真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

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『合縁奇縁』

 そして放課後、場所は2-Fの教室前。凛は大和の人材紹介のため、紋白、ヒュームと一緒にいた。教室には、まだ生徒たちがちらほらと残っており、これからの時間をどう過ごすが話し合っているようだった。

 大和が一つ咳払いをして話し出す。

 

「それでは早速人材の話ですが……」

 

「「「ふむふむ」」」

 

 大和が口を開くと、紋白はそれを聞くために近づき、それと同時にヒュームが彼女の横に行くために同じ行動をとった。そして、凛はなんだか楽しそうなので、それに合わせて彼に続く。

 3人――特にヒュームの接近に、大和が後ずさった。

 

「……あのヒュームさん、できましたら……その、もう少しですね、離れていただけるとありがたいです。それから凛! おまえは分かって近づいてきてるだろ!」

 

 紋白が楽しげに笑う。

 

「フハハ。ヒュームの威圧感はいるだけですごいからな」

 

「では、そこで一度空中に向かって全力でパンチしてみろ」

 

 ヒュームが紋白から離れる前に大和に命令した。彼はその命令に従って、空中にパンチを繰り出す。それを見た彼は軽く頷くと、一定の距離をとった。

 

「おまえの速度は理解した。紋様に何かしようとしても余裕で止められる」

 

「手加減したかもしれないのに……屈辱だ」

 

 大和はそう言うと少し肩を落とすが、そこに凛が声をかける。

 

「大和、ヒュームさんは学長らと同じ武の高みいるからな。筋肉の動きが見られれば、手加減しようが見分けられるよ」

 

「……」

 

 その言葉を聞いて、大和が無言で紋白の頭へ手を伸ばす。彼女は、近づいてくるその手を不思議そうに見ていた。もうあと少しで触れるというとこで、彼は手を止め、ヒュームへと顔を向ける。

 

「あれ? 反応しない」

 

 大和の行動に、凛が声をあげて笑った。

 

「あははは。無駄だぞ大和。フェイクかどうか俺でも分かる。あとヒュームさんは試されるのとか死ぬほど嫌いだから、体が大事なら止めたといたほうがいい。ちなみに経験談だ」

 

「なにがあったかは聞かない。そしてもうしない」

 

 後半部分の忠告がやけに真剣じみて聞こえた大和は、素直に手を引いた。

 

「わかればいい」

 

 それを黙って見ていたヒュームは、言いたいことを言われたためか、一言発するだけだった。話が終わったところで、紋白が手を叩き、「人材紹介を始めてくれ」と声をかけ空気を変える。

 大和はそれに従い、まずは2-Fの人材を紹介するため、教室の扉を開けた。そこで待っていたのは、凛のよく知る人物だった。机に座っていた彼が、4人に気づいて近づいてくる。

 

「島津岳人です」

 

「おお、島津は我も少し気になっていたのだ」

 

 大和は岳人の良い所、悪い所もふまえ説明していった。そして、総合的に判断した結果、営業職に向いていると彼を売り込み、紋白はそれに納得しながらも、英語ができればさらに重宝すると付け加える。しかし、最初はやる気満々だった彼だが、英語の話がでると途端に二の足を踏んだ。

 そこに、紋白が一歩近づいて、岳人の目を見ながら力強く語りかける。彼女の迫力が一層増したように思えた。

 

「お前の器が世界に通じると見込んで言っている」

 

「俺様が世界レベル……」

 

「どうせなら、大きい舞台でガツンと羽ばたきたいだろう?」

 

「おうよ! 男ならな!」

 

 ニッコリと笑う紋白とその気になった岳人の様子を見て、凛が一人つぶやく。

 

「面と向かって言われれば、そりゃやる気もでるだろうな」

 

「お前もそのまま九鬼に来たらどうだ?」

 

 扉の近くにいたヒュームが凛に話しかける。その言葉に振り向いた彼は少し驚いたようだった。

 

「まさかのヒュームさんからのお誘い!?」

 

「今からみっちりと従者の心得を叩き込んでやる」

 

「それはそれで勉強になりそうですけど、まだ俺は目的を果たしていません。なので申し訳ないですけど、今は保留にしておいてもらえませんか?」

 

「卒業までは時間もある。今はその答えで満足しておいてやろう」

 

 2人がそんな会話をしている間に、紋白と岳人との交流は終わる。彼はそのままジムへ向かうようで、簡単に挨拶をすませ先に帰っていった。教室を出たところで、彼女が大和をまじまじと見つめる。

 

「しかし、真っ先に自分の友達を紹介するあたり、本当に仲がいいのだな。我も友を大事にせねばな!」

 

 そう言って、紋白は凛の手をきゅっと握った。凛も笑顔で握手に応じ軽くその手を降ると、彼女も笑って振り返してくる。そんないい雰囲気の中、忠実なる僕とお付の人が現れた。

 

「紋様―! こちらにおられたのですか」

 

「プレミアムにお探ししましたよ。紋様」

 

「フハハ。中には、このように我を慕うものもでてきてしまうがな。お前達、また明日な。我は今、凛と直江と行動しているのだ」

 

 その一言に、今まで穏やかな顔をしていたロリコンが、般若の形相となり大和へ近寄った。

 

「大和屋上行こうぜ。久しぶりにキレちまったぜ」

 

「落ち着け! 事情はあとで話す。というか、なんで俺だけなんだ!? 凛もいるだろ!?」

 

 理不尽な怒りに、反論する大和だったが、その声が届くことはなかった。なぜなら、「今日はお帰りください」と述べたヒュームが準と小杉の首根っこを引っ掴むと、廊下から瞬時に消えたからだ。まさに一瞬の出来事。

 大和は突然のことにフリーズした。

 

「……どうなってるんだ?」

 

「ヒュームさんが物凄く速く移動したんだ」

 

「凛には見えたのか?」

 

「ふふふ。どうだろう?」

 

 大和の質問になぜか答えを濁す凛。

 そして、人の気配に気づいた大和が消えた場所に目を向けると、ヒュームが戻ってきていた。しかし、戻ってきたのは彼だけではなかった。同時に自分を鼓舞する準も廊下の角――階段があるところから姿を現す。こちらはどうやら熱意のみで、学園の3階まで駆け上がってきたようだ。小杉はさすがに来ていなかった。

 準の行動に、凛は感嘆の声をあげる。

 

「アイツのすごいところは、紋白(※ロリ)が絡むと不可能を可能してしまうところだな。あっまた捕まった」

 

 ヒュームが「歌舞伎町へ捨ててきます」とまた一言残し準とともに消え、大和が思ったままを口にする。

 

「歌舞伎町か……さすがにすぐには帰ってこれないな」

 

 そしてヒュームが消えると、すぐさまクラウディオが3人の背後から現れる。驚いたのは大和だけだった。

 

「よーし、気を取り直して、人材勧誘の続きへ出発」

 

 凛の一言で再開された人材勧誘。大和は、その後何人もの生徒を紹介していき、今日の予定していた分が終わる頃には、日没になっていた。

 凛が満足げな笑顔の紋白に話しかける。

 

「お腹すいたな。紋白はお腹すいてないか?」

 

「うむ、我もすいたな」

 

「なら、これからご飯食べに行こう! 梅屋へゴー」

 

「フハハハそういう所もしっかり見ておかないとな。ほれ、直江も行くぞ」

 

 そう言うと凛と紋白は、下駄箱を目指して先に歩き出した。大和は2人の背中を見つめながら、クラウディオに話しかける。

 

「あの本当にいいんですか?」

 

「構いませんよ。経験というのは、たいてい財産になるものです」

 

「おーい大和、クラウディオさん行きますよー」

 

 凛が振り返って、まだ歩き出していない2人に声をかけた。人のいない廊下に彼の声が響く。

 追いついた大和が、凛に問いかける。

 

「ちょっと待てって。というか、凛は昼間にあれだけ食べてお腹すいたのか?」

 

「昼間? 丼とラーメンのことか? 昼は昼、夕方は夕方、夜は夜だ!」

 

 紋白は胸を張る凛を見て、改めて感心する。

 

「相変わらずよく食べるな凛は。我もたくさん食べて、姉上のようになるぞ」

 

 彼らは靴を履き替え、門を抜ける。そこには、いつの間にか、クラウディオが車を回して待機していた。大和はもう考えることを諦める。

 そして、場所は梅屋前の通り。4人は、梅屋から少し離れたところで立ち止まっていた。凛が最初に異変を感知して喋りだす。

 

「なんかどえらい雰囲気を醸し出してるな。梅屋はなんかのイベント中?」

 

「凛の冗談は置いておくとして、確かに威圧的な雰囲気がでているな」

 

 紋白も梅屋に向かって厳しい視線を向けた。その横で凛がクラウディオに確認をとる。

 

「クラウディオさん。俺が先に行って様子を見てきましょうか?」

 

 その間、ゆっくりと歩いていた野良猫が梅屋前に近づくやいなや、来た道を引き返し、路地裏へと物凄い速度で消えていった。

 黙って観察していたクラウディオが、険しい口調で話し出す。

 

「気の嵐が尋常じゃないですね。私が見てきましょう。凛は紋様のことをよろしくお願いします」

 

「わかりました。まぁなんとなく梅屋から感じる気で、ある程度予測つきますけど、お気をつけ下さい」

 

 クラウディオは紋白に一言断りを入れると、そのまま梅屋へと入っていく。彼を見送ったあと、大和が口を開いた。

 

「凛はあそこに誰がいるのかわかるのか?」

 

「ん? そうだな。壁を超えたものたちが集まってるって言えばわかるかな?」

 

「姉さんとかもいるのか?」

 

「いるな。まぁクラウディオさんが行ったから、何事も起こらないだろ」

 

 凛と大和が会話していると、すぐにクラウディオが梅屋から出てきた。安全が確認できたところで、3人も梅屋へ入る。そして、彼らがそこで見たのは世にも珍しい光景だった。鉄心、ルー、百代、燕、由紀江、ヒューム――そして、梅屋の店員の釈迦堂。壁を超えた者が集まっていた。一般人は1人もいない――辰子が奥の席で眠っていたが、彼女の強さは将来壁を超えると目されているので、一般人には含めない。

 

「これはすごいな。壁を超えたものがこんな大勢、梅屋に集まるとか。偶然なのか、はたまた引き寄せられるのか。まぁ気にせず、紋白は何食べる? 定番なら牛飯だぞ」

 

「凛は本当にマイペースだな。それに知ってる顔ばっかりだし」

 

 凛は紋白と食券を選び、大和はそんな彼に呆れながらも、彼らのあとに続いてメニューを選んだ。

 梅屋の入って一番に声をかけてきたのは、百代であり、続いて燕だった。

 

「凛に大和じゃないか」

 

「大和くん、私の隣空いてるよん」

 

「いや今日は紋様と一緒なので……て、もうまゆっちの横に凛と紋様座ってるし」

 

 いつの間にか、凛と紋白は由紀江の横に空いていた2席に座り、食券を渡し終えていた。彼が、大和にも席につくよう促す。

 

「大和も早く座れ座れ。ご飯はみんなで食べたほうがおいしいぞ」

 

「なんとも覇気あふれる梅屋であるな。凛これはなんだ?」

 

 全体的に緊張感漂う梅屋の中で、凛と紋白のところは和気藹々としていた。そこにさらなる客が訪れる。

 

「おお、この闘気の正体は皆さんが揃っていたからか」

 

「あーびっくりした。ついでだから入ろうか」

 

 義経と弁慶の主従コンビ。そして――。

 

「知っている顔だな。おお紋まで」

 

 紋白と同じく額に×の入った女性――九鬼揚羽。切れ長の瞳と膝裏まで伸びた銀髪にカチューシャをしている。紋白の姉であり、学園を卒業してから九鬼の軍需鉄鋼部門を統括。元武道四天王――だった。

 紋白が姉の姿を見つけ立ち上がり、凛は揚羽へと目を移した。

 

「姉上。こんな所でお会いできるとは」

 

「ということはこちらが九鬼揚羽さん?」

 

「ん? お前は写真に紋と一緒に写っていた男か?」

 

「凛と姉上は初対面であったな。姉上。こちらが我が友、夏目凛です」

 

 凛は揚羽の前に立ち一礼する。

 

「初めまして。今年から川神学園に通うことになりました2-Fの夏目凛です。凛と呼んでください。紋白さん、英雄君には学園でお世話になっています」

 

「我が名は九鬼揚羽。そこにいる紋、そして英雄の姉である。話は紋から伺っている。そう堅くなるな。紋こそ学園では世話になっているようだな。写真も見せてもらった。随分楽しそうにしているので我も安心したところだ」

 

「お役に立てたのなら幸いです」

 

「……確かに紋の言うとおり、一般人とさほど変わらんように見えるな。どれ」

 

 凛を頭の天辺から足のつま先まで観察した揚羽は、いきなり右の突きを繰り出した。それに慌てたのが紋白。

 

「あ、姉上!」

 

 紋白の姉を呼ぶ声と同時に、乾いた音が梅屋に響く。

 

「大丈夫だ紋白。ちゃんと手加減されてたよ」

 

「ふむ、確かに紋の言ってることは真のようだな。聞いてはいたが、我自身が確かめてみたかったのだ。すまんすまん」

 

 音の正体は、突きを掌で受け止めたものであり、紋白がほっと息をついた。揚羽は、笑いながら拳を下げ、凛がそんな彼女に感想をもらす。

 

「噂に聞いていた通り、豪快で美人な方ですね」

 

「フハハハ面と向かって我に言うとは、肝も据わっているようだな」

 

 直接、揚羽に物申す凛を彼女は気に入ったようだった。混沌とする梅屋だが、そこへまたお客さんが現れる。

 

「あれ? モモちゃん達」

 

 梅屋に集まるメンバーを見渡し、きょとんとする清楚だった。しかし客は彼女だけでなく、もう一人――拳銃を持ち、梅屋から金を巻き上げようとする不幸な犯罪者がいた。「不幸だった人生をこの金でやり直す!」そう言って、彼は一番近くにいた彼女に銃を突きつけ、金を要求する。

 しかし、店員はまったく怯えるどころか、むしろ泰然とした態度でため息すらついてみせた。

 

「まぁおまえさんがついてないのは、今この状態の店に押し入った一点だけ見てもわかる」

 

 釈迦堂の意見には誰もが納得しているようだった。壁を超えた者が一同に会しているだけでも、極めて珍しいことだ。そこに狙ったようにやってくる強盗――一体どれほどの不運の持ち主なのかわかったものではない。この場所において、銃一つで何ができよう。

 自分がどれだけ危険な状況に足を突っ込んで――いや首まで埋まっているか知らない強盗は、銃を清楚から釈迦堂へ向けた。

 

「は? 何を言ってやがる! ……お? この小僧震えてやがる」

 

 大和は体を震わせながら強盗へ告げる。

 

「いえあなたの身を案じて震えているんです」

 

 その言葉に、強盗は怒り出し、銃を釈迦堂から大和に突きつけようとしたそのとき、柔らかな風を感じるとともに、自分の手にあった重みがなくなったことに気づく。動揺した彼の目の前には一人の少年が立っていた。

 

「わざわざ俺が動く必要もなかったですね」

 

 凛はそう言いながら強盗から奪った銃をカウンターに置き、固まっている清楚の手を優しく引く。

 

「なっ! いつの間に? だ、だが、妙な真似をするな! まだこっちには人質が……ひとじ? あれ? か、体が動かねぇ……くそっ、この!」

 

 わめきながら体を動かそうとする強盗だが、ピクリとも動かない。清楚を捕まえていた右腕も同様だ。彼女は凛に手を引かれるまま、ヨタヨタッと体を委ねる。どうやら突然の出来事にびっくりしているようだった。そのままゆっくりと椅子に座らせられる。

 

「いえいえ。凛が動くとわかったので、ミスのないより確実に捕らえる方法を選択できました」

 

 クラウディオは置いてあった銃を分解し、いつもと変わらない様子で凛に声をかけた。目をこらすと、強盗の体には無数の糸が張り巡らされている。

 紋白がそれに気づく。

 

「クラの得意技だな。あの糸でなんでもできる。それに凛もありがとうな。清楚も無事で何よりだ」

 

「凛ちゃん、ありがとう。こ、怖かったー」

 

 深く息を吐くと、出されたお茶を一口飲む清楚。

 無事で何よりなのだが、ここで不満の声をあげる者がいた。

 

「おーい凛、せっかくこれで片をつけてやろうと思ったのに」

 

 右手の上でクルクルと回る黒い球体を出す百代だ。

 

「よ! 凛ちゃん魅せてくれるねー。王子様みたい」

 

 そのあとに、燕の陽気な声が凛にかかった。その声援に応え、謎の物体を持つ百代に彼が問いかける。

 

「一つ聞きますけど、それ何ですか?」

 

「ん? ブラックホール?」

 

 百代は凛の疑問に疑問で返す。どうやら自分でも詳しいところが不明らしい。

 

「なぜ疑問系。さっさとそんな物騒なものしまってください」

 

「無理だ。これ何か吸い込むまで消えない。だから、強盗を吸い込ませようと」

 

「だったら、この燃えるゴミ頼むわ。ちょうど今日出さないといけないからよ」

 

 それを聞いていた釈迦堂が百代に頼み、そのブラックホールを投げ込むと本当に燃えるゴミを全て飲み込み消えていった。ついでに、彼が持っていたゴミ箱も一緒に消滅する。 その現象に感心する彼と燕。ようやく、不必要になったそれを手放せた彼女は、少しダルそうに肩をまわしている。

 

「本当になくなった。我が姉ながら、なんという規格外。そして、ここにいる人達あまり動じてない。俺の反応が間違っているのか?」

 

「いや大和坊の反応が普通だ。ここにいる人達が普通じゃねぇ」

 

 大和の一言に松風が返すが、その声は梅屋にむなしく響いた。

 事件も片付いたことで、梅屋にも店らしい雰囲気が戻ってくる。依然、他の客は一人も来ていないが。まだ出されていない料理も急ピッチで作られる。

 そんな中、揚羽が百代に話しかける。

 

「しかし、凛の動きは実に見事だった。実力も未知数。我も血が疼いたわ。百代にとって退屈しない相手ではないのか?」

 

「その通りです揚羽さん。私が今一番全力出したい相手ですから」

 

「こらこら。やっと落ち着いたんだかラ、闘気をしまいなさイ2人共」

 

 ルーが、揚羽と百代が闘気をみなぎらせたことに注意する。

 

「おーこの2人やっぱ似たもの同士で、戦闘きょ……いえ、なんでもないです。ハイ」

 

 そして、最後に発言しかけた松風は言い知れぬプレッシャーに黙らせられた。

 次第に賑やかになる店内で、凛の動作を話題にあげたのは2人だけではなかった。

 

「弁慶、いまさっきの凛の動き見たか?」

 

「ああ。確かに見た。本当に実力が測れないのが怖いね」

 

 いつもの和やかな雰囲気ではなく、真剣な表情を作る義経と弁慶。

 

「凛ちゃんは相変わらず隙のない動きをするなぁ」

 

「燕……」

 

「紋ちゃん?」

 

 明るい声とは裏腹に少し鋭い目つきをした燕とそれを見つめる紋白。加えて、その光景に疑問をもつ清楚。

 

「組み手のときの動きを見ておったが、凛はやりおるのう。ヒュームよ、良い弟子を育て上げたの」

 

「釈迦堂に匹敵する才能を俺とクラウディオ、そして夏目家で年月をかけ磨き上げたのだから、当然の結果だ」

 

「ほっほ。本人が聞いたら喜ぶじゃろうに」

 

「褒めるならクラウディオがやっている」

 

 強盗が入ってから動く気配すら見せなかった鉄心とヒューム。

 

「おい、辰子! 飯が冷めちまうぞ。ったく強盗入ってからも起きないとはな」

 

「zzzz」

 

 客の食事を用意する釈迦堂と眠ったままの辰子。

 

「それにしても強盗なんて初めて会った」

 

「初めてであの対応……姉さんのことと言い、凛と言い、ここに集まる人達と言い、俺この先驚くことがなくなりそうだな」

 

 そして、話題に上がっている張本人と大和。

 ちなみに、由紀江はというと――。

 

「ここで紋ちゃんと仲良くなりましょう! 松風!」

 

「Yeahhhhh! まゆっち! おらがついてる。ガンガンいこうぜー!」

 

 松風とともに、密かにやる気をだしていた。

 梅屋という馴染み深い場所で、壁を超えた者たちの邂逅が実現する。

 


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