真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

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『金平糖は赤ワインの味。キスはモモの味?』

 場所は九鬼家が所有するジム。多種多様な機械が整然と並べられ、使われるときを待っているかのようだった。そこの一角では、朝の静けさを破る機械の駆動音と重り同士がぶつかる音が一定の間隔で鳴り響いている。

 燕が百代たちと川神院の朝の稽古に混ざっている中、凛はここでクラウディオにしごかれていた。

 

「……フゥ」

 

「凛、もっと意識を集中させなさい」

 

 凛のデータから最も適したトレーニングをクラウディオが組み、基礎の向上に励む。何でもできる執事は本当になんでもできるのだった。

 その横では紋白がランニングマシーンで軽快に距離をのばしていた。彼女もさすがと言うべきか、一般人の平均を軽く上回るペースを保ちながら走り続ける。息もさほど乱れていない。そんな彼女の姿は、Tシャツにスパッツで、髪の毛も邪魔にならぬようアップにした活動的ものだった。

 

「では1分間の休憩をはさみ、次のトレーニングに移りましょう」

 

「ハッ……ハッ……わかりました」

 

 浅い息を整えるため、深呼吸を繰り返す凛。汗が次から次へとしたたりおちる。そのすぐ近くでは、クラウディオが手元の資料をパラパラとめくりながら、なにかの確認を行っていた。

 ノルマをこなした紋白が、凛に話しける。

 

「凛はきつそうであるな」

 

「地味では、あるけど……これも積み重ねていかないとな。……フゥ。温いトレーニングじゃ意味がないし、極端すぎるのも体によくない。その点、クラウディオさんは俺の体をよく知ってくれているからな。ギリギリいっぱいで鍛えてくれるわけだ。ありがたいよ」

 

 そのメニューは、クラウディオの冗談かと紋白が思うほどのものだった。

 

「継続は力なりだな」

 

「その通り。よし!」

 

 息を整えた凛は、立ち上がってクラウディオの指示を仰ぐ。

 

「紋様は一度休憩なさってください。あちらで鬼怒川に、タオルと常温のスポーツドリンクを用意させております。凛は続いて――――」

 

 凛のトレーニングはまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 トレーニングを終え、紋白が着替えている間、時間が少し空く。凛は早々に着替えを済ませ、軽い水分補給をしながら、クラウディオと立ったまま会話をしていた。ジムの中には太陽の光が差し込んできており、朝の喧騒が聞こえてくる。

 

「しかし、凛は本当に紋様の護衛代の代わりに、ここの使用許可でよかったのですか?」

 

「俺にとっては、ここの使用が許可してもらえることに驚きました。お金は欲しいですけど、一般のジム以上の設備がある所を使わせてもらえるなんて、価値で考えるととても貴重です。ありがとうございます」

 

 凛は頭を下げながら、クラウディオに礼を言った。彼はそれに対し、いつもの温和な笑顔を浮かべて答える。

 

「簡単なことですから、凛は気にする必要ありません。加えて、揚羽様からの口添えもあったので、よりスムーズに許可をとることができました」

 

「揚羽さんが?」

 

「どうやら凛が、百代様を打倒すると宣言されたのを気に入られたようで、自分に割かれている時間を割り当ててやるとおっしゃられたのです。そう言われれば、誰も文句を言う者などおりません」

 

「そうだったんですか。ありがたいことですけど、揚羽さんの迷惑にはならないでしょうか?」

 

 そう言って凛は少し困った顔をするが、クラウディオは笑みを崩さず言葉を返す。

 

「もしかしたら、同じ時間にトレーニングすることになるかもしれませんが、別段迷惑になるということもないでしょう」

 

「揚羽さんには今度直接お礼を言いたいです。確か金平糖に目がないとか?」

 

「揚羽様の好物ですからね」

 

「では、京都で一番の金平糖を持っていきたいと思います。都合のつく時間を作ってもらうことは可能でしょうか? 紋白も呼んでお茶会でも開ければと思いますが」

 

「それは揚羽様も紋様もお喜びになられるでしょう。時間の調整ができ次第、私のほうから連絡しましょう」

 

 ちょうど話が一段落ついたところで、紋白が2人の元にやってくる。いつもの袴姿になっていた。扉の外には、従者の一人――鬼怒川が静かに立っている。

 

「待たせたな凛。動いた分だけ、朝食をしっかり食べねばな。ところで何の話をしていたのだ?」

 

「ふふふ。秘密」

 

 紋白は意味深に笑う凛を放置し、隣にいたクラウディオにたずねる。彼女はどうやら彼の扱いに慣れてきたようだ。

 

「クラウ爺、なんの話をしていたのだ?」

 

「揚羽様へのお礼をしたいと凛が申しておりまして、その都合がつく時間に紋様もお呼びして茶会を開きたいと。京都で一番の金平糖を持参するそうです」

 

 落ち着いた様子で答えるクラウディオに、凛は肩を落とす。

 

「クラウディオさん……俺が秘密にした意味がないです」

 

「ほほう。凛、姉上は金平糖マニアゆえ、金平糖にはうるさいぞ。どこの物を用意するのだ?」

 

 紋白は興味が湧いたようで、凛の顔を覗き込んだ。彼は少し口をとがらせながらも答えていく。

 

「せっかく驚かせようと思ったのに……青寿庵清水のものだよ。究極の赤ワインの金平糖って言われてるものを用意しようかと。あと俺や紋白が食べられるよう5種の金平糖の詰め合わせかな」

 

 それを聞いた紋白が目を見開いた。

 

「まさか!? あれか! 今年発売される予定になっているもので、予約でいっぱいだと聞いているぞ! 姉上は発売が決まったとき海外におり、予約が遅れて半年は待たなければならないと嘆いておられたのだ。手に入るのか!?」

 

「予約しておいたんだ。俺のばあちゃんは菓子類、特に和菓子に精通しているからな。青寿庵の方が次の商品を作ると聞いて、すぐに予約を取り付けたんだ。その発送ももう始まってるから、多分届いているんじゃないかな?」

 

「おお。あそこの金平糖は我も食したことがあるが、未だにその味を覚えているぞ。ぜひ姉上にお知らせせねば!」

 

 紋白の笑顔がさらに輝いていく。

 

「紋白落ち着け。それにこれは秘密だ。当日にびっくりさせるんだよ」

 

「しかし、きっとこれを聞いた姉上は大層お喜びになられるぞ。我はその顔が見たいのだ」

 

 紋白は揚羽の喜ぶ顔を想像しているのか、テンション高く凛に詰め寄った。彼もその様子を見ているとそれもいいかと流されそうになったが、そこにクラウディオから声がかかる。

 

「紋様、まだ揚羽様のご予定も調整ができておりません。今しばらく辛抱されてはいかがですか?」

 

「う、うーむ。それも、そうか……確かにまだ準備が整ったわけではないものな。……少々はしゃぎすぎた。どうも凛の前では気が緩んでしまう」

 

「嬉しい一言だ。別に俺といるときぐらい、はしゃいだってかまわないだろう? そりゃ」

 

 紋白が眉間にシワを寄せているのを見て、凛が彼女をヒョイッと抱えあげた。

 

「おお! 今までと世界が違って見えるわ! って馬鹿者!! 今しがた、はしゃぎすぎなのを戒めたばかりなのだぞ」

 

「ははは。俺と一緒にいるときに、クールな紋白でいれると思うな。それにそろそろ時間だ。俺かなりおなか減ってる」

 

「では、朝食をとりに参りましょう。一つ上の階へ移動しますよ」

 

 クラウディオはそう言うと2人を先導するため歩き出した。鬼怒川がそれに気づき、扉を開けてくれる。その後ろを凛と抱えあげられたままの紋白がついていった。

 

「凛、もう降ろしてくれて構わないぞ」

 

「ん? 気に入らなかったか?」

 

「そうではないが、凛がしんどいであろう?」

 

「揚羽さんも言ってたろ? 紋白は羽のように軽いって。俺にとっても変わらないよ。それよりご飯なんだろうな? 前の朝食もおいしかったから楽しみだ」

 

 平気だという言葉といつもと変わらぬ足運びなのがわかったのか、紋白もそれ以上は問わず、いつもより高い視点の光景を楽しむことにしたようだった。そのまま、笑顔で凛に別の話題を振る。

 

「凛のお腹は我慢できずに鳴いておるしな」

 

「あれ? 聞こえたか? 喋ってごまかそうとしたのに」

 

「フハハハ。なかなか可愛いらしい音であるな」

 

 2人は、仲良く会話しながら階段を上っていく。そして階段を上がりきり、扉が開けられると、朝食のいい香りが漂ってきた。今日もまた平凡な、されど騒がしい1日が始まる。

 そして場所は変わって2-Fの教室前。多くの生徒はもうすでに登校しており、廊下など思い思いの場所で、共通の話題を取り上げ盛り上がっている。凛は、そんな彼らに挨拶しながら、教室前に到着した。少し遅めの到着だったが、時間に余裕があったのは紋白の車に同乗して、学園まで送ってもらったからだった。そのまま、教室の扉を開ける。

 

「――――くださいワン」

 

「ワンコがついに、語尾にワンをつけるようになってしまった。みんなおはよう」

 

 凛は、少し涙目の一子とSッ気のある笑顔を浮かべる京という朝から奇妙な場面に出くわす。クリスはその横でやれやれといった様子で見守っていた。

 

「ち、違うわよ! 凛。これは――――」

 

 どうやら一子は燕が参加した朝の鍛錬が厳しく、宿題をやってきていなかったらしい。そこで京にお願いをしていたという。

 

「ワンコ……なぜ昨日の夜にやらんのだ」

 

「えへへへ」

 

 凛の突っ込みに笑ってごまかす一子。その様子に京とクリスはため息をついた。しかし、そこに話を聞いていた大和から嬉しい一言が舞い込んでくる。

 

「朝から鍛錬大変なんだな。皆強いはずだ。俺も何かしらの形で応援してあげたいよ」

 

「じゃあ大和は明日の宿題を……」

 

 一子の願いも、京の言葉に遮られる。

 

「お父さん、甘やかさないでくださいね」

 

「わかってる。試験前の勉強なら付き合うよワンコ」

 

 現実はそう甘くはなかった。一子の甘えは、いとも簡単に2人の絶妙な連携によって塞がれる。そんな現実に彼女はうなだれながら、京に宿題をうつさせてもらいに席に戻る。クリスもそれについていった。なんだかんだ言っても、面倒見の良い彼女たちである。

 それを見送った大和が凛に声をかけた。

 

「そういや凛はトレーニングに行ったまま、帰ってこなかったな? 朝は食べたのか?」

 

「トレーニングのついでに食べてきた」

 

「そうか。……ていうか、凛からいつもと違う匂いがする」

 

 そう言いながら大和が凛の右肩あたりに顔を近づけ、クンクンと鼻をきかす。京は自分の席から黙ってその様子を観察していた。

 凛はそれをしっかりと確認していたが、大和は匂いが何か気になるようで気づいていない。

 

「あれ? どこかで嗅いだことのある匂いの気がする」

 

「別に何でもいいだろ。というか、京の怪しい視線が飛んできてるぞ大和」

 

「うお! すまん。なんか気になっただけだ」

 

 京とばっちり目が合った大和は、急いで凛と距離をとった。

 

「続けてくれて構わないのに……」

 

 京の一言に、一子とクリスが首を傾げるのだった。

 そこに梅子が入ってきて、生徒達は一斉に席についていく。騒いでいると、教育的指導の餌食となることを生徒達は知っているからだ。委員長である真与の号令とともに、HRが始まる。

 その後始まった授業は、一子の天敵である現代文に始まり、これまた天敵である数学で終わる。

 そして放課後。凛は一人で廊下を歩いていると、見知った気配がこちらに近づいてくるのを察知した。それは、なかなかのスピードで接近してくる。

 

「凛はっけーん」

 

「おっといつかと同じ展開。どうしたんですか? モモ先輩」

 

 いつものように百代が凛の背中にへばりつく。

 最近では、凛が百代に抱きつかれようと気にしない生徒も増えてきていた。慣れというものは凄い。それでも、男子生徒は羨ましそうな視線を飛ばしていたが。

 

「燕も大和もいないから探してたんだ。そしたら不思議なことに凛を見つけた」

 

「と言いつつも、本当は俺が目当ての可愛いモモ先輩であった」

 

「どうだろうな?」

 

 百代はいたずらっぽく笑う。

 

「否定しないのは俺としても嬉しいな。それじゃあ、いつかの如くツバメ探しに行きますか」

 

「おー!」

 

 百代は元気よく返事はするが、凛の背中から離れない。

 

「というか今、大和の傍に燕姉いるみたいだ」

 

「ん? あー確かにいる? いや私は微妙に確信が持てないな」

 

 百代は気を探っているが、燕のそれはどうも掴みにくいようだった。むむっと眉間に軽くシワをよせている。

 

「燕姉は気配隠して移動するからな」

 

「まぁいいや。2人一緒なら、そのまま一網打尽だ! 行くぞ凛」

 

「了解! って移動するの俺だけじゃん!」

 

 百代は腕に力を込め駄々をこねる。

 

「今は凛にひっつきたい気分なんだー。私を連れて行ってくれー」

 

「困った先輩だ」

 

 凛はため息を一つつき、ズリズリと移動を開始する。

 廊下を進み、角を曲がり、階段を上ったところで、ようやく大和と燕がいる階へと到着した。目の前の曲がり角を曲がれば彼らがいるのだが、そのまま角からそっと覗く怪しい凛と百代。もちろん燕に気づかれぬよう、気はかなり抑えてある。

 

「モモ先輩。なんかあなたの弟さん、餌付けされてますよ」

 

「おまえの姉がそうさせてるんだろ」

 

「嬉しそうに食べる大和を激写」

 

 凛は楽しそうにマイカメラを取り出し、シャッターを切った。その画像を2人で確認し、またそっと覗く。

 

「だらしなくゆるんだ顔してますぜ。モモの姉御」

 

「誰が姉御だ。しかし弟にも困ったものだ」

 

 嘆息する百代。

 

「モモ先輩も人のこと言えないけどね」

 

 凛は今だひっついたままの百代に言葉を返す。廊下を通る下級生は、納豆をアーンする2人に驚き、さらに角を曲がると密着した2人がいるのに再び驚いていた。

 生徒たちのリアクションをよそに、凛たちが見つめる先――大和と燕のもとに、小雪と冬馬が現れる。

 先にそれを発見した凛が口を開いた。

 

「あれ? 小雪が泣きながら走っていった。何があったんだ?」

 

「ましゅまろの中に納豆でも入れられたんじゃないか? なんでも入れたがるしな」

 

 百代は経験済みなのか、少し苦い顔をする。それに凛が頷づいた。

 

「十分ありうる。というか、絶対おいしくないだろ」

 

「うわ。想像してしまった。口の中がねちゃねちゃするぞ」

 

「ちょ! モモ先輩がそんな事言うから俺も想像した。うぇー」

 

 凛は顔をしかめながら、即座にポケットを漁り、ガムを取り出して食べた。それに気づいた百代は催促する。

 

「あ。私にもくれ。何味だ?」

 

「ピーチソルベ」

 

「CMで今やってるウォー○―リングか。しかも私の好きな桃。わかってるな凛」

 

「たまたまね。はい」

 

 凛が後ろを見ずにガムを差し出す。しかし百代は受け取らない。何事かと彼は後ろを振り向いた。

 

「今、手がふさがってる。食べさせてくれ」

 

「俺に抱きついてるからでしょ。仕方ないな」

 

「文句を言いながらも世話を焼いてくれるお前が好きだぞ」

 

「ほい」

 

 凛は、イタズラ半分でガムの先端を自分で銜えて、百代の方に顔を向けた。どうやら彼女がどういう反応をするか見たいようだ。

 そんな凛を百代は鼻で笑い、躊躇なく顔を寄せる。

 

「このくらい、もうなんともない。ありがとな」

 

 そう言いながら、百代はひょいっと口でガムをついばむ。そのまま平然とガムの味を楽しむ彼女に、凛が廊下にいる2人を確認しつつ話しかけた。

 

「間接キスだ」

 

「そうだな」

 

「反応が普通だ。もっとおもしろい反応してくれるかと思った」

 

 凛は残念そうに百代の顔を見る。

 

「おい、そんなこと言ってる間に、おまえの姉が葵に言い寄ってるぞ」

 

 百代が両手で凛の顔を廊下の方へ向けさせた。

 

「ほんとだ。……て後ろの手にパンフレット持ってるから営業だ」

 

「なんだよー営業かよー。……というか、また餌付けの続きやりだした」

 

「あの2人も好きだねー。そろそろ行きます? 十分おもしろいもの見れたし」

 

「そうだな。大和いじりにいくか」

 

 そうして、凛は百代にひっつかれたまま飛び出した。人一人を抱えているにも関らず、その重さを全く感じさせない動きで、大和に向かって突撃する。彼は全然気づいていない。燕は2人の姿を確認し、やっぱりいたかと納得の表情だった。

 

「「あーんじゃないだろ。全くお前はー」」

 

 2人で打ち合わせたセリフを一緒に吐きながら、凛が体ごとドーンと大和に体当たりをした。体重2人分の衝撃が彼を襲う。よろける彼は、壁にあたって何とか体勢を立て直した。

 

「おふぅ。……凛! それに姉さんも」

 

「なに燕姉に餌付けされてるんだ大和。こんなだらしない顔して! お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えはありません」

 

 凛が撮った写真を提示して、涙を拭う仕草をとった。

 

「な!? いつ写真を!? しかも誰がお兄ちゃんか!」

 

 大和は写真を消そうと手を伸ばすが、その手は空をきった。ニヤニヤしながら、凛と百代はそんな彼をいじる。

 そこに燕がまじってきた。

 

「あらら、怒られちゃったね。それと凛ちゃん、あとでその写真ちょうだい」

 

「いいよ」

 

 気軽に返事する凛の後ろにへばりつく百代を見ながら、燕は言葉を続ける。大和は、いじられる格好の材料を与えてしまったことにうなだれていた。

 

「にしても、そっちも楽しそうにしてるじゃない?」

 

「燕が私の弟にちょっかいかけてるんだから、お相子だ」

 

 百代は、凛をぎゅっと抱きしめた。そんな彼女に燕はニヤリと笑う。

 

「フフフ。弟交換しちゃう?」

 

 その提案に一瞬目をつむり考える百代。燕はその隙を逃さず、窓の桟に手をかけ、戸惑う素振りもみせず飛び降りていった。

 

「モモ先輩行っちゃいましたよ」

 

 百代は凛の言葉で意識を燕に向けるも、そこにあったのは大和の食べ掛けカップ納豆だけだった。

 凛がその納豆を手にとって、大和へ渡す。

 

「仕方ない。残った大和を金曜集会でイジりましょうか。モモ先輩」

 

「そうだな。逃げてしまったものは仕方ない」

 

「嫌なところを一番見られたくない2人に見られた」

 

 がっくりと深いため息をついた大和を連れ、3人は秘密基地へと向かう。

 校舎は夕日に照らされ、遠くからは部活の掛け声が聞こえてくる。6月も中旬、日はだいぶ長くなっていた。

 


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