話を纏めるのに苦労した挙句、短く内容も薄いという始末。
そして題名が作者のスランプっぷりを表してるかと。
「────もう限界です!」
時は遡りアスナの、このかのアーティファクトによる完全治癒が不可欠の無謀に等しい訓練が行われ、別荘の使用時間が三日を越えた辺りで、刹那がエヴァンジェリンに直訴した。
と言っても、アスナは四肢を切り落とされる事は殆ど無くなり、このかも傷に慣れきった────のだが、このかとの会話中に医学用語と外傷治療についてのモノが出始め、アスナがセメント染みてきたのに刹那が悲鳴を挙げた。
丁度その辺りで眼がレイプ目と化したのだ。
「ソレを私が必要だと判断し、皐月がそれを了承したからだ」
「それが信じられないのです!」
まだ一ヶ月、しかも別荘でのものしか付き合いが無いが、それでも皐月がアスナとこのかを大切に思っているのは刹那でも解る。
だからこそ、トラウマで人格が歪むような鍛練を強要した事が信じられなかった。
「強要ではない。合意の上だ」
そんな刹那に、エヴァンジェリンは拍子抜けといった表情を浮かべる。
物わかりの悪い生徒に復習させる様に。
「桜咲刹那、お前は近衛このかの魔術的価値をまるで理解していない」
「そんなことはッ……」
「神祖に匹敵する呪力。近衛家正当血統。最高級の媛巫女としての素質。そして未熟で幼い子供。コレが何れだけ危険か、最初に皐月から聞いた時は詠春の正気を疑ったよ」
下劣畜生な魔術師や魔法使い達にとって垂涎ものの素材だ。
手込めにして近衛家の権力を手に入れるのも良し、魔術儀式の生贄にするのも良し、薬漬けで人形にして魔力タンクにするも良し。
軽く利用価値を考えただけでもコレだけ挙げられる。
「麻帆良の護りも完璧ではない、事実侵入者は幾らでも湧いてくるしな」
それを魔力封印もせずに、一般人として暮らさせる。
正直政治能力が劣っているとはいえ、詠春は裏の人間の父親としてはアウト極まりない。
「しかし、今ならば────」
「成る程、皐月の庇護下なら権力や政争問題は無い。だが皐月が魔王だろうと全知全能ではないんだよ」
皐月一人ならば魔法使いが何万何億と居ようが容易く消し飛ばせる。だが、このか一人で居たのでは一溜まりもない。
成る程このかに皐月が張り付けば護れるだろう。
皐月の護る対象がこのか一人ならば。
「この世に絶対など在りはしない。今のままでは足手まといだ。近衛このかも、お前も、神楽坂アスナも」
両親が害されただけで神を殺したのだ。
もし身内を一人でも殺される事態になれば、皐月は間違いなく世界を滅ぼす脅威を何の躊躇も無く使い報復を行うだろう。
そうなれば全て台無しだ。
だからこそ教える立場のエヴァンジェリンは常に最悪を想定しなければならない。
そして何より、望んだのは本人達だ。
「あの二人が望んだ道だ。二人が止めると言うのなら何も言わんし何もせん」
代わりに魔術要素を残らず封印されるが。
そして二人が止めることなど無い。
アスナとこのかは一度喪失を味わった。
あんな思いは二度と御免だと、それに比べれば大したことはないと言い放って此処に居る。
「成る程倫理や道徳面からしたら問題なんだろうが、それは『表』の話。コチラ側でそんなものが何の役に立つ?」
神明裁判全盛期に最も過酷な生活を送ったエヴァンジェリンの経験からの措置。
それは、かつて一族から追われた刹那が理解できない訳がなく。
「コチラ側では蹂躙する者は蹂躙される者の事情など何の考慮もしない。それをお前は身を以て知っている筈だがな、え? 刹那」
第十二話 説明回の題名が思い付かぬ
「で、何の集まりなんだよ」
「ん、遅まきながらの誕生日会」
エヴァンジェリン宅に到着した皐月一行。その目的はアスナの誕生日会である。
遅まきながら、という前振りが付いている理由は、本来アスナの誕生日が4月21日だということがある。
しかし4月中は皐月が行方不明だった時間。
このかと共に沈みきっていたアスナが自分の誕生日を思考の中に入れていなかったのは言うまでもない。
ということでアスナの悪友の雪広あやかも、開催地である皐月の現在住居であるエヴァンジェリン宅に向かっていたのだ。
「だったら何で私も入れたんだよ。明らかに邪魔者だろ」
「だってちうたんボッチじゃん」
「ぐうッ!!?」
ただ事実だけを述べる的確な指摘に、千雨がうめき声を上げる。
「ついでに言うとアスナもボッチなんだよ」
クール(笑)なアスナは、他人との交遊が全てこのかと皐月を通したものとなっていた。
早熟処か精神年齢百余年という現状、小学生との会話など出来るわけがない。
そもそも皐月とこのか以外は、眼中に無かったというのもある。
後は精々雪広との喧嘩のみ。
しかも新学期になって皐月の行方不明により、その喧嘩すら一ヶ月間行っておらず。
現状、アスナに友達が少なかった。
「まぁボッチ同士仲良くしようやって話。言ってしまえば、老婆心みたいなもんだよ。千雨もアスナも、楽しい青春を送って欲しいんだよオィちゃんは」
「親か」
「皐月さんはクラスでもこんな感じでしたわよ?」
ヒーローがヒロインに対して親目線。
ぬぉおおおおッ、と呻いていた千雨との会話は、別荘から出てきたアスナ達が合流してきたことで誕生日会の開始と共に終了した。
◆◆◆
アスナの誕生日会が途中から皐月への愚痴会になったが見事にカット。
最終的に雪広を除く全員が暴走し、御泊まり会となって全員が寝静まった深夜。
別荘のレーベンスシュルト城の中で、際どいドレスを着た二十歳程の外見のエヴァンジェリンがテーブルを挟んで皐月と向かい合っていた。
「で、念話で送ってきた『霊視キタコレ』とは一体なんだ」
「皆大嫌いまつろわぬ神です」
ずいっ、と身体を乗り出して「迫真」と括弧を付けた皐月が答える。
「そっ、それならジジイや詠春も交えて話せば良いだろう。まだまつろわぬ神が顕現していなければ、場所を隔離して戦いやすい様設定すれば終わりの筈だ」
顔が近くなり頬を赤らめてどもるエヴァンジェリンの言う通り、既に攻撃力という一点ならば全魔王最高である皐月は、周囲の事を何一つ考えなければまつろわぬ神すら一瞬で終わる可能性がある。
「霊視出来たタイミングが、雪広の弟の胎児の話でなけりゃな」
「ッ────!?」
つまり、胎児こそにまつろわぬ神が関係するということ。
「……待て。胎児で、輝く火に鍛冶と蛇だと?」
火と鍛冶は密接した関係にあるのは言うまでもなく、そして胎児が関連する神は世界広しと数少ない。
そしてダメ押しの蛇。
「いやはや、迦具土神とか火神関連多すぎて笑えますね」
────
迦具は輝く意。土のツは助詞、チは男性の尊称、火の徳の熾烈なるを称えた御名で、火を掌り給う神。
別名『火之夜藝速男神』、『火之炫毘古神』、『火之迦具土神』、『軻遇突智』、『火産霊』と多く持ち、古事記からなる日本神話に於いて女神イザナミを焼き殺した、云わば神殺しの神。
かの神はその名の通り火の神であったため、出産時に伊邪那美命の陰部に火傷を負わせ殺した。
その後、イザナギはイザナミの死の嘆きをカグツチにぶつけ、天之尾羽張によって切り殺される。
その際流れ出た血や死体から、有名な武神である建御雷之男神を含む16もの神が生まれた。
「問題は雪広の母親と子供だな」
「顕現のカタチは、托卵か?」
「それなら容赦なく殺れるんだが、たぶん子供を生け贄にする感じに観えた。子供が産まれ、母体を燃やすなぞりを起こして顕現するつもりだろう」
「ッ」
その誕生のなぞりを起こすということは即ち────母子諸共殺す気だということ。
「取り合えず、秘匿関連無視してでも事情を話すしかねぇわな」
「……」
「まさかこんなタイミングで魔法バレとは、なんか有りもしない罪悪感に襲われるなぁ」
「まぁ、取り敢えず詠春さんと学園長。あと雪広の両親に相談して、堕として貰うしないか。尤も、そん時に何かアクションあるだろうが……」
「出産まで後どれ程だ?」
「雪広の話だと、後二ヶ月程らしい」
「まだ二ヶ月と取れば良いのか、あと二ヶ月しかないと取るべきか」
防ぐには片方を確実に殺さなければならない。
生まれたら最後、母子は神殺しの炎で燃やされてしまう。
雪広の両親が悩むところだろう。
「どうするつもりだ?」
「どうするっておまん、決まってる」
エヴァンジェリンの問いは、どちらを殺すか。
それに対する皐月の答えは、考えるまでもなく決まっている。
「────雪広には、まだ母親が必要だろ」
奇しくも正史通りに、子供を殺すしかないことを。
作戦実行は、出産一ヶ月前に行われた。
説明回。弟は確実に殺すマン。
そして次の次の回でカグツチ編は終わりかなぁ。
次の話は大半出来てるので、早めに更新できるかと。
修正点は随時修正します。
感想待ってます!(*´∀`)