台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題 作:まかみつきと
細工は美しいがどこかうらぶれた風情の建物に腰を下ろして、深く溜息をつく。
肩が重苦しくて、眩暈がした。
両手で押さえた白皙の貌は常にまして血の気が薄く、蝋のように白い。
---台輔
「……大丈夫だ」
地中からかけられた声に応え、ぼんやりとあたりを眺めた。
よく手入れされた樹々、色鮮やかな花々。
緑そよぐ園林は美しく、だがその決まりきった美しさゆえにか、ひどく拒絶されているような気がする。
まるで、自分を拒む主のように。
いや、と頑なに首を振る女の顔が浮かんで、苦い気分で眉を顰めた。
間違いなくこの国の王であるのにその責務を果そうとしない主は、ただの娘であった頃に戻りたいと泣いた。
それを忌々しいと思っている自分に気がついて、愕然とした。
麒麟は王を選び、王に従う。
天帝が十二の国を定め、王に玉座を与えてからの、それは
王を補佐し、民に慈悲を垂れるのが己の使命だというのに、無二の主を
胸の内を、薄暗い靄が漂う。
まとわりつくようなそれは、自覚すればいっそうに肩に重くのしかかる。
大きくかぶりを振ると、薄い金色の鬣が頬に流れた。
わかってはいるのだ。
なにが足りず、なにをせねばならないのか。
必要なことはわかってはいても、それをどうすればいいのかがわからないから、余計に身動きが取れなくなる。
それでも。
---あの方が、あの方だけが、この慶国の王であるのだ。
それだけは、忘れて欲しくないのに。
「台輔」
いつのまにか路亭のはしに叩頭していた女官に呼ばれて、景麒は我に返った。
「なにか」
「青鳥が届いております。蓬山からとのことなのですが、如何致しましょうか」
「蓬山?」
思いもかけない言葉に、紫の目を瞬かせる。
「わたしにか?」
「はい。碧霞玄君より、至急のしらせとのことで」
久しく聞くことのなかった懐かしい名に、郷愁めいたものが胸中を走った。
「わかった。すぐに仁重殿へ戻る」
「かしこまりまして」
王を選び国に下った麒麟は、蓬山と関わることはない。ましてあちらから知らせが届くことなど滅多にないだけに、なにやら胸騒ぎがした。
しかしそれは、奇妙に心
その違和感を訝しく思いながら、景麒は立ちあがった。
初稿・2005.01.28
泰麒帰還後ってとこですか。
このお題を見た瞬間、しまったー!と叫びました。
短編で書いた『灯火』こっちに持ってくれば良かった、と・笑
でもまあ、予想外のネタが浮かんだので、これはこれで。
ということで、本日は『灯火』との2本UPです←