真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

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『東西の激突!-共同戦線の行方-』

 川神学園の本陣となっている場所では、2年生総勢200名の前で、額に×印のある男が声高々に演説を行っていた。

 

「1年生の敗北をみなも見たであろう。バラバラに戦っていては、天神館に勝つことはできん。学び舎の名を高めるか! 辱めるか! 選べお前達!」

 

 この男の名は九鬼英雄。金ぴかの服を身に纏い、短く整えられた銀髪と鋭い眼光が特徴的だった。彼は九鬼財閥の御曹司であり、癖のある2-Sの委員長も務めている。また紋白の兄でもあり、姉ともども彼女を溺愛している。

 

「さすがだな」

 

「こういうときは本当に頼もしく思えるよ」

 

 英雄の演説に歓声があがる中、凛と大和は彼の力に感心していた。

 

「山猿どもと手を組むのは気に食わんが、負けることはもっと嫌じゃからな。今回は仕方ないのう」

 

 2-Sの桃色の着物を着た女生徒――不死川心もしぶしぶといった感じで了承する。彼女は、日本屈指の名家の一つである不死川家の令嬢であり、幼い頃よりいかに優れた家柄かを懇々と教えられたため、周囲を見下すのが常になっていた。その矛先は大抵2-Fに向き、それがクラス間での争いの種となることも多いが、本人自身は寂しがりやでヘタレ。そんな性格なので当然、敗北など認められるはずもなく、それが今回の了承につながる。

 

「大和くん、私達は身も心も合わせて頑張りましょう」

 

「身をあわすことはないが、よろしく頼む」

 

 S組とF組の軍師同士――冬馬と大和が軽口を叩きながら作戦を練っている間、少し離れた所で、凛は英雄に話しかけていた。

 

「初めまして、九鬼くん。挨拶が遅れましたが、F組に転入してきた夏目凛です。これから、同じ学び舎で学ぶ者としてよろしくお願いします」

 

「ん? 夏目凛? というと、おまえが紋の話していた友の夏目凛か?」

 

「はい。紋白とは縁があり、友として仲良くさせてもらっています」

 

「フハハハそうか。話は聞いているぞ夏目。我は九鬼英雄。紋の兄である。紋の友であり同じ学友なのだ、堅苦しい喋り方をせずとも良い。お前には英雄と呼ぶことを許す」

 

「そう言ってもらえるとありがたい。俺のことも凛と呼んでくれ。皆はそう呼ぶからな」

 

「よかろう。凛、これからも紋とは仲良くしてやってくれ」

 

「もちろん。今日も活躍して、おもしろい話を聞かせる約束をしているからな」

 

 力強く握手を交わす2人。

 

「フハハハ頼んだぞ。我の従者とも初対面であろう。あずみ」

 

「はい、英雄様☆」

 

 英雄が声をかけると、後ろで控えていたボブカットのメイドが前に進み出る。

 

「初めまして、九鬼従者部隊序列1位の忍足あずみです。あずみとお呼びください。よろしくお願いします(コイツが零番と三番の弟子? 武神とも互角でやりあったって聞いてたから、どんな野郎かと思ったが威圧感とかまるでねぇな)」

 

 あずみは、英雄への絶対的な忠誠と忍としての高い身体能力を有する英雄専属の従者である。万能メイドとして彼に尽くす一方、彼がいない場面では気が強い腹黒に変貌する。ちなみに、若いあずみがヒュームの次に席をおき、従者部隊を率いているのは、九鬼の若手育成のためである。

 

「初めまして、夏目凛です。凛と呼んでください。よろしくお願いします、あずみさん」

 

「おーい、英雄もうすぐ始まるみたいだぜ。っと夏目は英雄と今日が初めてだったのか」

 

 ちょうど自己紹介が終わったところに、準が知らせに来てくれる。

 

「ああ、今ちょうど自己紹介を終えたとこだ」

 

「本当にしっかりしてるねー。それに、英雄相手に怯みもしないとは肝が据わってるわ」

 

「当然だ! 我が妹の友が、我に挨拶するくらいで怯んでいては話にならんわ」

 

 そこで、英雄が禁句を口にしてしまった。それを聞いた準がプルプルと震えだし、カッと目を見開いたかと思うと、ツカツカツカと彼に近寄っていく。

 

「!? 妹!? 今、英雄は妹と言ったか!? なぜその妹が夏目と親しい関係になってるんだ!? どういうことなんだ!?」

 

「少し落ち着いてください。それ以上、英雄様に近づくと容赦しませんよ?」

 

 興奮している準の前にあずみが立ちはだかる。すると、ロリコンは方向転換し、親しい関係になっている張本人に詰め寄った。

 

「夏目さん家の凛くん、どうして英雄の妹と仲良くなってんだ? おまえ初めてあった日に3倍能力アップしないって言ってたじゃねぇか!」

 

「いやあれは本当に冗談だ」

 

「それじゃあ何か? おまえのデフォルトが既に俺の能力の3倍あるとかいう話か? 俺では勝負にならんと? 女性適正A+とかもついちゃったりしてんのか! そうなのか!?」

 

「いやそんなわけないでしょうが。少し落ち着け」

 

 凛は詰め寄る井上に説明しようとするが、井上はかなり混乱しているようだった。そこに突然、白い弾丸が飛び込んでくる。そして、奇声をあげると同時に、足を押さえながらうずくまる準。

 

「ぐおっ! おぉぉ……ぉ」

 

「ハゲは少し落ち着くのだ。リンリンが困っているのだ」

 

「ありがとう小雪。はい、ましゅまろ」

 

 小雪は頬を膨らませながら、凛の前に立った。彼は、そんな彼女にどこからともなく取り出したましゅまろを手渡す。

 

「どういたしましてなのだ。……これはブルーベリー味。僕もお返しー今日はイチゴ味だよ」

 

 凛と小雪がほんわかした雰囲気を楽しんでいると、強烈なローキックから回復した準が、いつもの冷静さを取り戻し会話に混ざってくる。

 

「っく、少し取り乱しちまったな。オーケー落ち着いた。それで、なんで友達になってんだ? そして紹介してくれ」

 

「九鬼の関係者に俺の師匠がいてな。引越ししたてのとき会いに行ったんだが、そのとき一緒に来てたんだよ。そして紹介は英雄に頼みなさい」

 

「その通り! 我も資料を読ませてもらったが、なかなか興味深かったぞ。紋は人材勧誘に熱心でな、資料を読んで会う必要があると感じたらしいのだ。それが今につながるというわけだ。今日は、その実力の一端が見れることに期待しているぞ」

 

「紋白に俺の話す内容が真実だということの証人になってもらえるよう、しっかり頑張るよ」

 

 その言葉を聞くと英雄は凛の肩をポンと叩き、一子のほうへと向かっていき、小雪も冬馬のところへ戻っていった。そして、彼がいなくなると、ドスのきいた声が近くから発せられる。

 

「おい凛」

 

「なんですか、あずみさん?」

 

「普通に対応してますよ、この子は。というより、英雄―妹は紹介してくれんのかー!? 俺もお友達になりたいんですけどー夏目より大事にすウボォァ!」

 

 その声の正体はあずみであり、凛はそのギャップに驚くことなく対応する。それを見ていた準は、改めて感心したあと、さらりと妹紹介を流した英雄に向かって叫ぶが、全てを言い切ることなく前のめりに倒れていった。地面に伏した彼は、屍のようにピクリとも動かない。

 依然、小太刀を抜いたままのあずみが、凛を睨みつける。

 

「英雄様の期待を裏切るような真似をするなよ。そんときは容赦しねぇぞ」

 

「まぁ英雄の期待もそうですけど、俺もなさけない話を聞かせるつもりはないんで、負けるようなことはさせないつもりです」

 

「大した自信だな。どうするつもりだ?」

 

 にやりと笑ったあずみに、凛は臆する様子もなく答える。準は未だ反応がない。

 

「俺も大将の守りのほうにつこうかと考えています。これは、別にあずみさんを信じてないわけじゃないので怒らないでくださいね」

 

「ふん! まぁいい。近くにいてもらったほうが、おまえの実力をみられるからな。だが、敵がこちらに来なきゃ活躍できないぜ」

 

「そのときはそれで構いません。敵がこないほど2年生は、相手を圧倒したと言うだけです」

 

「そうか。っと英雄様がお呼びだ。英雄様――☆」

 

 呼び声がかかったあずみは、小太刀をしまい、すかさず英雄の元へはせ参じる。もちろんいつもの尽くすメイドモードだった。彼女が去ると、準がすっくと立ち上がる。

 

「しかし、お前さんほんと肝が据わってるわ」

 

「怖い人なら、それなりに見てきたからな」

 

 凛の言葉に、準は顔を引きつらせた。

 

「あのメイドの豹変に対応した凛が言うその言葉がコエえよ。できるなら会いたくねぇな」

 

「そう会うこともないだろう。九鬼で働いてる人だし。というか凛?」

 

「俺たちは同志だ。そうだろう? 俺のことも準でいい。さ、俺たちも行こうぜ。勝利を掴んで、英雄の妹に報告しないとな」

 

「そうなのか? というより別に準が報告するわけじゃないだろ」

 

「俺の活躍も報告しておいてほしいっていう切なる願いがこもってんだよ! ついでに仲良くしたいってのを付け加えてな。頼むぜ。ロリコニアはお前をいつでも歓迎する」

 

 準はそういい終えると、素晴らしい笑顔で英雄と同じように凛の肩を叩き、集合している皆のもとへ向かう。彼も遅れないように後から追いかけた。東西交流戦の大一番はすぐそこまで迫っている。今宵は満月、優しい光が包み込む工場では、それとは正反対の緊張した空気が流れていた。

 

 

 

 

 

 

「どうやらワンコは西方十勇士の一人にあたったみたいだな。というか、またド派手な攻撃だな」

 

 凛は本陣の近くで一番見晴らしのいい場所に陣取り、それぞれの戦況を眺めていた。目線の先――一子の向かった場所からは、時折耳をつんざくような爆発音とともに硝煙が立ち昇っている。彼がその爆発を見て相手を特定できたのは、事前に大和と卓也が収集した情報のおかげだった。全員の詳細なものを用意できずに、彼らは悔やんでいたが、それでもあるのとないのとでは雲泥の差がある。

 凛はその情報に感謝しながら、手に持っていた双眼鏡を覗き込む。

 

「いやしかし、大和も気が利いているな。わざわざこんなものを準備しておいてくれているとは」

 

 加えて大和は、集会で大将を守ると言っていた凛に、持っていて損のないものを準備していてくれたのだった。煙の舞う中から、一子の相手を確認する。

 

「あの爆発ガールはなかなか可愛い子だな」

 

 セーラー服を着た女生徒――大友焔は、距離をとって一子と対峙していた。ボーイッシュな髪型は活発そうな彼女に似合っており、鼻の上に張られた絆創膏と背に背負う二丁の大砲がトレードマークになっている。その大砲が火を吹く度、爆発が起こり人らしきものが夜空へと跳ね上がった。

 凛は気を取り直して、他のみんなを探すことにする。

 

「源さん発見! ……うまく相手を押しとどめているみたいだな」

 

 忠勝は高低差を利用し、戦いを有利に進めており、少し離れたところで翔一の姿が目に入る。彼は、マンションの5階相当の高さがある場所で、5人相手に縦横無尽に立ち回っていた。

 

「おお、キャップはまたアクロバティックな戦い方だな。むしろ手馴れすぎてる気がする。結構高い場所でやりあってるから、落ちないかハラハラする」

 

 そのまま双眼鏡を下に向けると、そこでは狭い場所と強靭な肉体を活かしたパワー勝負を挑んでいる生徒の姿が見える。

 

「ガクトだ。……狭い場所に誘いこんで、大勢に囲まれないように戦ってるのか、ガクトなりに考えたな。パワーは本物だから、簡単にはやられなさそうだ」

 

 凛はさらに先へと双眼鏡を向けズームをする。

 

「この双眼鏡かなり性能よくないか? すごい良く見える。ん? あの月の光に反射したのは準! ということはクリスも……いた。……軍人の娘だからなのか、統率力が高いな。あれは……幼い男の子、いや女の子か? あれも天神館の生徒? 後ろに危なそうな雰囲気の奴らをたくさん引き連れてる」

 

 凛の視線の先には、準が中性的な天神館の生徒――尼子晴。西方十勇士の一人。性別に見分けがつかない顔と体格をしている――とそれにつき従う鼻息の荒い生徒たちを足止めし、クリスはそのまま部隊を引き連れ、先に進んで行くところだった。そして、彼がそれを見届け、他の戦況を確認しようとしたそのとき。

 

「あんまりだぁぁぁーーーー」

 

 準の悲哀に満ちた叫びが工場内にこだました。すかさず、凛は双眼鏡を彼に戻す。

 

「なんだ、どうしたんだ準?」

 

 そこでは、すでに戦闘が始まっており、その戦闘は準の独壇場となっていた。相手は十数人いたが、力の差は歴然としており、彼の引き立て役にしかなっていない。

 

「おお、あれは昇○拳! しかも威力が絶大だな。準の3倍能力アップは本当か。あれも冗談かと思ってた。って、なんか準が天神館の幼子を抱きしめ……倒した? 鯖折りでもしたのか? よくわからん。それよりも……」

 

 何かに感づいた凛は、その場から飛び降りると英雄の元へと向かう。本陣にも連絡が届いていたのか、それぞれがすでに臨戦態勢をとっていた。

 

「上はおまかせしてもいいですか? 俺は真正面からくるのを叩くので」

 

「あずみにまかせる。凛も存分に暴れよ」

 

「了解しました。英雄様―☆」

 

 英雄は、用意された椅子に座ったまま命令すると、前方から上がる砂煙をじっと見据えた。そして、彼から命をうけたあずみは、すぐに迎撃体勢にはいる。心も退屈していたのか、相手の登場に嬉しそうに口を開いた。

 

「ようやく此方の出番じゃな。山猿よ、あの図体のでかいやつは此方が仕留める。良いな?」

 

 一番先頭に立った凛と心の目の前には、どっしりとした体格の女生徒――宇喜田秀美。西方十勇士の一人。お金が大好きで、頭が切れる――を先頭にして、天神館の生徒たちが攻め込んできていた。彼女は、自らの身長を優に超えるハンマーを軽々と振り回しながら突っ込んでくる。悠長におしゃべりしているときでもないが、彼は山猿という言葉に、さすがにムカッときたのか反論した。

 

「一応言っときますけど、夏目凛という名があります。山猿と呼ぶのなら、俺は……チンチクリンとでも呼ばせてもらっていいですか? 相手はお好きにどうぞ。大将に攻撃が届かなければ、それでいいので」

 

「な、なんじゃとーーー! 此方は不死川心じゃぞ。無礼者が!」

 

 心はムキーッとその場で地団駄を踏んだ。凛はそれを見て、少し溜飲を下げる。

 

「俺は夏目凛です。よろしくお願いします」

 

「自己紹介をしとるわけではないのじゃ! ふぅ……とりあえず、諍いはこれを片付けてからじゃの」

 

 心はそう言い残すと、何やら叫びながらハンマーを頭上で振り回す宇喜田に、正面から突っ込んでいった。そして、ハンマーが振り下ろされる前に、懐へと入り込みしっかりと服を掴み取る。

 

「ハイパーアーマーかなにかは知らんが、此方の柔道には関係ないのじゃーーー!」

 

 そのまま見事な背負い投げを披露する心。綺麗に決まった技に、うめき声をあげる宇喜田は立ち上がる様子もない。それを確認した彼女は、ドヤ顔で凛がいた後方を見やり自慢する。周りはそれなりに乱戦となっているが、関係ないようだ。

 

「いっぽーーん。見たか、山猿よ。華麗なる此方の……っていない!?」

 

 心が宇喜田に突っ込んだときには、凛はそれを追い抜いて、早々に後続の生徒を叩き潰しに出ていた。川神院の僧相手に100人組み手をこなした彼にとって、生徒の相手は難しいわけでもない。さらに、十勇士は彼女が相手にしていたので、特に苦戦することもなく、きっちりと相手を地面に沈める。

 そして、凛は周囲に残存する勢力ないことを確認すると、英雄の下にいき報告する。彼は依然腕を組み、腰を据えて座っていた。

 

「これで一応土産話にはなったかな?」

 

「20人近くを沈めておいて、呼吸一つ乱さんか。紋も喜ぶであろう」

 

「だといいけどな」

 

 英雄と話していると、少し離れた場所に飛来物が落ちてきた。それによって生じた煙が晴れると、水着姿のあずみが現れる。

 

「爆発で手をはなすようじゃ、まだまだだな鉢屋」

 

 どうやらあずみが天神館の一人――鉢屋壱助。西方十勇士の一人。流派は違うが、あずみと同じ忍。服装は忍者服で、顔まで黒い布で隠している――をしとめたようだった。英雄がそれを労う。

 

「ご苦労だったな、あずみ。水着も似合っているぞ」

 

「ありがとうございます英雄さまぁ☆」

 

 その言葉一つであずみは、幸せそうだった。その間にも、本陣には迎撃完了の報が届く。それを聞いていた3人のもとに、心がひょっこりと顔をだし、少しソワソワしながら喋りだした。

 

「此方も敵将を一人やったのじゃ。褒められてやっても良いのじゃぞ」

 

 直訳すると、「敵将一人倒したよ。褒めて褒めて」と言ったところだろう。英雄はひとつ頷くと心を褒める。それに続くあずみと凛。

 

「ふむ、相性がよかったな」

 

「すいません、私は見ていませんでした」

 

「運も実力のうちだと言いますし、よかったですね」

 

「おぬしら普通に褒めぬかぁーーー!」

 

 その言葉に、心は瞳を潤ませながら、走ってどこかに行ってしまった。それを落ち着いた様子で見送った英雄が、凛に声を掛ける。

 

「そろそろ戦いも終盤戦。凛はこのまま一子殿のところへ行け。ここでの役目はあずみがおれば十分だ」

 

「ふむ、まぁ確かに少し気になるし、行ってみようかな?」

 

 そして、近くの生徒から新たな情報を得た英雄は、負傷者たちの運ばれた場所へ向かう。彼に注目が集まったところで、力強く言葉を発した。

 

「聞け、負傷兵たちよ。戦況は、我らの勇者達によって膠着した。今こそ雪辱を期す好機ぞ。征ける者は征き、武勲をあげよ!」

 

 英雄の言葉に奮い立った生徒達から、次々と同調する声があがり、救護場所の空気が重苦しいものから一変した。その様子を見ていた凛が一人つぶやく。

 

「王の資質とでも言うのかな?」

 

「当たり前だ。英雄様はそうなるために生を授かったお方だ。九鬼の方々は、全員がその資質を受け継いでおられる。紋様に会ったお前なら、わかるんじゃないか?」

 

 いつの間にかメイド服に身を包んだあずみが、凛の独り言を拾った。生徒たちは続々と立ち上がり、戦場へと向かっていく。

 

「確かにそうですね。英雄も紋白もそれぞれ違った魅力を持っていて、素晴らしいと思います。クラウディオさんの言っていた通りです」

 

「認識したなら、これから粗相のないようにしろ」

 

「親しき中にも礼儀ありですからね。ですが、変な遠慮はしません。俺は一緒に笑って泣いて悩んだりしたいんです。それじゃあそろそろ行ってきます」

 

 あずみとの会話を打ち切り、凛は生徒たちの流れにまぎれ、その場から駆け出した。そして、集団から離れ一子のいる場所へ行く途中、工場の中でも一際高い場所――のさらに上の空高くで炎に包まれた人を蹴り飛ばす小雪を目撃する。彼女は冬馬とともに行動していたので、どうやらそちらにも天神館の生徒が攻めてきたようだった。蹴り飛ばされた生徒は、勢いよく海へと突っ込み、大きなしぶきをあげる。

 

「準に入れるローキックは見事だったが、これほどの脚力だったとは。小雪もなかなか侮れない相手だな。……だが、なぜ相手は燃えてるんだ? 口から火を吹くとかはゲームでみたことあったが、あんな技見たことないぞ。いや、川神流には自爆の技まであるっていうし、必殺の技かもしれないな。天神館もやるな」

 

 凛は一人納得し先を急ぐ。東西交流戦は、いよいよ佳境を迎えようとしていた。


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