真剣で私に恋しなさい!-きみとぼくとの約束-   作:chemi

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『決意表明』

 

 旅行から戻った凛は、その翌日、百代とともにある場所を訪ねるため、金柳街を歩いていた。

 

「――でな、ジジイが私のおでこ触るなり、『ふむ、熱はないようじゃな?』だぞ! 失礼すぎるだろ!」

「お土産買って帰ったのが、そんなに珍しかったってこと?」

「いや、酒とかグラスとか、まともな物だったからだと思う。今までだと提灯とかペナントですませてたからな……」

「なるほど……それじゃ驚いても仕方ないんじゃない? でもまぁ、喜んでくれたんでしょ?」

「うん……でもなぁ、なんか釈然としないんだよなー」

 

 そうこうしていると、目的の場所へと着いた。

 扉の前に立つと、ガラス板が反応して右へとずれる。

 

「らっしゃせー」

 

 同時に、渋い声が彼らを迎えてくれた。釈迦堂である。昼には少し早い時間のため、店内はがらんとしている。

 釈迦堂は2人の顔を見るなり、ニヤッと笑って、態度をくずした。

 

「おう。久しぶりだな……豚丼でも食いに来たのか?」

「お久しぶりです、釈迦堂さん。まぁそれもあるんですけど……」

 

 そう言いながら、凛は釈迦堂の正面に腰掛け、百代がその隣に座る。

 凛に続いて、百代がドヤ顔で少し大き目の袋を持ち上げる。

 

「ふふん。釈迦堂さん、美少女であるこの私が、わざわざお土産を買ってきてあげました」

 

 それをカウンターに置くと、中にガラス製品が入ってるのか、固い音が鳴った。

 

「百代が土産だと……!? お前、頭でも打ったのか?」

「なっ!? ジジイと同じ反応だ! いくらなんでも失礼でしょ!」

「いや……お前のこれまでを見てきた結果だ。だがまぁ、ありがたく受け取っておくぜ。とろろ、奢ってやるよ」

 

 百代はぶつぶつと文句を垂れ、その横で、凛は肩を震わせていた。

 そして、袋の中を見た釈迦堂が驚きの声をあげる。

 

「うおっ泡盛じゃねーか! こっちはなんだ?」

 

 袋の中にあった小ぶりの箱を持ち上げた。

 百代がじとっとした目つきでそれを見る。

 

「あーそれワンコが買ったグラス。もう一つは、おつまみです」

「中でも、ぶたりめっていう豚のスモークしたものが、かなり美味しいですよ。味付けも濃いめで、お酒にもぴったりだと思います」

「へぇー気が利いてるな……百代、なんか欲しいもんでもあんのか?」

 

 釈迦堂はグラスを取り出すと、店内の照明に透かすようにして観察した。フォルムは四角い底から口元へ伸びるに従って滑らかな流線形となっており、加えて、下から中ほどにかけて揺らぎと気泡がはじけ、その様子は岸壁に打ち寄せる波のように美しい。

 百代が遂に吠える。

 

「それはワンコが買ったって言ったでしょう! まぁ釈迦堂さんがどうしても私に……って聞いてます? 釈迦堂さん、聞いてますか!?」

「ん? おう、わりぃわりぃ。……で、これなんで二つあるんだ?」

 

 釈迦堂は、百代の言葉を無視して、もう一つのグラスを持った。いじける彼女の代わりに、凛が答えようとする。

 

「あーそれがですね……」

 

 しかし、凛は言い辛そうに目をキョロキョロさせる。そこへ、復活した百代が声を張った。

 

「ネタはあがっています! 釈迦堂さん、最近ちょくちょく綺麗なお姉さんがやってくるそうじゃないですか。しかも! 仲良さそうに歩いてるとこも目撃されたとかされてないとか!」

 

 ――――どっちなんだ?

 さらに百代は続ける。

 

「羨ましいです……なんで私に紹介してくれないんですか!?」

「こらっ!」

 

 凛はたまらずチョップをおとした。「はうっ」と可愛らしい声をだす百代。

 そこからは凛が引き受ける。

 

「まぁ、そういうことを聞いたワンコが、せっかくだからとペアのグラスを買ったというわけです」

「あーなるほどな……」

 

 釈迦堂がガシガシと後頭部をかいた。百代はそんな彼から目を離さず、どんなリアクションをとるのかと興味津津である。

 沈黙がおり、釈迦堂が再び喋り出す。

 

「まぁ……ワンコには礼言っといてくれや」

「わかりました」

「ということは、やっぱりおばちゃん達の情報は間違ってなかったんですね! どんな人なんですか!? 綺麗系ですか!? 可愛い系ですか!?」

 

 百代がこういう情報を知るようになったのは、彼女が凛と付き合いだしてから、近所のおばちゃん達に昔以上に絡まれるようになったからだった。彼女たちは、このことを我が子のことのように喜んでおり、懇意にしている八百屋などからは、妻からそれを聞いた亭主が「これは祝いだ」と、百代の好物である桃を贈ってくれたりして、このような事例も一件だけではなかった。これには、鉄心も苦笑をもらさずにはいられなかったらしい。

 同時に、恋人ができただけでこれであるため、この先に結婚、子供の誕生などが続いた際、一体どうなるのか少し怖いくらいであった。特に、結婚や子供ともなれば、凛に関係する関西、遠く離れたヨーロッパからも祝言に加えて贈り物がなされることは、想像に難くない。

 百代が瞳をキラキラさせながら、釈迦堂に詰め寄る。彼はうっとおしそうに「うるせえな……それ以上聞くとマジでペケが作れねえ髪型にすんぞ、百代」と、ドスのきいた声で唸った。ついでに、バキバキッと手を鳴らす。

 百代はすぐに身を引いて、ついでに立ちあがった。

 

「うわっ! 怒った! 今日のところは退散だ、凛!」

「えっ! ……ちょっと百代!?」

 

 さっさと店内を出て行ってしまった百代を凛は追いかけようする。その背後から釈迦堂の声がかかった。

 

「おい、凛」

「はい?」

「あー……なんだ、その……あいつも悪い奴じゃねえからよ。一つ、よろしく頼むわ」

 

 釈迦堂は、凛と百代が付き合っていることを既に知っている――というよりも、川神に住んでいる者のほとんどが知っていた。なんだかんだ言いつつ、彼も弟子であった彼女が気がかりであったらしい。

 

「もちろんです。また今度、ワンコも連れて食べにきます」

「おう。そんときは豚丼奢ってやるよ」

「ありがとうございます」

 

 そんな会話を交わしていると、中々来ない凛の様子を見に、百代が戻ってきた。自動ドアのところから顔をだす。

 

「おーい、行くぞ凛。……あと釈迦堂さん、今後結婚するつもりなら、その綺麗なお姉さんと仲良くしないとダメですよ」

「そのペチャクチャと余計なことをほざく口、二度ときけねえようにしてやろうか?」

「2対1で勝てると思ってるんですか?」

 

 百代が強気にでた。

 ――――ん? いつの間にか、俺が百代陣営についている。

 釈迦堂が凛に声をかける。

 

「凛、その生意気な元弟子を捕まえてろ」

「いいですよ」

 

 凛はそれに乗って、百代の腕を軽く掴んだ。それに焦ったのは彼女だった。

 

「うわっ! 凛、お前は私の彼氏だろ? なんで釈迦堂さんの味方するんだ!? ……って、釈迦堂さん! 店員が持ち場離れたらダメですよ! お客さん来ますから!」

 

 そこでようやく凛の腕を振り切ると、百代はまた姿を隠した。彼もそれに合わせて、釈迦堂へ会釈し梅屋をあとにする。

 その傍ら、凛は出口がある場所とは反対側の隅に、花が活けられているのを見つけた。梅屋には少し似つかわしくない、血を思い起こさせるほど鮮やかな赤いハイビスカス。

 ――――ハイ・ブラッディ。普通のハイビスカスの中にあって、ごく僅かに咲くことがある特異な花か……。

 釈迦堂の趣味で活けられているとは考えにくいため、他の誰かが飾ったはずである。凛も百代の気にしていた『綺麗なお姉さん』に興味が湧いた。

 ――――釈迦堂さんには悪いけど、俺もいつか会ってみたいな。

 外はまた一段と気温が上がっており、ムッとした風が凛の頬を撫でた。彼の姿が出てきたのを確認した百代が、彼の名を呼ぶ。店番をしているおばちゃんが、それを微笑ましく見守っていた。また今度、彼女はおばちゃんたちに可愛がられることになるだろう。

 

 

 ◇

 

 

 それから数日経ったある日。凛は九鬼の極東本部を訪れていた。その目的は2つ――紋白らにお土産を手渡すこと、報告することがあったからだ。

 凛から話したいことがあると聞いた紋白は、応接間へと彼を通した。その部屋も窓が大きくとられているため明るい。黒の革張りのソファが向かい合って設置されており、その間に木目の美しい赤茶のローズウッドのテーブル、壁には風景画が飾られている――その脇には葉の大きい観葉植物。

 凛と紋白がソファへと腰を下ろし、ヒュームとクラウディオが彼女の後ろに立った。そこで手土産を渡し、早速本題へと入る。

 

「それで……凛の話したいこととはなんなのだ?」

 

 紋白が切り出した。

 凛はそこで立ちあがって、徐に口を開き――。

 

「はい、今日は依然から頂いていたオファーを受けたいと思い、その旨を伝えるために参りました。……高校卒業と同時に、私を九鬼家従者の末席に加えていただけないでしょうか?」

 

 頭を下げた。この事は、百代以外にはまだ誰にも話していないことである。

 

「ほ、本当か!? 凛!」

 

 紋白の顔がパァッと明るくなった。出会った当初から、彼女は凛に九鬼へ来てほしいと願っていたので、その喜びも一入のようだ。

 凛もつられて笑みをこぼす。

 

「うん。俺も会いたい人に会えたし、目的も果たすことができた。これも色んな縁がつながったからだと思う……だから、俺はそれを大事にしたい。正直、九鬼財閥に力を貸すってのはピンとこないけど、紋白を中心に英雄や揚羽さんの力になれるなら俺も嬉しいし、何よりヒュームさんやクラウディオさんへの恩返しにもなる」

 

 凛は紋白をはさんで立っている2人を見た。ヒュームは表情を変えることはなかったが、クラウディオは優しく微笑んでいた。

 

「そうかそうか! 我はすっごく嬉しいぞ! ……あ、だがしかし、わざわざ従者にならなくとも、凛は先日行われた大会の優勝者として、重役待遇が約束されているのだぞ?」

「確かに。でもそうなると、揚羽さんのように、武道から距離を置かなければならなくなるだろ? 俺はできれば、そうなることを避けたいんだ。独りにしたくない人がいるし、超えたい人もいるから……となると、従者になるのが一番いいと思ったんだ」

「そうか…………うむ、凛の気持ちはよくわかった。我に異存はない。ヒュームとクラウディオはどうだ?」

 

 紋白は後ろを振り向いた。

 ヒュームが先に喋り出す。

 

「私にも異存はありません。最初から、そのつもりで凛を鍛えてきましたので」

「私もヒュームと同意見です。ゆくゆくは世代交代も行われなければなりません。凛のように若き力の持ち主が加わることで、私たちも安心して後進に譲ることができましょう」

 

 2人の言葉を聞いた紋白は朗らかに笑う。

 

「フハハハハー。従者部隊零番と3番にこうも期待されるとは、凛もこれから大変だな! もちろん、我もその力には大いに期待している!」

「ああ、頑張るよ。従者になると決めたからには、いつかはやっぱり……零番を直々に譲り受けたいと思うし」

 

 ヒュームの凄味を増す。しかし、凛がそれに怯えることはない。むしろ、そんな彼と真っ向から目を合わせる。

 傍から見ると、凛はほぼヒュームと同身長であり、加えて銀髪と金髪ということもあって、向かい合うと竜虎の対立のように見応えがあった。

 刹那の沈黙を経て、ヒュームがニヤリと口角を釣り上げる。

 

「その心意気は買ってやろう。お前の力がどこまで通用するのか、試してみるといい」

「お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 凛も無邪気に笑顔をみせた。そこへクラウディオが割って入ってくる。

 

「2人とも、紋様の前だということを忘れないようにしてください」

「良い良い。ところで――」

 

 そこからは、凛の残り1年半の過ごし方について話し合われ、結論がでたところで、紋白は習い事へと向かい、彼はこれからヒュームが行うという特訓に参加することになった。

 先のこととは言え、従者に加わることが決まった凛の顔見せの意味合いもあった。

 

 

 ◇

 

 

 場所は、前に凛が早朝に使用させてもらっていたジム。その地下は広大な空間となっており、数十組が同時に組手を行うことができるほどに広い。そこへ降りるためのエレベーターから見下ろすと、ジャージに身を包んだ従者たちがトレーニングに励んでいた。

 凛は隣で静かにそれを見るヒュームへ声をかける。

 

「いきなり参加してもいいんですか?」

「問題ない。これからの時間は俺に一任されている。年齢は全員お前より上だが、全て若手だ……顔を見ておいて損はないだろう」

「わかりました。ヒュームさんの指導を受けられるなら、迷惑がかからない限り、俺は場所にこだわりません」

「久々に、昔を思い出させてやろう……」

 

 凛はその言葉に悪寒を感じた。夏だというのに、妙に体が冷える。

加えて、凛が強くなりたいと願い、「磨くからには一から徹底的に行う」と言われた次の日、ヒュームが吐いた言葉を鮮明に思い出した。ただし、そのときは「地獄を見る覚悟はできているな?」だったが――。

 凛の声が自然と震える。

 

「の、望むところです! 俺も昔とは違いますからね!」

「それは行動で示せ。最後まで立っていられると思うなよ」

 

 ヒュームはそう言い残すと、先にエレベーターを降りていく。

 ――――や……やるしかない。若干トラウマになっているかもしれないが、ポジティブにいこう。今日を乗り越えれば、俺はトラウマを克服したことになる。

 

「寮に帰れば、可愛い彼女が俺のためにご飯を作って待ってるんだ。倒れるわけにはいかない……よしっ!!」

 

 凛は自分に喝を入れ、ヒュームのあとを追った。

 そして、ヒュームが姿を現した瞬間、従者たちの空気が一変する。それまでも、彼らはさぼっていたわけでない。ただ、若手からしてみれば、ヒュームは世界最強の名を冠し、当然それは部隊最強につながり、存在するだけで他を圧倒してしまう威圧感をもつ男であるため、そこには畏敬、憧れといった感情があるらしい。そういったものが、このピリッとした緊張感を生んでいた。皆が静まり返り、すぐにヒュームが立ち止った前に整列し、背筋を伸ばす。

 その中にはステイシーや李の姿も見え、どうやら若手の中でもより番号の小さい精鋭のようだった。人数は15名ほどである。桐山の姿はなかった。

 そんな従者たちを前に、ヒュームが軽く経緯を説明したのち、凛が口を開く。

 

「初めまして、今日の鍛錬に参加させていただきます。夏目凛です。よろしくお願いします」

「早速始めるぞ――」

 

 地獄の門が開け放たれる。

 

 

 □

 

 

「や……やってやった! 乗り切ったぞ……」

 

 凛は壁を支えにして、更衣室を目指していた。その足は小鹿のようにプルプルと震え、一歩一歩の足取りは驚くほどに遅い。ちなみに、この状態の10分前は起きる上がる体力さえなかった。よって、昔との違いを見せつけることはできていないが、それもそのはず――ヒュームは、クラウディオの取ったデータを元に、そのメニューを前前から作り上げていたのだ。基礎の向上によって、まだまだ伸びるとわかっていた。

 ついでに、従者は強さを評価する上での一項目として、同じメニューが実施された。もちろん、彼らにはその理由を明かされてはいない。ついていけなくなった者、あるいはヒュームが判断してストップをかける者から外されていった。

 凛を除いて、最後まで残ったのがステイシー。李も顔色変えずに残っていたのだが、ヒュームがストップをかけた瞬間に、地面へと倒れこんだ。

 ステイシーの言を借りるならば――。

 

『エ……エグすぎ、る……ゴホッゲホッッ、ッ!』

 

 他の従者たちも、凛の力の一端を知った気がした。

 

 

 ◇

 

 

 更衣室で休憩をとった凛は、なんとか普通に歩行可能になっていた。そして、紋白の習い事がまだ続いていると聞いて、従者である鬼怒川に言伝を頼み、彼は本部を去ろうとする。

 その途中、前から歩いてくる一行があった。その中で、凛に見覚えがあるのは桐山ぐらいである。

 その桐山が声をかけてきた。いつもと同じニコニコとした笑顔である。

 

「これはこれは……夏目凛くんじゃないですか? お一人ですか?」

「はい。先ほど紋白の所に寄って、今から帰るところです」

「そうですか……そういえば、夏目くんはミス・マープルとソフィアさんに会うのは初めてでしょう」

 

 そう言うと、桐山は凛に手のひらをかざしながら、さらに言葉を続ける。

 

「こちらがあの夏目凛くんです」

 

 ――――あの?

 凛は自身の名の前につけられた単語が気になったが、自己紹介をする。

 

「初めまして、川神学園2-Fの夏目凛です。よろしくお願いします」

「噂はかねがね聞いてるよ。私はマープル……皆はミス・マープルなんて呼ぶが、気軽にマープルさんとでも呼んどくれ」

 

 ――――俺はこの人をどこかで見たことがある気がする。

 目の前に立つ勝気そうな老人を見て、凛は思った。しかし、記憶を辿って行っても、すぐに思い浮かばない。

 続いて、ソフィア――黒のショートカットに、暗緑色の瞳。女性ながら、メイド服ではなく燕尾服を身につける。身長は175と高く、胸は標準、年齢は30を超えているが、それを感じさせない――が、凛に向かってずいっと近寄る。

 

「私は序列11番のアナスタシア・ソフィア。よろしくね~凛くん。ちなみに、ミス・マープルは2番。裏では何やってるかわからない、おっかない人だから気をつけるんだよ」

「バカなこと言ってんじゃないよ、まったく。それじゃboy、私もこれで中々忙しい身でね。会って早々で悪いが、お別れさせてもらうよ」

 

 マープルの言葉に、凛ははっとして道をあけた。「ありがとさん」そう言って、彼女は従者の2人を連れて、歩いていく。途中、ソフィアが振り返ってきて――。

 

「私のことはアナとかソフィーって呼んでね」

「では、ソフィーさんと呼ばせてもらいます」

 

 それを聞いたソフィアは、手をフリフリしながら、2人のあとを追っていった。

 ――――ソフィーさんの実力で11番? 戦闘能力だけなら、クラウディオさんにも劣らないほどに見えるのに……。

 事実、ソフィアの実力は一桁台でもおかしくないものの、彼女は今ぐらいがちょうどいいと固辞し続け、11番のポジションについたままであった。九鬼帝への忠誠はあるようだが、どこか飄々としている人物だった。

 ソフィアの加入の経緯は、中東で帝が仕事しているとき、たまたま商談相手の護衛をしていたのが彼女で、契約が切れたところで彼のところへ直々に売り込みをかけたのである。その実力を買っていたヒュームの助言もあり、彼女はそのまま従者の仲間入りを果たした。そして、帝の自由奔放さが彼女の性格とも合い、気づけば長い年月が経っていた。専らの仕事は飛び回る帝の護衛であったが、近頃こちらへと舞い戻り、本部勤務となっている。

 凛と別れたマープルがソフィアに話しかける。

 

「余計なこと言うんじゃないよ」

「ごめんごめん、そんな怒らないでよ。凛くん可愛いから、遂ね。あれであと10歳若かったらなぁ……あの子、従者になるって噂あるけど、本当に入ってくれないかなぁ?」

 

 先に言っておくが、ソフィアはショタコンである。凛に、どこか少年の匂いを感じたらしい。

 

「アンタ……そんな調子で九鬼の情報を漏らしてはいないだろうね?」

「まさか!? そこまで私も落ちてないよ……九鬼は楽しいしね。ここがなくなっちゃったら、私には次に行くところが思いつかないし」

「はぁ……こんな変わり者にも忠誠心を抱かせる帝様は偉大だねぇ。ところで、桐山……例の件は?」

「もちろん順調です、ミス・マープル」

 

 3人はそのままエレベーターへと乗って行く。

 凛の預かり知らぬところで、ある計画が着々と進んでいた。川神がまた騒がしくなりそうであった。

 





釈迦堂さんの純愛ロード、やられた方はいますか?
私はできなかったんです!! その悔しい思いもあって、物語と絡めてしまいました。
みなとそふと様……後生ですから、もう一度私めにチャンスを頂けないでしょうか?

あとオリキャラ一人突っ込みました。
これからの物語を考えた際、少し自由のきくキャラが必要になったからです。

ヒュームの零番も原作では永久欠番になっていますが、拙作では違うということで一つよろしくお願いします。
さぁ反乱編をガンガン書いていくぞ! 

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