真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

23 / 76
『歓迎会』

 歓迎会まであと数十分となり、多目的ホールにはぞくぞくと人が集まってきていた。その様子を満足そうに見ていた凛のもとに、準が近づいてくる。

 

「おおーいいねいいね。料理もうまそうじゃん。って、あのウエディングケーキみたいなケーキはなんなんだ? 凛」

 

「ちょっとばかり俺の本気を見せてしまった」

 

「えっあれお前が作ったの!? あの上にいる3人の人形は義経たちだよな?」

 

 真っ白なテーブルクロスのひかれた台座の上には、立派な三段重ねのケーキ。その周りには人だかりができており、みなが携帯をそのケーキの天辺へと向けている。そこには、二身頭になった砂糖菓子の人形たちがいた。中央の義経は刀を抜き正面に構え、その横に杯を持った弁慶が足を放り出して座っており、反対側に与一が顔に手をあて決めポーズをとっている。

 

「ああ。なかなかうまくいかなくて困った」

 

「いやいや。お前なんなの? お菓子職人だったのか? 俺でも写真撮っておきたいと思ったわ」

 

 呆れ顔の準。その後ろから小雪がひょっこり顔を出す。

 

「あれ可愛いよねー。僕も欲しい」

 

「照れるな。今度、3人のも作ってやろうか?」

 

「えー本当! 僕のも作ってくれるの?」

 

 その言葉に、小雪は凛に詰め寄った。その目はキラキラと輝いている。彼は、そんな彼女にマシュマロを与えて頷づいた。

 

「いいぞ。小雪は誕生日いつだ?」

 

「もぐもぐ……僕ね、7月1日だよ。もうすぐだよ!」

 

「そっか。なら、ウエディングケーキとまではいかないが、3人で食べれるケーキに砂糖菓子の人形のせて贈るよ」

 

「わぁ本当に? ましゅまろも?」

 

「もちろんだ」

 

「わぁーーい。リンリンありがとう♪」

 

 余程嬉しかったのか、凛に抱きついて喜びを示す小雪。その瞬間、背後で言い知れぬ圧力が増した。それに気づいて焦る彼を準が気遣ってくる。しかし、それは圧力に対してではなく、ケーキを作る労力のことについてだった。

 

「おいおい、いいのか? 暇とまでは言わないが、大変だろ?」

 

「なんでもかんでも引き受けてるわけじゃないからな。それに女の子を喜ばせるのは、紳士のたしなみだ」

 

「確かに女の子(※幼女)を喜ばせるのは紳士のたしなみだな。……まぁおまえさんが大丈夫だと言うなら、一つよろしく頼むわ。ユキは嬉しそうだしよ」

 

 準が見つめる先には、凛から離れた小雪が鼻歌を歌いながら、砂糖菓子の人形を見ているところだった。そして、ゴソゴソしていたかと思ったら、携帯を取り出し写真をとる。

 

「ああいう顔みるとやめられないんだ。まかせとけ。そういや……」

 

「私からもお礼を言わせてください、凛君」

 

 続きを話そうとした凛の前に、冬馬が突然現れ、彼の手を両手で包み込んできた。

 凛は、察知をすり抜けてきた冬馬に驚きながら、努めて冷静に返事する。

 

「おお、どういたしまして。……葵わかったから、手離してくれ。……絡めるな!」

 

「それより、いつの間に準のことを名前で? 私は今も苗字のままですが……ねぇ凛君」

 

 少しずつ顔の距離を縮める冬馬。

 

「いやなんか準が名前でいい……て顔が近い! 葵! 顔がちか……冬馬! 離れてください冬馬君!」

 

「ふふ、つれないですね。まぁ今回は名前を呼んでくれただけでも進展がありました」

 

 そう言うと、冬馬は名残惜しそうに、凛からゆっくりと離れていく。目の前の難敵に集中していた彼は知らない。2人が絡んでいた間、肉食獣のように目を光らせ、その光景を網膜に焼き付けていた集団の視線があったことを。

 準はそんな2人の絡みを笑って流す。

 

「凛も若にだいぶ気に入られたな。よかったじゃん。だがな! そっちの気があった場合、ロリコニアへの入国はできないものと知れ!」

 

「俺はノーマルだ! そして誰も入国するとは言ってない!」

 

 ウロウロしていた小雪も戻ってくる。

 

「なに話してるのー? ぼくもいーれーて」

 

「小雪ダメだ! ロリコンの言葉は耳に毒だ! 聞いちゃダメ!」

 

 みなが談笑している中、時計の針はどんどん進む。しかし、肝心の主賓は未だに姿がなかった。

 

「みんなあと10分ある。もう少し待っていよう」

 

 主賓がいないことにざわつく生徒たちに対して、クリスが呼びかける。凛は端のほうで、じっと主賓が3人揃って集まるのを待っていた。

 ――――間に合うか?これで来なかったら、義経たちの印象は最悪なものになる。与一と大和が一緒にいるのはわかるが……。

 自然と組んでいた腕に力が入る。

 

「心配するな。直江が行っているのであろう? 信じてやれ凛」

 

 そこに、紋白がいつもの柔らかな笑顔を浮かべ、凛のところにやってきた。

 

「紋白……」

 

「珍しく肩に力が入ってるのが見えたからな。おまえが信じてやらんで、誰が直江を信じてやるのだ?」

 

「……そう、だな。……ふぅ。あと5分あるし大丈夫だよな。それにしても、紋白は落ち着いてるな」

 

 凛は大きく伸びをしながら、深呼吸をした。

 

「フハハこの程度で動じる我ではないぞ。しかし、凛も人並みに緊張したりするのだな」

 

「当たり前だ。それから紋白、今回の歓迎会が開催できるのは……」

 

「わかっている。直江の力が大きかったことだな。もちろんクリスが手伝ってくれたことも忘れてはいない。直江自身もおもしろい人材だとわかった。今回のことに報いるのはもちろんとして、あとでしっかり勧誘もするつもりだぞ」

 

 紋白は、きっぱり言い切ると満足そうに笑う。彼女は、新しい人材を発掘できたことが嬉しいようだった。凛もその言葉を聞いて安心するとともに、ちょうどそのとき入り口に現れた生徒を確認し、ようやく笑みをこぼした。

 

「そうか。…………噂をすれば、本人の登場だ」

 

「さて、ここからは学生らしく楽しもうではないか!」

 

 会場の入り口に、与一を加えた義経たちと大和が姿を現した。準備を整えた生徒たちも、主賓が無事到着したことに安堵している。

 しかし、凛には一つ疑問があった。それは、与一の説得をどうやったのかというものだった。主賓の到着が遅れたのは、彼が突然出席しないと言い出したことが発端であり、それを大和が説得に行くと名乗りでたのである。彼の性格上、普通の説得では首を縦にふることはない。それを見事にやってのけたのが大和だった。

 ――――どうやって与一を説得したんだ?大和は、クラウディオさんのような高度な交渉術でも心得があるのか?あとで、教えてもらおう。

 壇上では、主賓全員が並んで立っている。両サイドには花も飾られ、背後には、彦一が書いた『義経 弁慶 与一 聖誕祭』の文字が掲げられ、金屏風も主賓を目立たせていた。全学年から集まった生徒たちが、壇上にいる彼らに注目する。

 そんな中、満面の笑みをした義経が一歩前に進み、みなを見渡してから口を開く。

 

「今日は義経達のためにありがとう。――――」

 

 義経の言葉を皮切りに、歓迎会が始まった。壇上の横に待機していた凛の手元にはカメラ。彼はイベントが行われるとき、必ずカメラを持参するようにしているのだった。他にも、育郎や写真部の生徒が、学校で販売するようにカメラを持っている。そして、彼らの最初の1枚は、もちろん壇上の主賓の姿である。嬉しそうな義経とすでに川神水を飲んでご機嫌の弁慶、そして少しテレのある与一。

 

「……よろしくな」

 

「へいへーい、与一照れがあるぞ」

 

 準から場を温める言葉が飛び、会場に笑いが起こった。

 そして、次に紋白が力を貸してくれた人への感謝の言葉を述べる。凛は彼女の堂々とした姿を写真に残した。今日来られなかった英雄にも見せるためだ。

 和やかに進む歓迎会の中、凛はまず主賓に話しかける。

 

「義経、弁慶、与一。ようこそ川神学園へ。そして誕生日おめでとう」

 

「ありがとう凛。義経は感激した。それに聞いたぞ! このケーキは凛の手作りだそうだな。この小さな義経はよくできているから、食べるのがもったいない。どうしよう?」

 

 義経はそう言うと、皿の上のケーキと一緒に置かれた義経人形を見ながら唸る。そんな彼女をパシャリ。彼女は、撮影されたことにも少し慌てるがもう遅い。

 そこへ弁慶が輪に加わってくる。

 

「こんな風に食べてあげればいいんだよ義経。砂糖でできているんだし」

 

 弁慶は喋り終えるやいなや、遠慮なく与一人形の頭の部分だけを食べた。意図的に作り出された首なしの与一人形。そんな彼女も記念に撮影。首なし人形を持ち、上機嫌でピースをする1枚。

 そして、与一がそれに気づいた。

 

「あ、姉御! なんで俺のを食べる!? じゃあ俺が姉御の人形をって……いででで」

 

 お返しに弁慶人形を食べようとする与一だったが、弁慶に腕をひねられ身動きがとれなかった。加えて、いつかの如く体が浮き上がっている。おもしろいので、凛はそれもカメラに収めた。

 その後、少し会話をして場を離れる。凛が離れた後も、義経たちにはひっきりなしにお祝いの言葉がかけられていた。彼らと別れ、会場をブラブラしていると、聞きなれた声が掛けられる。

 

「おー凛。いいところに来た。清楚ちゃんと燕入れて、一枚撮ってくれ。それであとで焼き増し頼む」

 

 反射的に、声のする方を向く凛。その目に映ったのは、会場に飾られた花など霞むほど華やかな光景だった。百代に燕、清楚と3年生の綺麗どころが揃っていたのだ。

 

「凛ちゃん準備いいねー。私にもよろしくねん」

 

 燕は軽くウィンクを飛ばし、清楚は遠慮がちにお願いする。

 

「私もいいかな? 夏目くん」

 

「わかりました。それじゃ……はいチーズ」

 

 凛がお姉様たちの頼みを断るはずもなく、素早くカメラを構えシャッターを切った。百代が中央、清楚が右、燕が左で、中央の彼女が左右の2人を抱き寄せる1枚。それぞれが違ったタイプのお姉様だということが、並べて比べるとよくわかった。彼が画像をチェックして頷いていると、そこに嬉しいお誘いがかかる。

 

「それじゃ凛ちゃんも入れて、一枚撮ろっか」

 

 燕の一言である。導かれるがまま、凛は中央へと移動する。百代は、定位置と化している彼の背中へくっつき、彼の胸の前で腕を交差させてくる。

 

「おいおい。年上の美人なお姉さんに囲まれるなんて、幸せものだなお前は」

 

「全くです。今日カメラを持ってきた自分を褒めてやります。よくやった俺」

 

 百代も写りやすいように、凛は少しかがんだ。燕の陽気な声が耳元をくすぐり、逆の耳には、清楚の穏やかな声が聞こえる。

 

「イェーイ。ほら凛ちゃんもピースピース」

 

「みんなカメラ向いてるよ」

 

 ――――義経たちには申し訳ないが、今日一番の写真が撮れてしまった。最高です!

 美人なお姉様方に囲まれての最高の1枚。両手に燕と清楚という美しい花。中腰になった凛に後ろから抱きつく百代。このときばかりは、周りの反応など気にしていられない彼であった。

 束の間ではあったが、幸せな時間を堪能した凛は、目的を果たすため再度動き出す。

 

「次は、清楚先輩と京極先輩並んでください」

 

 4人のすぐ近くで、他の女生徒と談笑していた彦一が振り向く。

 

「ん? 俺の写真も撮るのか?」

 

「当たり前です。さぁさぁ」

 

 清楚と彦一の2ショット。美男美女の2人は存在感がある上、清らかな雰囲気がそのままにじみ出るような写真になった。

 

「そして、私と凛の2ショットも激写だ!」

 

 画像を確認していると、百代が凛からカメラを強奪しシャッターを切った。カメラを目で追う凛といたずらっぽい笑顔の彼女の2ショットが撮れる。

 百代は画像を確認すると、凛にカメラを返した。

 

「これもあとで頼むぞ」

 

「はいはい。燕姉と清楚先輩、京極先輩にも写真できたら渡しますね。あとエレガンテ・クワットロが揃ったのも狙いますから、京極先輩は覚悟しといてください」

 

 思わぬ収穫のあった3年生グループから離れ、次にどこへ行こうか悩んでいた凛は、珍しい組み合わせを発見し、即座にカメラを構える。

 

「与一と矢場先輩の2ショットも一枚!」

 

 驚き顔の与一と不意をついたはずなのに、彼との距離を詰めた笑顔の弓子という写真が撮れた。どうやら彼女が弓道部に勧誘していたらしい。凛は、取り込み中の2人の傍をあとにしようとするが、急に腕をとられる。振り向くと、そこには彼女が真剣な表情で立っており、「写真お願いね」と笑顔だが、有無を言わさないお願いをされるのだった。

 続いては、一際賑やかなグループのところへ足を運ぶ。

 

「歓迎会は無事開催できた。ファミリーみんなのおかげだ。ありがとう! ということで一枚!」

 

 2年のファミリーが一緒にいるところを撮影。岳人はしっかりマッスルポーズを決め、一子は食べ物に夢中。京は大和の腕を抱き、大和はそんな京に苦笑しながら忠勝を引っ張り込み、翔一とクリスはピースサイン、卓也はびっくり顔の賑やかな1枚。

 そして、凛が画像を確認していると、またもやカメラを強奪される。その犯人は忠勝だった。

 

「凛も入っていけ」

 

「おまえもその一員だろ!」

 

 忠勝、岳人の一言に凛は察し、食事に夢中の一子をみんなで抱き寄せて撮る。彼女の慌てる姿が可愛い写真となった。

 次に、近くにいた2-Fの仲良しの3人組――真与と千花、羽黒をフレームに収める。

 

「お嬢さんたち記念に一枚」

 

 3人は食事を、もっと詳しく言えばデザートを食べていた。スプーンを銜えた真与、最も可愛く見える顔を作った千花、羽黒の白い歯がキラリと煌くそんな1枚となる。凛は彼女らにもあとで焼き増しをする約束を交わして、その場をあとにした。

 

「クマチャンの勇姿も一枚」

 

 次に向かった場所は、いい香りを会場に振りまく満のところ。空腹を刺激する匂いの理由は、彼がみんなの目の前で調理をしていたからだった。物珍しさに多くの人だかりができている。彼を中心にして、そこにいた生徒たちが写りに入り、ノリよくピースしている子も多かった。凛は、ついでに彼のできたて料理を頂く。そして、口いっぱいにほおばったまま、ビシッと親指を上げた。料理を平らげると、また移動する。

 

「なにがあった。ヨンパチ、スグル」

 

 次に出会ったのは、なにやら悶絶する育郎とスグル。凛は、心配しながらも一応撮影しておく。梅子の後姿が近くにあったこと、育郎の恍惚とした表情から、何があったかは大体把握できた。2人を放置して次へ向かう。

 

「まゆっち、伊予ちゃん、料理お疲れさん」

 

 2人で仲良く食べているところを1枚。不意打ちのそれは、由紀江の表情が強張る前のいい笑顔という奇跡の1枚となった。その後、凛も含めて3人で撮ったものは、やはり彼女の顔は強張っていた。

 

「冬馬、準、小雪こっちを向け。はいチーズ!?」

 

 続いては、和やかに食事していた2-Sの3人組にカメラを向ける。冬馬は微笑み、小雪は凛が撮影しているのに気がつき、マシュマロを持って接近、それに準が焦る。3人の関係がよく表れている一枚が撮れた。加えて、彼女がそのまま凛の腕に抱きつき、逆サイドで冬馬に腰を抱かれた写真も撮られる。

 

「夏目、此方を写すことを許してやってもよいぞ?」

 

 そこに心が現れた。凛への態度が軟化しているのは、京都にある夏目家がそれなりの名家だと知ったからである。着物の袖で口元を隠しながら優雅に笑う彼女に、彼はカメラを向けた。

 

「それじゃあ一枚」

 

 心はポーズもしっかり決まっており、あとはシャッターを切るのみだったが、そこに白い物体が写りこむ。

 

「僕も入る入るー♪」

 

「にょわ、此方の美しき一枚が!」

 

「不死川さん小雪。はいチーズ」

 

 小雪の勢いある抱きつきに、ポーズを崩された涙目の心という写真になった。「もう一枚!」とせがむ彼女だったが、次の写真も同じようなものとなり、怒った彼女が小雪を追いかけ始める。しかし、小雪は突如始まった鬼ごっこに喜んで逃げだした。凛はそんな2人を見送り、次の被写体を探すため周りを見渡す。

 

「マルギッテさん、クリスのお世話お疲れ様です。はいチーズ!」

 

 マルギッテはケーキをよそい、クリスは口元にクリームをつけている1枚。凛は、画像を確認する彼女と焼き増しの約束を交わすも、焼き増ししたあとはすぐにデータを消すよう脅される。あまりに力説されるため、彼はコクコクと勢いよく頷づいた。その後は話が長くなりそうだったため、注意がそれた瞬間に、気配を消してその場を離れる。

 

「なかなか盛況だな。紋白、そして武蔵、こっち向け」

 

 続いては、様子を見回っていた紋白とお付きの人と化した武蔵の一枚。

 

「凛も入れ。兄上たちにも見せてやりたい」

 

 その一言に、紋白と会場の賑やかな様子をバックに一枚撮る。そしてもう1枚――凛が彼女を抱き上げた瞬間の写真。突然のことに、彼女のびっくりした顔が撮れる。降ろす途中に彼女は彼の頬をつねるが、その顔は楽しそうに笑っていた。

 生徒を一通り取り終えた凛は、次に大人たちのところへ向かう。

 

「学長、そしてヒュームさん。ルー先生も記念に一枚」

 

 のんびり川神水を飲みながら、会場の様子を伺う壁を超えた者の一枚。ただそこに立っている写真にも関わらず、独特のオーラを感じさせるのはさすがの一言だった。

 

「小島先生、ヒゲ先生。申請の件、大和から聞きました。ありがとうございました」

 

 ちょうど2人でいるところを撮った。川神水の入ったグラスを片手に、会話を交わしているという親密に見えなくもない1枚。勝手な撮影に梅子からは少し小言をもらうが、巨人からはお褒めの言葉をもらい、「あとで焼き増し頼む」と言って去っていった。

 あとはそう親しくもない先生のため、凛は撮影を自粛し、生徒のほうへと戻る。

 

「まさか実現するとは! エレガンテ・クワットロそろい踏み!」

 

 戻って最初の1枚は、嫌がる忠勝を何とか誘いだしての学園が誇る男前4人衆だった。落ち着いた雰囲気の彦一に、人を虜にする笑顔の冬馬、きつい眼差しが男らしい忠勝、子供のような笑顔でピースする翔一。下手なアイドルグループよりも雰囲気のある4人の集合に、凛以外にも女子生徒が一斉に写メをとっていた。

 そして、写真を撮り終えその場から離れようとした凛だったが、後ろにいた生徒に背中を押され、その4人グループの中へ入れられてしまう。その瞬間、またも写メの嵐となる。そこから抜け出そうにも、忠勝と翔一がそれを許さなかった。結局嵐が通り過ぎるのを待ち、付き合ってくれた彼らに礼を言ってまた移動する。

 

「ゲイツ先生、ゲイル先生、写真1枚いいですか?」

 

 世界的にも有名なカラカル兄弟の写真。凛はまだ親しくないが、ノリが良さそうなのでお願いする。予想通り、快く承諾してくれる2人。兄のゲイルは豪快に彼に肩組みをし、弟のゲイツは眼鏡の位置を直すとキメ顔で写真に臨む。写真を撮り終えたあと、ゲイツが名言をひとつ彼に送ってくれた。

 その後も凛は、写真を撮りまくる。義経と一子や京と小雪の2ショットに始まり、忠勝と大和、凛のトリオ。腕相撲を挑み瞬殺された岳人とガッツポーズの弁慶。燕にいじられる大和。壁にもたれて一人たそがれる与一。仁王立ちの紋白と感極まった様子の準。凛の持つ杯に、お礼にと川神水を注ぐ主従コンビ。超ローアングルから獲物を狙う育郎と背後から伸びる鞭。清楚と同じ写真に写ろうとする男子生徒数10人。彦一と扇子を開いてキメ顔を作る凛。余裕の岳人、笑顔の翔一、焦る卓也の肩車で作られたトーテムポール。それを真似して、凛の背中におぶさる百代とその上におぶさる一子。これら以外にも、まだまだたくさんの写真を撮った。

 そして、賑やかだった歓迎会も終わりのときを迎える。最後に参加した全員を入れて、集合写真をとることになった。壇上に並でいく参加者たち。

 写真部の部長が、高そうなカメラを設置し指示を送る。

 

「みんなもっとつめてつめて。あ、前の人もう少し腰を落として。――――」

 

 部長は何度か調整を繰り返したあと、撮影ボタンを押し、あらかじめ空けてあった位置へ走った。

 

「5秒前! ……それじゃあ12345-12343はー?」

 

 その掛け声に多くの生徒が答えをあげた。最後に笑顔で溢れた写真が、カメラに収められる。

 歓迎会と誕生会が合わさったこのイベントは、大成功に終わる。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。