真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

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『久信参上!ロリとJKと年上』

 放課後になり、凛と大和は下校しようと下駄箱へ向かう途中だった。

 

「いやー人間の頭って案外メキッといけるな」

 

 凛は自分の手を開いたり閉じたりして、何かの感覚を確かめた。その隣で大和がギョッとする。

 

「何物騒なこと言ってるんだ? まさか井上を……」

 

「ちょっとな。ちょっとだけだ。……うん、ちょっとだけ」

 

「なんで三回も繰り返す。そういえば、今まで井上を見ていない気が……」

 

 そして、ちょうど1階に下りたところで2人に声がかかる。

 

「そこの君たち、ちょっといいかい? ……て、凛くん!」

 

 そこには薄いブルーのツナギを来た男性――松永久信がいた。凛は彼の姿を確認して、笑顔で話しかける。

 

「おお、久信さん! お元気でしたか? それにしてもお久しぶりですね。燕姉が来てるから、一度挨拶に行こうと思ってたんですけど、またお会いできて嬉しいです」

 

 2人はがっちりと握手を交わす。久信は、苗字からもわかるとおり、燕の父親である。

 

「もう元気元気。凛くんが川神行くって聞いたときは、燕ちゃんも僕も寂しく思ったもんだけど、またこうして会えてよかったよ。ところで、そちらはお友達かい?」

 

「紹介します。俺が川神に来て、一番お世話になった直江大和くん」

 

 凛は、少し置いてけぼりにされていた大和を隣に並ばせた。紹介された彼が一礼して口を開く。

 

「直江大和です。凛くんにはお世話になってます」

 

「んで、こちらが松永久信さん。燕姉の父親だ」

 

 続いて、凛は久信に手のひらを向けて、大和に紹介した。

 久信が人懐こい笑顔で、自分の手を差し出す。

 

「よろしくね。凛くんもちゃんと友達作れてるみたいで安心したよ。これからも仲良くしてあげてね」

 

 大和は、その手をとって握手を交わした。互いの自己紹介が終わったところで、凛が久信に用件を尋ねる。

 

「ところでどうしたんですか? 学校に来るなんて……まさか! JKに目覚めた!?」

 

「凛くん……今ここに初対面の人がいるの忘れてない? いや、だからってJKを否定はしないけどね。じゃなくて、用事ついでに燕ちゃんに伝えたいことあって来たの!」

 

 久信は、昔と変わらない凛の態度に安心しながらも、平気で爆弾を放り込んでくることに少し恐怖する。面識のない人が聞いていれば、自分の評判に関るからだ。

 久信の言葉に納得した凛は、大和に了承を取り付け、燕のところへの案内を買って出る。

 

「あーそうだったんですか。じゃあ案内しますよ。ちなみに、川神の子たちはレベル高いですよ」

 

「みたいだねー。ここに来る途中も下校中の子たち見かけたよ。まぁ燕ちゃんには敵わないけどね」

 

 久信は勝ち誇った顔でそう告げた。

 

「でました親馬鹿。まぁ燕姉が可愛いのは間違いないけど」

 

「そうだろう。凛くんがお婿さんに来てくれたら、楽しくやっていけると思うんだけどなー」

 

「またそんなこと言って……って、いましたよ」

 

 2階に上がって廊下にでると、凛の指差す先に百代と燕が歩いていた。彼女らも凛たちに気づいたようで、燕は父親がいるからか少し小走りで寄ってくる。

 

「おとん。こんなとこで何してんの?」

 

「JK探し。ついでに燕姉に伝言だって」

 

 凛の一言に、燕がピシッと固まる。大和は少し呆れているようだった。それとは対照的に、目に見えて慌て始めたのが久信。

 

「ちょっと! 凛くん! そういう冗談、燕ちゃんにはダメだって! 燕ちゃん冗談だよ。凛くんが勝手に言ってるだけだから」

 

「……ボディに3発打ち込むとこだったよ。ふぅ危ない危ない」

 

 燕は構えをときながらも、若干鋭い目をしたままだった。久信が、凛の背中の隠れながら頼みこむ。

 

「僕の体は凛くんの言葉にかかってる! ちゃんと言って!」

 

「久しぶりに久信さんにあってテンションあがった。今のは冗談。なんか用事のついでに、燕姉に伝えたいことがあって来たんだって」

 

「そういうことだよ。わかってくれたかい?」

 

「わかったから、凛ちゃんの背中から出てきなさい」

 

 久信は、ボディブローの心配がなくなったことに安堵しながら、凛の背中からでてきた。ようやくひと段落ついたところに、燕の隣に来た百代が問いかける。

 

「燕。この人は……」

 

「あっごめんね。一応ウチのオトンということになってる人」

 

「何気にひどい言い方だな。ただ僕は株に失敗して、山ほどの借金をこさえてしまい、連れ合いに逃げられただけじゃないか」

 

「ボケが重過ぎてどう反応すればいいんだ」

 

 百代は言葉が見つからないようだった。凛の隣にいる大和も、なんと言っていいのかわからない様子で黙って見守っている。

 そんな2人に、燕があっけらかんと笑いながら喋りだす。

 

「もはや自虐ネタだから、笑っていいよん」

 

「ていうか、もう笑うしかないよねハハハ」

 

 そう言って、誰よりも早く笑い出した久信。

 

「おとんは笑わないでくれる?」

 

「ご、ごめんなさい。なんていうか反省してます」

 

 燕は、久信に冷たい視線で釘をさした。それを和ますように、凛が明るい声で仲裁に入る。

 

「まぁまぁ笑えるネタになってよかったよ」

 

「だよね。それになんだかんだ言って、それでもおとんだから、燕ちゃん僕のこと好きなんだよね」

 

 そしてまた笑い出す久信。

 

「自分で言ってどうするんです? 久信さん」

 

 楽しそうにスキンシップをとる燕と久信を見て、凛がつぶやいた。

 それからようやく本題へ入る。どうやら、久信はこれからスポンサーのところへ行くため、晩御飯を作ることができないことを伝えに来たらしい。それに対して「自分の事よりスポンサーに失礼がないように」と燕が注意する。彼はそれにいい返事を返し、去っていった。

 久信の去っていく姿を見送ったあと、百代が残念そうな声をだす。

 

「実は強いとかも無さそうな父君だな」

 

「モモ先輩、久信さんとも戦うつもりだったんですか? 本当にひとひねりで終わりますから」

 

 凛の言葉に、燕がカラカラと笑う。

 

「懐かしいねぇ。凛ちゃんが初めて家にきたとき、おとんがいい格好見せようとして腕相撲挑んだことがあったね。結果、瞬殺。凛ちゃんの方がとまどってたっけ?」

 

「あまりにも久信さんが自信満々でくるから、こっちも熱くなっちゃって、全力でいったんだけどね。手の甲を思い切り叩きつけることになって、久信さん悶絶。あれは焦った」

 

 燕の昔話に、凛も当時を思い出して頬をゆるめた。その話を聞いた百代が、目の前にいる男2人を交互に見る。

 

「まぁ今でさえ、拳を交えないと強さがよくわからない凛だからな。父君の気持ちもわかる。男って見栄っ張りだしな」

 

「そんなことないよなー大和」

 

「そんなことないよなー凛」

 

 指摘された2人は、顔を見合わせお互いに擁護しあう。その様子を微笑ましく見守る燕。

 

「あらあら仲良しだこと」

 

 そんな燕に、百代が軽く声をかける。

 

「とりあえず燕は今夜ウチで食事してくといい。稽古が終わったらそのままな」

 

「えっいいの?」

 

「来いよ。遠慮するな」

 

「……やだ、かっこいい。うん」

 

 男前な台詞で誘う百代とそれに答える燕。その横で凛が、大和に背を向けブツブツ言っていた。

 それに気づいた大和が彼に問いかける。

 

「凛は何してるんだ?」

 

「――――いよ。遠慮するな……いや、いざというとき自然に言えないとダメだろ? だから練習」

 

「わざわざ練習するものでもないだろ。というか誰でも彼でも試すなよ。凛がやるとシャレですまなくなる」

 

「それより大和、モモ先輩が興奮してる」

 

 そして、少し目を離した隙に、年上2人の会話も盛り上がっていた。どうやら、百代が燕に泊まっていかないかと提案しているようだった。そんな彼女は息を荒くし、少し興奮している。その様は、まるで男が平静を装いながら、なんとか家にあげようとしているようだった。

 会話の内容が聞こえた大和が、いつもの調子でツッコむ。

 

「先っぽだけって親父か!」

 

「先っぽって指か? 指しかないよな? ……えっ舌!?」

 

「生々しいなオイ! あと俺にしつこく聞いてくるな。って姉さんたちに直接聞きにいくな!」

 

 大和はあっちこっちへツッコミを入れ、凛が移動しようとすると首根っこを捕まえてそれを止めた。すると、Sッ気のある笑顔をした彼が振りむく。

 

「いやこのネタでモモ先輩いじるのも楽しそうじゃない? ちょっと深いところまでお話を。大和も嫌いなわけじゃないだろ?」

 

「そりゃそうだけど。燕先輩もいるだろ?」

 

「ん? それなら大丈夫。燕姉はああ見えひぇ……いひゃい」

 

 凛が燕のことを話そうとすると、彼の頬がみょーんと左右に引っ張られた。彼が正面に向き直ると、目の前にいい笑顔の燕が立っていた。上下左右+回転を加えられながら、彼の頬が引っ張られる。

 

「何を言おうとしてるのかな? 凛ちゃんは」

 

「べひゅににゃにも。ひゅばめ姉はおひとやかな人だと」

 

「そうだね。何を言い出すのかと思ったよ」

 

 笑顔を崩さない燕は、そう言いながらも凛の頬を引っ張り続けた。それを見ていた百代は、大和に静かに近寄り、両手を伸ばす。しかし、それに気づいた彼は、その両手を掻い潜って避けた。

 

「ちょっと姉さん! 対抗してやろうとしないでいいから!」

 

「やらせろ。やらせろ。やらせろー」

 

 百代の突きと見まがうばかりの速さに、大和はついていく。姉弟の軽い(?)バトルの横で、それをほのぼのと見守るもう一組の姉弟。しかし、頬は引っ張られたままであった。

 

「にゃんかしゅごいシェリフが……ひゅばめ姉、ひょろひょろ離して」

 

「ん? あぁごめんごめん。あまりにもモチモチしてから、離すのがもったいなくなっちゃって。ほーれほれ」

 

 凛の頬で遊ぶ燕だったが、百代から催促の声がかかる。どうやら大和は断固として抵抗し、諦めさせたようだ。

 

「燕! 凛で遊んでないで、稽古しに行くぞ!」

 

「りょーかい! 許可も下りたし川神院へゴー!」

 

 燕はその声に答え凛の頭を一撫ですると、ヒラリと身を翻し、百代と廊下の角へと姿を消した。そして残される弟分たち。

 大和が凛の肩を叩く。

 

「お互い苦労するな」

 

「可愛がられるうちが華ってな。楽しもうぜ!」

 

 疲れの見える大和とは反対に、凛は元気いっぱいに答えた。そんな彼らのところへお経が聞こえてくる。

 

「色即是空空即是色。――――」

 

 凛がその声のするほうを向く。

 

「これ前にも言ったが、なぜお経?」

 

「年上に憑かれていたおまえら二人の菩提を弔っていた」

 

 その正体は――いや、もう言わなくてもわかるだろう。スキンヘッドが夕日を受け、廊下をさらに赤く染め上げた。そんな中、ロリコンの言葉に凛が珍しく噛み付く。

 

「準にはわからんのか!? お姉様たちの良さが! あの魅力が!」

 

「凛こそロリコニアが待ってるんだぞ! 紋様がお待ちだぞ!」

 

「あほ! そんなところで紋白が待つわけないだろう!」

 

「待ってるんだよ! 2-Fの委員長とともにな!」

 

 カッと目を見開き、両手を広げる準。そのポーズは、まるで歓迎すると言わんばかりだった。すぐさま、凛はその両手を下げさせる。

 

「なに勝手に人のクラスの委員長まで連れ去ってんだ!」

 

「連れ去ってなどいない。紋様、委員長がいる場所こそがロリコニアの聖域なのだ! オールハイル紋様! オールハイル委員長!」

 

 しかし、準は諦めず片手を胸にあて、紋白と真与への敬意を示す。その表情はいつにもまして真剣だった。

 

「今知ったわ! 意外とすぐ近くにあるのな! しかも聖域って言う割にすぐに入れてるな!」

 

「馬鹿野郎!! 心にそんな簡単に入れるわけがないだろう!」

 

 準が、廊下に響き渡るほどの声で喝を入れる。

 

「えっ心の中にあるのか、その聖域。確かに聖域と呼べるかもしれん」

 

「凛。なんか井上の勢いに納得しかかってるぞ。というか、井上も無事そうで安心したわ」

 

 無駄な言い争いを繰り広げる二人に、様子を見ていた大和が割ってはいる。この調子ではいつまで続くか分からない上、凛が準に洗脳される危険性があったからだ。それまで熱くなっていた彼らだが、大和の声で冷静になっていく。

 

「おっと少し熱くなってしまったな。おかげさんで俺は無事だ。まぁ頭の中にメキッという音が響いたが、問題ない」

 

 大和が一応確認する。

 

「それが一番問題あるだろ」

 

「それよりも紋様にお会いしに行かなければ。幸せだ……ふふふ」

 

「ほんとにどうでもいいんだな」

 

 冷静になった準は、当初の目的を思い出し嬉しそうに、2人のもとを離れていった。

 凛がその後ろ姿を見て忠告する。

 

「紋白に変なことするなよ。あとスキップやめろーなんか怖いぞー」

 

 しかし、準はそのままスキップしながら、1年の教室がある方角へと向かっていく。凛の声が彼の耳に届いたのか怪しいものだった。そして、2人もここに留まる理由がなくなったため、また下駄箱を目指す。人がいなくなった廊下は、ようやく放課後の静けさを取り戻した。

 一方、弟たちと別れた姉2人――百代と燕は川神院を目指し、へんたい橋を渡っていた。その途中、2人組の変態がまるで示し合わせたかのように現れたが、一人は空へ、もう一人は川へと消えていった。川に落とされた方は、九鬼の従者が連行したようだが、空へ消えた方はその後どうなったかわからない。

 多少憂さ晴らしができた百代が、燕に話しかける。

 

「燕と凛って本当に仲いいんだな」

 

「ん? そう見える?」

 

 燕は百代の前に立ち、後ろ歩きをしながら首をかしげる。

 

「あんなじゃれあい見せておきながら、『そう見える?』はないだろ」

 

「あはは。凛ちゃんとは中学からの付き合いだから、一応4年間くらいになるのかな? 一緒にいたからね。仲もよくなるよ。モモちゃんにも見せてあげたかったなぁ中学1年の凛ちゃん♪」

 

「それは興味あるな。写真とかないのか? 代わりに大和の小学生の写真を見せる」

 

「んーあったかな? ちょっち探してみるね。大和君のも見てみたいし。今でも可愛いから、幼い頃はもっとプリティだろうね」

 

 ニコニコしながら燕は答えた。そんな彼女に、百代が気になっていることを問う。

 

「なんだか、燕はやけに大和にご執心だな」

 

「私は好奇心旺盛だからね。それに、それ言ったらモモちゃんも同じじゃない? 凛ちゃんのこと気に入ってるみたいだし。……でも、あの2人ってなんかかまいたくなっちゃうんだよね」

 

「まぁな。凛については、私の相手ができる奴が現れたんだ。気にもなるさ。多少生意気だが、そういう部分もおもしろい。」

 

 燕は百代の言葉にピンときたのか、人差し指を立てて、くるくる回しながら話し出した。

 

「その点、大和くんは従順だよね。あれ? なんか犬と猫みたいな感じじゃない? 大和くんと凛ちゃん」

 

「ん? 言われてみると確かにそうかもな。でも凛の場合は猫というか虎? 猫なんて可愛らしい力の持ち主じゃないぞ」

 

 燕の思いつきに2人をイメージする百代だったが、戦闘に直結した思考は、あの力で猫はないと結論をだす。それに比べて大和はチワワあるいは、生まれたての子犬だった。

 その答えを聞いて、燕は声を出して笑い出す。

 

「あははは。そうだね。でも寝てるとこれがなかなか可愛いよ、凛ちゃんは」

 

「あいつのそんな姿見たことないな。大和の姿は結構あるが」

 

「寝てるときは猫みたいだよ。無性にイタズラしたくなるんだけど。これがまた防御がかたいのなんの」

 

「へぇこれから時間はあるから、そんな機会もあるだろ。それより燕、もう着くぞ。覚悟はいいか?」

 

「もちのろんだよ。学校での続きといこうか」

 

 燕はやる気満々といった感じだった。そんな彼女を百代はしばしぼーっと見ていた。いや、実際はほかの事に意識をとられていて、ただ視界の中に彼女がいただけだ。

 返事がないのを変に思った燕が、百代の顔の前で手をひらひらさせる。

 

「モモちゃん? どうしたの? ぼーっとしちゃって」

 

「ん? ああ悪い悪い。燕は可愛いなと思って」

 

「私を褒めても納豆くらいしか出てこないよ。食べる?」

 

 燕はニヤリと笑いながら、腰の装備からカップ納豆をとりだした。百代はずっと武器だと思っていたところから、取り出されるそれを見て驚くとともに破顔する。

 

「燕の納豆はうまいからな。でもそれは鍛錬が終わった後にもらうとして、まずは……燕自身から味あわせてもらおうか」

 

「ふふっ。こう見えても歯ごたえあるから気をつけてね」

 

 2人は仲良く川神院へと入っていった。

 

「来いよ。遠慮するな」

 

「まだ練習してるのか? もう十分だろ。というかその台詞気に入ってる?」

 

 学園を出た凛たちは、帰り道をゆったり歩いていた。今日もまた穏やかに1日が過ぎていく。

 


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