真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束- 作:chemi
大和が呼び止めた3人組は、彼の姿を確認すると近くに寄ってきた。そして、その中の一人、眼鏡をかけた甘いマスクが特徴的な少年が口を開く。
「これは嬉しいですね。休日に大和くんに出会えるなんて、これを運命と言うのかもしれませんね」
この少年の名は葵冬馬。柔らかい物腰と丁寧な言葉遣い、ハーフ特有のはっきりした顔立ちと浅黒い肌により、学園内に多くのファンをもつ少年である。そんな彼が、隣に立っている凛を見て言葉を続ける。
「私のお誘いはいつも受けてくれないのに、見知らぬ美男子とデートとは嫉妬してしまいます」
「おいこら変なこと言うな、葵。まだ知り合って数時間しか経ってないんだぞ。誤解されるだろ」
大和は、最初の言葉をスルーしたが、さすがに次はきっぱりと否定の言葉を口にした。そんな彼に凛は優しげな視線を送りながら、会話に混ざる。
「大丈夫だ大和。初対面でやけに親しくしてくれたのには、そんな裏があったなんて。それでも俺たちは友達だ」
「おおよかったって。凛さんや……ちょっと距離が遠くありませんこと? 一段階ボリューム上げないと会話成立しない距離じゃないか? 泣くぞ?」
「冗談だ」
凛と冬馬が、一通り大和をいじって本題に戻る。
「じゃあリンリンだね。ウェーイ?」
この奇妙な言葉を発する少女は榊原小雪。長い白髪からのぞくアメジスト色の目が、興味深そうに凛を捉えている。そして、腕にはマシュマロが入った袋。勝手に人にあだ名を命名するところを見るに、彼女がマイペースであることがわかる。彼女は、返答を待っているのか彼をじっと見つめ続けた。
「ウーーウェイ?」
「あはは、ましゅまろあげるー。よろしくねリンリン。僕のことは小雪でいいよー」
言葉?が通じたことを喜んだのか、はたまた何かフィーリングがあったのか、小雪は楽しそうに喋りながら、凛にマシュマロを渡す。
「よろしく小雪。お返しに飴をあげよう。そして、リンリンはもう決定事項かな?」
「おおーありがとう、リンリン。ましゅまろと食べるとまたおいしい」
どうやら凛のあだ名は決定事項らしく、華麗にスルーされる。そんな小雪は飴を口に放り込むと同時に、マシュマロも放り込み、ミックスされた味を楽しんでいた。満足気な表情の彼女に、自然と笑顔になる凛だったが、そんな彼に突如眩しい光が襲ってくる。彼は手をかざしながら、その発生源を調べるため目を細めた。どうやら人の頭が太陽の光を反射させているようだ。
「ユキと初対面から仲良くなるとは、大したコミュニケーション能力だな」
眩しい光の発生源が言葉を喋る。ようやく目の慣れてきた凛の前に、スキンヘッドの男が立っていた。彼の名は井上準。なんでもそつなくこなす能力を持ち、冬馬と小雪の世話をやく優しい男である。しかし、そんな彼は業を持ち合わせていた。
「さらに、幼女相手だとその能力は3倍に跳ね上がる」
「なぜ俺が、幼女好きだとわかった!? まさかこんなところで、同士に出会えるとは!ロリコニア創設のときは、近いのやもしれん」
準は凛の言葉に素早く反応し、テンションをマックスまであげる。それには、さすがの凛も戸惑いをみせ、正直に話し出した。
「……いや勘だ。それと能力うんぬんは冗談だ。すまん。そしてよろしく」
「なんだ同士ができたと思ったのに。まぁよろしくな夏目。俺は井上準だ。ノリが良くて嬉しいぜ」
少し残念がった準と握手を交わす凛の手に、もう一つ綺麗な手が重ねられる。
「私の名前は葵冬馬です。私もいろんな意味でお付き合いをお願いしたいですね。リンリン」
「いやさすがに男にリンリン呼ばわりはキツイものがあるから、ごめんなさい。そして、健全な付き合いをよろしく」
「つれませんね。しかし、これから時間はたっぷりあります。親睦を深めていきましょう」
「僕も混ざるー。握手握手」
小雪も両手で握手している彼らの手を全部包み込む。
「なんか俺一人だけ仲間ハズレにされてる?」
仲良く4人で握手をする中、大和はそれを一歩離れて見ており、自分の現状についてつぶやいた。3人組とは軽い挨拶をして別れ、再び2人で通りを進んでいく。
「川神は、本当におもしろい人達が多いな。今日だけでもだいぶ濃密な時間を過ごした気がする」
「俺は、凛の適応能力に驚いているけどな。川神にすでに順応してる」
その後、2人はグルメネットワークつながりのある熊飼満こと通称クマちゃんに会いに行く。凛と満は、互いに食材を送りあう間柄にあり、自己紹介とグルメ情報の交換をして別れた。
次に、一つ上の先輩にあたる京極彦一の家に挨拶に向かう。京極家と夏目家でつながりがあった凛は、これから世話になるため、早々に挨拶をしに行ったというわけだ。
そんな風に歩き回っていると、川神院の前に着く頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。
「ここが川神院か。迫力あるな」
凛と大和の前には、大きく頑丈そうな門がそびえたっていた。すでに街灯の灯りがともっており、その光に照らされるそれはより壮大に見える。凛はキョロキョロと周りを見渡した。さすがに暗くなってきてからは、人の行き来もあまりなく通りは静かだった。
「川神市の由来になるくらいだからね」
「ここに武神がいるのか」
「会っていく? いたら、すぐに紹介できるよ」
軽く返答する大和に凛は驚き、彼の方へと向き直る。
「大和は武神とも知り合いなのか?」
「姉さんって呼ぶ間柄ではあるね」
「大和には兄弟はいなかったはずだが」
「うん。一人っ子だよ。姉さんってのは……舎弟契約みたいなものかな?」
彼らはまた門を見ながら会話をする。昔を思い出しているのか大和は苦笑しながら、凛に答えた。彼からは、今の凛の表情はうかがえない。
「……契約とは随分な言い方だ。その割には嫌がってはいないようだな」
「まぁね。美少女だし」
「ははっ。なるほど。それなら俺も結んでしまうかもしれない」
大和の分かりやすい理由に、凛は思わず笑って同意する。川神院の中では夕飯の準備が進んでいるのか、門のところまでかすかにいい香りが漂い始めていた。
「で、どうする?」
「いや今日は止めておこう。お楽しみは後にとっておく。……そう言えば、西では武神が倒した人間をチョコにして食べてしまうという噂があるな」
「いやいやそんなことあり得ないから。しかもチョコ……どこの魔人だ。それより、凛の答えを聞く限りじゃ、凛は好きな物を最後に食べる派か?」
凛が顎に手をやりながら口を開く。
「確かにショートケーキのイチゴは、最後に食べるな」
「なんか凛とショートケーキの組み合わせが、アンバランスでおもしろいな。……んじゃもう遅いし、寮に行くか……ってまだ荷物届いてないのか?」
「ああ、明日になると思う。それに夜には別の約束もあってな。だから今日はここで。本当に助かったし、おもしろい一日だった。お礼は明日、寮に行ったときさせてもらう」
「こっちも楽しかったから、お礼なんて別に構わないんだが、受け取らないと凛が困りそうだな」
「その通り。それじゃまた明日寮で」
「おう」
2人は川神院の前で別れ、別々の方向へ歩き出した。
◇
「あーここは本当におもしろい街だな。今日だけでいろんな人に出会えた。これは大和に感謝だな。街も聞いていたほど、治安の悪い場所もなさそうな感じだし。大和も親不孝通りは、ちょっと前まで危ない通りだったけど、今は不思議と良くなってるって言ってたしな」
――――何かあったのか?地元の人間じゃないから、なにもわからないが。
凛は辺りを見ながら、来た道を戻っていた。住宅地の方はそれぞれ明かりがついており、そこかしこから夕飯の匂いがしてくる。その匂いに凛は空腹を覚えるが、ぐっとこらえて駅を目指す。
「おっ駅が見えてきた」
いつの間にか早足になっていたのか、凛は思ったより早く駅に着いた。一度時間を確認すると、ぐっと背伸びをして、気持ちを切り替える。
「さて、迎えの車が来ているはず……というか久々に会うから、大和のときより緊張する」
リラックスのため深呼吸しながら、周りを見渡す凛の傍に、一台の黒塗りの高級車が横付けされた。その車体は汚れひとつなく、駅の周りにある街灯の光を反射している。彼から中を伺うことはできない。
「ん? まさかこれ?」
完全に停止した車の運転席から、1人の執事姿の男性が降りてくる。彼は背筋の伸びた綺麗な姿勢を崩さず、温和な笑顔で凛を迎えた。彼の名はクラウディオ・ネエロ。燕尾服をきっちりと着こなし、眼鏡の奥で光る目は、年老いているとは思えないほど力強さに溢れていた。凛の師の1人である。
「お久しぶりです。クラウディオさん」
凛は深く頭を下げた。クラウディオは、雰囲気通りの丁寧な言葉遣いで彼に答える。
「久しぶりですね、凛。また背が伸びたのではありませんか?」
「クラウディオさんに会ったのは、もう1年ほど前ですから、背も伸びますよ。ちょうど成長期ですし。それよりこんな高級車で迎えが、それもクラウディオさん自身が来られるなんてびっくりしました」
再会を喜ぶ凛の声は、先ほどの緊張が嘘のように楽しげである。
「それには、訳がありましてね」
クラウディオは、そう言いながら後部座席のドアの前まで移動し、ゆっくりと開いていく。そこには額に×印のある九鬼の証を持つ少女が乗っていた。そして、彼女は銀色の長い髪を揺らしながら、凛の目の前に立つと堂々した口調で話し出す。
「我顕現である。初めましてだな夏目。我は九鬼紋白だ。紋様と呼ぶがいいぞ。実は、クラウ爺の弟子がこの川神に来ると聞いてな。事前に情報を集めさせてもらったが、いろいろと驚くことも多かった。それに加えて、クラウ爺が目を掛けていると言うから、我も会ってみたくてついてきたのだ」
「まさかの九鬼家登場だ。初めまして紋様。夏目凛です」
凛もこんなに早く九鬼家と接点をもつとは思わなかったのだろう。驚きながら自己紹介を行った。身長差があるためか、紋白が彼を見上げる形になっており、彼女のイメージは威厳よりも可愛さが勝っている。それでも溢れでるオーラが、彼女は本物であると凛に告げる。
「フハハ驚いたであろ。しかし、うーん……夏目は本当にクラウ爺の弟子なのか?」
紋白はとても期待していたのだろう。肩透かしをくらったのか、小首を傾け、凛の周りをクルクルと回る姿は、年相応の少女だった。そんな彼女になんと答えたらいいのか、彼が困っていると、クラウディオが助け舟を出してくれる。
「紋様、凛は普段、しっかりと気をコントロールしていますから、今は一般人にしか見えないのでしょう。こう見えて、凛は手強い相手なのです」
「ふーむ、我の手配しておる者と同じようなものか。我もまだまだだ。すまなかったな夏目。出会いがしらに失礼なことを言った」
「いえいえ、俺……いえ私も未熟者ですから、紋様の見立てはそう間違ってはいないと思います」
「むっ、謙虚なのは美徳だが、行き過ぎると嫌味になるぞ。クラウ爺は嘘を言わん。だから、夏目も誇ってよいのだぞ」
「そうですよ凛。凛の実力に期待している者もいるのです。私を含め」
紋白とクラウディオの言葉を受け、凛は少し照れくさそうにする。そんな彼を2人は笑顔で見守る。
「……ありがとうございます。今後は気をつけます」
「うむ、ならば良い。フハハハハ」
「さて、ここで長居する必要もないでしょう。早速、九鬼の極東本部に参ろうと思いますが、よろしいですか紋様?」
「うむ、さぁ夏目も乗った乗った」
紋白は、凛の背を押し後部座席に押し込んでいった。駅を出た車は、世界で幅を利かせる九鬼の極東本部へと進んでいく。
そして車は順調に進み、凛は九鬼極東本部の建物の前に降り立った。彼は自然と目の前の建物を見上げてしまう。そこで一言――声を大にして感想を述べる。
「いやぁさすが九鬼の本部だけはありますね。圧・倒・的!!」
「フッハハーそうであろそうであろ。これこそ九鬼にふさわしい建築よ。外もすごいが、中もすごいぞ夏目」
凛の反応に紋白は上機嫌になる。仁王立ちで腰に手をあてうんうんと頷いていた。
中央にそびえる優に20階以上ある建物は、形が大文字のAのようになっており、凝ったデザインになっていた。その左右にも横に長い建物があり、ちょうど終業の時間なのか数え切れないほどの従業員が出てくる。彼らは紋白の姿に気づくと、一礼をして去って行った。それでも、建物の窓は多くの光が灯ったままであり、中にはまだまだ人がいることがわかる。
「それは楽しみです紋様」
「さぁさぁここで騒いでいると、警備の者の邪魔になります。まずは中へ入りましょう」
「おおそうだな。夏目の言葉に、我もはしゃいでしまったわ」
クラウディオに先を促され、紋白は我に返る。
「いやいや素直な感想を言っ……!?」
言葉を返そうとする凛だが、先ほどまでの和やかな空気から一変。彼は瞬時に背後に向かって上段蹴りを放つ。すると、誰もいなかったはずの場所に、突如現れた執事服姿の男性が、同じく彼に向かって蹴りを放っているところだった。お互いの足が接触すると体の芯に響くような凄まじい音とともに光が四方八方に走る。同時に闘気のぶつかり合いが、風を生じさせた。
「ほぅ、しっかりと鍛錬は積んでいるようだな凛。抜けているように見えるのは、相変わらずだが。マシな赤子と……いやさらに腕を上げているな」
足をゆっくりと下ろすこの男の名をヒューム・ヘルシングといい、1000人から成る九鬼家従者部隊の零番を担う最も強い男である。金髪に金色の鋭い目、180cmの身長、加えて鍛え上げられたその体から溢れ出る威圧感は、彼をさらに大きく見せた。ちなみに、クラウディオは序列3番にあたる。
しかし、凛はヒュームに対しても慣れた様子で、丁寧に挨拶を行う。なぜなら、彼が凛のもう1人の師であるからだ。
「本当に登場の仕方がもはや人間じゃないですね、ヒュームさん。しかも相手が俺じゃなかったらどうするつもりだったんですか? そして、お久しぶりです」
「俺が人違いなど起こすものか。冗談だとわかっているが、俺を見くびるなよ。加えて、紋様おかえりなさいませ。お騒がせして申し訳ありません。」
ヒュームは凛に軽く闘気を飛ばすと、いつ離れたのかクラウディオと紋白がいる方向に向き直って謝罪をする。そんな様子を彼は黙って見ていた。
――――ヒュームさん、ちゃんと執事してるんだ。
心を読まれていたなら、間違いなく手加減なしの蹴りが凛を襲っていただろう。そんな彼とヒュームの傍までやって来た紋白は、なにやら目を輝かせていた。
「ただいま、ヒューム。いやしかし驚いた。驚いたぞ夏目!! ヒュームの蹴りを止めたやつなど我は見たことなかったぞ。クラウ爺の言ったことは真だったのだな。いや、疑っていたわけではないが、実際に見て感じるのとでは全然違う。すごいぞ! こんなに驚いたのは、いつ以来だろうか。改めて、先ほどのことは謝罪する。夏目、我はおまえが気に入った。まるでびっくり箱のようだ。フハハハその力、我が九鬼のために使ってほしい」
紋白はよほど興奮しているのか、凛の手をとってブンブンとふった。その様子を微笑ましく見守るクラウディオが、その意見に同調する。
「よろしゅうございましたな紋様。確かになかなか見られない珍しい光景でした」
「ありがとうございます。ここまで喜ばれるとは光栄です」
凛も紋白の喜ぶ姿に嬉しくなり、テンションをあげる。そこにヒュームが会話に混ざってくる。
「卒業するまではこちらにいられるのだろう? 時間があるときは、俺が直々に鍛えてやろう」
「ありがとうございます」
しっかりと礼を言う凛の目は、若干潤んでいるように見えた。そんな彼に、笑顔の紋白が励ましをおくる。
「しっかりな夏目。頑張ったら、我からもご褒美をやろう」
凛が紋白の優しさに感謝していると、門の方から2人のメイドが現れた。
「ファック、おいおいこりゃ一体どうなってんだ? 気がはじけたのを感じたから来てみたら、知らない男と紋様が手をとりあってる」
口調の荒いオレンジ色の髪のメイドが、隣の黒髪ショートカットのメイドに話しかける。
「ヒューム様、クラウディオ様ともお知り合いのようですね。しかし、先ほどのぶつかりあいはあの方なのでしょうか?」
「いやヒュームのじじいはわかるが、あの男が相手とはとても見えないけどな」
そんな2人の会話に割り込むヒューム。その姿は、もちろん彼女達の背後に現れていた。
「誰がじじいだとステイシー。一体いつになれば、その言葉遣いを改めるのか。今から特訓か……」
「!?」
その言動にメイドたちは体を固くする。凛とクラウディオは静かにその様子を見ていた。しかし、2人の考えていることはそれぞれ違う。
――――凄く速く移動しているだけなのに、大抵の人には、瞬間移動したみたいに見える。ヒュームさんの体はどうなっているんだ?
それに対してクラウディオは、今から特訓させるなら警備の補充が必要だと考えていた。
そこに陽気な紋白の声が響く。
「ヒューム。今は客人として、夏目をここへ招いたのだ。待たせては悪い。積もる話もあるであろうし、我もその話を聞いてみたくて、ウズウズしているのだ。それにその二人は門の警備中であろう」
「わかりました。紋様がそうおっしゃるのなら、特訓はあとにとっておきましょう」
そんなやり取りを見ながら凛はクラウディオに尋ねる。メイドたち――特にステイシーと呼ばれた方は、ヒュームの言葉に見るからに元気をなくしていた。
「クラウディオさん、あのメイドさんは何者ですか? ヒュームさんのお気に入りのようですし、お二方ともかなりの実力者ですよね」
「そうですね。ちょうどいい機会ですし、手短に自己紹介を済ませてしまいましょう。紋様、凛に2人を紹介したいのですが、お時間を少し頂けないでしょうか」
「おおそうだな。将来ここで働くかもしれんのだ。許す」
「ありがとうございます。李、ステイシーこちらに来てください。向かって右が、ヒュームの弟子にあたるステイシー・コナー。向かって左が、私の弟子にあたる李静初(リー・ジンチュー)です」
クラウディオの呼びかけに、凛の前にメイドたちが並ぶ。どちらも美女と言ってさしつかえない容姿をしている。
「初めまして、夏目凛です。同じ師をもつ弟子同士よろしくお願いします。いつか、お二方とも手合わせをお願いしてみたいものです」
「九鬼従者部隊、序列15位のステイシー・コナーだ、です。よろしく……お願いします」
ステイシーは、後ろからのプレッシャーに気圧されるのか、途切れ途切れの自己紹介をした。身長は凛の少し下で、オレンジ色の髪と大きな水色の瞳が陽気な印象を与える。加えて豊かな肢体が、メイド服の上からでも確認できる。
「同じく九鬼従者部隊、序列16位の李静初です。よろしくお願いします。まさかヒューム様、クラウディオ様の弟子に出会えるとは、驚きました。いろいろとお話を伺ってみたいですが、それはまたの機会ですね」
李は、見た目通りの真面目なメイドのようだ。身長はステイシーより低く、黒髪にキリッとした目許は怜悧さを感じさせ、さらに落ち着いた口調と相まって物静かな印象を受ける。2人の自己紹介が終わると、凛は彼女らと握手を交わした。
「自己紹介も終わったところで、早速食事を取りながら話を聞かせてほしい。行くぞ夏目。おまえたちも仕事に戻るが良いぞ」
「はい、紋様。夏目様も失礼します」
「失礼します。紋様」
「あっはい。李さん、ステイシーさんお仕事頑張ってください」
一礼してこの場を去っていくメイドを見送り、凛たちは九鬼の建物内入っていく。