「──────超人が生まれるためには、かれにふさわしい超竜が、出現しなければならない」
北欧のとある都市で、まつろわぬ神が顕現した。
まつろわぬ神。
原初の時代、その莫大な力を持った災害、天災とも呼べる力の塊。その力を自由に振るうことの出来た神代の時代。
神話という神格に封じ込められた神々が、その人の紡いだ神話に背き、嘗てのように自侭に流離い、その先々で人々に災いをもたらすその現象の事を、まつろわぬ神と呼ぶのだ。
そしてまつろわぬ神を、奇跡と僥倖が幾重にも重なって弑逆する奇跡に成功した者は、神のみが持つことを許される力、権能を簒奪し己が物にすることが出来る。その者達を敬意と最大限の畏怖を込めて魔王と呼んだ。
それこそがカンピオーネと呼ばれる覇者達である。
そんなカンピオーネを。
エピメテウスの妻にしてプロメテウスが遺した呪法を使い、愚者と自らの“落とし子”を生み出す魔女パンドラは、新たな神殺し誕生の気配を感じて神々の戦場、北欧の街に現れた。
その見た目は十代半ば。しかし、美しいと言うよりかは可愛いという感想が先に出てしまう程度の、幼さと体つき。
金眼に長い髪をツインテールに分け、白い薄布を纏った女性と言うよりかは少女と呼べる低い背。
しかし誰よりも蠱惑的で艶めかしい『女』を体現していた。
「…………うわぁ」
そんな彼女が、目の前の光景に驚嘆の声を挙げた。
決して引いた訳ではない。
まつろわぬ神が顕れるのには何かしらの要因がある。
例えば、その神に所縁のある神具が発掘された場合や、その神が顕れる程の状況を作るか。
そして今、災害、天災と呼ばれ人類ではどう足掻いても太刀打ち出来ない神という存在を相手取っている者が居た。
勿論そんな存在も居る。人類が人知を超えた存在である神を拭殺する様な者が。
そんな者達を祝福し、神殺し────カンピオーネを生み出すのが、他でもないパンドラの役目なのだから。
しかしそんなパンドラも、目の前の光景は初めてのモノだった。
両手で数えられる程の幼い少年が、特別な神具も神器も持たず、その身一つで二柱もの神を相手取っている等と。
よく見れば未熟ながら気での肉体強化をしているようだが、しかしまつろわぬ神にとっては無きに等しい程の、気休めにもならない強化。
事実少年は特別な異能など何一つ持ち合わせてはいない。
しかし少年は、片方の神の髪を皮膚ごと引き千切り、目を潰し、戦いの余波で割れた硝子を神の喉に突き立てる。
更に神の反撃を利用し、もう一柱の神に傷を負わせたのだ。
神が二柱居るからこそ出来る戦法だが、ソレを実行できる人間が何れ程居るだろうか。
それは理性ある戦いでは無く、本能による理性無き闘争。
そんな事があんな幼い子供に出来るとは思えなかった。
しかしそんな少年の雰囲気に一致する言葉を、神殺しを見守るパンドラは知っている。
そう、有り体に言ってしまえばその少年は──────
「────ギャははははははははは死ねえええええええええやぁぁぁああああァあああああああ!!!」
────プッツンしていたのだ。
そしてパンドラがまつろわぬ神々の前に姿を現した時には、既に全てが終わっていた。
一人の神はもう一柱の神の攻撃を少年に利用されたのか、胸から下が焼け焦げ、炭化している。何よりもその身に宿す神気が少年へ流れていっているのだ。
片やもう一柱の神は、先に述べた神より酷く、肩から下は抉れ、其処らには腕や足などの四肢が飛び散っている。そして今も尚その神力を奪われ続けながら少年にマウントポジションまで奪われ、片方の本来武器では無い神具の尖った部分で殴られ続けている。
いや確かにそれなら効くだろうが。
そして何より、少年は人としての形を保っていなかった。
焼け焦げた全身に四肢は半分欠け、最早顔すら判らない。
凡そ人と呼べる形を何一つしていなかった。
そんな少年の、その光の無い虚ろ極まる瞳の中に燃え上がる憤怒が、神を睨み続けていた。
「────まさか貴殿方がこの様な状況に陥るとは、流石に思いませんでしたよ、■■■■■様、■■様」
「テメェはッ────クソ忌々しいエピメテウスの魔女がぶらッ!?」
「ハハハハ。あまり口を開かない方が良いぞ、■■。その少年は今や片腕だけだとは言え、既に私とお主の神力が流れていっているのだ。先程まで少年と戦っていた時とは違い、その拳は重かろう」
「■■■■■! テメェまさかこうなるのを見越してたんじゃねェだろォなあがッ!? クソッ、いい加減止めろガキ!!」
「痛ぇか? 痛ぇだろ────嬉し涙流せやオラァッッ!!!」
「ごふッ!?」
「アハハハハハ!! 君の新しき息子は随分面白い子だよ。何せ此奴に致命傷を与えた辺りで君が来るのを見越して私と戦っていたのだからな。イカレ具合はキレたスルトにそっくりだ」
「……まさか」
神殺しを成した者は、カンピオーネに転生する際にどの様な傷を受けていようが五体満足無傷の状態で蘇生する。
少年はまるでそれを知っていたかの様に、片方の神を殺した直後から、明らかに自身の負傷を省みずに捨て身になっていた。
「フフフ、面白い子供だ」
「……、そうそう■■様。この子の極東の国では、『目には目を、歯には歯を』という
「我でも無いのに嘘を付くな魔女。このガキは『目には拳を、歯にも拳を』だったぞ」
「私の角笛でお主の歯を砕くとは思わなんだな」
未だ神を罵倒しながら殴り続けていた少年が、まるで糸が切れた人形の様に動かなくなり、倒れそうになったのをパンドラが優しく抱き止めた。
否、少年は神と戦い始めた瞬間から意識を失っていたのだ。
それでも神を撲殺せんと動き続けていた理由がプッツンしていたなどと、殺された彼等が知ることは無いだろう。
「熱い? 苦しい? それとも痛みすら感じられないかしら? でも安心なさい。それは貴方を最強の高みへと導く代償よ、甘んじて受けるといいわ────!」
────さぁ、祝福を。
神々の黄昏を告げた神は、溢れんばかりの祝福と喝采を。
神々の黄昏の引き金を引いた神は、底無しの憎悪と怨嗟による呪いを。
こうして世界は交わっていき、魔法の物語はどうしようもなく歪みをみせる。
この変化が近い将来、
そうして此処に、世界で六人目となる神殺しの魔王が。
エピメテウスの落とし子が。
羅刹王が誕生した。
殺された神が丸わかりな件ついて。
主人公は神々が殺し合ってるのに乱入して乱闘に持ち込んだ感じです。
ちなみに主人公は『普段は知識人っぽく振る舞ってる、キレたら何をするか解らない』系男子です。
つまり最近の若者です。
修正点は随時修正します。
感想待ってます!(о´∀`о)ノ