艦隊これくしょんー黒から白へ変わる物語・改ー   作:きいこ

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もうそろそろ更新頻度が落ちる頃かもしれません。


第4話「面会1」

寿命が幾分か削られるような着任の挨拶を終えて提督室に戻り、荷物の整理や諸々の作業をしている間に夜になってしまった。

 

 

「参ったなぁ、今日の内から執務を始めようかと思ってたんだけど…」

 

 

「今日はもう休んだ方が良いんじゃないかしら、今からやったって出来る仕事なんてたかが知れてるし、明日から計画を立ててやった方が上手くいくわよ」

 

 

「…そうだな、じゃあお言葉に甘えて今日はもう休ませてもらうよ」

 

 

「えぇ、明日からも私が秘書艦を勤めるから、あと言っとくけど、見極め期間の事も忘れるんじゃないわよ」

 

 

「もちろん、絶対に金剛たちから認めてもらえるようにしっかりやるさ、お休み」

 

 

「はいはいお休み」

 

 

南方はそう挨拶をして提督室の隣にある自室へと入る。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

南方が自室に引っ込んだのを見届けると、金剛は提督室を出てある場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ、あいつはもう休んだわよ」

 

 

金剛が食堂の扉を開けると幕張鎮守府の艦娘たちが緊張した面持ちで座っていた、戦艦から駆逐艦まで勢揃いである。

 

 

「みんな集まってくれてありがとう、今日は我が幕張鎮守府に流されてきたあの南方彰について話があって呼んだの」

 

 

金剛がそう話を切り出すと全員の顔が強張った、着任挨拶の直前に“今夜食堂に集まるように”という伝言が長門経由で回ってきていたが、どんな内容なのかまでは聞いていなかった。

 

 

「実はね、みんなに提案があるんだけど…」

 

 

 

 

 

 

翌日、早速金剛を秘書艦に執務を開始した南方は八木崎元帥から受け取った残りの書類に目を通し、今後の艦隊運用のスケジュールを優先順位が高い順に立てていく。

 

 

まずは出撃。これについては幕張鎮守府の再建が完了するまで舞浜鎮守府と台場鎮守府がそれぞれ近海警備を請け負ってくれるようなので、ひとまず出撃については考えなくてもいい。

 

 

「とはいえ、後で両鎮守府の提督には連絡と挨拶はしておかないといけないな」

 

 

次に遠征。備蓄されている資源について金剛に確認を取ったところ十分な量がある、むしろ資料に記載されている想定量よりも大幅に増えているくらいだ。というわけで遠征もすぐにやる必要はない。

 

 

「資源が思ったより多いのはラッキーだな、となると目下の問題はやはり人手不足か…」

 

 

そう、出撃にしろ遠征にしろ必要なのは艦娘だ、しかし幕張鎮守府にはその艦娘が少ないため、これでは艦隊運用どころではない。

 

 

「そう言うことなら建造を考えた方が良いんじゃないかしら、遠征が出来るだけの人数を揃えれば備蓄だって強化できるし、戦力も今後出撃を考えるなら今から拡充しておくのも手よ」

 

 

秘書艦用の執務机で八木崎元帥の資料に目を通しながら金剛は言うが、南方はうーん…と煮え切らない態度を取っている。

 

 

「…いや、建造はしばらくは無しだ」

 

 

「あら、どうして?建造して艦娘を増やした方が人材は潤うし、何よりあんたに従順な艦娘を手元に置けるかも知れないわよ?」

 

 

「だからだよ、確かに建造すれば人材は潤うだろう、でもそれはここの鎮守府の艦娘たちとの関係をきちんと構築してからじゃないとだめだ、今建造艦娘を迎え入れれば幕張組(おまえら)との間に軋轢(あつれき)が生まれかねない、艦娘同士で派閥争いなんて真似をさせるわけにはいかないからな」

 

 

金剛の嫌みを交ぜた問いかけに対して南方がそう答えた、艦娘たちが自分を嫌っているだけの現状であればまだ問題はない、しかし建造艦娘を迎え入れれば艦娘同士で南方に付くかと金剛たちに付くか…というような事態になるのは想像に堅くないだろう、それだけは避けなければならない。

 

 

「だからしばらくの間は出撃も遠征も無し、まずはここの艦娘たちと話をして関係を深めていくことから始めるとするよ、幸い資源の備蓄は十分にあるしな」

 

 

南方がそう言うと、金剛が目を丸くしてこちらを見ていた。何か驚かせるようなことを言っただろうか?。

 

 

「どうしたんだ?そんな驚いたような顔をして」

 

 

「いえ別に…ずいぶん深く私たちのことを考えているのね」

 

 

「当たり前だろ?俺は金剛たちを救うためにここにいるんだ、ならそのために真剣に考えるのは当然さ」

 

 

さも当たり前のことのように答える南方、それに対して金剛は“そう…”とだけ返すと、再び視線を資料に戻した。

 

 

「ーーーー」

 

 

 

その時金剛がとても小さな声で何かを呟いたようであったが、それが南方の耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

昼食を食べ終えた昼下がり、早速南方はそれぞれの艦娘の部屋の訪問と面会を始める。

 

 

「………」

 

 

…ハズだったのだが、南方は現在進行形で長門に敵意剥き出しの視線を向けられていた。最初に面会をする艦娘は誰がいいかと金剛に聞いたところ大和を勧められた、じゃあ大和に会いに行こうか…となったところで同室の長門にガンを飛ばされる前述の展開になっている。

 

 

「…金剛からここの艦娘たちと面会をするという話は昨日の夜に聞いている、彼女がそう判断するのなら私は何も言わん、だが少しでもおかしな動きをするようであれは容赦はしないぞ」

 

 

長門はそう言うと南方の一挙手一投足を警戒しつつ部屋へと通した。

 

 

「長門は金剛の事を心から信用してるんだな」

 

 

「当たり前だ、金剛はこの幕張鎮守府が設立されてから今日まで秘書艦としてここを支え続けた…言わばこの鎮守府の要石のような存在だ、だから私は金剛には全幅の信頼を置いている、お前を部屋に入れたのも金剛の判断に従ったまでのこと、分かったらさっさと用を済ませろ」

 

 

そう言って長門は機銃を取り出すと南方に銃口を突きつける、少しでも余計なことをしたら撃つという事なのだろうか。

 

 

(やべぇ…これじゃあ緊張して話聞くどころじゃねぇ…)

 

 

「長門、悪いけど機銃は一旦仕舞ってもらえないかしら?こいつは少なくとも今ここで手を出すような馬鹿ではないわ」

 

 

「…金剛がそう言うなら」

 

 

銃口を向けられてガチガチに緊張している南方を見て金剛がフォローを入れる、長門は不服そうであったがそれに従い機銃を仕舞い込む。

 

 

「(サンキューな)」

 

 

「いいわよ別に、それよりさっさと始めなさいな」

 

 

金剛に促され南方は大和の方を見る。ベッドに体育座りでうずくまっており、その表情は窺い知れない。

 

 

「…大和、俺は先日この幕張鎮守府に着任した南方彰だ、今日はお前と話をしようと思ってここに来た」

 

 

南方がそう声をかけると、大和が少しずつ顔を上げて南方の方を見る。

 

 

「っ!!」

 

 

その表情(かお)を見て南方は絶句してしまう、その双眸は絶望という二文字に支配されているかのように濁っており、最早何の光も映していなかった。

 

 

(…何をしたらこうなっちまうんだ)

 

 

その様子に気圧されながらも南方は大和に話しかけ続ける。

 

 

「俺はお前たちを救うためにここに来たんだ、前任がしてきたような事は俺は絶対にしない、だからもう安心していいんだ」

 

 

「…すか」

 

 

南方がそこまで話したとき、ずっと黙りだった大和が初めて口を開いた。

 

 

「今更…何をしに来たと言うんですか…あの人のせいで…私のせいで…!あの娘たちが沈んで!それを今更!何を!誰を救うというんですか!」

 

 

大和は慟哭(どうこく)しながら南方の肩を掴んでガクンガクンと揺さぶる。

 

 

「お、落ち着いて大和!一旦離れなさい!ほら南方も!」

 

 

「あ、あぁ…」

 

 

金剛は大和を南方から引き剥がして落ち着かせるが、大和は依然泣きじゃくりながら身体を震わせている。

 

 

「金剛、今日はこの辺りが限度なんじゃないか?」

 

 

「…そうね、南方、大和の面会はまた日を改めてって事で良いわね?」

 

 

「分かった、すまない金剛、上手くやるつもりだったんだが…」

 

 

「別に良いわよ、それに大和が人間に対してあんなに感情を露わにして何か言うなんて今まで無かった事だもの、むしろ予想外の大前進にこっちが驚いたくらいだわ」

 

 

「…そうなのか?」

 

 

「えぇ、ひょっとしたらあんた、何か“持ってる”のかも知れないわね」

 

 

金剛はそう言うと南方に部屋を出るよう指示し、南方もそれに従って長門と大和の部屋を後にする。

 

 

「そういえばさっき長門が言ってたけど、今日の面会のこと、昨日から既に話を通してくれていたのか?」

 

 

「“私たちを救う”なんて豪語するあんたのことだから、ここの艦娘全員と会う機会を作ろうとするんじゃないかと思ったのよ、だから昨日の内に会いに行くかもしれないって話しておいたの」

 

 

「そっか、ありがとな」

 

 

「別に」

 

 

 

 

 

 

「…なぁ金剛、大和って前に何があったんだ?」

 

 

次の艦娘の部屋に向かう途中、南方は隣を歩く金剛に先程のことについて聞いてみた。

 

 

「…私の口から話すことは簡単だけど、そういうのはあんたが自分で大和から聞き出す方が良いんじゃないかしら、私たちを救いたいのなら、出来るだけ自分の力であの娘たちの心を開かせるべきよ」

 

 

「確かにそうだな、何でもお前に頼ってばかりじゃダメだよな、すまない」

 

 

「別に、それじゃあ今日はもう一体くらい回ってみましょうか、こっちよ」

 

 

次に面会するの艦娘の目星を付けると、金剛は南方を部屋まで案内する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで、次は私たちという訳なのね」

 

 

こういうのを既視感(デジャブ)とでも言うのだろうか、と南方は軽い現実逃避をしながら加賀からガンを飛ばされていた。

 

 

実際には金剛が次に選んだのは瑞鶴なのだが、同室の加賀が出てきたためにこうなっているのである。

 

 

「まぁいいでしょう、金剛がそう判断したのであれば長門同様私も異論はありません、しかし少しでも瑞鶴に何かしようものなら…」

 

 

「セリフがまんま長門だな…言われなくてもそこはちゃんと理解しているよ、しかし一航戦の加賀と五航戦の瑞鶴が同室とは、珍しいというかなんというか」

 

 

「一航戦?五航戦?何を訳の分からない事を言っているのよ」

 

 

聞き慣れない単語に加賀は首を傾げる。

 

 

「お前たちの名前の元になった軍艦…加賀と瑞鶴がそれぞれ所属していた戦隊の名前だよ、実際の歴史でもそれなりに縁のあった船だと聞いてるよ」

 

 

「ただの偶然でしょう?軍艦の名前を与えられた艦娘とはいえ、それはあくまでも設定上の話、実際の軍艦とは関係ないんだから、事実私も“加賀”という船については何も知らないわ」

 

 

加賀はさほど興味も無いといった様子で南方に言う。

 

 

「ま、それもそうか、さて…と」

 

 

改めて南方は瑞鶴の方へと視線を向ける、大和のように塞ぎ込んでいる様子はなく、ずっとこちらから視線を外して窓の外を見ている。

 

 

「はじめまして瑞鶴、俺はこの幕張鎮守府に着任した…」

 

 

「帰って、話す事なんて無いわ」

 

 

南方の自己紹介を待たずして瑞鶴が口を開き、はっきりと拒絶の言葉を口にした。

 

 

「…瑞鶴、俺の話を聞いてほしいんだ、俺はお前たちを救うためにここに来た、そのためにはどんな努力だって惜しまない、だから…」

 

 

「出来もしない事を言うのはあまり感心しないわね、あんたがどれだけ努力しようと、翔鶴さんは絶対に返ってこないんだから…!」

 

 

「っ!!」

 

 

南方の言葉に反応したのか瑞鶴は声を荒げてこちらを向いた、その目尻に浮かんでいるモノを見て南方は自分が軽はずみな発言をしたことを後悔する。

 

 

「…すまない、無遠慮だった」

 

 

「帰って、二度は言わないわ」

 

 

そう言うと瑞鶴は再び窓の外へ視線を移し、以降口を開くことはなかった。

 

 

 

 

「さっきのはあまり良くなかったかもしれないわね、ああいう状態の娘に“何でも”とか“どんなことでも”みたいな言葉は逆効果よ」

 

 

「…すまない」

 

 

加賀と瑞鶴の部屋を退出した後、金剛から先ほどの発言を改めて咎められた、こういう所で自分の未熟さを思い知らされる。

 

 

「今日の面会はもうこの辺りで切り上げたら?何かと疲れたでしょう?」

 

 

金剛がこちらの事を見透かすように言う、ある程度覚悟はしていたことであるが、やはりこうやって面と向かってネガティブな感情をぶつけられると精神的な疲労がとても大きい。

 

 

「…そうだな、続きは明日にして、今日はもう提督室で大人しく仕事する事にするよ」

 

 

「分かったわ」

 

 

カウンセリングの勉強でもしようか、などということを考えながら南方は提督室へと戻っていった。




次回「続・面会」

何だかんだ面倒見のいい金剛。
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