艦隊これくしょんー黒から白へ変わる物語・改ー   作:きいこ

10 / 13
うたわれるもの斬2の発売が発表されて驚きを隠せない今日のこのごろ。


第10話「純黒の白いハンカチ3」

 

 

 

「…なぁ金剛、大和って前に何があったんだ?」

 

 

瑞鶴の部屋へ向かう道すがら、南方がそんな事を聞いてきた。

 

 

(んー、別に話しても問題は無さそうだけど、今後の演技のことを考えると今はあまり余計な情報は与えない方がいいかもしれないわね)

 

 

「…私の口から話すことは簡単だけど、そういうのはあんたが自分で大和から聞き出す方が良いんじゃないかしら、私たちを救いたいのなら、出来るだけ自分の力であの娘たちの心を開かせるべきよ」

 

 

そう判断した金剛はもっともらしい事を言ってはぐらかす。

 

 

「確かにそうだな、何でもお前に頼ってばかりじゃダメだよな、すまない」

 

 

南方はこちらの意図とは裏腹に素直な反応を見せる、やはりそこに疑うような素振りは微塵もない。

 

 

 

 

 

 

 

(…馬鹿な奴)

 

 

 

 

「…それで、次は私たちという訳なのね」

 

 

続いての面会相手は瑞鶴。金剛の呼び掛けに応じた同室の加賀にガンを飛ばされていた南方だったが、その様子は先程長門に睨まれていたときよりも幾分か落ち着いていた、多少なりとも耐性が付いたのだろうか。

 

 

「まぁいいでしょう、金剛がそう判断したのであれば長門同様私も異論はありません、しかし少しでも瑞鶴に何かしようものなら…」

 

 

「セリフがまんま長門だな…言われなくてもそこはちゃんと理解しているよ、しかし一航戦の加賀と五航戦の瑞鶴が同室とは、珍しいというかなんというか」

 

 

「一航戦?五航戦?何を訳の分からない事を言っているのよ」

 

 

聞き慣れない単語に加賀は首を傾げる、金剛もその言葉には聞き覚えがないため、同様に疑問符を頭に浮かべていた。

 

 

「お前たちの名前の元になった軍艦…加賀と瑞鶴がそれぞれ所属していた戦隊の名前だよ、実際の歴史でもそれなりに縁のあった船だと聞いてるよ」

 

 

「ただの偶然でしょう?軍艦の名前を与えられた艦娘とはいえ、それはあくまでも設定上の話、実際の軍艦とは関係ないんだから、事実私も“加賀”という船については何も知らないわ」

 

 

興味ないといった様子であしらわれた南方は“それもそうか”と言って瑞鶴との面会を始める。

 

 

「はじめまして瑞鶴、俺はこの幕張鎮守府に着任した…」

 

 

 

「帰って、話す事なんて無いわ」

 

 

瑞鶴は南方の挨拶をバッサリと遮る、取り付く島もないほどに拒絶するというのが瑞鶴の初日の演目だ。

 

 

(さっきの大和は癇癪こそ起こしたけどまだ僅かに話が通じる余地を見え隠れさせる形で希望を持たせたけど、今度の瑞鶴は最初から全面的に拒否される形でどうしたらいいか分からないようにさせる、その上でどうするのか…見させてもらうわよ)

 

 

「…瑞鶴、俺の話を聞いてほしいんだ、俺はお前たちを救うためにここに来た、そのためにはどんな努力だって惜しまない、だから…」

 

 

「出来もしない事を言うのはあまり感心しないわね、あんたがどれだけ努力しようと、翔鶴さんは絶対に返ってこないんだから…!」

 

 

(…いきなり地雷を踏んだわね、“何でも”とか“どんなことでも”とかっていうのは、何かを目一杯頑張ろうとするやつが簡単に使う言葉よ、でもその実はこっちの想定してたことの半分も出来ないような実力しか持ってないことがほとんど…、瑞鶴が怒るのも無理ないわ)

 

 

「…すまない、無遠慮だった」

 

 

「帰って、二度は言わないわ」

 

 

それ以降瑞鶴が口を開くことは無かった、というより今回瑞鶴にはここまでの台本しか渡していないのでこれ以上何か話されると却って金剛が困ってしまう。

 

 

南方の方も今日はこれ以上粘っても話は出来ないと判断したのか、“また来る”とだけ言い残して部屋を後にした。

 

 

「さっきのはあまり良くなかったかもしれないわね、ああいう状態の娘に“何でも”とか“どんなことでも”みたいな言葉は逆効果よ」

 

 

「…すまない」

 

 

瑞鶴との面会を終えた後、先程の発言について南方を咎めると心底申し訳無さそうな表情で謝ってきた、しかし瑞鶴の反応はあらかじめ台本で決められたモノなので南方が何と言おうと結末は変わらなかったのだが。

 

 

「今日の面会はもうこの辺りで切り上げたら?何かと疲れたでしょう?」

 

 

さて次はどうしようか、といった所で金剛は見計らったようなタイミングで南方に提案する、今日台本を渡して演技指導を行ったのは先程の大和と瑞鶴だけだ、正直これ以上続けられるとこの先の演劇に影響が出るので非常に都合が悪い、そのために大和たちに厳しめの態度をとらせて南方を精神的に疲れさせ、面会を早めに切り上げさせるという予防線まで張ったのだ、この提案に乗ってくれなければ困る。

 

 

「…そうだな、続きは明日にして、今日はもう提督室で大人しく仕事する事にするよ」

 

 

するとこちらの思惑通り、南方はやや疲れたような様子で金剛の提案を受け入れた、“しめた”と心の中で呟き思わず顔がにやけそうになるが、ここは抑える。

 

 

「分かったわ、じゃあ私は長門と少し話があるから、あんたは先に提督室に戻ってて」

 

 

「了解、それじゃあこっちもその間に舞浜と台場の提督に挨拶でもしておこうかな」

 

 

提督室に戻る途中で南方と別れた金剛はその足で長門の部屋へと向かう。

 

 

「長門、居る?」

 

 

「金剛か、どうした?困りごとか?」

 

 

部屋に入ると長門と大和が一冊のノートに目を通していた、これは金剛が事前に渡した物で、今後の演劇の大まかな流れが書かれている。

 

 

「そうじゃないの、明日以降の演目について話しておこうと思って」

 

 

そう言って金剛は懐から厚めのノートを取り出す、ここには各艦娘たちの演技指針や台詞などの設定が細かく書かれており、実際の演劇一本分はあるのではないかと思えるような量であった。

 

 

「まずは大和、今日の演技だけどとても素晴らしかったわ、南方も疑うことなく馬鹿正直に信じてたし、これなら騙しきれそうよ」

 

 

「そ、そうですか?そう言ってもらえると嬉しいです」

 

 

大和は照れくさそうにしながら言った、このような演技をすることなど初めてだったのでどうなることかと思ったが、金剛からそんな風にほめてもらえたのは大和にとって上々と言えるスタートである。

 

 

「それで金剛、次はどうするんだ?ここに来たということは、明日も大和の所へ来させるのか?」

 

 

「ええ、今の所はその予定よ、それで考えたんだけど、明日のうちに大和を落とさせようと思ってるの」

 

 

「落とす…?仲良くさせるということか?」

 

 

金剛の考えを聞いた長門が首を傾げながら尋ねると、それを肯定するように金剛は頷く。

 

 

「最初のうちに拒絶しすぎると潰れちゃうかもしれないからね、最初は()()()低めですぐに認めさせた方がモチベーション維持の観点から見ても上手くいきそうな気がするのよ」

 

 

「それはいいんですけど、具体的にはどうするんですか?」

 

 

「そうね…オーソドックスに考えるなら過去の提督連中との悲劇(エピソード)を何かしら聞かせる…とかがいいんじゃないかしら、あいつのことだから上っ面の同情で慰めてくるだろうし、その時に感銘を受けたフリをして“あなたを認めます”なんて涙ながらに言えばすぐにあいつは有頂天よ」

 

 

「そんなに上手くいくでしょうか…?」

 

 

「問題ないと思うわ、これまで様子を見てきたけど、南方は思った以上に純粋(バカ)みたいだから、騙せると思う」

 

 

「…なら、明日の大和の面会はその流れでいこう、私はどうすればいい?」

 

 

「南方の事を素直に部屋に入れてあげて、事前に私が警戒を多少緩めても大丈夫って話をしたっていうことにすれば怪しまれないと思うから」

 

 

「…了解した」

 

 

そして一通り打ち合わせを終えると、金剛は提督室へと戻っていった。

 

 

「それにしても、さっきの金剛さんスゴかったですね、あんなに細かい演技の子細を詰めていって、まるで映画監督みたいです」

 

 

「…そう、だな…」

 

 

大和は感心したように言うが、その反面長門はどこか浮かない顔をしていた。

 

 

金剛の復讐計画には自分も賛成だ、長門自身も人間に対して恨みの感情はあるし、それに対しての復讐を果たせるなら願ったり叶ったりだ、しかし、長門にはそれ以上に気掛かりな事があった。

 

 

金剛の復讐の演劇は確かによくできている、南方に怪しまれないように、自然と艦娘たちと仲良くなるような、そんな流れが上手い具合に組み立てられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(難易度にエピソード…か、大和が過去にどれだけ辛い思いをしてきたかは金剛も知っているはずなのに、まるでそれを演劇の小道具のように言うんだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし自分たち自身すらも復讐劇の駒として見ているかのような金剛の采配に、長門は言葉にしがたい不安を覚えた。

 

 

 

 

その翌日、金剛は南方を連れて再び大和の部屋を訪れていた、打ち合わせ通り金剛が事前に話を通したという体で長門が南方を部屋に入れる。

 

 

「勘違いしないで、見極め期間を長くして警戒を少し解くってだけよ、まだあんたのことを信じた訳じゃないから」

 

 

必要以上につけあがられても困るので釘を差しておいたが、それでも南方は嬉しそうにしているのを隠しきれずにいた、自分の努力や行いが僅かながら認められたと勘違いしているのだろう、純粋(バカ)もここまで来ると哀れである。

 

 

「ふふっ…何を慌てているんですか、可笑しい」

 

 

大和と南方があくせく話をしているのをぼんやりと冷めた目で眺めていると、大和がクスクスと笑いながら言う、ここで長門と金剛が驚いたような表情をするが、これも“あの大和が心を開くように笑顔を見せたことに驚いた”という演技だ、南方が嬉しさのあまりこちらを振り向いたときのことを考えて仕込んでいたが、そんな事は起きなかったので無駄になった。

 

 

「…分かりました、話しましょう、可笑しいモノを見せてもらったので、特別ですよ?」

 

 

そう大和は悪戯っぽく笑いながら言うと、過去にあった悲惨な出来事を話し始めた。

 

 

(…あぁ、あの時の事か…)

 

 

大和が話し始めてすぐに金剛は何の話か理解した、南方棲姫を倒すために駆逐艦たちが犠牲になったときだ。

 

 

(助からないと分かってて応急修理妖精核(ダメージコントロール)を大和に持たせて、淡い期待を持たせて起きながら…それに…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督(アイツ)(イヌ)が何の用だ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『沈むと分かっていながらあの娘たちを送り出すとは、やはりお前は提督(アイツ)(イヌ)だな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………………)

 

 

金剛はギュッと唇を一文字に結ぶと、服の袖を握る手に力を込める。

 

 

(私だって、私だって…!)

 

 

 

 

 

 

 

「話してくれてありがとう大和、俺は矢島のように艦娘を扱うつもりは無い、何度も言うが、俺はお前たちを救うためにここに来たんだ、だからもう…そんな悲しいことを考える必要は無いんだ」

 

 

「…ううぅっ…!!うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 

金剛が悶々と心の中にモヤモヤとイライラを募らせていると、演劇の方も佳境を迎えていた、南方が歯の浮くような台詞を何の恥ずかしげもなく口にすると、大和は感極まって泣き叫ぶ演技をする、一応練習はしていたらしいが、やはりその上手さは目を見張るものがある。

 

 

しかし今回の演劇の目玉はこの後の台詞だ。

 

 

「南方さん、いえ…提督、私はあなたの事を信じてみようと思います」

 

 

「ほ、本当か大和!?」

 

 

大和がその台詞を口にすると、南方は金剛が予想していた通りの、まるで絵に描いたような反応を見せた。

 

 

「はい、こんな風に寄り添って話を聞いてくれた人はあなたが初めてです、あなたなら信じられる…そんな気になりました」

 

 

「ありがとう…ありがとう…!大和…!」

 

 

「…驚いたな、まさか大和があそこまで人間に心を開くとは」

 

 

「そうね、私も驚いたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(バッカじゃないの)

 

 

 

長門と金剛は心底驚いたように演技するが、南方のあまりの馬鹿さ加減に堪えている嗤いが隠しきれず、僅かながら顔に出てしまっていた。

 

 

 

 

 

「まさかふさぎ込んでた大和にあそこまで言わせるとはね、一体どんな魔法を使ったのよ?」

 

 

「俺は何もしてないさ、大和が俺を信じてくれたおかげだよ」

 

 

「ぶふっ!」

 

 

南方がそう返すと、金剛はあまりの可笑しさに掛け値なしに吹き出した、大和はただ台本通りの台詞を言っただけなのにこの言い草、まったくこの男はどれだけこちらに笑いの種を撒けば気が済むのだろうか。

 

 

「な、何だよ…何か可笑しいことを言ったか?」

 

 

「えっ!?い、いえ…あなたがあまりにもキザでカッコ付けた台詞を言うものだからつい…」

 

 

抑えきれなかった笑いに南方は不満そうな顔をする、それを見た金剛は慌てて取り繕った。

 

 

「さてと、まだ時間もあることだし、次は瑞鶴や青葉たちの部屋を回ろうかな」

 

 

南方がそう言って次の部屋に向かおうとしたとき、金剛はとんでもないことに気がついた。

 

 

(しまった!青葉たちに完成系の台本を渡すの忘れてた!)

 

 

どっと嫌な汗が流れ出てくる、今日の分の台本は一応渡していたのだが、それはあくまでもラフの状態、細かく内容を詰めたモノを渡すのをすっかり忘れてしまっていた。

 

 

「あ…!そ、そうだ南方!実は鎮守府の施設のことで相談したいことがあるのよ!悪いんだけど面会はまたの機会で良いかしら!?」

 

 

何か面会を中断するいい口実はないか、金剛が頭をフル回転させて考えた結果、鎮守府の各種施設の点検作業がまだだった事を思い出し、何とか理由を作り今日の予定にねじ込もうとする。

 

 

「…確かにそれは問題がないか見て回る必要があるな、じゃあ一度提督室で確認事項をまとめてから作業にあたるか」

 

 

「了解したわ」

 

 

(はあぁぁぁ…良かったぁ…)

 

 

金剛は平然を装って南方の半歩後ろを歩くが、心の底からホッとしたように胸をなで下ろしていた。

 

 

 

 

「それでなんだけど、青葉たちには大和や瑞鶴とはちょっと趣向の違う演目を頼むつもりでいるのよ」

 

 

その日の夜、金剛は改めて青葉、鳥海、鈴谷の部屋を訪れ、演技の内容を伝える。

 

 

「違う趣向?それってどういう事ですか?」

 

 

金剛の意図が分からなかった青葉が首を傾げながら聞く。

 

 

 

「実はね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なる程、それはとても愉しそうですねぇ」

 

 

金剛から事の子細を聞いた青葉たちは、とてつもなく嫌らしい笑いを浮かべるのであった。

 

 

 




次回「警告」

口で言って駄目なら身体に分からせる。

次回から時系列が元に戻り、南方と金剛の視点が入り混じる形になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。