台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題   作:まかみつきと

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祥瓊&鈴vs景女王◆女の攻防戦in金波宮




||12|| 素敵に無敵、何の問題が? (うちの女王様ってば)

 

「顔は良いわよね」

「そうね。美人って言うより麗人、っていうかんじもしないではないけど、うん、美人よね」

「姿勢だって良いし、最近は王の貫禄も出てきたし」

「身長もそんなに低い方じゃないしね」

「そうそう。あとは、知識……はとりあえず置いといて、いざというときの決断力は、充分」

「一刀両断、て勢いだもんね」

「ま、そのぶん策をめぐらすのは余り得意じゃないみたいだけど」

「だけど、延王様をやりこめちゃったりもするんだから、口もずいぶん達者になってきたわよねえ」

「浩瀚様や遠甫が老師(せんせい)ですもの、それくらい覚えるわよ」

「あとは剣の腕?」

「あれは賓満がついているときだけでしょ。陽子の腕じゃないわ」

「あ、そか」

「それと、努力家ってことかしらね。為政者としては貴重な資質だわ」

「たんに貧乏性って気もするけど……」

「それは言わない約束」

「はいはい。王のわりに質素を好むっていうのも、いいほう?」

「まあ、華美飽食の王よりはいいでしょうけど……見目がいいんだから多少なりと着飾ってくれても悪くないと思うのよねえ。そうでなくても若い女王なんていないんだから」

「な、に、を。そこで密談してるのかな?」

 背後からかかった地を這うような声に、女史と女御が首を竦めて振り返った。

 書卓に両の拳をつき、折らんばかりに筆を握り締めている主君に、二人は見事な微笑で楚々(そそ)と歩み寄る。

「あら、主上、ご機嫌麗しゅう」

「そのように眉を寄せられては、花の(かんばせ)が台無しですわ」

「女御殿、我等が景女王はたとえいかなお顔をなさっていても、十二国一の美姫に間違いございません」

「まあそうですわね、(わたくし)としたことが」

「……やめてくれ、頼むからっ……!」

 ほほほ、と左右で交わされる品のいいやりとりに陽子は突っ伏し、王の傍らに控えていた将軍が壁を向いて肩を震わせる。無音なのは遠慮ではなく笑いが声にもならないかららしい。

 女御が可憐に微笑んだ。

「いやですわ主上。妾どもは本当のことを申し上げているだけですのに」

「お信じ下さらないとは悲しゅうございますわ」

 紺青の髪の女史がよよと袖を目許にあてる仕草など、じつにさまになっているだけに性質がわるい。

「なにが目的だ、なにが」

 睨み上げた翠の瞳に、鈴がまあと悲鳴を上げた。

「目的だなどと、さても妾が猾吏(かつり)のような仰りよう」

「誉め殺しで人を脅しておいてよく言うよ!」

 鈴に噛みつく陽子の反対側で、嘆かわしいとでもいいたげに祥瓊が溜息をつく。

「妾どもはただ、主上に似合いの美しい装いをなさっていただきたいだけですのに……」

「やっぱりそれか! あんな動きにくいもの着ないからな」

 さすがにここまでくると慣れない口調は面倒なようで、素に戻った鈴が憤然と腰に手を当てた。

「なんで! もとがそれだけいいんだから、ちょっと着飾ればもっと綺麗になるのに!」

「やだ!」

 言い合う陽子の袖を、祥瓊が掴む。

「お願い、とても綺麗な色合わせの衣装を見つけたの。試しでもいいから袖通してくれないかしら」「ぜっったいいやだ! そんなに着たけりゃ祥瓊が着ればいいだろう、祥瓊の方が美人なんだから!」

「なに言ってるの、王族のものを私が着られるわけないでしょう。それにあの色合わせは陽子にこそ似合うのよ!」

 執務そっちのけで交わされる口論に、将軍がこりゃだめだと書類を抱えて遁走したのを、むろん三人娘は知るよしもないのだった。

 




祥瓊は陽子の衣装担当だといいなと。
こんな日常だったらいいですね。

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