魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

43 / 49
第四十一話 火力と技術

 何でこうなったのか。

 眼前には仙術に至った縮地で以て、彼我の距離を潰した神殺しの仙人が居た。

 既に相手の間合いだというのに、皐月は身体を動かす気力が無かった。

 疲弊している訳でも、そこまで消耗して動けない訳でもない。

 皐月は意外な程冷静に、自身を客観視していた。

 

 ────ただ、面倒臭い。

 

 なまじ直前にまつろわぬ孫悟空とかいう煽りスキルの高い糞猿を殺した直後だからか、単純に素でそうなのか。

 同格の神殺しを目の前にして尚、欠伸が出そうだった。

 

 拳が迫る。

 流麗な清流の様な滑らかな、大自然の中で研き上げられた風景美を観ているような感慨を懐いてしまう。

 天才が戦争を経て英雄となった者の刃でも、この拳の美しさには一端にさえ届かないだろう。

 二百年を超える在位の神殺しの仙女、羅濠教主。

 その拳は大地を割り、まつろわぬ神々の命を穿つだろう。

 そんな拳が、皐月の鳩尾に叩き込まれた。

 

 ──────『大力金剛神功』。

 羅濠教主がまつろわぬ阿吽一対の仁王尊・金剛力士から簒奪した権能である。

 それは金剛力士の膂力を己の体に宿し、無双の剛力を生む力。

 そんな拳をまともに叩き込まれたのだ。

 正しく神仙の一撃は『く』の字に皐月の身体を折り曲げ─────吹き飛ばない。

 

「ッ!?」

 

 それ処か、着弾点から拳が離れない。

 そうして着弾点に、拳で隠れた瞬間にルーンが浮かび上がっていた事を理解する。

 防御? 受け流し? 否。

 それ以上に肝要なのは、それがルーンであるということ。

 予め刻まねば発動しないルーンで拳を受けたと言うことは、それは即ち神仙の拳を見切ったということに他ならない。

 

 いけ好かぬ現代思想に飲まれた術師かと思えば、なんたる心眼か! 

 仮にそれが権能だとしても、その権能を持つ神から簒奪したのであれば変わらぬこと。

 そして、羅濠教主の拳に身を晒す胆力。

 彼女は直前まで抱いていた皐月への嫌悪を消し飛ばして、嫋やかな笑みを浮かべる。

 直前まで最底辺だったが故に、この事実は羅濠教主の評価を笑えるほど反転させた。

 

「──────素晴らしい!

「帰って、どうぞ(懇願)」

 

 そんな皐月の言葉に呼応するように、彼を中心に爆炎と衝撃が迸る。

 それは巨大な火柱となって羅濠教主を自分諸共と呑み込んでいくが、面倒くさそうな皐月とは対象的に彼女は笑みのままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十一話 火力と技術

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────超の機転で王の執事に連絡を取ったことで、麻帆良学園での剣王にまつわる騒動が終結した。

 ドニにとってのお楽しみの時間は、アンドレアにバレて追い付かれるまで。

 神獣やまつろわぬ神を倒すなどの大義名分が無ければ、我が儘をゴリ押しするには後が面倒なのだ。

 友に怒られるのは慣れっこだが、見放されるのは御免なのだから。

 

 何より、十分楽しめた。

 まだ本来の目的を果たしていないが、これ以上はまた今度。

 

「でも、先輩に会えなかったのは残念だったなぁ」

………………ふざけるなよお前

 

 地獄の底から這い上がってくるような、王の執事の声だった。

 ドニとアンドレアは、既にイタリアが用意した個人旅客機で日本を発っている。

 

 アンドレアはそんな馬鹿と打って変わって、今後の事で頭を抱えていた。

 麻帆良学園側は少しでも早くドニに帰って貰いたかったからか、取り敢えずその場は即座に事は治まった。

 実際、本来的に魔王が暴れたからといって文句を言える組織など早々ありはしない。

 どれほど理不尽であったとしても、泣き寝入りが通常なのだ。

 無論それも問題ではあるのだが、今回はその通常に当てはまらない。

 

 現在は何等かの理由でなのだろうが、麻帆良にはドニ同様の魔王が密かに存在した。

 それはアンドレアの持つ情報と経験、そして今回のドニの行動から最早確定と言ってもいい。

 ドニの強者への嗅覚は本物なのだから。

 

「どんな報復があるか……ッ!」

「それは楽しみだなぁ!」

 

 陽気100%ではしゃぐドニに、アンドレアは肘を顔面に叩き込んだ。

 肘を痛めた。

 

「~~~~~! こ、侯爵の砦を()()()()()()にした魔王にイタリアで暴れられて堪るかッ!!

 お前が望む形のものかさえも判らんのだぞ!?」

 

 一対一での真っ向勝負。

 そんな勝負を挑んでくれるなら何の言うことは無いのだ。

 いや、仮に挑んでくれても、剣を主体とするドニと仮称第五の魔王では話が違う。

 資料でだけ見た、第二次世界大戦において日本に投下された原子爆弾でもああはならない。

 隕石が墜ちたと言われて納得してしまう、ガラス化したクレーター。

 それが戦ったドニの証言から得られた、炎を纏う魔王の力だった。

 

「そんな魔王が報復するんだぞ……?」

 

 己が不在の城に、勝手に上がり込んで暴れた狼藉者。

 場合によっては同様の事をイタリアで行われるやもしれない。

 広域殲滅火力特化の権能を持つ、怒れる魔王がだ。

 未曾有の大災害、などと言っていられる場合ではない。

 冗談抜きで、イタリアが滅ぶ。

 

「それに……」

 

 アンドレアは思い出す。

 学園の森にてドニと戦い、そして自分が来るまで時間を稼ぎきったであろう戦士と魔術師を。

 それは戦場に刻まれた多くの斬撃や小さなクレーターの数々などといった、戦闘の痕跡で見てとれる。

 そして何より、魔術の大半を無為に貶める魔王が、何等かの魔術であろう氷の巨刃という異形の姿に成り果てたことだ。

 そんな姿に成り果てていながら斬撃を繰り出していた、他の────それこそ神殺しの仙女である羅濠教主以外では他の魔王も真似できない、無念無想無我の境地。

 それを文字通り体現したドニがやべーので目を引きがちだが、あの時間違いなくドニは封印されていたのだ。

 本来ならば、結果は『ドニの敗北』である。

 それを、無理矢理力業とも言えない方法で卓袱台を引っくり返していただけなのだ。

 

 たった二人で神殺しの魔王を封印する。

 お伽噺にありそうな字面だが、時代によってはまさしく勇者、英雄と呼び称えられる偉業である。

 

「……恐ろしい強者を従えるとは、尚更報復が怖いな」

「あの金髪の女性は、特に凄かったなぁ。一瞬で封印されたよ。

 僕とは相性悪かったみたいだけど、下手したら神祖より上じゃないかなあ」

「…………」

 

 ドニを引き摺って旅客機に乗せる事に意識を集中することで、漸く表情に出さなかった存在。

 此方への激憤を渾身の精神力で抑え込んでいた、あの金髪の女魔術師。

 否、あれは魔術師などと生易しい表現をしていい存在ではない。

 内心、アンドレアは断言する。

 

「……確認するが、あの金髪の女性は魔王ではないんだな?」

「うん」

 

 アンドレアは、ただの人間だ。

 無論剣王ドニの執事の通り名の指すように、出来うる限り彼の戦いを見てきた。

 そんな彼は、しかしまつろわぬ神や他の魔王を見たことはあっても、敵対し睨み付けられたことはない。

 それは、神殺しの魔王だけが許されるもの。

 だが、そんなアンドレアが心から思う。

 

「間違いなく、魔王じゃない」

「…………そうか」

 

 あの雪姫と呼ばれた女性がまつろわぬ神でないことに、本当に信じられなかった。

 無表情で此方を睨み付ける彼女が、心底恐ろしかった。

 

「だけど────」

「だけど?」

 

 しかし、否定したドニが不思議そうに言葉を続ける。

 

「魔王じゃないけど、少しまつろわぬ神っぽくあったから、最初は吃驚したんだよね。まつろわぬ神を相手に何の反応も出来なかったんだから」

 

 神殺しの魔王は、本能レベルでまつろわぬ神を殺そうとする存在である。

 まつろわぬ神が接近すれば、即座にその存在を認識し、殺害できる存在に変貌するのだ。

 そんな魔王であるドニが、断言する。

 

「まつろわぬ神でもなかったんだ、これは間違いない。でもなんだろうね……、彼女とっても強かったし、興味深いよ。そんな彼女と共に居る、先輩にもね」

「──────そうか」

 

 だから、その言葉をアッサリと受け入れられたのだろう。

 神でも魔王でもない超越者。

 そんな第三の存在と言える仮定を。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって、栃木県の山奥。

 そこは魔王と魔王の戦いで、禿げ山と化していた。

 

「────素晴らしい」

 

 羅濠教主は再三に渡り称賛を口にする。

 彼女は自己を至高に位置付けるが故に、そんな自身と連戦でありながらこうも渡り合う存在を称賛せずには居られない。

 それが雪姫に『原初の体術』とまで呼ばれた体捌きをする、育て甲斐の溢れる後輩ならば尚更。

 

 爆炎と拳打の轟音は一晩中治まる事はなく、戦場は爆心地を思わせる程荒廃した。

 羅濠教主が金剛の巨人を顕現させれば、皐月は弾頭で一撃にて消し飛ばす。

 第二の権能たる『竜吟虎嘯大法』の衝撃波ならぬ衝撃()も、同じく衝撃を生む『激痛の慟哭(アースクェイク・ペイン)』によって相殺。場合によっては押し潰される。

 それは吟じる時間が伸びるほど破壊力が増す『竜吟虎嘯大法』と、痛みさえあれば即座に高火力の衝撃を生む『激痛の慟哭(アースクェイク・ペイン)』の性質差が原因だ。

 『竜吟虎嘯大法』が咄嗟に出せる衝撃波は神獣を吹き飛ばす程だが、相手は火力に特化した魔王。

 限界まで謡い続けたのなら兎も角、皐月はその年齢から考えられない縮地の練度を持つ。

 そんな隙は在りはしない。

 

「────チッ」

 

 そんな女仙の攻撃を完封している皐月の、ソレに反して舌打ちが響く。

 

 羅濠教主。

 白兵戦最強の魔王は伊達ではない。

 歩みは阻むこと能わず、決定打には至らない。

 しかし消耗戦に持ち込もうにも女仙は自然を統べる仙人であるが故に、地の理を得続ける。

 とうの昔に、大地は彼女の支配下故に。

 

 大地に降り立ちながら、ほんの少しでも地の理を崩すために周囲を溶解しつつ、観念したように皐月は口を開いた。

 

「……なぁ」

「何でしょうか」

「帰ってくんない?」

 

 切実な言葉に、何人も止めることが出来ない両者の歩みが容易く止まる。

 皐月はあからさまに顔に出ていたが、羅濠教主も少しばかり不満気な膨れっ面だった。

 

 羅濠教主にとって、皐月は『打てば響く』の体現だった。

 もし弟子に出来たのなら、その時間は蜜月と比喩しても良い夢心地だろう。

 そんな相手の帰宅希望である。

 いや、今思えばこの炎の魔王は初めからそんな文言を口にしてなかっただろうか。

 羅濠教主は戯れ言と切って捨てた切願を、不機嫌に口を尖らせながら思い出す。

 

「……何故ですか」

「モチベーションが上がらない。得るものが無い。

 アンタの体術は武神クラスの才能と、相応の年月を礎としたモノだ。

 最初は参考になるかと思ったが、ある程度戦って分かった」

 

 ジャック・ラカンと同じ、莫大な戦闘経験と魔王に至れる規格外の才が合わさった神域の技術。

 真似できる類いの技術ではないのだ。

 精々が達人との戦いの経験ぐらい。

 不戦協定も結んでいない魔王相手にすることではない。

 

「私と対峙し、拳を交わしている。その栄誉を感受すべきでは?」

「それ、アンタにヴォバンの糞爺が似たようなこと言ったとして、イラっとせずには居られるか?

 老害だろうが美女だろうが、そこに暴力と実害が伴えば何の違いもありゃしねェよ」

 

 ───帰れ。

 それが戦い始めた時から皐月が主張する意見である。

 ぐびぐびと、いつの間にか『蔵』から取り出していた魔法薬で容易く全快した皐月は、同じく取り出した椅子に座り込む。

 

 そんな皐月に、羅濠教主は瞳を閉じて思案する。

 魔王間の関係は基本的に二つ。

 和睦に近い不可侵条約を結ぶか、出会う度に殺し合いを誓う不倶戴天となるか。

 皐月にとって狼王と剣王、そして夫人がそうである。

 では、皐月にとって羅濠教主とはどういう分類になるか。

 そして羅濠教主にとって皐月という魔王はどう値するか。

 

「……致し方ありません」

 

 溜め息を付き、立ち上がる。

 そんな様子に、漸くかと皐月が嘆息するが─────直後の震脚で椅子諸共に吹き飛ばされた。

 

「─────この一撃にて、貴方への評価を定めましょう」

「……………………………………………………あのさぁ

 

 莫大な呪力が、羅濠教主の全身に込められる。

 ホンの僅かも漏らさぬ完全な呪力操作は、地脈から吸い上げる魔力を余さず飲み干していく。

 間違いなく、その一撃は魔王をして必殺に値するだろう。

 

「だから、そんで?」

 

 対するは、灼熱の怒り。

 ひっくり返った皐月は、既に襤褸になりつつある制服の上着を脱ぎ、Yシャツの袖を片方だけ捲る。

 倦怠感は鬱陶しさに変わり、鬱憤は業火となって弾け飛ぶ。

 

 行動原理は、まぁ理解できる。

 そういう結論も、分からんでもない。

 でも、それ人の迷惑考えてないよね? 

 そんな魔王に向けるには当たり前すぎる怒りが、沸々と煮えたぎっていた。

 

「アンタ、百年前にあの糞猿一匹殺し損ねた訳だが────そんなザマで俺と撃ち合う? ナマ言ってンじゃねェよ」

「…………!」

 

 神殺しの女仙による、渾身の一撃? 

 ()()()()()()()()()()

 

 さて、皐月の持つ必殺とは? 

 それはまつろわぬカグツチを磨り潰した、核弾頭の拡散爆破による回避不能の焦土爆撃である。

 一発一発がまつろわぬ神に致命傷を与える神代核兵器(アグネア)を、数を揃え絶えず爆破し続ける焦熱地獄(ムスペルヘイム)

 

 だが、それは幽世のみに許された禁じ手。

 地上で行えば世界の終末が不可避となるだろうし、そんな事を行う訳にはいかない。

 だから焦熱地獄を形成する訳にはいかず  

 ────故に、彼はもう一つ必殺を望んだ。

 

 そもそも焦熱地獄では、真なる縮地法を極めた羅濠教主には必殺足り得ない。

 なればこそ、必要なのは面ではなく点攻撃。

 皐月の伸ばされた片腕に、原初のルーンが刻まれる。

 

「全ルーン最大励起、『破滅の災枝(レーヴァテイン)』起動───ケシ飛ばしてやるクソが

 

 実はその炎剣、触媒とする『枝』の強度が高ければ高いほど精度と威力が増す特性を有する。

 北欧神話を焼き滅ぼした際、担い手たる炎の巨人王スルトが持つ剣が、仮にロキが鍛え妻シンモラが守護するソレだとして。

 

「我は終える者、世界の災厄。()()()()()()万象を灰燼に帰す、破滅の枝を産み落とす者!!」

 

 仮に魔王の片腕を代償としたモノだった場合、どれだけの一振りと成るか。

 加えて、自らを焼く炎によって、激痛(いたみ)振動(攻撃力)に変換される。

 ──────更に。

 

「我は炎。原初の神戮を為した、火産みの輝きなり────」

 

 そこに、聖句と共に神殺しの炎(カグツチ)が込められる。

 対神、対界、対生命。

 世界を滅ぼし、神を焼き殺す炎が一点に集まっていく。その熱を、一切周囲に漏らすことなく収斂。

 熱量の余り、その刀身()は白く耀いていた。

 ───()()()()()

 それが、万神焼き断つ刃となった。

 

「……!」

 

 だが、それは羅濠教主に白兵戦を挑むことを意味する愚策であった。

 先程の彼女の宣言が無ければ、の話であるが。

 

「望む処です」

 

 何故ならその刃を前にして、最善手である回避を選ぶことを羅濠教主は赦さない。

 己を至高と断ずる彼女に、此処に至って逃げを選ぶことなど在りはしない。

 であれば、羅濠教主は正面衝突を挑む他に無かった。

 それを、怒りと冷静が混じり合った皐月は正しく理解している。

 ある意味、信頼さえしていた。

 これに逃げれば、最早ソイツは羅濠教主ではないのだと。

 

 両者共に縮地を修め、しかしその錬度の開きは余りに隔絶している。

 対応は出来ても、皐月に競い合うなど百年早い。

 なので、足りない錬度は火力で補う。

 

 片や仙術に至った縮地法。

 対するは、残った片腕を後ろに下げ、腕全体で翼の様に拡げたアフターバーナーが足りない錬度を補った。

 激突は、即座に。

 

 

「──────■■■■■■■■■■■ッ!!」

「な──────」

 

 

 羅濠教主の背後から襲い掛かった、神殺しの魔狼によって火蓋は切られた。

 

(まだこのような奥の手を────!)

 

 その咢は、間違いなく魔王やまつろわぬ神の首と命を喰い千切れるもの。

 そもそも神殺しの逸話の怪物か、その牙へ羅濠教主の本能が悲鳴を上げる。

 勿論、単体なら対処は難しくない。

 神殺しの神獣、何するものぞ。

 しかし、眼を離してはならぬのは後門の狼では決してない。

 致命というのなら、太陽の如き灼熱を振るう魔王から、決して眼を離してはいけないのだから。

 死神の鎌と言うには余りに眩しく、暖かいというには余りに破滅的な輝きが迫る。

 

「死ねや」

「面白い───!!」

 

 不可能を可能にするのが、絶対勝利者たる神殺しの魔王なれば! 

 三つの影が交差する直前、影を裂く光によって掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 この夜を以て、新たな───否。五人目の神殺しのカンピオーネの存在は、明確に暴かれた。

 狼王の企みを叩き潰し、剣王とまとめて焼き払い、()()()()()()炎の王。

 奇しくも、南欧の魔術組織と五嶽聖教への莫大な賠償要求───つまり金の動きから確定したその情報は、全世界に発信され、戦慄させた。

 

 新たなる魔王が何故、己の存在を隠していたのか。そんなことはどうでもいい。

 問題は、かの魔王の戦歴である。

 結果的にとは言え彼は最古参の二人を、そして最新の魔王であるドニを打倒している。

 相性も有るのだろうが、殺してこそいないが魔王三人に勝利しているという事実は余りに強く情報を波及させた。

 その波紋の力は何より、地元日本に最も強く響く。

 

 正史編纂委員会は、遂にこの時が来たのだと殺到してくる問い合わせに対応する為の準備を始め。

 何より、魔王の存在を知らずにいた一部の『民』の術師達は狂喜する。

 かつて日本上層部が夢想した、関東魔法協会───延いては魔法世界メセンブリーナ連合への復讐を成せるのではないかと。

 

 皐月の「待て」の影響のあるのは委員会などであり、間接的な関りでしかない『民』の術師達は、そもそも存在すら知らなかったのだ。

 そしてそれは、強ち間違いではない。

 一年も経たず、遅かれ早かれメセンブリーナ連合は崩壊する。

 日本への魔法世界の悪影響は無くなるだろう。

 しかし、そんなことを彼等は知らない。

 

 そして調べれは容易く解るだろう。

 その希望の星である魔王が未だ学生で、怨敵の本拠に通っていることを。

 

 何故その地を灰塵に帰さない? 

 まさか、魔王が魔法世界に従っているのか? 

 魔王はまだ子供、潜伏していた事を考えれば神殺しを為したのもより幼くなるだろう。

 魔王と成る前から洗脳を受けていれば、魔王が魔法世界に従っているのも不思議ではない! 

 

 期待は反転し、反意へと繋がる。

 

 幸か不幸か、同じ学園に所属している怨敵の英雄の遺児がいるではないか。

 あれらを利用し、魔王を巻き込み魔法世界への剣と成さん! 

 そんな直接対峙した事の無いが故に、魔王の真意を知らぬ愚か者共に紛れ偽神の走狗たる人形達が紛れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────つーかあの女、あの状態からコッチの攻撃溶けた腕で捌き掛けたんだけど。

 途中炎刀を炸裂させてねぇと負けてたんですけどマジで。

 アンだけ有利条件揃えて、意識と腕一本はどうなんよ? なぁどう思う千雨」

「100%の素人に何言ってんだ。

 ……良いからさっさと、神楽坂の誕生日プレゼント選んで早く帰るぞ」

「ちょ待てよー。デートみたいだってさっきまで顔赤くしてブツブツ葛藤してたちうたん待てよー。

 録画しといたからみんなに見せてイイ?

「帰るッッッ!!!!」

 

 騒動の種は産まれた。

 舞台は麻帆良から、京の都へ移るのも間もなく。

 

 

 

 




本当に難産。
何でかって? 羅濠教主の唯我独尊っプリとUQホルダーとの齟齬調整が。
そもそも忙しすぎたり思うように書けなかったりとスランプ気味でした(いつも言ってる)
なので戦闘シーンを盛大にカットし、そのまま次章の修学旅行編への足掛かりにしました。
まぁ次話は戦闘後の後処理や賢人議会報告書やらと、アスナの誕生日イベを予定しております。教主とのやり取りもこっちに回すつもりです。
 
他の小説書いてたらまーたエライ時間がかかるかと思いますが、宜しくお願い致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。