MOTHERif 五人目のともだちとカブト虫   作:MOTHER4を今でも待ち望んでいる人

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最悪の隣人篇
1 謎の隕石


 

 1990年代。ノストラダムスの大予言が密かに人々の間で交わされる中、アメリカ北東部イーグルランドの田舎町、オネットは普段と変わらない静かな時が流れていた。

 西をクチバシ岬、三方は小高い丘や崖、森に囲われており、外界と唯一結ぶのは南の小さな小道だけだ。

 それ故、例え過激な終末論が社会問題になりつつあろうとも、オネットは今日もシャーク団と呼ばわれる悪童集団の問題行動が新聞の一面を飾る程度の平穏に包まれていた。

 

 やがていつものように太陽が西の海に消え、夜の帳が降りてくる。深夜も過ぎればシャーク団も流石に大人しくなり、殆どの建物から明かりが消えた。特に北部にあるオネット市街は早々に寝静まり、次の日の労働に勤しむために心身を休めていた。

 

 代わり映えの無い一日の終わり。誰もがそう思っていた。

 しかし、今日は違った。

 運命を決定づけるその日だった。

 

 星空が眩く染まる。まるで昼間のような輝きがオネットを照らし出し、次いで聞いたこともない轟音が静寂を劈いた。そしてその次の瞬間には、爆発、衝撃。街全体を揺るがすかのような振動が広がった。

 

 家々に明かりが灯る。オネット警察の911に緊急通報が殺到し、そう強くもない電話回線はパンク寸前に陥っていた。

 臨場中のパトカー全車両に指令が下され、現場付近のオネット市街はかつてないほどの喧騒に包まれ始めていた。

 

 

 

「今の音は……?」

 

 一人の少年がベッドの上で身を起こした。彼の名前はネス。オネット市街に住む野球好きの少年だ。部屋にはお気に入りの野球選手や球団のポスターが貼られているが、衝撃の影響なのか剥がれ落ちてしまっているものもあった。

 寝癖のついた黒髪を掻きながら、ベッドから足を下ろして部屋の外に出る。

 

「あ、お兄ちゃんも今の音で目が覚めちゃったの? 凄い音で怖かったね」

 

 どうやら妹のトレーシーも目を覚ましたようで、同じように寝間着姿で自室のドアから顔を出していた。

 ネスとは異なり、母親譲りの金髪が良く目立つ。

 

「何の音だろう。何かが爆発したのかな?」

「うーん、でもこの辺はそんな物騒なものはないしなぁ。あー、目が覚めちゃったよ。このまま夜更かししようかなっ。お兄ちゃんはどうするの?」

「うん、少し見てこようかなって」

 

 真夜中に外に出るなんて、ネスにとっては未知の体験だ。隣の悪友、ポーキーなら毎度のようにうろついているようだが、母親からも禁止されている以上、出ようと思ったことすらない。

 だが今回は別だ。あの音の正体を調べないでベッドに戻れるほど、ネスは斜に構えた子供ではない。

 

「気を付けてね、最近夜になると野犬や蛇が出るっていうから。あ、そうだ! 私の部屋にボロいバットがあるから、使っていいよ! もういらないから持っていってね」

 

 一度部屋に引っ込んだトレーシーは、薄汚れた木製のバットを持って戻ってきた。ネスはそれを受け取ると、軽く回してみる。いつも草野球で使っている金属バットに比べれば頼りないが、素手よりはマシだろう。

 

「ありがとう、行ってくるよ」

 

 お礼を告げ、ネスは階段を下りて一階のリビングに出る。すると既にネスの母親が寝巻の上にガウンを羽織り、ブラインドの隙間から外の様子を窺っていた。

 

「あら、ネスも起きたのね。なーんだったのかしら、あの音! 外は野次馬だけじゃなくて、パトカーや消防車でいっぱいよ。でもネス、あなたちっとも怖がってないわね?」

「ま、まあね……」

 

 寝間着姿でトレーシーから貰ったボロのバットを持つネスを見て、母親は見透かしたように笑う。

 

「まさか外に出たいって言うんじゃないでしょうね? いつも一緒に遊んでるポーキー君の影響を受けたのかしら? ……ま、いいわ。止めても部屋を抜け出してでも行くんでしょうから、せめてちゃんと着替えてらっしゃい」

「え、いいの?」

「もちろん。でも気を付けるのよ」

「ありがとう、ママ。何が起きたのか分かったら、すぐに戻るよ」

 

 

 

 黄色とあのストライプ模様の半袖と青色の半ズボンに着替え、頭にはお気に入りの野球帽。背中にはお気に入りの小さいながらも、沢山入る黄色のリュックを背負う。

 これがネスのお気に入りスタイルだ。

 

「ふぅ……本当だ。人でいっぱい」

 

 外では警察車両の回転灯の明かりがせわしなく動き回り、顔見知りの人たちがあちこちで話し合っていた。

 

「お、ネス。お前も出て来たか。さっきの音聞いただろ? 隕石が落ちたんだってよ。すげーよな?」

「隕石?」

 

 仲のいい同級生がネスを見つけ、こちらが聞く前に事のいきさつを饒舌に語り始める。

 

「そ、隕石。まあ、そうデカくは無いだろうけどな。知ってるか? 隕石ってカケラでもめっちゃ高値がつくんだってよ。だから俺が一番に見に来たんだ! なっ、俺が一番に見に来たんだぞ……ポーキーの野郎に追い返されちまったけどな」

「ポーキーも?」

「そういやお前ら仲良かったよな。あいつも連れ戻してくれよ。俺だけ見れないなんてシャクだからさあ」

「……まあ、やってみるよ」

 

 隕石が落ちたのは市街地の裏手の小さな山だ。隕石を見に行くなら、そこでポーキーとも会えるだろう。

 ネスは同級生と別れ、山に向かって歩き始めた。

 

 

 

 道中も警察官とパトカーで封鎖されていたが、浮足立っているのか子供であるネスを見ても注意をする程度で、すぐに忙しそうに無線で話し合っていた。

 しかし、隕石の落下現場付近になるとそうはいかなくなる。規制線の黄色いテープが随所に張り巡らされ、山頂部へ続く道はバリケードと警察車両で完全に閉じられていた。

 

 野次馬達も悉く追い返されたようで、残っているのは見知った後姿の少年だけだった。

 

「ポーキー!」

 

 その丸々と太った背にネスは声をかけた。

 

「ん? なんだネスじゃないか」

 

 長く伸びた金髪が目元を隠し、その髪を押し上げるように顔の輪郭も贅肉で膨らんでいる。キッズ服では最大サイズのオーバーオールさえ彼の身体を包むには些か役不足のようだった。

 

「野次馬は警察の皆さんの邪魔になるんだぞ! ……って言いたいところだが、お前と俺の仲だからな。特別に許可してやろう。ほら、あそこ見てみろよ」

(相変わらずだ……)

 

 ポーキーとの仲は幼稚園の頃からだ。ネスが覚えている限りでは、最初の友達がポーキーだった。

 両親はオネット一の地主で、単身赴任中のネスの父親も彼らから決して少なくない借金がある。そのせいか、付き合いはお世辞にも良いとは言えないが、何故かポーキーとは馬が合っていた。

 

 一々余計な一言を口に出し、何かにつけて偉そうな態度を取るため、ネス以外の友人が一人もいないポーキーも不思議とネスには借金の事情でなじったりはせず、今日に至るまで良好な関係が続いている。

 高圧的な物言いは、ネスにも分け隔てなくするが。

 

「あの辺りに落ちたらしいぜ。オネット警察のストロング署長も来てるってよ」

 

 ポーキーが得意げに山頂を指差す。崖と生い茂る木々で見えないが、確かに木立の隙間から赤々と燃え盛る炎と煙が窺えた。

 

「このポーキー様の調べた限りじゃ、山火事の心配はないらしいな。もう少し粘れば新しい情報が出そうなんだが……」

「ネス、良いところにきた。ポーキーを何とかしてくれよ。うるさくて参ってんだ。仕事にならゃしない。お前ら友だちなんだろ?」

 

 ポーキーを遮り、警官が心底ウンザリした様子でネスに話しかける。そんな様子を見てネスも苦笑いで返す。

 

「ポーキー、そろそろ戻ろう。夜も更けてるし……」

「なんだって? 帰りたいなら一人で帰れよ。俺はもうしばらくこの謎の隕石を調べるからさ。明日また詳しく教えてやるよ」

「はぁ……」

 

 こうなったポーキーは頑固だ。テコでも動かないだろう。警察の人には申し訳ないが、体格差的にも連れて帰るのは不可能なので、ネスは肩をすくめて道を引き返すのだった。

 

 

 

 

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