魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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各話の修正が出来ていないにもかかわらず、辛抱できずに更新しました。
修正は行い続けるので、ご容赦下しあ。

*木乃香を「このか」に変更。


第九話 正史編纂委員会

 まつろわぬ毘沙門天と神殺しの戦いは、奇跡的にその被害を最小に留めていた。

 

 本来京都を容易く消し飛ばす程の広域破壊系の権能ばかり所持している筈の皐月の攻撃は、幸か不幸か全て上空で炸裂し、地上への被害は皆無。

 毘沙門天が飛ばした武具群が山を穴だらけにしていたが、まつろわぬ神と魔王の戦闘を良く知るイタリアからすれば奇跡的と呼ぶほどの被害の少なさだった。

 

 「――――――だというのにアレほどとは、いやはや薄ら寒いですねぇ」

 「アレを薄ら寒いで済ます叔父さんの感覚が恐ろしいよ。もしアレが地上で起きたら日本が世界に誇る文化財の大半が燃え尽きていただろうに」

 

 それを近衛詠春の指示で観察していた窶れたサラリーマンの様な男と、二十歳に達していないであろう美しい男装の麗人がそれぞれの恐怖を口にする。

 

 本来、日本という国は独自の神話を持つ程に神にまつわる話が多い。

 しかし神殺しの魔王が一度も出現しなかったにもかかわらずここまで文化力を高められたのは、関東魔法協会が『関西呪術協会』と呼ぶ組織の「古老」と呼ばれる者達の裁量あってのお蔭である。

 

 竜蛇にまつわるまつろわぬ神は、中国圏最強の鋼が。

 それ以外の神々は女仙を統率し死を司る神木の女神が、そもそも出現するのを抑える仕組みが出来ている。

 

 仮にそれに含まれない神も対処するのは熟練中の熟練の術師とほんの一部の鬼才のみ。故に最強の頂きに存在する術者ですら心折られる程の神の脅威は、少々使える程度の術者にとって理解すら困難な域になる。

 

 「で、魔王様のご様子は?」

 「快眠中だとか。あの幼い体にアレだけ穴が空いても、数時間の睡眠で完治だとか」

 「…………」

 「不安ですか? 次期長候補さんは」

 「不安にもなるさ。聞けばまだ小学生だとか、子供の癇癪が天災なんて笑い話にもならない」

 「そもそもどうやったら小学生が『闇の福音』の弟子になる上、その後神殺しなんて偉業をなせるんですかね?」

 「闇の福音曰く、羅刹王は『むしゃくしゃしたから殺った。反省も後悔もしていない』とか」

 「…………………」

 「詠春様曰く、かなり聡明で大人と話している様な感覚だったと仰っていたよ」

 「それが救いですねぇッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九話 正史編纂委員会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まつろわぬ毘沙門天との戦いから数時間。本山近衛家の一室で、皐月は目を覚ました。

 

 「……知らない天井だ」

 

 呟いた直後、彼がガッツポーズをとったのは言うまでもない。

 これは一種の形式美でありお約束なのだ。

 最近はワラキアチックにカットされとるが、それはそれで嬉しいものだが―――

 

 「何をアホなことをやっている」

 「あ、エヴァ」

 

 襖を開けて、煌めく様な白金の長髪の美女が部屋に入ってくる。

 畳を歩く度に口端が緩む、日本文化大好きなエヴァンジェリンかわいい。

 

 そうして漸く、皐月は布団に二人の少女が乗っかかっているのに気付く。このかとアスナだ。

 目元が赤くなってるのを見ると、凄まじい罪悪感に襲われた!

 

 「体の調子はどうだ?」

 「損傷具合は問題なし。後は調子こいてレーヴァテイン乱れ撃ちしたのと、『太陽』で治癒したのが原因で呪力スッカラカンだわ」

 「成る程、治癒術師の『傷口に炎が灯っていた』という弁はそういう事か」

 

 アグニの権能その三、通称『太陽』。

 火の生命と癒しの側面を操る力だ。

 エヴァンジェリンを二十代まで成長させたのも、気を失った皐月の傷を治したのもコレ。

 要は応用力の高い死ぬ気の晴れの炎で、制約は空が『晴れている』だから雨の日や曇りの日は使用できないのだ。

 尤も、雲の上に行けば話は別だが。

 

 「で、詠春さんはどんな感じ?」

 「てんてこまいだな。何せこの国初の神殺しだ。しかも小学生となると騒ぎにならない方がおかしい。それに、どこぞの誰かがデカイ花火を上げたせいで隠蔽も行わないといけないらしいしな」

 「それは仕方無いと割り切って貰わないと。じゃねぇと、この国で神なんざと戦えないっての。街並み壊さない様努力したつもりだぞ?」

 

 その為に皐月は初撃に衝撃波を選んで、山奥へと毘沙門天を吹き飛ばしたのだ。

 それで文句言うなら、皐月は恐らく特大の火球をブチ込むだろう。 

 

 「ん、あんがとエヴァ」

 「…………何だ、藪から棒に」

 「幾らこのかの身内っつっても、『弱ってる魔王』ってのは結構アレだろ?」

 

 神殺しの魔王。

 それも疲弊し呪力も空っぽな無防備極まりないと来れば寝首を掻こうと、利用しようとする者は山程居るだろう。どこぞの先達のせいでろくなイメージが無いのだから。

 そんな諸々を気にせず、まつろわぬ毘沙門天に対し確実に仕留める攻撃が出来たのはエヴァンジェリンが居たからだ。

 皐月はおそらく、両親に次いでエヴァンジェリンの事を信用している。でなければ養子の話などしないだろう。

 

 「だからさ、あんがとな」

 「…………ふん、礼に観光巡りには付き合って貰うぞ!」

 

 顔を背けてのエヴァンジェリンの照れ隠しの声で、寝ていた二人が目覚め、皐月に抱き着いたのは言うまでもない。

 その後皐月の身を案じたこのかとアスナの泣き落としの様な説教は、詠春がやって来るまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、皐月は本山広間に足を運んだ。

 

 「へぇ」

 

 そこには日本各地に存在する『正史編纂委員会』の重鎮達が集まっていた。

 

 ――――――正史編纂委員会。

 それは関東魔法協会が便宜上『関西呪術協会』と呼ぶ組織の本来の名前だ。

 

 麻帆良学園都市を中心とした関東魔法協会は、『関東』と名乗っていながら日本の半分を支配している訳では無い。

 彼らはその大半が『魔法世界』のメセンブリーナ連合出身の“魔法使い”。云わば余所者だ。

 関東魔法協会は正史編纂委員会とは違い、『民』と呼ばれる組織に属さないフリーランスの魔術師や呪術師に依頼を行う形を取っており、多少の影響力はあれど支配能力や権力は皆無である。

 

 にも拘らず彼らが『関東』などと名乗れるのは、本国首都(メガロメセンブリア)の力と『世界樹』を確保してしまったことに他ならない。

 そう、麻帆良学園都市の存在だ。

 

 かつて造物主が魔法世界とのゲートを作成したのが全ての発端なのだが、問題は明治初頭に麻帆良学園都市を創る事を神木の主が面白がって許可してしまったこと。

 勿論対価は数あれど、こうしてメガロメセンブリアは地球に足を伸ばしてしまった。

 

 そしてそこから更に多方に手を出そうとして――――痛すぎる痛手を負った。

 

 現地の『民』からの強烈な反抗。正史編纂委員会との戦闘。それに加え日本と外国との度重なる戦争で、秘匿の為活動を抑えなければならなくなり、止めのまつろわぬ神。

 尤も、まつろわぬ神を彼らは正しく認識出来てはいないだろう。元より精霊は信じても神を信じない人種だ。

 魔法世界誕生後、造物主とその娘アマテルのパートナー伝説。エヴァンジェリンの恐怖神話を除いて神話も宗教も存在しない世界の出身者に理解させるのは難しい。

 

 故にメガロメセンブリアはまつろわぬ神の正体も理解しないまま、関東魔法協会は現在の依頼制に辿り着いたのだ。

 

 ――――――にも拘らず、麻帆良学園は権力行使が可能だ。それは何故か?

 

 近衛近右衛門が関東魔法協会のトップを務めているからである。

 では何故、本来敵対勢力の長を担っているかというと、それもやはり世界樹とその主が原因になっているのだが―――それはまた後で話すとしよう。

 

 つまり何が言いたいかというと、今この場に、日本呪術業界のトップ達が勢揃いしているのだ。

 日本初の神殺しの魔王を見定める為に。

 唯でさえ若すぎる魔王。

 そんな存在が自分達の王に相応しいのか否か。

 あわよくば利用出来るのか否か。

 自分達に害を与える魔王か否か。

 

 「おやおや、こんな砂利(ジャリ)極まりないクソガキ相手に御足労頂きすいませんねぇ」

 

 ―――――お前の様な子供が居るか。

 そんな者達を目にして、ニヤニヤと笑みを浮かべながら口にする小学生を前に、重鎮達の思考は一致した。

 同時に、幼さから甘い汁を啜ろうとすることが出来ないとも知れたのが幸いだろう。

 この魔王は、人間に対して怒りを覚える事のできる神殺しなのだと。

 

 「すみません皐月くん。上に偏りますが、此れが正史編纂委員会の全ての者達です」

 

 その中で詠春が代表して口にする。

 

 「改めまして、正史編纂委員会の長を務めています、近衛詠春です。尤も、私は既に次の長への中継ぎですが」

 「いやいや、詠春さんはまだまだ現役だと思いますよ?」

 

 そんな自分を卑下する詠春に、皐月がフォローを入れる。

 本来近衛家の婿養子でしかない詠春が、お世辞にも政治能力が高いとは言えないにも拘らず何故長などの地位に座っているかというと、二つの理由が存在する。

 

 一つ目は、関東魔法協会のバックである本国への解りやすい牽制。

 魔法世界の英雄、紅き翼のサムライマスターが敵対組織のトップならば、麻帆良学園の上位組織のメガロメセンブリア元老院も迂闊な命令を出さないだろうという策である。

 その為長としての影響力は本来の地位の半分も無い。

 正史編纂委員会を実質纏め上げているのは、古来から近衛家の臣下であった四家と呼ばれる四つの名家である。

 では二つ目は何か?

 

 ――――――このかの存在である。

 

 近衛家正当血統にして神祖にすら匹敵する潜在呪力容量という、破格過ぎる媛巫女の素質を持つ彼女を様々な政治的問題から護るため、詠春は飾り物の長に甘んじているのだ。

 そうでなければ、このかには凄まじい年齢差の政略結婚や、最悪の場合魔力タンクの操り人形なんて結末が待っていただろう。

 かつてアスナが黄昏の姫御子として百年間縛られ続けていた様に。

 

 全ては娘を護るため。

 

 だからこそ詠春は長を務め、ただの神鳴流宗家の一人が権力を欲したのだ。

 だからこその麻帆良学園入学であり、義父である。

 情報を公開しなければ内側から狙われることがなく外敵からは学園結界と魔法先生、そして近右衛門の庇護、さらには『神木の主』すら利用した。

 

 反メガロメセンブリアの強硬派から起こるであろう非難以上に安全なのだ。

 恐らく中学か高校卒業。その間にこのかが恋人を作れば、政略結婚を阻止する切っ掛けにもなるかもしれない、という事もある。

 少なくとも、そう詠春や近右衛門、鶴子などは考えていた。

 

 ――――――流石に魔王を連れてくるとは思ってもみなかったが。

 

 お蔭で詠春は長を無理に続投する必要が無くなった。

 魔王の傘下という核保有国と非保有国以上の差によって飾り物の必要が無くなり、更に魔王の親友というどう足掻いても他の権力者から干渉不可能な地位をこのかがもぎ取ったからだ。

  

 「このかから良く貴方のお話も聞いてます。あちらで初めて友人が出来たと電話で喜んでいたのを、今でも良く覚えていますよ」

 「あん時は神ブッ殺すとはおもいませんでしたし、そもそもファンタジーとは無縁でしたけどねー。でも、だったらなしてこのかを麻帆良に?」

 「立場的な問題を無視すれば、下手をしなくても関西(ここ)より安全面では上ですから。それにまさか敵対勢力の長の娘が通ってるとは、流石に思わないでしょう」

 「なーる、木を隠すならジャングルと。まぁ、無駄に知識ある連中よかましでしょうからねぇ。西洋魔術――――いや、アレは精霊魔法と呼称した方がイイッスかね? そういう洗脳とか細かいの向かなさそうですし」

 「有るには有るそうですね。しかし学園内でそんなことを、あちらの長が赦すとも思えません」

 「よくこのかのトンカチで頭から血ィ流してますけどね」

 「は、ははははは………」

 

 本来仰ぐべき魔王に親しげに話す詠春に、周りの重鎮達がざわめく。

 友人の父親と話すその姿は、彼等に安堵と油断を招いた。

 

 「それでですね、俺らが来たのはお願いがあったんですよ」

 「お願いですか?」

 

 確かに早熟だが、悪意には疎いのではないか?  もしくは、権力に興味が無いのではないか?

 それならば近衛子女を使えば、容易く首輪を付けられるのではないか? ――――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――――――今ちょっと権力が入り用でして、このかのことも含めて丁度良いし正史編纂委員会(ここ)、俺にくださいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その幻想を、皐月から噴き出した莫大な呪力が押し潰した。

 

 『―――――――』

 

 事実上、組織を乗っ取るというその理不尽な発言に、しかし誰も言葉を発することが出来なかった。

 その呪力の生み出す、重力が数倍に成ったかと思うほどの圧力が、彼等の口を閉ざしていた。

 噴き出す嫌な汗に、固まる体。

 政治能力か血筋のみでこの場に居る者は意識すら封殺された。

 指先一つ動かさずとも、視線だけでこの場の大半を容易く皆殺しに出来る超越者。

 

 これが神殺し。これが羅刹王だ。

 人類の代表として鳴動する天変地異に挑み勝利をもぎ取る覇者だ。

 

 尤も、青山宗家代表として駆り出されている鶴子だけは、とても恍惚とした笑顔をしていたが。

 バトルジャンキー怖い。

 

 「……それは、我々を羅刹王の傘下に置く、ということですか?」

 「まぁくれっつっても、内容はこっちの願いを叶えて貰い、代わりにまつろわぬ神と外敵勢力を排除する、みたいな? ヴォバンのジイサンみたいなモンですよ。簡単でしょ? あぁ、麻帆良はちょいややこしいんで勘弁してくださいね?」

 『なッ―――――!!?』

 

 御待ちください―――――と、重鎮達はその呪力の奔流で口に出来なかった。

 魔王の傘下に収まる事自体は何も問題は無い。

 寧ろ暇潰しで関係者一般人関係なく塩の柱に変えたり、その姿と声を見ただけで目と耳を削ぎ落とすヴォバン侯爵と羅濠教主ら最古参の魔王に比べれば歓迎ものである。

 しかし、『麻帆良学園を狙わない』というのは聞き捨てならないのだ。

 

 正史編纂委員会だけではない。日本古来の術者達にとって、『魔法使い』は侵略者であり不倶戴天の怨敵なのだ。

 十数年前、魔法世界で起こったメセンブリーナ連合と亜人と呼ばれる魔法世界特有の種族で構成される帝国との戦争で、メセンブリーナ連合は日本の『民』の優秀な術者を問答無用で拉致、戦争の戦力として戦場に投下したのだ。

 現在拉致された者の関係者や親族で、メセンブリーナ連合への復讐を求めて正史編纂委員会に入った者も少なく無い。

 というよりも、反麻帆良強硬派の大半はこれに該当する。

 そんなメガロメセンブリア直下の下位組織の麻帆良学園は、まさに敵の尖兵とも呼べる。

 要は不満なのだ。

 麻帆良を攻めないのが。

 

 「気持ちも分からんでもねぇんですけどね? アソコ俺の生活基盤なんで、俺が暴れたら『2XXX年、麻帆良は核の炎に包まれた』とかリアルにあるんで、洒落にならんのですよ。先程の『お願い』も、被害削減の為ですし」

 

 そんな者達の内情を知ってか知らずか、皐月は理由を口する。

 バックに政治的な後ろ盾が何も無い状態で、後先考えずに権能を振るえばどうなるか。

 対毘沙門天戦では上手くいったものの、下手をすれば原作主人公である草薙護堂以上の災禍が生み出されかねないのだ。

 

 「構いませんよ。元々羅刹王に意見するなど本来命と等価でも難しいのです。それを我々の一感情だけで無理強いをするなど厚顔の極みですから」

 「あっそうッスか? 助かりますわ。……まぁメガロの上層部にはアスナ関連で嫌がらせも悪くないよなぁ。ウザかったらリアル焦熱地獄の刑にしてやろっかねぇ?」

 

 ブツブツと呟きながら、迫り来るであろう面倒事を思い出してか、呪力に負の感情が混じり、気温が跳ね上がって畳からチリチリという音が聞こえる。

 結局、その会合は詠春と皐月の『打ち合わせされた』会話だけで終わった。

 しかし確実に、正史編纂委員会に魔王という存在を確かに刻み付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 「結局お前は何をしに行ったんだ?」

 「世間話したあと我が儘言っただけでしたねハイ」

 

 エヴァンジェリンに馬鹿を見るような目で視られた皐月は、高級旅館の客室の様な部屋で天ぷらをかじっていた。

 それはエヴァンジェリンやアスナ、途中参加したこのかも同様だった。

 

 「んまんま」

 「アスナさんや、いい加減キャラを固定して頂けませんかね?」

 「大丈夫、最終的に素直クールに落ち着くから」

 「絶対天然に堕ちると思うのおいちゃんだけかね?」

 

 どうしてこうなったッ。

 皐月は額に掌を当てながら、天井を仰ぎ見た。

 

 「結局、貴様は政治的駆け引きも正史編纂委員会の内情も殆んど無視して支配した訳だ」

 「支配ってほどじゃねぇよ。つか脅迫? まぁぶっちゃけ魔王ってそんなモンじゃねぇの?」

 

 寧ろ素人で内情殆んど知らない奴にNAISEIとか求めんな、と皐月は切実に述べたかった。元々融通が効く程度の権力が欲しかったのだが、折角なので無茶振りをしたら通ってしまったのだからどうしようもない。

 皐月は、自分をこのか達を守る広告としてしか見ていなかったのだが。

 

 「そういえば皐月、お前はロキの四つの権能の内三つを掌握してると言っていたが、何故毘沙門天相手に二つしか使わなかった?」

 「『じしん』と『るーん』やったっけ?」

 

 海苔の天ぷらをモシャモシャしているエヴァンジェリンの問いに、このかが追従する。

 確かに一つの権能で、例えば『地震』だけでも最低3つの攻撃方法を取った皐月の多彩さに目を向けられたが、そんな中明確に使用しないほど余裕のある戦いだとはエヴァンジェリンは思えなかった。

 

 「いや、三つ目は使わなかったんじゃなくて使い物にならなかったんだよ」

 「使い物にならない?」

 「そういう制約でな―――ほら、お出で」

 「?」

 

 皐月が視線を下に落とし、その行動に一同が疑問符を上げるも、直ぐ様驚愕に染まる。

 

 「わふっ」

 

 皐月の影から、美しい銀毛を持つ小さな子狼が出てきたのだ。

 

 「なっ!?」

 「ひゃーっ、かわええなぁ」

 「……もふもふ」

 「紹介する。俺の癒しである破壊の杖(ヴァナルガンド)こと『フェンリル』だ」

 

 フェンリル。

 『地を揺らすもの』の意味を指す、ロキが生んだ三体の怪物の一体にして長子。

 神々に災いをもたらすと予言されたが故に神々に拘束され、神々の黄昏(ラグナロク)では最高神オーディンと対峙して呑み込むとされている、北欧神話の魔獣で最も有名な狼である。

 最終戦争で真っ先に最高神が死ぬという事態を生み出す張本人である。

 

 「三つ目の権能は『神獣フェンリル』。制約は『育て上げる』だ」

 

 このフェンリルの潜在能力(ポテンシャル)は神獣として極めて破格であり、相性が良ければまつろわぬ神を単身で屠れる程の能力を秘めていた。

 しかし複数の権能故かそれに相応の制約が存在した。

 呼び出せた神獣(フェンリル)は、戦場に出すには幼すぎたのだ。

 

 「使い物にならんというのは……」

 「能力的にも心情的にも、まつろわぬ神の前に出せるわけないだろうが。世界中のケモナーに殺されるわ」

 

 というより、今にもフェンリルを撫でたがってる動物好きのこのかが泣くだろう。おそらく可愛いもの好きのエヴァンジェリンも。

 幼いフェンリルはそんな様子のこのかを見やり、主である皐月を見上げる。

 

 「ん」

 「わふ」

 

 皐月の意を悟ったのか、このかの膝の上に座った。

 その様子に、このかは満面の笑みを浮かべる。

 

 「わっ、かしこい子やなぁ」

 「どのくらい知能が有るんだ?」

 「天才」

 「親馬鹿か」

 

 正史編纂委員会の重鎮達が頭を悩ませている中、当の本人達は腹を脹らませ癒し成分を取っていたのだった。

 

 正史編纂委員会は取り敢えず味方に引き摺り込んだ。

 しかしそうすると黙っていない連中も存在する。

 

 「――――『老人共』に絡まれる前に、さっさと麻帆良に帰りましょうかね」

 「? 何の話?」

 「ミイラに十二単の美人さんと、姉の部屋で糞やらかすマザコンの話だよー。アスナー」

 

 

 

 




えいしゅん「――――――――――一体何時から、わたしが禿げると錯覚していた――――?」
重鎮「なん……だと……?」



 というわけで、今回は関西呪術協会改め、正史編纂委員会と詠春の立場的なものの説明回でした。

ちなみに『古老』の登場は相当先になります。そこを期待した方には残念ながらお預けです。

そして登場した三つ目のロキの権能(化身?)、神獣フェンリルです。
破格過ぎる神獣なんで、子育てというそれなりにキツイ制約をと考えたんですけど、皆さんが思った通り「時間を掛ければ制約が無くなります」。
狂言回しのトリックスターの権能なんで良いかな?と。
実際にこの子が活躍するのは当分先になりますね。



修正点は随時修正しています。
感想待ってます!(*´∀`)

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