台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題   作:まかみつきと

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闇は、消えない。


||17|| ねぇ、どうしたら嫌ってくれる? (陽子)

アサマシイナァ

 

ソンナ命デモ惜シイカイ?

裏切リ者ノクセニサァ

 

 

 耳元で甲高い笑い声がして飛び起きた。

 

 息も動悸も荒波のようで、胃の奥から不快感がせりあがる。

 夜が塗りつぶした暗闇に蒼い猿の首がないことを見て取って、陽子は深く息をついた。

 両手で覆った顔は、冷たい汗に濡れている。

「……いるわけ、ない」

 

 陽子にだけ聞こえる声。

 陽子にだけ見える蒼い猿の首。

 

 あれは陽子の心を映したものだ。

 押し殺して見ないふりをしている自分の暗部をつきつけて、陽子の心を蝕んでいった。

 

 怯え、惑い、抗いながらも流されて。

 いつしか垂れ流すその悪意さえも、自分を正当化するための糧とした。

 

 胸を突き上げる後悔に押され、涙とともにあふれる激情のまま叩き斬ったそれは、かつて剣を収めていた鞘に姿を変え、いまでは猿の現れることはない。

 だが、長い時間唯一自分のそばにあったものはなまなかに気配が消えず、むしろ自身の闇と自覚してからは姿がなくとも陽子を苛んだ。

 枕元に置いてある蒼い珠を手にとって、その暖かさに涙が出そうになった。

 宝玉を握りこんだままふたたび夜具にもぐりながら、起こしやしなかったかと隣の牀で眠る友人をそっと見やる。

 

裏切リ者ォ

 

耳障りな声が胸を貫いた。

 

鼠ノ好意ニ悪意デモッテムクイヨウトシタクセニサァ

ヨクモ今更善人ヅラガデキルヨナァ

 

 嘲笑は耳を(ろう)するほどに甲高く響き渡る。

 それは、陽子にしか聞こえない弾劾。

---そんなこと、お前に言われなくてもわかってる。

 自分を救ってくれた友人に言い尽くせないほどの感謝を感じているのも、あのとき剣の柄に手をかけたのも、どちらも陽子自身なのだから。

 

 気にするな、と彼は言う。

 おまえのせいじゃねえ、むしろ自分のほうが悪かった、と頭さえ下げてくれた。

 その責めない姿勢がありがたい以上に、ひどく心を苛むのだ。

 どんな言葉を並べ立ててもあの自分を帳消しにできないのなら、耳を塞ぎたくなるような言葉で罵って欲しいくらいなのに。

 自分が虐げられたがゆえに、傷ついた者を見捨てておけないちいさな友は、この罪を相殺にもしてくれない。

 その優しさが、過ちに振り向いてしまった胸に痛いほど沁みて。

 嬉しいと思うと同時に、情けなさと感謝と後悔でいっぱいになる。

 

 ねえ、いっそ罰して欲しいなんて、思ったらいけない?

 

 あなたの好意に甘えている、浅ましい私を。

 

 甘やかされて、それでいいんだと安心している私を。

 

 ねえ、どうしたら嫌ってくれるの?

 

 

初稿・2005.01.19




烏号から関弓へのダークサイド・
むう、捏造捏造。

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