台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題   作:まかみつきと

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延主従◆『黄昏~』幕間。
「なにやってんだろね」


||31|| 玄人のくせにそのざま?

 

「まったく、よってたかって人を馬鹿にしおって」

……さっきから、繰り返す愚痴に変化がねーんだよ。

 隣を飛ぶ騶虞の上で憤然と腕を組む主に、六太は胸中呆れて溜息をついた。

 

 雲海の只中、周囲にはただただ塗りつぶしたような青が広がり、自分たちのほかは騎影も鳥の姿もない。

 こんな高所を飛べる鳥の種類など知れているから、もとより遭遇しようもないのだが。

 時折突き出る凌雲山の青い影以外何もない雲海の上は、日頃用もなく行き来するでさえ時を持て余す。

 そこへもってきて、同行が呪詛のように恨み言を繰り返していると来れば、いくら自分が仁獣であったとしても、かつ相手が至高の主であったとしても、その騎獣の背から蹴り落としたくなるのが人情(獣情?)というものではなかろうか。

 虎に似た騎獣の背、硬い毛並みに突っ伏しながら、六太は口を尖らせた。

「っとになー、文句言うならその場で返せよ。ここでなに言ったって、いまさら陽子に聞こえるわけじゃねーだろ」

「……少なくとも、お前には聞こえている」

「俺に二人分かぶれってのかよ!」

 こいつ、言い返せなかった腹いせに、おれにいやがらせしてやがるな。

 長年の付き合いで、へその曲がり具合はある程度察しがつく。

「まだまだひよっこだと思ってた陽子に『雁が倒れたときには慶が助けてやる』とかって言われて、へこんでるんだろ」

 隣から、答えはない。

「なにやってんだかね。五百年も王様やってるくせに、まだ新人の王にやりこめられるなんて情けない」

「……うるさい」

 陽子に切り返され、六太には図星を指されて、さすがに磊落(らいらく)は気取れないらしい。

「まあ? 偉そうに言ってても、その程度ってことだよな。宗王ならもっと恰好よくあしらうだろうに、これが主上の格の差って奴かね」

 ここぞとばかり嘲笑われても空の上、それも別の騎獣にわかれていてはいつもの拳骨も出せず、尚隆が睨み返す。

「その主を選んだのは貴様だろうが、馬鹿」

「てめ……っ! 仮にも麒麟に向かって馬鹿とはなんだ馬鹿とは!」

「ほう、自分の(あざな)も忘れるとは、麒麟も五百年生きると耄碌するか」

「あんな字、てめえがかってにつけただけじゃねーかよ! おれが自分で名乗ったわけじゃねえだろ!」

---台輔、落ちます

 溜息混じりの女怪の腕に支えられて、六太は歯噛みする。

 抜けるような蒼穹の下。

 二頭の騶虞の間で交わされる、聞くに堪えない罵詈雑言は、彼らが雁に着くまでとだえることはなかった。

 

 

初稿・2005.01.31




『黄昏』インターミッション。
あの陽子ちゃんの名言には爆笑させていただきました。
いやー、王様三年目で、ずいぶん達者になって来たねー。

これ、実はサイト掲載時は600文字未満でした。
掲載可能な1000字にするためにかなり書き足しています。
ワンカットでインパクト、という体裁のお題がいくつかあるので、加筆がけっこう骨です……。

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