艦隊これくしょんー黒から白へ変わる物語・改ー   作:きいこ

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大和へのリベンジアタック&南方の同僚兼友人の登場。


第5話「面会2」

 

 

提督室に戻り執務を再会しようとした南方だったが、その前に舞浜と台場の提督に挨拶をしておこうと執務机に備え付けられていた電話帳を取り出す(金剛は長門と話があるからと途中で別れた)。

 

 

「先に舞浜の方にかけるか、出来ることなら話しやすい人だといいなぁ…」

 

 

トゥルルルル…という受話器から聞こえてくる呼び出し音を聞きながら南方はぼやく。再建までの間近海警備を代わりに請け負ってもらっているので一言挨拶とお礼を言っておくのが筋なのだろうが、相手の性格次第ではこれをダシに不必要に大きな貸しを無理やり作られ、後に大きな要求を出してくるなんて話もありえる。

 

 

『はい、こちら舞浜鎮守府の御影紀之』

 

 

「こちら幕張鎮守府の南方彰…って御影!?お前紀之か!?」

 

 

『おう、そういうお前は彰か、しばらくぶりだな』

 

 

聞き覚えのある声に南方は形式的な挨拶を忘れて素の口調になってしまう。電話に出たのは士官学校時代に知り合った南方の友人である御影(みかげ)紀之(のりゆき)であった。

 

 

「訓練提督になってからはお互い忙しくてロクに話も出来なかったけど、無事に提督として着任できたんだな」

 

 

『あたぼうよ、俺の実力がありゃ提督なんて余裕に決まってんだろ』

 

 

『何が余裕だ、今日も私に書類を添削されていたくせに』

 

 

『なっ…!?お前わざわざ受話器に近付いて何口走ってんだ!!』

 

 

南方と御影の会話に割って入るように幼さの残る声が聞こえてくる、おそらく御影の秘書艦娘だろう。

 

 

『それはそうと!まさかお前が幕張鎮守府の再建のために提督として配属されてたとはな、流石にたまげたぜ』

 

 

「正直言って俺もまだ実感はないよ、訓練提督上がりでいきなりここに配属されたわけだし」

 

 

着任からまだ片手で数えるくらいしか経っていないのにやけに濃密だった出来事を思い起こしながら南方は言う。

 

 

『…なぁ彰、お前…大丈夫か?』

 

 

「へっ…?」

 

 

 

先程までのおちゃらけたような口調とは打って変わって、途端に真面目なトーンで聞いてきたため南方は思わず素っ頓狂な言葉を返してしまう。

 

 

『いや、俺も幕張鎮守府の近海警備を任されたときにそこの現状はある程度聞いたけど、いきなりそんな所に配属させられて大丈夫かなって、何か辛い目に遭ってたりしてないか?』

 

 

「……いや、大丈夫だよ」

 

 

 

御影のその問いに、南方は少しの沈黙の後にそう答えた。鎮守府に来て早々金剛から帰れと言われながら機銃を向けられたり、着任の挨拶では長門たちから“提督とは認めない”などと言われたり、面会をすればまた長門からガンを飛ばされて機銃を向けられたり、加賀から睨まれたり…普通に考えればそれらは十二分に御影の言う“辛いこと”なのだろう。

 

 

しかしここにいる艦娘たちは前任のせいでそれ以上の苦しみを受け、深い心傷(キズ)を負っているのだ、泣き言など言っている場合ではない。

 

 

「お前の心配はうれしいけど、今は俺が出来ることをやらなきゃいけない時だ、音は上げられないさ」

 

 

『…そうか、お前がそう言うならそれを信じる、だが自分も大切にしろよ、人間の心ってのはほんのちょっとした切っ掛けで壊れちまうんだからな』

 

 

「分かった、ありがとな紀之、それと幕張鎮守府の近海警備も請け負ってくれてありがとう、この後台場の提督にも連絡してお礼を言うつもりでいるんだ」

 

 

『いいって事よ、困ったときはお互い様さ、ちなみに台場の提督は朱里だからな』

 

 

「朱里か、あいつも提督として正式に配属されたんだな、というかこんなに近くに俺たち3人が就くって、これも腐れ縁ってやつなのかな?」

 

 

『違えねぇ』

 

 

そう言ってお互いに笑いあうと、南方は電話を切って台場鎮守府の番号をダイヤルする。

 

 

 

 

「……………」

 

 

「どうしたのだ司令殿?やはりご友人の事が気になるのか?」

 

 

難しい顔をして黙り込んでいる御影を見て秘書艦である艦娘…睦月型駆逐艦12番艦の夕月(ゆうづき)が首を傾げて問いかける。膝まで伸びた長い髪は金髪と黒髪が入り混じっており、濃紺色の巫女装束に緋色の袴を身に纏っている。

 

 

「今回の彰の配属の件…どうにも臭う部分がある」

 

 

「臭う…とは?」

 

 

「まず前提として幕張鎮守府は前任による鎮守府運営法違反や艦娘不当接触罪が原因で所属している艦娘たちが人間に対して強い恨みを持ってるってのはお前にも言ったよな?」

 

 

「あぁ、だから司令殿のご友人が鎮守府の再建のために配属された…と聞いている」

 

 

「そこだ、その前提部分がすでにおかしいんだよ」

 

 

「?」

 

 

御影の言葉に夕月はピンと来ていないのか、ただ首を傾げるだけだった。

 

 

「そもそもそんな危険な状態になってる鎮守府に、いくら士官学校を優秀な成績で卒業したからって訓練提督上がりの何も知らない新米を送り込むか?精神的なケアも含めて色んな事をやるわけだから、普通はそれなりに経験のある奴を推薦するはずだ」

 

 

「………………………」

 

 

「それなのに八木崎元帥は新米である彰を選んだ、まるで恨みをぶつける相手を捜す餓えた獣のいる檻に餌である人間を放り込むようにな」

 

 

段々と御影の言わんとする事を理解してきたのか、夕月の表情が険しくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元帥…いや、大本営は本当にあそこを再建する気があるのか…?」

 

 

 

 

 

 

 

『まさか曰く付きの幕張鎮守府の提督が彰だなんてね、これも何かの縁ってやつなのかしら』

 

 

「それはこっちも同じだよ、まさか紀之と朱里がこんなに近くにいるとは思いもしなかった」

 

 

御影がそんな不穏な話をしていることなどつゆ知らず、南方は台場鎮守府の提督であり南方のもうひとりの友人…姫宮(ひめみや)朱里(あかり)と話をしていた。当時の士官学生の中では数少ない女性候補生であり、艦隊指揮の素養も十分にある有望株である。

 

 

「幕張鎮守府の近海警備を舞浜の紀之と共同で引き受けてくれてありがとな、こっちはこっちでやらなきゃいけないことがあるから助かるよ」

 

 

『別に気にすることないわよ、困ったときはお互い様、それより彰、そっちは大丈夫なの?』

 

 

「大丈夫だよ、さっき紀之からも同じ事を聞かれたけど、彼女たちを救うって決めたからには簡単に音を上げるわけにはいかないさ」

 

 

『…ならいいんだけど…』

 

 

口ではそう言っているが、やはり姫宮の中では不安が拭い切れていないようだ。

 

 

『何かあったら連絡してね、わたしや紀之に出来ることがあれば力になるから』

 

 

「分かった、その時はお言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 

それからいくつかの簡単な仕事の話をした後、南方は電話を切った。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

「どうしたのよ提督?真剣に考え込んじゃって」

 

 

電話を終えるなり顎に手を当てて考える仕草をしている姫宮を見て、彼女の秘書艦を任されている艦娘…綾波型駆逐艦8番艦の曙が首を傾げながら聞く。

 

 

「うん…ちょっと彰の事でね」

 

 

「南方提督がどうかした?」

 

 

「実は…」

 

 

姫宮がそこまで話したとき、執務室の電話が鳴りだした、一体誰だろうと姫宮は一度話を中断して受話器を取る。

 

 

「はい、こちら台場鎮守府姫宮」

 

 

『舞浜鎮守府の御影だ』

 

 

「紀之?どうしたの?」

 

 

電話の相手は先程まで南方が話していた御影だった。

 

 

『いや、実は折り入ってお前に話したいことがあるんだ』

 

 

「な、何…?」

 

 

いつになく真面目な雰囲気で切り出してきたため、姫宮の表情(かお)も自然と強張る。

 

 

『彰の幕張鎮守府配属の件、お前はどう思ってる?』

 

 

「どう…って?」

 

 

『前任による非合法的な鎮守府や艦隊の運用、それにより人間に強い恨みを持つ艦娘たち、そんな場所に新米の彰をわざわざ配属させたんだぞ?確かに彰の士官学校時代の成績は俺や朱里よりも優れてた、だけど今回はいくら何でも違和感がある、作為的な何かがあるんじゃないかと俺は睨んでる』

 

 

「…確かに彰の件はわたしも気にはなってるよ、でも仮に作為的な何かがあったとして、どうするつもりなの?」

 

 

『そんなものまだ考えてないに決まってんだろ、今思いついてお前に電話したんだからな』

 

 

「まーたいつもの見切り発車?そういうところは士官学校時代からなーんにも変わってないよね」

 

 

朱里は呆れながら溜め息を吐く、この御影紀之という男は士官学校時代からの付き合いだが、口は粗暴だし思いつきで突飛なことを言うし、本当にこんなのでよく提督になれたなと思う。

 

 

『けど、あいつが何かに巻き込まれるかもしれないってんなら、放っておくわけにはいかねぇだろ、何が出来るかは分かんねぇけど、それでも何か考えるのが友人ってやつじゃねぇのかよ』

 

 

…やっぱり、この男はなーんにも変わっていない。

 

 

「そうだね、そうだよね、それが友達ってやつだよね、分かった、それならわたしも協力するよ、何が出来るかは分からないけど」

 

 

『おう!そうこなくっちゃな、それじゃあまた連絡するぜ』

 

 

「了解、またね」

 

 

姫宮は電話を切ると、ふぅ…と息を吐いて机の上で手を組む。

 

 

「…どうかしたの?提督、何か悪い話?」

 

 

「ううん、そんなんじゃないの、彰はいい友達に恵まれたなって、そう思っただけ」

 

 

「…?」

 

 

そう言って誤魔化す姫宮であったが、彼女の胸の内には御影同様に小さな不安の火種が燻りだすのであった。

 

 

 

 

その翌日、南方は金剛を連れて再び面会に繰り出していた。今日は昨日会った大和と瑞鶴に加え、金剛の勧めで重巡の青葉たちにも会うつもりでいる。

 

 

「まずは大和に会うのがいいと思うわ、昨日の様子なら何か話してくれそうな気もするし」

 

 

「そうなのか?俺は昨日初めて会ったばかりだからよく分からなかったんだけど…」

 

 

「大和が人間に対してあんなに感情を露わにすることなんてなかったもの、ひょっとしたら何かが変わるかもしれない、だから精々失望させるんじゃないわよ」

 

 

金剛が期待に似た感情を含みながらそう言った、鎮守府一の古株である彼女にそこまで言わせたとなればこちらとしても結果を出さなければならないだろう。

 

 

「…分かった、必ず結果は出すよ」

 

 

 

 

そんなこんなで部屋に着くと金剛がドアをノックをする、そして出てきた長門と二言三言交わすと、視線を南方に移した。

 

 

「入れ、結果を出すなら早くしろ」

 

 

(今日はすんなり入れてくれるんだな…)

 

 

思い切りガンを飛ばされた昨日とは打って変わって、長門は南方を素直に部屋に入れた。

 

 

昨夜(ゆうべ)金剛から話があったんだ、昨日一日面会や執務の様子を見極めた結果、お前は今すぐ排除しなければならないような人間ではないと判断した…とな」

 

 

長門のその言葉に南方は驚いた様子で金剛の方を見る。

 

 

「勘違いしないで、見極め期間を長くして警戒を少し解くってだけよ、まだあんたのことを信じた訳じゃないから」

 

 

金剛は釘を差すようにピシャリと言ったが、南方にはそれがたまらなく嬉しかった。艦娘たちの中で、自分の評価が少しだが良い方向に向かっている、それが嬉しくて仕方なかった。

 

 

「勝手に感動していないで早く用を済ませろ、金剛にそこまで言わせてるんだ、何も出来ませんでしたじゃ容赦しないからな」

 

 

「…あぁ、分かってるさ」

 

 

思わず目頭が熱くなるのをこらえると、南方は改めて大和と向き合う。

 

 

「…また、あなたですか」

 

 

「こんにちは、今日も会いに来た」

 

 

「出来れば来ないで欲しかったです」

 

 

大和は南方を拒絶する素振りを見せているが、会話自体は成立しているのでこれは大きな前進だ。

 

 

「…なぁ大和、昨日言っていたことは、いったいどういう事なんだ?」

 

 

南方は単刀直入に問いかけた、結局はどう言い方を取り繕ってもこう聞かなければいけないのだ、ならばはっきり言った方がいいだろう。

 

 

「…金剛にでも聞けばいいじゃないですか」

 

 

「確かにそう思ったこともある、でもそれじゃ駄目なんだ、俺は大和を救いたい、なら大和の信頼を勝ち取って、大和から直接聞かなきゃいけないんだよ」

 

 

南方がそう言うと、先程までこちらを見ずに俯いて話していた大和がこちらを見る、その表情はどこか不思議そうな、南方の言っていることにどこか疑問を持っているようであった。

 

 

「変わったことを言うんですね、あなたは」

 

 

「当然のことを言ったまでだよ、もちろん俺の事を信じられなければ話さなくてもいい、その時は大和が話してもいいと思えるくらいの信用を得られるまでお前に会いに来るよ」

 

 

「…それ、私があなたの顔を見なくて済むためには話すしかないですよね?それっぽいことを言っておきながら、結局は私の選択肢を潰してるじゃないですか」

 

 

「…あ」

 

 

大和のその指摘に、南方は間の抜けた声を出す、完全にその事を失念していた、これでは余計に大和からの不信感を募らせるだけではないか。

 

 

「い、いや…違うんだ大和、これはだな…」

 

 

「ふふっ…何を慌てているんですか、可笑しい」

 

 

そう言って大和がクスクスと笑う、その笑顔は可愛らしさもありながら、大和の見た目相応の大人な女性としての艶っぽさがあった。

 

 

その大和の様子を見て、南方の後ろに控えて様子を見ていた長門と金剛が目を剥いていたが、南方がそれに気付くことはなかった。

 

 

「…分かりました、話しましょう、可笑しいモノを見せてもらったので、特別ですよ?」

 

 

そう悪戯っぽく笑いながら言うと、大和はポツリポツリと話し始めるのだった。

 

 

 

 




次回「大和の過去」

なんかようやく話が進んだ気がする。
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