魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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漸く書けた……。
最近忙しくて中々執筆進まないですね。
そして日常回が、ていうかイチャイチャ回が書けないってばよ。



第十六話 最強装備は序盤で揃えるタイプ

 

 

「─────人殺しは最悪だ。断言しよう

人を殺したいという気持ちは史上最低の劣情だ

他人の死を望み祈り願い念じる行為は、どうやっても救いようもない悪意だ

なぜならそれは償えない罪だから

謝罪も贖罪もできない罪悪に、許容も何もへったくれも、そんなことはこのぼくの知ったことじゃないね

人を殺した人間は、たった一人の例外すらなく地獄の底辺まで堕ち沈むべきだ

─────いーちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある人を殺さない殺人鬼は、他人を見れば殺すことしか考えられず、ありふれた全ての現象が殺人に通じるという。

 それ故に人を殺す技術に長けていた。

 

 斬殺謀殺銃殺爆殺撲殺轢殺─────彼女は、眼で視た人間のあらゆる殺害方法を理解し、実行することが出来る。

 人殺しのテクに異常なほど長けた殺人鬼。それが彼だった。

 

 まぁ全く別の宇宙の殺人鬼の話は置いておいて─────異常なまでの殺勠能力。

 それこそアカリ・スプリングフィールドが魔族襲撃の際に、とある悪魔が彼女の呪文詠唱を対価に与えた物の一つだった。

 

 スプリングフィールド兄妹のウェールズを襲った魔族の襲撃。

 それはメガロメセンブリア元老院の謀略であり、人為的な襲撃である。

 

 その為、魔族達は召喚された存在であり、勿論召喚した術者も存在した。

 しかし不幸なことに、その術者は本物の悪魔を偶然奇跡的に、或いは絶望的に召喚してしまった。

 その結果まつろわぬ神ではなく、真なる神として正しく召喚された悪魔の出現の負荷に、術者は耐えきらず死亡。

 召喚された悪魔は新たな契約者を探し彷徨い、そして見付けた。

 

 死の危険に去らされたことで、王家の魔力に目覚めたアカリ・スプリングフィールドを。

 

 彼、或いは彼女は、アカリにその出自の全てと、人を殺すあらゆる技術とあらゆる知識を与えた。

 彼女の生涯の目的と定める、石化の呪いを独力で解呪できる呪文詠唱(可能性)を対価に。

 その膨大な知識は、アカリの精神年齢を急激に成長、変調させ。

 しかし魔族の悉くを殺し尽くす力を与えた。

 

 結論として、アカリはその悪魔の正体を知ることができなかった様で。

 皐月の霊視も機能せず、正体は分からなかった。

 尤も、所詮四歳の子供。限界はある。

 疲労がピークになり、結果的にやってきたナギ・スプリングフィールドが魔族を全滅させたのだが。

 

 最終的に瓦礫の中で発見された彼女は、故郷を滅ぼされた怒りが時と共に鎮静した時に絶望した。

 対価に奪われた呪文詠唱の才は、自身で石化された村の人々を助ける為の努力する余地すら奪われたのだから。

 しかし授けられたその異常なまでに優れた『殺人術(キリング・スキル)』は、自身を狙う者が多すぎるアカリが使わざるを得ないほど強力だった。

 事実、二人がかりなら本気のタカミチ─────最強クラスを倒せはしないものの、食らい付く事は出来るアスナと刹那を倒すことができたのだから。

 

「─────悪魔御用達の殺人術、か。あの様子では随分と魔法使いを殺しているな。ククッ、素のスペックならアスナ達が勝っていただろうに」

「実戦経験の差じゃねぇの? ぶっちゃけ二人とも舐めてた感あったし」

「フン、成る程経験の差か。自信が慢心になったのは初めての経験だったようだな小娘共」

 

 エヴァンジェリンと皐月は、南国の砂浜で倒れ付しているアスナと刹那の失点を指摘しながら笑う。

 アスナと刹那相手に、彼女は皐月が与えたナイフ一本で降したのだ。

 

「おにょれ……、新キャラの分際で」

「不覚です……」

「治すでー」

「わんッ!」

 

 子供が背中に乗れる程度に成長した銀狼に乗って、このかが素早く治療を開始する。

 

「しっかし、使い手次第で王家の魔力があそこまで凶悪になるとはねぇ」

『ケケケケケ、イイナァオイ。イイ感ジノ若ェ芽ガ増エテ鍛エ甲斐ガアルジャネェカ? 御主人』

「黙れボケ人形」

 

 王家の魔力、即ち禍払いの異能である。

 ただし黄昏の姫御子であるアスナのソレとは違い、無効化ではなく遮断に近い。

 

「戦闘センスはアスナと同等。しかし禍払いの運用は比べ物にならんか。片手で足りる年齢でこれとは」

「まぁ、アスナは下手したら触れるだけで極大呪文も消失させかねんからなぁ。アスナとよく稽古している刹那には逆に予想できなかったか」

 

 刹那の漸く形だけは完成した雷光剣の球体状の破壊光に対して、その身一つで素通りした。

 だがアスナの魔法無効化能力(禍払い)と違い奥義が消滅せずに目眩ましとなり、アカリを見失った刹那に肉体強化なんぞ知らんと言わんばかりに一撃で沈める。

 どうやら浸透勁の様に禍払いの魔力を叩き込んだ様だ。

 

「アスナめ、アレは完全に舐め切っていたな」

「チャチャゼロのお蔭で死合は十分経験してるけど、あぁいう技巧系は初めての相手だろ。相性も悪かったし、しゃあないしゃあない」

 

 アスナに対しては更に酷く、油断しきっている間に武器として皐月が渡したナイフを囮に砂で目潰し。

 ソコへ顎を蹴り飛ばし終わった。

 

 刹那もアスナも、アカリに一撃を入れれば確実に勝てただろう。

 だがアカリはソレ以上に巧かった。

 

「刹那の場合は、完成したばかりの大技を破られて焦ってたのかね。まぁ五歳児に奥義ブッパしたときはビックリしたけど」

「まさか無傷で切り抜けられるとは思わなかった様だな。小細工が最強クラス以外にほぼ不要な奥義が目眩ましに使われたのは致命傷か」

「───── 完成したとはいえ、発動中の一瞬は無防備ですし予備動作も分かりやすい。まだまだ指導の必要があるかと思われます」

 

 最後には茶々丸も交えて批評を締める。

 

「次、俺と戦ってみる?」

「いえ、光栄ですが辞退させて頂きます。皐月様の戦闘技能を見たことは有りませんが、殺し方が視えません」

「様付けるなよ、何でだよー」

「魔王が人の枠に入るか馬鹿者」

 

 魔族は太古にまつろわぬ神や真なる神々が人間と交わり、別位相の領域に移り住んだ者達。

 故にほんの僅かながらに人の血が入っている。

 しかしカンピオーネは、神殺しの魔王は神から権能を簒奪しパンドラによって転生した埒外の怪物。

 アカリのソレは、あくまで人を殺す技術。

 魔法で規模を拡大しても、神の頂きには届かない。

 殺せるなら、未だ生まれていない魔王殺しがとっくに生まれている筈だ。

 

 それに、アカリは魔法攻撃は防げるものの、権能の炎は防御不能。

 どう足掻いても灰になる末路しか待っていない。

 

「後は肉体の成長と共に教えていけば、中学生辺りには最強クラスの上位連中とタメはれるんじゃねぇの?」

「可能性は大いにあるな」

 

 ────兎も角、アカリが五歳という段階ですら戦い方によっては準最強クラスの実力を有していることが解った。

 

「全体的な批評としては、まずアスナは只管基礎上げ。刹那はこのかと仮契約してアーティファクトの性能から選択肢を選ぶ事。小娘も皐月と仮契約してアーティファクト次第だな」

「異議有り。私だけ地味」

「アスナの場合は小細工を覚えるより地力を上げた方が良いと判断した。それに最強クラスに不可欠なのは自分だけの武器と基礎と基本スペック。あの変態筋肉ダルマを思い出せ。アレは基本スペックと基礎技術を極めた人間のソレだ」

 

 生きるバグこと、紅き翼に所属する千の刃ジャック・ラカン。

 彼は四十年以上積み上げた経験という武器と、人間の限界と言えるまでに鍛え上げた肉体と練り上げた気によって上位最強クラスに至っている。

 

 どれだけ特殊な能力も初見で対応することの出来る異常な基礎スペックは、正史で魔法世界人にとって確殺である『世界再編成魔法(リライト)』を「当たらなければどうということはない」を実行するキチガイさを見せ付けたのだ。

 

 意味が分からない。

 何故魔王になっていないんだ、と皐月とエヴァンジェリンは吐き捨てる。

 

「そもそもお前達はまだ肉体が未成熟だ。無理をしても意味はない。筋肉達磨に成れとは言わんが、あの変態の様に相手を煽りたいのなら我慢しろ」

「ならば仕方無し」

 

 ラカンの事を知らないこのかと刹那は頭に疑問符を浮かべるが、彼の人柄を詳しく知っている皐月は、「あぁ、遂にアスナのキャラが確定してしまったッ…………!!」と、苦悩した表情を浮かべる。

 悪魔の契約によって客観的知識だけ知り、彼の人格は知らないアカリはそんな皐月を見て疑問符を浮かべていた。

 

「じゃ俺は別荘(ここ)から出られるまで、カグツチの権能の掌握作業をしとくわ」

「何を言っている。この後小娘との仮契約(パクティオー)をヤるぞ」

「いい加減児ポ法でしょっ引かれそうなんで止めませんかねぇ……」

 

 この後滅茶苦茶仮契約(パクティオー)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第十六話 最強装備は序盤で揃えるタイプ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────夏休み。

 それは学生にとって幸せの時間。

 

 夏の長期休暇は、学生達の夢と希望に満ち溢れた堕落と悦楽を貪れる至福の時。

 

 友人の家で、本来学校へ通っている時間に遊び倒すのもイイ。

 海やプールというのも、夏休み特有のイベントも発生するだろう。

 旅行もまた一手。選ぶのは自由だ。

 勉学へ励む為に費やす時間を、そのままそっくり愉悦に走るコトが出来るのだ。

 

 ─────夏休みの宿題。

 それは天国を地獄へと誘う悪夢の産物。

 

 決して忘れるな。

 教師という名の獄卒が残す鎖を。

 一度忘れ、怠惰に呑まれ怠ければズルズルと先へ先へ後回しにしてしまうこと請け合いだ。

 

 そうなれば最後、夏休み終盤は地獄と化すだろう。

 故に賢者は、その鎖を真っ先に解くだろう─────

 

 

 

「─────ィヤァッッフゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!!! ぅ海やぁああああああ!!!」

「このちゃんんんん─────!!? せめて準備体操ぉおおおおッッ!?」

「わなっふー」

「って神楽坂私も引っ張んじゃねぇぇええええええッッッ!!!?」

 

 

 ─────そんな訳で、反則技である別荘で夏休みの宿題を速効終わらせて遊びに行こうぜ作戦を実行、完了させた皐月一行は、暇そうにしていたボッチこと長谷川千雨と海に来ていた。

 雪広グループ所有の南の島の海に。

 

 七福神の一角である毘沙門天を斃し権能を簒奪した影響か、一年経たず世界有数の資産家と化した皐月。

 その資金の扱いを教えたのは他ならぬ資本家の雪広家である。

 夫人の恩人ということもあるが、折角の夏休みで長期休暇に彼等の所有している南の島へ行くことぐらいは大したことがない程度には、今や家族ぐるみで付き合いをしていた。

 

「紫外線は肌の大敵だからな、将来後悔したくなければ日焼け止めクリームをキチンと塗るんだぞ餓鬼共」

「そういうエヴァ姉は?」

「障壁で弾いてる」

「オイ」

 

 真祖だった頃の障壁は健在で、紫外線なんぞ知らんと言わんばかりに寛いでいた。

 

「そいえば、真祖化の術式はどんな感じだ?」

「む、ぅ……。その何だ、最近術式の自己修復が停止してな。違和感……と言うよりは、何か切っ掛けを待っている様な─────」

 

 数年前幼かった少女は、その成長した豊満な肢体を自ら抱き締める。

 皐月が権能で視ても、その変化は分からなかった。

 

 元よりその術式は神代のモノ。

 皐月はソレを焼き尽くすことは出来ても、解析することは出来ないが故に。

 

「ぁゃιぃ」

「考えても解らんのだから仕方が無いだろう。元より真祖の術式なんぞ理解の外だ」

 

 エヴァンジェリンが皐月の視線にプイッ、とそっぽを向く。

 向いた方向に、非常に相性の悪い二人がいた。

 

「ホラホラアカリさん、私が塗って差し上げますね」

「い、いえ。自分で出来るので……」

「何を言ってますの、背中は届かないでしょう?」

「か、関節を外せば……」

 

 凄まじい笑顔のあやかと、彼女の甲斐甲斐しい扱いに困惑し、辟易しているアカリである。

 

「ほらほらっ、せっちゃんもビーチボールやろうや」

「う、うん。いくよこのちゃん」

 

 隣を見ると、刹那とこのかが初々しいカップルみたいなやり取りをしており、

 

「だから! 私泳ぐの苦手だッつってんだろ!!!」

「泳ぐ必要無い。右足が沈む前に左足を踏み出せばおk」

「ふざけんなァ!?」

 

 彼方を見れば、千雨がアスナに翻弄されている。

 何だろう。

 不思議と頬が緩み、笑みが浮かぶ。

 心が暖かくなっていくこの感覚は。

 

「子供が伸び伸びと遊ぶ、何とも平和だねぇ。荒んだ心が癒されるわー」

「……………………これは、難しそうだな」

 

 同年代の少女達を眺め、完全に保護者視点の少年にエヴァンジェリンが頭を抱える。

 少女達の少年への恋慕が実るのは、相当時間が掛かることは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が昇ると沈む時があるように、遊ぶ時間はアッという間に終わってしまう。

 それが子供ならば尚更顕著である。

 その為遊び疲れた、体力的に常人の子供のソレのこのかとあやか、千雨は既に夕食を終えて夢の中へと旅立っている。

 

 そして、残りの魔法関係者が集まって今後の方針を決めようとしていた。

 

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず─────面白いことに、俺達には敵が存在する。そう、将来ほぼ確実に敵対する組織が二つある。何だか解るか? では刹那選手!」

「は、はい! えーとっ……まつろわぬ神? でしょうか」

「まつろわぬ神が組織するとか、桃太郎復活時でもないとあり得ないから!」

 

 勿論桃太郎とは比喩であり、皐月が述べた可能性は魔王殲滅者である最強の鋼─────『最後の王』である。

 あらゆる女神を神祖に貶め、従える彼の王子は、復活さえ防げば何とかなる。

 最悪復活しても、幽世なら倒せる可能性を皐月は持っていた。

 

 最後の王が最強の鋼ならば、皐月は最強の鋼殺し。

 勿論原作知識を持っているが故の発言の為、皐月以外は首を傾げる。

 

「メガロメセンブリア元老院─────ですか」

「後、幼女誘拐犯」

 

 アカリの解答に、アスナが自身の答えを重ねる。

 

 アスナもメガロメセンブリア元老院には極めて価値のある存在だが、アカリに至っては自分達の罪の証拠そのもの。

 麻帆良関東魔法協会の上層組織として干渉してきた場合、どちらにせよ確実に衝突するだろう。

 

 そして幼女誘拐犯こと完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)

 蔑称については、誘拐されたアスナだからこそ言えるので、全く間違っていない。

 幼女誘拐は兎も角─────彼等の計画にアスナの存在は必要不可欠。

 敵戦力は主たる造物主こそ封印されているものの、生き残りの部下に最強クラスが二人いる。

 

 前者は殲滅確定済みであり、後者は組織としての存在意義的に敵対することは、余程のことがない限りほぼ間違いないだろう。

 

 尤も、魔法世界の事なんぞ知らん─────と無視を決め込めば後者と敵対する事はないのだが。

 

「敵対するのがほぼ確定してるなら、先手をくれてやる理由は無いんだよ」

 

 物語の悪役の強みは、未知ゆえに主人公達に先手を取れること。

 巻き込まれ系の主人公にありがちな展開で、事件に巻き込まれることでエピソードが紡がれる。

 だがそんなセオリーなど、皐月にしてみれば知ったことではないのだ。

 

「そして魔法世界の鍵は、黄昏の姫御子(アスナ)()()()()()()

 

 黄昏の姫御子だけでは、リライト─────魔法世界を再編成するためには足りず、もう一つ必要なモノがある。

 正史に於いて、物語の終盤で発掘された神具が。

 

「有った方がナニかと便利なら、盗りに行かない理由はねェよなァ」

 

 目指すは火星、『魔法世界(ムンドゥス・マギクス)』旧オスティア墓守の宮殿跡最奥─────最後の鍵(グレート・グランド・マスター・キー)

 

 




というわけで18話。
アカリのお話その2でした。

彼女のチートは、生まれ持った王家の魔力に悪魔直伝キリングスキルが上手く組み合ったお蔭です。
直死の魔眼に七夜の体技みたいなもんです。
アスナ以上の魔法使い絶対殺すウーマンなんで、火力重視の魔法使い相手は、最強クラス以外ならほぼ勝てます。

その代わり、アスナは将来ラカンみたいな、神と魔王以外に対する無敵キャラになるかと。

次回もやはり遅くなるかと。
ていうか複数更新しているので、今までのペース見てると一話一ヶ月掛かり、実質二ヶ月掛かる計算に。
これはひどい。

まぁ気長にお付き合いください。
修正点は随時修正します。
感想待ってます!(*´∀`)

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