事に前向きな返答貰って俺ビックリしたよ。
「キシシッ、大丈夫ですよハドラー様。この超魔生物理論を完璧にして実力でオヤジを蹴落として軍団長になってみせますから。大魔王様にもそうお伝え下さい」
と、自信に満ちた力強い言葉を貰って俺は思わず涙出てきたよ。
ザボエラ、お前が見下してる息子はお前の知らない間に立派に成長してるぞ。
ザボエラがその事に気付く日が今から楽しみだ。
そんな自慢の部下に激励の意味も込めて俺特製のチーズケーキをご馳走したのも懐かしなぁ。
それ以外だと超竜軍団を除く六大魔団の兵士が実戦可能な人数に達して魔王軍は本格的に活動可能な状態になった。
原作とは違い各軍団同士の交流も盛んに行われる為、多分原作の魔王軍より強いと思うよ。
……ダイ達は大丈夫かな、まさか一瞬で勇者パーティが全滅とか無いよね。
と、ここ数年であった事をザックリ纏めてみた。
うん、ダイ達アバンの使徒は超ガンバレ、本当に頑張ってくれんと俺が困る。
▼▼▼
〜鬼岩城、魔王の間〜
んでところ代わってコチラは魔王の間、俺と軍団長とその副官達はバーンに呼ばれてここに集合してる。
なんでも鬼岩城の改築工事完了の式典をするんだとよ。
「ふぁ~あ〜」
「ハドラー様! アクビなんてみっともないですよ!」
「だってよアルビナス、もう一時間も待ちぼうけだぜ?」
「……まぁ今回はハドラーの気持ちも分からんでもないがな」
本当に無駄な時間だ、まぁ昔と違って仕事が山積みって訳じゃないから良いが。
別に俺とアルビナスが少々居なくても今の司令部はハドラー親衛騎団が居るから全然大丈夫だけど。
ふと周りを見回すと各々がグループを作って雑談して暇を潰していた。
フレイザード、ヒュンケル、ラーハルトの若手トリオは修行の話で盛り上がってる。
バラン、クロコダインの武人コンビはお互いの現状報告をしてるな。
んでザムザ、ロッキー、モルグ、ガルーダ、シャドーの副官ズは何故か俺が作る菓子はプリンとケーキのどっちが美味いか議論で白熱してる、いや本当に何故に?
で、ザボエラはグループから溢れたから一人黙って部屋の隅にいる、日頃の行いってこういう時にモロに響くよね。
で、最後は俺、アルビナス、ミストの魔王軍のブレーン組、俺達もさっきから雑談で暇を潰してる。
「そいやミスト、キルバーンとマキシマムは来ないのか?」
「……一応は声はかけたがキルは自分は鬼岩城に所属してないと言って逃げ……いや、断った」
「思いっきり逃げたと言っとるがな。んでマキシマムは?」
「……アイツはキッパリと『ハドラーが居る鬼岩城に誰が行くか!』と言い切りったぞ、あのハイエナは一度思い知らせる必要があるな」
「ミストバーン様、その時は私もお手伝いしますわ!」
マキシマムは本当に俺が嫌いなんだな。
以前理由は聞いたんだが、その理由が俺がバーンに目をかけられて魔軍司令の立場に居るのが気に入らんのだと。
なら魔軍司令代わってくれと言いたいが、アイツはキングのチェス駒から生まれたから守るは得意なんだが、逆に自ら行動して攻める方は苦手なんだよね。あと自信過剰でまぁまぁやからす、これじゃあ司令には出来んよ。
まぁマキシマムはこれからもバーンパレスの守衛を頑張って貰うさ。
……本当に誰か魔軍司令代わってくんないかな、最近バーンの期待がヤバイ位高まって本当に辛い(泣)
バーンの野郎め、何が「ハドラーなら地上侵攻など余裕だろ?」だ、何が「地上制圧後は余の右腕として地上の支配を任してやる」だ。
そんなん俺は一切御免こうむる。
俺は老後は子供達に囲まれて趣味の模型作りとお菓子作りしながらゆっくり過ごしたいんだよ!
はぁ、早く辞めたい。
▼▼▼
それからしばらくして大魔王バーン登場。
マジで退屈な時間やったわぁ。
「バーン様、六大魔団長及びその副官揃っております」
代表して俺がバーンに話しかける、一応責任者だからね。
「うむ。何度見ても実に頼もしい顔ぶれ、余は大変満足しておる」
そら原作知識でアンタが満足するメンバー掻き集めたからね。
これで満足しんとか吐かしやがったら俺キレていいよね?
「では鬼岩城の改築を記念して余が特別に褒美をとらせよう」
そして俺達の前に現れるトンデモナイ熱さの業火、その中心に趣味の悪いデザインのメダルが浮いてる。
「これは『暴魔のメダル』、さぁ我にと思わん者は手に取るが良い」
あー思い出した、そいや原作でこんな場面あったね、 確かこれでバーンへの忠誠心を試したんだったな。
ふと部下達を見るとみんな尻込みしてる。
ヒュンケルやバランなどの耐性持ちすらビビる炎ってコレ多分カイザーフェニックスの炎よね?
『オイどうする』そんな気持ちを込めてミストに目線を送るとミストから『ハドラーに任した』と目線で返事を貰った。
……うん、ミストは傍観する気らしい。
はぁしゃあない、ここは上司の俺ががんばりますか。
俺の身体なら多分全身火傷で済む……と、思いたい。
……どうやら何人かは俺と同じように覚悟を決めたみたいだ。
こいつ等に取らして火傷させるのはしのびない、そう自分に言い聞かして手をのばす……筈だった。
だが俺は結局手を伸ばすことは無かった。
横に居たフレイザードが業魔のメダルを掻っさらったから。
「ケッ! どいつもこいつも情けねえな、この程度で何ビビってやがる。あんまりにも遅いんでオレが代わりに貰ってやったわ」
そう豪語するフレイザードだが氷の半身がかなり溶けてとても痛々しい姿をしてる。
「見事なりフレイザード。その勇猛さに余はいたく感心したぞ。フレイザード、今から魔王軍の切り込み隊長を名乗るが良い」
「……切り込み隊長ね、まぁ悪くねぇ。その肩書き有り難く頂きますよ大魔王様」
ニヒルに笑いながらバーンにそう言い返すフレイザードは俺の知らないフレイザードに見えた気がした。
▼▼▼
あの後、満足したバーンは鬼岩城から消え、俺はフレイザードを魔力で回復してる。
横でアルビナスが心配そうに見つめてる。
「イテテ! オヤジぃ、もうちょい優しく回復してよ」
「……フレイザード、なんでこんな危険なことした?」
あの場に居たメンバーの中で氷の半身を持つフレイザードは特に手をのばしちゃいけない一人だった。
「だから、全員ビビって……「そういう事じゃない!!」」
俺の怒鳴り声でフレイザードは黙る。
「お前の身体だと下手したらコアまで焼けて死んだかもしれないんだぞ? それをわかってるのか!」
原作では大丈夫だった、だから大丈夫、そんな保証はもう無いんだ。
ここはもう『現実』なんだから。
もしバーンが原作より強い炎を出してたら? もしフレイザードが原作よりコアの耐久力が低かった? あり得たかも知れない息子が死んだかも知れない現実に俺は震える。
「……オレを心配してくれるのはありがてぇがよ、オレもいつまでも子供じゃねぇんだよ」
「フレイザード……」
「オレはオヤジの子供であるが、オレはアンタの部下の氷炎将軍『魔王軍の切り込み隊長』フレイザードでもあるんだ。オレは己の意思でこの暴魔のメダルを取り『魔王軍の切り込み隊長』の名を得た。なぁオヤジ、これでも不安か? まだオレは未熟に見えっか?」
「そんな事は……」
「なら心配せずに信じてくれよ、オレを。オレは自分の意思で戦ってそして必ず生きて帰ってくる。だからさ、そんな顔すんなよ」
フレイザードに言われて俺はアルビナスを見る……アルビナスの金属の身体に反射した俺の顔を。
俺の顔は今にも泣きそうな情けない顔をしてた。
「オヤジいや、魔軍司令ハドラー殿、アンタの部下フレイザードはアンタが生み出し鍛えた最強の戦士だ。だから何度も言うが心配するな」
……フレイザードのその言葉に俺は黙って聞いてることしか出来なかった。
▼▼▼
〜フレイザード視点〜
オレを回復し終わったオヤジはアルビナスと一緒に自分の執務室に戻っていった。
オヤジはあの後一言も喋らなかった。
オヤジは昔からそうだった。
魔族の癖にどこか抜けててお調子者で……優しい。
本当は地上侵略なんぞ出来る性格じゃ無いのにオレたち子供の為に、部下の為にって無理ばかりしやがる。
だから、これからはオレがオヤジの代わりに戦う。
オヤジがやりたくない地上侵略はオレがやってやる。
オレは大魔王の為なんかに戦わない、フレイザードが戦うのは魔軍司令ハドラーの為だけだ。
オレはオヤジの為に戦う。
だからよ、全部終わったらまた二人で修行しようぜ。
くだらない雑談しながらやるあの時間はオレが一番好きな時間だからよ。
なぁオヤジ、全部終わったらアルビナス達と一緒に魔王軍なんか辞めて家族みんなでどっか遊びに行こうぜ。
だからよ、もうあんな顔すんなよ、あんな今にも泣きそうな顔をよ。
「フレイザード兄様」
「アルビナスか、どうした? オヤジと一緒じゃないのか?」
「……一言だけ言いたくて私だけ戻ってきました……もう、あんな無茶しないで下さい」
「……そら聞けねぇわ」
「!!!」
「ハドラーの長兄、フレイザードの仕事はオヤジの前に立ち、オヤジの敵と戦うことだからよ」
「……ならせめて、せめて無事に帰って来て下さい。もうハドラー様のあんな顔は見たくないです」
「へいへい、アルビナスはオヤジのサポートを頼むぞ」
もうすぐ地上侵略作戦が始まる。
オレは絶対に死なないからよ、だからオヤジ、心配するなよ。
▼▼▼
〜バーンパレス、魔王の間〜
「……バーン様、何故遅刻したんですか?」
「なにミストバーンよ、その方が大魔王の威厳を示せるだろ?」
「……で、本当の理由は?」
「……寝坊した」
「そんな事だと思いました。次からは私が呼びに行きますから二度とこのような事は無いようにおねがいします」
「ミストバーン、このことは……」
「分かってます、誰にも言いませんよ。そうそうバーン様に言っておきます」
「何だ?」
「少しは運動して下さい。ローブで隠してもわかりますよ、太りましたね?」
「!!!」
「……全く、ハドラーと私に仕事を全部丸投げしてハドラーの作るお菓子を食べまくるからそうなるんですよ。大体ですね、ハドラーが幾ら優秀だからと言って全部押し付けて……グチグチ」
「……(ミストバーンは最近余に対して遠慮が無くなってきた気がするのぉ。と言うか何時までこの説教は続くのだ?)」
※その後、一時間ほどバーンは説教されました。