台 詞 で 創 作 1 0 0 の お 題 作:まかみつきと
「弓?」
六太の目の前で、漆黒の瞳がぱちくりとまばたきした。
その反応に逆に驚いて、思わずぽかんと口があく。
「弓、って、弓射だぜ? やったことないのか?」
ふるふると首を振る灰茶の鼠を見やり、六太は信じられない気分で眉を寄せた。
彼は少学に
そこまで考えて、六太は喉元まで出かかっていた言葉を飲みこんだ。
―――正式に通えたわけじゃなかったんだっけ。
母親が田圃を売った金を寄進というかたちの
そんな待遇の半獣が、弓射など教えられているわけがない。
続ける言葉に困って口を噤んだ六太の向かいで、当の鼠は小さな手で耳の下をかいた。
「たしかに弓射の講義は元々受けてねえんですけど、選士に推挙されたときはおいらと同格の奴がいなかったんで、弓で競う必要がなかったんです」
小首を傾げる半獣の青年に、六太はひくりと口の端を歪めた。
「……ごめん、オレ、いまちょいむかっときた」
「え?」
「なんでもねー」
そう。推挙の際に弓が要るのは、候補となる複数の学生の学力が優劣つきにくい場合である。
選ばれる者が他に比肩なければ、弓射で争う必要はないのだ。
上庠から少学を一段飛ばして大学を―――それも、生国ではなく名高い雁の大学を―――受けられるだけの力があり、あまつさえそこに首席で合格してしまうような頭脳の持ち主である。
これと同期に少学を希望したところで受かるはずもなく、あえなく落選したであろう者は運が悪いとしか言いようがない。
結果的に、楽俊は半獣であるという理由で推薦を却下されたから、次席の者が少学に上がったのだろうが、それにしても自分より遥かに優秀な者がいるというのは気に障ったかもしれない。
それをわかっているのかどうか、目の前の小柄な鼠はただ首を傾げている。
むう、と六太はこめかみを押さえた。
ちょっとばかり頭がいいのを鼻にかけるぐらいなら可愛いもの。なまじずばぬけて才あると、他との格差が自覚できないらしい。
―――こればっかりは、言ったところで意味ねーんだろな。
六太が何故機嫌悪くなったのかわからずきょとんとする相手を、じとりと横目でねめつける。
「ま、どうあっても弓射はやらなきゃならねーんだし、頑張ンな」
「はあ……」
かりこりと毛並みをかく楽俊に、六太は大きな溜息をついた。
初稿・2005.02.15
初弓射はこれからの設定です。
本当は鳴賢との掛け合いだったんですが、大学入学当初だと
鳴賢と知り合ってるかわからないので、六太にしてみました。
うちは六太の出張り率が高いなぁ。