真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

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『幸せな日常』

 

 朝の仲見世通り。

 店の開店準備をする住人が、その合間に会話を交わしていた。

 

「そう言えば聞きました? 百代ちゃんのこと」

「もちろん。夜のデートでしょ? 孝子さんが見た限りじゃ、初々しい様子で、見てるこっちが恥ずかしくなってきちゃったとか」

「いいわねぇ……私の高校生時代を思い出すわ」

 

 軒先に植えられた朝顔が、色とりどりの綺麗な花を咲かせている。花弁が水滴を弾き、朝日に照らされてキラキラと輝いていた。

 

「相手の子は、確か麗子さんとこの寮で――」

「夏目凛くんよ! テレビで散々名前出てるじゃない!」

「わかってるわよ。男前よねぇ……この間、うちの店にも寄ってくれたんだけど、礼儀正しいし、爽やかだし、私年甲斐もなくドキッとしちゃったわ」

「なーに言ってんの。別にあんたが特別ってわけでもないんだから……」

「あら……別にいいじゃない。若さを保つには、こういうトキメキが大事なのよ?」

 

 そんな様子で、盛り上がる2人の前を百代が元気よく通り過ぎる。川神学園では、今日が登校日に設定されていたため、彼女が登校しているのも別段おかしくない。しかし、彼女の態度は一目瞭然――鼻歌でも歌いそうなほど機嫌がいい。黒髪が楽しげに揺れ、自然と微笑む彼女はまさに美少女だった。住人たちの多くもまず目を見張り、そしてその姿を追う。恋する乙女はそれほどに人を変え、美しく見せるらしい。

 ちなみに、一子は朝からバイトに出ているため、この場にいない。

 

「おはようございまーす」

 

 声は一段と弾んでいる。

 彼女らの目が獲物――百代を捕えた。

 

「「おはよう、百代ちゃん。……ちょっとこっちに」」

「はい? どうしたんですか?」

 

 いつも世話になっている人らに呼び止められては、百代も止まらないわけにはいかない。手招きに応じて、彼女は近づいていく。

 

「いやぁ……百代ちゃん、遂に彼氏できたって聞いたから、おばさん達気になっちゃって」

「え!? あ、はい」

「で……どうなの?」

「どうなの……とは?」

 

 グイグイ迫ってくるおばちゃん達に、百代は一歩後ずさった。武神すらも圧倒するパワーが、そこにはあった。

 右のおばちゃん――正子が問う。

 

「どこまでいったの?」

「ええ!? どこまでって、私達まだ付き合って数日ですよ……」

「またまたぁ……ちゅーくらいはしちゃった?」

「な、なんでそんな事、報告しなきゃならないんですか!?」

 

 百代はその単語に反応した。直後の凛の柔らかく微笑む顔が甦り、自分でも頬に熱を帯びたのがわかる。

 これはしてるな。おばちゃんたちは確信した。

 左のおばちゃん――真理子が加わる。

 

「百代ちゃん、私たちは百代ちゃんがこんなに小さな頃から見てきたのよ――」

 

 そう言って、真理子は親指と人差し指で、えんどう豆くらいのサイズを表し、言葉を続ける。「それ、まだ私生まれてないじゃないですか」という百代のツッコミは無視である。

 

「仲良くやれているか、私たちは心配なのよ」

「その割には、顔が楽しそうなんですけど……」

「それは気のせいよ。ほほほほ」

 

 真理子は口元に手を持っていって、上品に笑った――というか、誤魔化した。正子が続きを引き取る。

 

「でも、百代ちゃんのこんな姿が見られるなんて、私なんだか嬉しいわ」

「こんな姿?」

「そうよ。百代ちゃん、せっかく美人なのに、女の子を連れてるか、大和君振り回してるかのどちらかだったでしょう? 一時は大和君が彼氏候補なのかと思ってたぐらいなんだから」

「大和はただの弟です。私の彼氏は凛だけ」

 

 百代ははっきりと口にした。

 しかし、その言葉がおばちゃん’sを色めき立たせ、さらなる追及が飛んでくる。真理子が問う。

 

「で、凛君のどこが好きなの?」

「え? いや、どこって……」

「ほら、何かあるでしょ! あっ……優しい所とかなしよ。そんなの私達も知ってるから」

「えぇー……」

 

 百代はしばし考え込む。その間も、おばちゃん2人はワクワクした様子を隠しきれていない。穴があくのではないかと思えるほどに見つめている。

 そして、彼女は答える。

 

「……ぜ、全部……?」

 

 余程恥ずかしかったのか、その顔は先ほどより赤くなっていた。

 

「私ももう一度高校生に戻りたいわ」

「同感ね。私も言いたいわ。『全部好き』とか……」

 

 おばちゃん達は百代の答えが意外だったようで、半ば呆然としながら呟いた。片手は頬に当てられ、昔を思い出しているようだ。

 

「わ、私そろそろ学校行かなきゃならないから! それじゃあ」

 

 百代は、そう言い残すと慌ててその場をあとにした。後ろからは、彼女の名を呼ぶ声が響き、通りの住人は何事かとそちらに顔を向ける。

 

「凛君と仲良くねー!」

「今度一緒に遊びに来るのよ!」

 

 仲見世通りは、朝から賑やかだった。

 

 

 ◇

 

 

 一方、ファミリーは河川沿いを歩きながら、駄弁っていた。その傍らでは、蝉がミンミンと力強く鳴いている。雲は一つとして見当たらず、真っ青な空は今日も暑くなることを予感させた。しかし、朝の青空はそんなことも忘れさせてくれるほど、澄み切っていて綺麗である。

 そんな中、岳人は、夏休みに学校へ行かなければならないことに憤慨していた。卓也もそれに賛同らしく、苦笑いを浮かべている。

 

「なんで夏休みなのに、勉強しなきゃなんねぇんだ」

「多くの生徒は岳人と同じ気持ちかもな。それにしても、川神学園って勉学も結構熱心なんだよな……」

 

 凛が岳人の隣を歩きながら、相槌をうった。

 彼らの前を歩く大和が振り返る。その横には当然京。

 

「確かにそうかもな。今日みたいに登校日が何日か設定してあるし、一応、夏休み中は補習が組まれてて、意欲のある奴は好きな授業を受けられるしな。S組の多くはほぼ毎日学校行ってるし」

「まぁゲイツ先生とゲイル先生の授業受けられるのは、ラッキーだよな。普通なら、そう簡単には受けられないし」

「だな……凛はどっち受けるんだ?」

「俺はゲイル先生かな。あとでゲイツ先生のも受けるけど」

「じゃあ俺と一緒だな――」

 

 凛と大和以外のメンバーは、2-Fで大人しくやり過ごすらしい。京も一緒に行きたがったが、ゲイルの授業が2-Sで行われることを知ってやめたのだ。

 そんな一行もとに、空から飛んでくる影がひとつ。

 

「天から恋人登場―!」

 

 百代だ。

 そんな彼女をこともなげにキャッチし、凛は地面に降ろす。そこで、彼女は朝一のスキンシップ――抱擁をかわした。

 周りに人気がなければ、更に熱いスキンシップをとったであろうが、生憎ファミリーがいる。自重したようだ。

 クリスが暑さに辟易としながら、喋りだす。

 

「ただでさえ暑いんだから、あまりベタつかないでくれー」

 

 岳人もそれに声を大にして賛成している。彼はただ単に羨ましいからであろう。

 2人はそんな声を気にしつつも、朝の挨拶を交わし、ようやく離れたところで百代が口を開く。

 

「悪いな、クリ。でもこれはやめられない……代わりといったらなんだが」

 

 そう言うなり、百代はクリスの頬に両手を当てた。直後に、彼女の手から靄があふれ出す。それは、まるで取り出したばかりのドライアイスのようだった。

 同時に、クリスが反射的に叫んだ。

 

「冷たッ!」

「どうだ? さっきの暑さとでチャラになったか?」

 

 叫んだのは一瞬で、すぐにそれに慣れたクリスは、百代で涼をとる。どうやら、彼女が自身の気で冷気を生み出しているらしい。

 

「もう少し……モモ先輩、そのまま首筋を冷やして欲しい」

「ここか……ここがいいのか、クリ――」

 

 百代は笑みを浮かべながら、クリスの首筋まで撫でるように手を動かす。それに合わせて、彼女から気持ち良さそうな声が漏れた。

 

「ほら……どうだ? ハッキリと言って……って、あん」

 

 興が乗ってきた百代の襟が、後ろから引っ張られた。そんなことができるのは、ただ一人だけだ。

 

「気が多いのは知ってますけど、そんな無駄なことに使わないの。あと、岳人が怪しい視線を送ってるから、終わり」

「相変わらず、やることが半端ねぇぜ」

 

 岳人が慌てて自己弁護する横で、松風が百代に対する感想を述べた。

 クリスは涼がなくなったことに不満そうだったが、結局聞き入れられなかった。

 その後、一子と寝坊のため遅れてやってきた翔一が加わり、より一層賑やかになるファミリー。

 そして、訪れるは変態橋――。

 

「「ようやく来たか! 川神百代! そして夏目凛! 我等、レイト兄弟のお相手をしてもらおうか!!」」

 

 変態橋は今日も平常運転である。

 一人は2メートルに迫ろうかという長身痩躯の長髪男。もう一人は160cm程度の体に、これでもかと筋肉をつけたスキンヘッドの男。

 そんな2人が橋の中央に立っていた。見た目が互いを思い切り目立たせている。周りにはいつものように、学園に通う生徒たちが野次馬と化していた。しかも、彼らの盛り上がりが一段と凄い。おそらく、タッグマッチの熱がまだ冷めていないからだろう。

 翔一が、暑さを微塵も感じさせない元気さで喋りだす。

 

「おーおー、早速挑戦者のお出ましかぁ。しかも、タッグで来るなんて、凛とモモ先輩にはお誂え向きじゃん」

「でも、あのスキンの方は汗かきすぎじゃない?」

 

 卓也がゲンナリした様子で呟いた。確かにスキンヘッドの男は、太陽の光をこれでもかと反射させるほど汗をかいている。それが顔を流れ落ち、着込んでいる白のタンクトップに浸み込んでいた。タンクトップは、汗を吸いすぎて体に引っ付いている。

 凛と百代はファミリーを離れ、前へ進み出た。同時に彼女が呟く。

 

「あれは暑苦しいな、氷付けにしてやりたくなる」

「だったら、あの体に触れないとダメですね」

「それは無理だ。……凛は私が他の男に触れても平気か?」

「戦闘とか仕方がない場面も多いから、我慢はするけど……ちょっとヤキモチ、かな?」

 

 凛は百代を見ながら、白い歯を見せて笑った。彼女は彼の腕にたまらず抱きつく。ファミリーにとってはため息しか出ないが、野次馬たちはその行動にざわついた。2人がまるで恋人のように見えるからだ。これまで以上の親密さが、その行動一つで感じられた。

 

「ふふん。……安心しろ。私はどっちが来ても、指弾で終わらす」

 

 百代は自身の右手を目の前に持ってくると、指を軽く曲げた。しかし、いつものように指を鳴らすことはない。

 ――――見るたびに思うけど、綺麗な手だな。

 手は白魚のように白く、爪先はスラリとしている。キメが整い、思わず触りたくなるような魅力があった。

 

「俺はきっちり相手しようかな? 実力をちゃんと見せておいた方が良さそうだし」

「気にしすぎじゃないか? というか、こういう相手って九鬼がちゃんと整理してくれるって聞いてたんだが……」

 

 百代は凛から目を離すと、挑戦者へと向けた。その間も彼女はちゃっかり腕を組んだままだ。彼の右腕には柔らかい感触があり、神経の大半がそちらへ向かっているのだが、これは男として仕方がないことだろう。

 スキンヘッドの男が怒鳴る。

 

「お前ら! これから勝負しようっていうときにイチャついてんじゃねぇぞ! 見せ付けてんのか!? あぁん! 見せ付けてんだろ!?」

 

 凛がそれに冷静に答える。怒鳴り声にびくつくような玉ではない。

 

「いえ……それより、挑戦者の方は学校が終わってから、順次お相手する手はずになっているはずなんですが、何かお聞きになっていませんか?」

「んなもん知らねえよ! お前らを倒すのは我等が一番でなければならない。順番なんて守ってられるか!」

 

 あとで確認したところ、彼らの順番はかなり後だとわかる。このスキンの男はそれが我慢ならなかったらしい。

 

「九鬼家の方が取り仕切るものを破るのですか?」

「九鬼家がなんぼのもんじゃい!」

 

 スキンの男はかなり興奮している。これは、目の前の凛たちのせいでもあるようだ。

 ――――あとが怖いと思うけどなぁ。まさか……見せしめとして、この人達を泳がせた……とか?

 九鬼が彼らを野放しにするとは考えられない。その可能性は十分ある。

 

「そろそろ始めるぞぉ!!」

 

 スキンの男は痺れを切らしたのか、掛け声と共に、一直線に凛に向かってくる。同時に、彼の隣にいた長髪の男も駆け出す。

 百代が囁いた。

 

「ノッポはまかせろ」

「了解」

 

 凛は言葉を残し、地面を蹴った。一足で距離を詰めると、右足で地面を強く踏みしめる。そこからは何千、何万と繰り返した動作へと、体が勝手に移っていく。その流れるような動きは、貴婦人のような気品すら感じさせた。

 男が気づいたときには、凛が半身の姿勢で左足を振り上げていた。男は防御どころか、自身のスピードを緩めることもままならない。先ほどまで、あんなに暑かったにも関らず、背筋がゾクリと冷えた。しかし、どうすることもできない。

 こちらとあちらでは、時を刻む速度が全く違うように思えた。

 そして、吸い込まれるようにして、左足の甲が男の首の付け根に食い込む。筋肉など無意味と言わんばかりの一撃――体を引きちぎられるようだった。

 男は白目を剥き、大量の汗を撒き散らしながら、多馬川に突っ込んでいった。それはまるでボール。地面の上を跳ねるかの如く、上流に向かって水面を切っていく。その勢いが収まることはない。結局、緩やかにうねる川からはずれ、土手から土煙があがった。

 間をおかずして、縦に長い男――百代の相手も一本の棒切れのように、川へダイブ。指弾に弾かれた衝撃で、橋から落下したらしい。

 凛の後ろから百代の声が響く。

 

「やっぱり、凛の戦う姿は良いな。少し見蕩れてしまったぞ。さすが私の彼氏だ」

 

 それが、百代の攻撃がワンテンポ遅れた理由だった。

 そして、さっきまで騒いでいた野次馬は、彼女の最後の一言を聞くや否や、皆口を閉ざす。

 一瞬の沈黙――。

 蝉の鳴き声と車の走り去る音が、はっきりと聞こえる。

 嵐の前の静けさ。観客の一人であった大和は、そんなことを思いながら、このあと起こることに備えて両手でしっかりと耳を塞いだ。隣では京、由紀江が同じようにしている。

 

「李さーん、すいませんが、後の処理はおまかせしてもいいですか?」

 

 そこに響いたのは、凛の爽やかな声だった。どうやら、この大勢いる中で気配を感じ取ったらしい。

 しかし、それを切欠とした野次馬の怒号が橋を揺らす。

 

「おかんが言うとったことホンマやったああぁぁーー!!」

「嘘だあああぁぁ……げほっごほ」

「また夏目か! またか! またなのか!」

「信じないぞ! 俺は信じない! 例え、今目の前で2人がイチャイチャしてようと……ちくしょうおお!」

「もしかしたら、モモ先輩は俺のことが好きなんじゃないかと夢想していた時間返せ!!」

「モモ先輩に告白しようか悶々と悩んでいた時間返せ!!」

「天界戦記デスガイアでレベルカンスト目指していた時間返せ!!」

「こうなったら決闘!……はやめて。今日はやけ食いじゃあぁぁ!」

「わかってた! いつかこんな日が来ることはわかっていたけど……モモ先輩! おめでとうございます!!」

「誰かあぁ! 川神水を持参せい! 今日は飲むぞお!!」

「無礼講じゃあぁぁ! ラグビー部全員召集!」

「あ、母さん? 噂どうやら事実らしいです。うん。それじゃ。……モモ先輩を彼女にするって豪語した翌日にこれかよ!!」 

「「先輩方、おめでとうございます!!」」

「薄々そうなるんじゃないかと思ってた! 爆発しろ!」

「俺も飲みに付き合うぞ!! 夏目! モモ先輩泣かせるなよ!!」

「くぅ……この幸せ者があぁ! 祝ってやるよコンチクショウ!」

「モモ先輩と凛のファンに告ぐ! ここに寂しい男が一人いる! 彼女募集中だコノヤロー!」

「ここにもいるぞー!!」

「俺様もいるぞー!!」

「なんだよぅお前ら楽しそうだな……じゃあ俺もいるぞー!!」

「朔ちゃんもいるぞー!!」

「ヒャッハー!」

 

 もはや大騒ぎだった。その中心にいるのは凛と百代。2人の笑顔は、まるで向日葵のように燦燦と輝いている。

 大和がそれを遠巻きに見守っていると、隣から京の声が聞こえる。

 

「相変わらず、すごい人気だね」

「予想はできてたけどね。そして、なぜ腕を絡めてくる」

「大和のことが好きだから」

 

 何度も聞いた言葉である。しかし、大和は口ごもった。この騒ぎのせいか、あるいは幸せそうな2人を見ているせいか、気持ちが高ぶっている。そこにきての静かな、それでいて気持ちの篭った告白。まるで、2人だけの世界に入ったように、周りの音が遠ざかった。

 簡単に言えば、グッときたというやつだ。

 

「その言葉はさすがに聞き流せないな――」

 

 そこへ別の声が乱入してくる。大和が慌てて振り返ると、そこには燕がいた。

 

「ごめんね、京ちゃん」

「いえ……先輩がいるのわかってやってますから」

 

 京はかなりの手ごたえを感じたのか、余裕綽々といった感じだ。

 その言葉に燕は、「ふふふ」と楽しそうな笑顔を浮かべる。

 大和はその間で、また別世界に迷い込んだ気がした。しかも、体の芯から冷えるような寒気を感じる。彼は一歩もそこから動くことができない。

 そんな3人の様子を見ていた凛が、百代に問う。

 

「あのまましておいていいのかな?」

「酷くならない限りは放っておいてもいいだろ。そもそもの原因は大和の発言でもあるしな」

「それはそうなんだけど……」

「大和もモテる男になって、お姉ちゃんは鼻が高いぞ」

「当の本人は、借りてきた猫のように大人しくなってるけど?」

「むむ? ……そういえば、大和はあれで流されやすいトコもあったな」

「余計に心配になってきた!」

 

 結局、騒ぎは学園に着いても収まらず、当分の間、生徒たちの注目の的となりそうだった。

 

 

 □

 

 

 凛と大和はファミリーと分かれて、2-Sの教室へ入る。

 さすがにS組は、学園のビッグカップル誕生にも興味がないようだった。一部を除いて。

 

「おい! 凛! 聞いたぞ! お前、モモ先輩と付き合うことになったんだってな!? ロリコニアどうすんだよ!」

 

 準が凛を見つけるなり、迫った。

 

「まるで2人の約束だったみたいに言うな! 誤解されるだろ!」

「なんだよ、なんだよ……今日は不死川もいねえし。紋様も見つけられなかったし、ついてねえな。委員長見に行くか……いやでもな――」

 

 準はブツブツ呟きながら、席へと戻っていった。

 変わりに、冬馬と小雪が近寄ってくる。お互いに挨拶を交わしたところで、彼が話題を振ってくる。

 

「凛君、おめでとうございます。ようやく思いが遂げられたようですね」

「ありがとう。正直、冬馬のおかげ……とも言えるから、本当に感謝してる」

「私もどういたしまして……と心から言いたいところですが、私の凛君がモモ先輩にとられて、心中複雑です」

 

 冬馬はサラリと爆弾を落としてくる。

 

「ということは、冬馬はモモ先輩と戦争すると?」

「冗談です。私は愛人の位置で我慢しておきましょう」

「この子、一体どこまで本気なの!?」

 

 凛は、相変わらず微笑みを浮かべたままの冬馬に、底知れない何かを感じ取った。その後、登校してきた源氏コンビを含め、喋っているうちにゲイツが教室に現れ、授業が開始される。

 ――――なんか濃い1週間だったなぁ……。

 凛はゲイツの声を聞きながら、ふとそんなことを思った。

 黒板の上を走るチョークの音が、教室内で木霊する。凛は授業を受けることで、祭りが終わって、日常に戻ってきたような気がした。そのとき、携帯が震える。

 

 

 08/05 09:02

 From:川神百代

 To:夏目凛

 Title:無題

 

 今日一緒にお昼ご飯食べるぞ(^_-)-☆

 早く会いたいにゃん♡

 

 

 休み時間に、凛は改めて恋人の存在を実感することになる――。

 




書きたいことが溢れてきます。
おばちゃんとか勝手に出しちゃいました。
モブさんのセリフ書くの楽しすぎる。
ペースが保てているのは、凛と百代のおかげに違いないです。

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