真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

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『N極とS極』

 小雪の誕生日が過ぎた翌日。ファミリーが揃って、変態橋を通っていると、後ろから機嫌の良い声が飛んできた。

 

「ウェーーイ!」

 

 小雪はそのまま凛の背中へとダイブ。もちろん彼は平然とそれを受けとめた。

 

「おはよう、小雪」

 

「ケーキ凄かったよ、リンリン! こうね……甘くて、イチゴがフワフワで、僕そっくりで……とにかくありがとうなのだ」

 

 小雪はギュッと凛を抱きしめた。

 

「気に入ってもらえたならよかった。それで、そろそろ離れてくれると嬉しい。周りからの視線が穏やかじゃなくなってきてる……」

 

 その言葉を聞き入れたのか、小雪はヒラリと飛びのき、大和にくっついていた京のもとへと向かった。

 それに気づいた京が、小雪へ話しかける。

 

「調子どう?」

 

「ぼちぼちでんな~。プレゼントありがとう」

 

「いえいえ。あれで男を手玉にとれるよ」

 

「僕にできるかな~?」

 

 そこへ隣にいた大和からツッコミ。

 

「京! おまえ小雪に一体何をプレゼントしたんだ!?」

 

「いくら大和のお願いでも、それは言えない。でも……どうしても知りたいって言うなら、寮に帰った後たっぷりと教えてあげる。その体に」

 

「小雪、帰ったらまずそのプレゼントを封印しなさい」

 

「あはは。そんなことしないよー。あれは全部僕の宝物だから。大和も他のみんなもありがとう」

 

 小雪は幼い頃、一時ファミリーの特別ゲストとして過ごしており、冬馬たちと一緒に過ごすようになってからも、ときどきこうやって親交を深めている。そして、誕生日当日には、ファミリーのそれぞれがプレゼントを贈ったのだった。

 そこへ冬馬と準が現れる。

 

「おはようございます、皆さん」

 

「おいーす。ユキがいきなり走り出したから、何事かと思ったが……凛、ケーキ旨かったぞ」

 

「おはよう。それは何より。……で、冬馬はなぜに俺に近づく?」

 

 凛と冬馬の距離は拳一つ分くらいになっていた。

 

「いえ、凛君は私に犬耳をつけていたので、言外に犬となれと言っていたのでしょう? なので近寄れば、頭の一つでも撫でてくれるかと期待したのですが……」

 

「冬馬の頭の中も一回覗く必要があるな……」

 

「頭だけなどと、遠慮しなくても結構ですよ」

 

 そのやりとりに、敏感に反応する少女が一人。

 

「犬プレイとはマニアック!? でも……朝から妄想が加速するんだ!」

 

 そして、もう一人ロリコニア建国を夢見る男も――。

 

「凛! 何度言わせるつもりだ!? そっちの世界へ踏み込んだが最後……二度と我らの聖域に入ること許さんぞ!」

 

「朝から変態密度が凄いことになってる。あと……我らって、いつの間にか俺加えられてるな」

 

 そんな変態に囲まれる一方、岳人は小雪へ向かって両腕を広げていた。

 

「小雪、なんなら俺様の胸に飛び込んできてもいいぜ。いつでもウェルカム!」

 

「あ、チョウチョだ。待って~。準、頭から蜜だして、それ捕って」

 

「俺様より蝶々か……なんで凛ばっかりオイシイ目に遭うんだ!? 凛ちょっと集合! 俺様にも菓子の作り方を伝授してくれ」

 

 その隣にいた卓也はつぶやく。

 

「岳人もブレないねぇ」

 

 賑やかな会話は教室に着くまで続く。

 

 

 ◇

 

 

 それから、穏やかな日々が過ぎていく。ただし凛以外。

 場所は九鬼のジム。ようやく空が明るくなり始めた時間に、凛の姿はあった。その隣にいるのはクラウディオ――ではなくヒューム。紋白はいない。

 

「ぐっ……」

 

「どうした? この程度か?」

 

 ヒュームは、構えなおす凛へと声をかけた。彼の鍛錬が始まって、もう9日が経過していた。

朝は5時に起きジムへ出向き、クラウディオによって組まれたメニューをこなしたのち、ヒュームとの組み手を行い、学校が終われば、その日言い渡されていたメニューをこなす。

 放課後はヒュームやクラウディオがいないときも多かったが、そのときは彼らが独自に雇った専属がつく徹底ぶりだった。しかし、それは凛の鍛錬後の肉体をケアする意味合いが強く、鍛錬中は集中しすぎて、やりすぎないためのストッパー的な役割を果たしていた。

 こうなった事の発端は、7月2日の鍛錬で、ヒュームが放った一言だった。

 

「1ヵ月後……勝負の場が用意される」

 

 遂に、百代との全力を尽くした戦いが、実現することになったのだ。

 そこから始まった過酷な鍛錬。ヒュームには何やら考えがあるらしく、出来る限り、凛との組み手をする時間を作っていた。そして、全てのメニューの中で一番キツいのが、この組み手である。

 全幅の信頼をよせる師に、凛は特に疑問をもつことはなかった。何より、戦うべき相手が明確になったからだ。短い期間でさえ無駄にはできなかった。相手は――世界に名を轟かす武神。熱が入りすぎることもしばしばあった。

 凛の1日は物凄いスピードで過ぎていく。テストも近づく中、授業は睡魔との闘いでもあった。意識が落ちそうになったのも、1度や2度ではない。それでも何とか耐える。

 ヒュームはもう何度言ったかわからないセリフを口にした。

 

「研ぎ澄ませ――」

 

 組み手は8分を越えたところだった。

 

 

 □

 

 

 授業を何とか乗り越えた凛は、百代とともに秘密基地へやってきていた。テスト前、最後の金曜集会だ。今日は放課後の鍛錬が休みで、明日からまた別メニューが待っている。

 2人は定位置に座り、何気ない会話を交わして、他の皆が来るのを待っていた。

 久々のゆったりとした雰囲気。暑さが和らいだ夕方の気温。背後の開け放たれた窓から入ってくる風、そして百代の楽しそうな声、その全てが心地よく、凛の瞼は遂に限界を迎える。

 

「――でな、燕がそのとき」

 

 百代はそこで言葉を切った。なぜなら、彼女の左肩に重みを感じたからだ。そして、聞こえてくる規則正しい寝息。

 

「おーい……凛?」

 

 百代の問いかけにも、全く反応がない。ただ寝息だけが聞こえてくる。

 

「お前一体どれだけ扱かれてるんだ?」

 

 最近、凛の帰りが遅いことなどを大和から聞いていた百代は、一人つぶやいた。

 凛は体勢が悪いのか、眉を少ししかめる。そのまま、もぞもぞと体を動かすと、最も寝やすい姿勢をとった。すなわち、寝転んだのである。枕はこの世に唯一つしかない百代の太もも。眉間によっていたシワもなくなっている。腕はソファから投げ出し、頭はかろうじてスカートの上に乗っかっていた。

 

「おまえは最高の幸せ者だぞ。なんせ、この美少女に膝枕してもらってるんだからな」

 

 そう言って、百代は凛の頭へと手を添える。柔らかな銀髪がサラリと指をすり抜けていった。彼はそれを払うことなく、幸せそうに眠ったままだ。時折、軽く身じろぐため、彼女は少し横にずれて、彼を楽な姿勢にしてやった。

 

「燕の奴……防御なんか全然固くないぞ。むしろなんでもやり放題だ」

 

 凛の頬を人差し指でツンツンつつくと、彼の表情が少しゆがむ。百代はそこで手を止めて微笑んだ。そしてまた頭を撫でると、穏やかな顔に戻る。彼女の心は不思議な感情に包まれていた。

 

「でも確かに眠っていると猫のようだな。いつもは凛々しくて、時々いたずらっぽい笑みを浮かべて、でも瞳の奥は激しく、今は可愛い寝顔…………なんだろ? 少しドキドキする」

 

 百代は自分の心臓を確かめるように、左手を胸へとあてた。そして、右手で凛の頬を優しく撫でる。彼はそれが心地いいのか、微笑みを浮かべていた。それを見た彼女も自然と表情がゆるんでしまう。

 まだ、秘密基地に人が来るような様子はない。いつもは騒々しい空間が、2人だけのものとなっていた。カーテンが風でゆらゆらと揺れている。彼の呼吸音が聞こえるほど静かだった。

 百代は、誰にも聞かせることのない思いを眠る凛に語る。

 

「私を一人にしない、叩きのめす……か。対等な男なんて、今までいなかったからな。ふふ。嬉しかったぞ。そして何より楽しみにしてる。でも、そんなセリフを言う男が私の膝で眠っている。今まで女の子に似たようなことをしたり、されたりしてきたけど、そのどれとも違う……」

 

 百代は梳くように凛の頭をゆっくりと撫でる。

 

「胸が締め付けられるようで、でもそれが心地よくて……もっと続けばいいと思ってる。戦闘をしてるときの突き抜けるような快感はない。その代わり、じんわりと染み渡るような温かい気持ちになるんだ。なぁ凛、これはお前だからか?」

 

 もっと触れたい。その気持ちに従って、百代は凛の投げ出された手を握る。それと同時に、鼓動は早くなる。握った手を、今度はゆっくり指を絡めていった。自分とは全く違う。大きな手に、骨ばった固い指。一本一本確かめると、所々に小さな傷があるのがわかった。そのくせ、綺麗なつめ先はスラリと長い。

 凛に聞こえてしまうのではないか。そう思えるほど、胸は大きく高鳴っている。

 

「……ッ!」

 

 突如、百代は体を硬直させた。凛が無意識に握り返してきたからだ。その結果、俗に言う――恋人握りでつながる2人。

 深呼吸を繰り返し、一旦落ち着く百代。そして、自分の方からも少し力を込めてキュッと握る。

 

「起きてる……とかないよな?」

 

 聞かずにはいられない。もし起きていたら――そう考えると、百代の頬に朱がさす。しかし、いつもの快活さ溢れる声は一向に聞こえてこなかった。その間も手は握られたままだ。それを意識すると、また鼓動が跳ね上がった。

 ファンの女の子たちが自分に言ってくる現象――それが百代自身に起こっている。彼女は意外と冷静にそれを受け止めていた。ああ、ようやくわかった、といった感じである。

 その気持ちに気づくと、それはさらに膨らんでいった。

 

「そうか。私は凛に……でも今はまだ――――」

 

 百代は、凛の顔へ当たらないように、片方の耳に自身の長い黒髪をかけると、そのままゆっくりと顔を落としていく。そして、次に顔をあげたときには、今まで誰にも見せたことのない柔らかい笑みだった。その頬は、夕日に照らされる以上に、しっかりと染め上がっている。

 

 この日、彼女だけの秘密ができた――。

 

 

 ◇

 

 

 凛はゆっくりと瞼を開く。風景はぼんやりとしていた。

 ――――うわ。俺寝てたのか……何してたんだっけ? 全然意識なかった。こんなことヒュームさん知られたら……というか、寝心地が最高だ。この枕欲しい。

 そして、最初に瞳に映る百代の優しげな表情。彼女も気づいたようで、すぐに表情を引き締めた。凛の意識は一気に覚醒し、飛び起きる。

 

「すいません! モモ先輩! 重くなかったですか? 起こしてくれれば。スカートがシワに、しかも膝枕……ひざまくら……ありがとうございます!」

 

 凛はしどろもどろになりながら、そのまま立ち上がると、90度のお辞儀。さすが、礼儀作法が身に染み付いているのか、姿勢のよいビシッとしたものだった。

 ――――あ、危なかった。もう少しで手触りを確かめてしまうところだった。

 百代は突然の凛の行動に唖然とするが、次第に笑いがこみ上げてくる。

 

「美少女の膝枕はお安くないんだぞ。あとで何か奢ってくれ」

 

「えっと……学食10回ぐらいですか?」

 

「なんか変に生々しい数字を出してくるな。それでいいなら、私は構わないぞ」

 

「ごめんなさい。葛餅パフェくらいで勘弁してください」

 

 凛は素直に頭を下げた。

 それから30分もしないうちに、ファミリー全員が揃う。相変わらず、駄弁るだけだったが、テストも近いということで、いつもより早い時間にお開きとなった。

 

 

 □

 

 

 テストは、週の初めから末にかけて行われる。

 そのテストの折り返しとなる中間日。凛はたまたま廊下で会った冬馬と話をしていた。ほとんどが準か小雪の話だったが、破天荒な生徒ばかりの川神学園であり、その中でも取り分け濃いキャラである。当然のことながら、話は弾む。

 廊下には、凛たちの他にも数名がいたが、いつもと比べると断然人は少なかった。最後のあがきか、それとも前のテストの答えを確かめているのか。

 そのとき、凛が窓の外にある人の姿を見つける。

 

「あ、モモ先輩だ……」

 

 それを見ていた凛だが、冬馬からの視線が気になり、百代から目を離す。

 

「なんだ、冬馬? 俺の顔に何かついてるか?」

 

「いえ、そういうわけではないのですが……少し妬いていたんです」

 

 その言葉の意味がわからない凛は首をかしげる。その反応に、冬馬は少し意外そうだった。

 

「おや? ……凛君はご自分で気づいておられないんですか?」

 

「何にだ?」

 

「そうですか……いえ、少し意外でした。そういうお気持ちには鋭そうだったので、それともご自分の事だからでしょうか。あなたのことが少しわかってよかったです」

 

 凛は困った様子で冬馬を見た。

 ――――意味がわからない……。

 冬馬はクスクスと笑うと、また話し出す。しかし、その声は2人以外には聞こえないくらいに小さい。

 

「あなたがモモ先輩を見つめる顔は、私に熱い視線を送ってくれる方達とよく似ているということです」

 

 その言葉に凛は固まった。

 

「えっと……それはつまり……俺があれか? まじでか?」

 

 凛も自然と声が小さくなる。気配すらも入念にチェックした。他の生徒に聞かれると、厄介なことになりかねないからだ。

 冬馬は楽しそうに言葉を返す。

 

「小雪がお世話になってるあなたに、嘘はつきませんよ。それに、これでも恋多き男なので、見間違えるはずありません。もちろん、凛君も射程に入っているのでご安心ください」

 

「最後の言葉は全然ご安心できない。いや……そりゃ一緒にいて楽しいとか、可愛いとか、もっと色んな顔を見てみたいとか、いろいろ思うけど……」

 

「そういう気持ちを全部ひっくるめると、一つの単語で表すことができると思いませんか?」

 

 ちょっとした恋愛相談へと発展していた。

 凛は腕を組んで悩み始める。冬馬はそれを見て、何か閃いたようだ。さらに言葉を続ける。しかし、それは小声ではなく耳打ちだった。

 

「そうそう。公にはなっていませんが、実はモモ先輩には婚約者がいるんです」

 

 それを聞いて、一瞬呆然とする凛。しかし、そのあとの反応は早かった。冬馬の両肩を掴んで、真顔で問い詰める。

 

「えっ!? そんな話聞いたことなかったぞ。誰だ? 冬馬。それ誰だ!?」

 

「冗談です」

 

「ジョー・ダン!? アメリカ人か……ゲイツ先生とかの知り合いか!? いつそんな話になったんだ!?」

 

「いえですから、冗談ですよ。凛君」

 

「だからジョー・ダン! ん? ……じょーだん……冗談。もしかして……からかったのか?」

 

 凛はゆっくりと冬馬の肩を離すと、額を押さえ天井を仰いだ。そして、口から大きな、それはもう大きなため息がもれる。

 冬馬は微笑みを絶やさない。

 

「凛君も中々からかい甲斐がありますね。最も、特定の分野に限っての話ですが……そろそろ時間です。敵に塩を送る形になってしまいましたが、私ならいつでも待っていますから」

 

「ちなみに、敵って誰のことだ?」

 

「分かっているのでしょう? それではお互いテスト頑張りましょう」

 

 冬馬はそう言って、凛に背を向け歩き出した。しかし、途中で立ち止まって振り向く。

 

「先ほどのことは内密にしておくので、ご安心ください」

 

「よろしく頼むよ」

 

 冬馬が姿を消したあと、凛は窓の外に先ほどの人物がいないか探す。しかし、もうどこかに行ってしまったようだ。

 ――――俺がモモ先輩をねぇ……恋かぁ。モモ先輩って誰か好きな人いたりするのか? うわっ誰かいると思うと、少しへこむ。そんな事考えたこともなかった。大和とか、普通にありえそうだし。

 

「あーどうしよう」

 

 その問いに同意の声があがった。

 

「わかるぜ~その気持ち。テストとかなくなればいいよな。でもよ、これ乗り越えれば、暑い夏の始まりだ! 可愛い女の子もいっぱいだし、アダルトな夏を過ごせるよう頑張ろうぜ!」

 

 凛がそちらへ顔を向けると、マッスルポーズを決めた岳人がいた。スマイルもバッチリだ。

 

「アダルトな夏ねぇ……岳人は具体的にどうするつもりなんだ?」

 

「そりゃお前、まずはナンパだろ! 女どもも夏を過ごせるパートナーを捜し求めている! そこへ颯爽と現れる俺様『お嬢さん、俺様と一緒にコーシーでもどうですか?』てな具合で、さりげなく声をかける――」

 

 そこへ卓也がまじってくる。

 

「それで『ごめんなさい』って言われて終わるんだよね。去年と何も変わってないじゃない」

 

「ふっふっふ。モロはわかってねぇなぁ。今年は凛も連れて行くんだよ! あれだ! 凛はエサだな」

 

 本人を目の前に堂々と宣言する岳人。

 いつの間にか、他のファミリーも集まってきていた。クリスが口を開く。

 

「それでは凛が全てを持っていくのではないか?」

 

 京もそれに同意する。

 

「間違いない。というか、凛をそんなことに使おうとしたら、岳人はこの学園から抹殺されるかもよ。ファンたちに」

 

「おいおい、怖いこと言うな。凛! いや凛様、仏様。頼む! 1日でいい! 俺様にチャンスをくれ!!」

 

 岳人は両手を合わせて、凛を拝む。

 

「まぁ1日中はキツそうだから……2,3時間なら別に構わないぞ。でも、俺が声をかけたりはしないからな」

 

「心の友よ~! それで構わない。でも会話くらいはしてくれよ。んで、いい感じのところでハケてくれたらいい。報酬はプロテイン10袋でどうだ?」

 

「いや別になんもいらん。2,3時間のことだし」

 

 闘志を燃やす岳人をよそに、一子の声がファミリーの耳へ届く。

 

「あうー次は数学だわ……簡単な問題がでますように。簡単な問題がでますように」

 

 こちらはこちらで数学の教科書へ祈りを捧げていた。そんな一子を励ましながら、席へとついていく。

 Fクラスに集中しているファミリーだが、早めからの勉強がそれなりに功を奏したのか、岳人と一子は赤点を回避できそうだった。他のメンバーはというと、大和と京はペンが止まらないといった様子、凛とクリスも余裕、卓也は悩みながらも着実に解いていき、翔一はひらめきを信じ、選択問題で分からないところはペンを転がしていた。それが当たっているかどうかは、週明けに分かる。

 それぞれの秘めた思いが交錯する――夏休みはすぐそこまで迫っていた。

 


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