ありふれ世界のボンゴレファミリー   作:グラドラル

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初陣と消失

翌日、ハジメ達はオルクス大迷宮を進んでいた。

 

 戦闘するメンバーを交代しながら一層ずつ着実に攻略していく。

 

 途中で騎士団員が、弱らせた魔物をハジメ達へ態と向かわせる事があったが、自衛に徹している内に光輝が援護に入る事が殆どで、余計な手間になるだけだと判断した。

 

 攻略は危なげなく進み、今回の目標としていた二十層へたどり着く。

 

 奥まで進めば今日の訓練は終了という事で弛緩した空気が流れるが、ハジメ達に油断はない。

 

 擬態して潜んでいる魔物がいる。

 香織の幻術に比べれば精度は格段に劣るため、その存在を見落とすことは無かった。

 

 メルドが警告した直後に擬態を解き生徒達へ向かってくる。

 

 光輝を主軸にしたメンバーは魔物の固有魔法に動きを止められ、後衛組が狙われるという出来事もあったが、メルドがフォローしいち早く回復した光輝が残りの魔物を切り捨てる。

 

 最後の魔物を仕留める際に、吹き飛ばした魔物が叩きつけられたせいか、亀裂が入り壁が崩れていく。

 

 そこにあったのは魔法陣だった。無機物などには超直感が働かないことや、戦闘直後で騎士団員のトラップ確認が間に合わず対応が遅れ、魔法の発動を許してしまう。

 

 

 一瞬の浮遊感の後には先程とは全く違う場所へ転移されていた。

 

 石造りの橋の上。その下にはそこが見えない程の奈落が広がっていた。

 

 そしてその両サイドには奥に続く通路と上階への階段。

 

 メルドが階段への撤退を指示するが、階段の前の魔法陣から骨だけで構成された魔物が大量に現れる。数百を超えて尚増え続けている。

 

 そして通路側の魔法陣からは巨大な魔物が現れる。

 

 まさか……ベヒモス……なのか……

 

 絶望を感じさせるメルドの言葉。

 

 

 

 

 それを聞いたハジメ達三人は、一切の迷い無く己の力を振るう事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 ベヒモスの姿を確認したメルドは部下へ指示を飛ばそうとした。

 

 だが咆哮を上げ突進してくるベヒモスの速度は想定以上だった。

 

 それを防げる手段があっても間に合わなければ意味がない。

 

 抗えない死が目前に迫ってくる。

 

 そう絶望したメルドの傍を何かが通りすぎた。

 

Ⅰ世のガントレット(ミテーナ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)

 

 メルドを通りすぎたハジメの右腕には、手甲が装着され拳の先に球状の炎が存在していた。

 

「ビッグバンアクセル」

 

 それで殴りつけられたベヒモスは凄まじい衝撃と共に吹っ飛んでいく。

 

 元の出現した場所まで飛ばされたベヒモスは、悲鳴のような雄たけびを上げる。

 攻撃を受け抉り飛ばされた部位を中心に、調和の炎により体が石と化していく。

 やがて全身を石に変えられたベヒモスの体は砕け散った。

 

 それに誰もが呆然としていた。

 

 こちらに迫ってくる巨大な魔物が吹っ飛んだかと思えば、魔物は石になって砕け散り、後に残っていたのは何の力も持たないはずのハジメの姿。

 グローブを身に付け額に燈色の炎を灯しているハジメ。そして彼が起こした光景に、思考が追いつかない。

 

 そんな彼らを置いてけぼりに、魔法陣からは再びベヒモスが現れる。

 

「奴の相手は俺がする。香織と雫は皆を頼む」

 

「「了解、ボス」」

 

D(デイモン)・スペードの()レンズ』

 

朝利雨月の変則四刀(あさりうげつのへんそくよんとう)

 

 香織は藍色の炎を灯したレンズを、雫は青色の炎を灯した四刀を手にしていた。

 

「まずはあっちの頭数を減らしてくるわ」

 

「そのあとは魔法陣の方もお願い。雫ちゃんの炎なら増殖速度を抑えられるから」

 

「オーケー、それじゃ行ってくるわね」

 

 三つの小刀から発した炎を推進力に、雫は骨の魔物の群れに突っ込んでいく。

 

 接敵するや、魔物は抵抗する間もなく切り伏せられていく。

 敵が密集しているにも関わらず、雫が振るう長刀がその速度を落とすことは無い。

 むしろ雨の炎の影響で相手の動きの方が鈍くなっているほどだ。

 生徒達より雫を標的として優先したのか、魔物が雫を取り囲んでいく。

 

 長刀の振るう隙を突くように、背後から襲い掛かる魔物の姿に生徒の中から悲鳴が漏れるが、雫は目を向ける事なく小刀の刀身を伸ばしそれを貫く。

 同時に雨の炎を送り込まれ、魔物は成すすべなく地に伏せる。

 

 その間にも雫は次々と敵を斬って捨てていく。そして魔法陣にたどり着くと、雨の炎を叩きつけていく。その魔法陣から湧き出てくる頻度が極端に遅くなる。

 

 やがて生徒達の方へ向かってきていた魔物の中から、雫の方へ向かってくる個体が出てきた。

 

「皆、メルドさんの指示に従って早く撤退して」

 

 それを確認した雫が指示を出す。

 ベヒモスの方はハジメによって足止めされている。生きている状態では次の個体が現れないのを見破ったハジメが、一部だけを石化させることで時間を稼いでいる。

 

 生徒達はそれを確認して階段を目指す。そんな中、魔物が雫に向かって武器を投擲するが、途中で何もない空間で弾かれる様に軌道を変える。

 

「もう相手のスペックは解析できたから」

 

 不意に香織の声が響く。

 

「あの程度なら、こっちに攻撃が届くことは無いよ」

 

 香織が不可視化した有幻覚が構築した防壁によるものだ。その言葉と目の前の光景で、生徒達から恐怖から薄まっていく。

 

 もともと冷静になれば、骨の魔物程度ならば生徒達の連携で十分に対処できるのだ。

 

 メルドの指示のもと、生徒達は階段への撤退を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 この場に残っているのはハジメ達三人だけになる。

 生徒達は十分安全圏に入っただろう。自分達も撤退を。

 

 それを行動に移そうとした時、異変が起こる。

 

 石橋に新たな魔法陣が現れた。

 

 その直後にハジメ達を脱力感が襲う。

 

 理由は、魔法陣が死ぬ気の炎を吸収しているからだ。

 

 機動力を落とされた上に炎の吸収は止まらない。

 

 やがて魔法陣が強い光を放つ。光が収まった頃にはハジメ達三人の姿はその場から消えていた。


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