艦隊これくしょんー黒から白へ変わる物語・改ー   作:きいこ

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本当はその後の南方との会話も書くつもりだったのですが、次の話に持ち越します。


第6話「面会3」

「それでは今回の作戦を伝える」

 

 

 

そう威厳たっぷりに、かつ偉そうに話を始めたのは幕張鎮守府の提督である矢島(やじま)洋一郎(よういちろう)()()()()から見れば彼の前任にあたる存在である。

 

 

これから提督室で作戦の説明が始まるという状況なのだが、その空気は険悪と呼ばざるを得ないものであった。その場に集められていた艦娘たち…大和、武蔵、長門、霧島、加賀、瑞鶴、春雨、夕立、初雪、深雪、睦月、如月、皐月は一様に顔にこそ出さなかったが、嫌悪感や苛立ち、はたまた憎悪といったネガティブな感情を矢島に向けている。

 

 

そして矢島の側では秘書艦の金剛が控えていたが、事前に作戦内容を聞いていた故かその表情は悲痛さに満ち溢れていた。

 

 

「今回の作戦の標的は“南方棲姫”、お前たちも知っているとおり従来の深海棲艦よりも遥かに高い戦闘力を有している『姫級』と呼ばれる個体の新種だ、その力は既存の戦艦棲艦を遙かに凌ぐ攻撃力に加え、艦載機による空撃も行ってくるらしい、我が鎮守府の精鋭を束にしても簡単には突破できないだろう」

 

 

矢島は南方棲姫の情報を簡潔に並べ立てる、近年になって新たに発見された新種の深海棲艦…『姫級』、既存の深海棲艦では考えられなかった『言葉を話し、一個隊を指揮できる知能』を持っていることが最大の特徴である。先に矢島が言ったとおり戦闘力もそれまでの深海棲艦の比ではなく、艦隊決戦の要であった主戦力鎮守府の艦娘たちを幾度となく返り討ちにしてきた。

 

 

現在確認されている姫級は『空母棲姫』『戦艦棲姫』『南方棲姫』の3体、これまで何度も姫級との交戦が行われてきたが、まだどれも撃破されてはいない。

 

 

「よって今回は連合艦隊による出撃とする、本隊全員に強化装甲(バルジ)を装着させ、強化した防御力にモノを言わせてひたすら攻撃を繰り返す、長期戦に持ち込んで粘り勝ちを狙えばこちらにも利がある」

 

 

「し、しかし提督…強化装甲(バルジ)を装着すると機動力が落ちて敵の攻撃を回避しにくくなるというデメリットが生じます、その作戦は我々を強力な“固定砲台”として使うのが目的なのでしょうが、姫級の直撃を受ければ私たちでもダメージは少なくないかと…」

 

 

「そんなことは分かっている、よって()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、駆逐艦最大の強みである機動力をもってすればそれぐらい簡単だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は?すみません提督…今、何と…?」

 

 

矢島の言葉に頭の理解が追いつかず、大和はつい聞き返してしまう、自分の聞き間違いであって欲しいという淡い期待を抱きながら…。

 

 

「何だ、聞こえなかったのか?前衛の駆逐艦を使い捨ての盾にすると言っている」

 

 

「ふざけないでくださいっ!!」

 

 

矢島が言い終わるか言い終わらないかといった所で大和が声を張り上げた、その声量に場にいた金剛を除く艦娘たちが皆一様にびくりと身体を震わせる。

 

 

「あなたは何を考えているんですか!!この子たちを使い捨ての盾にしろと!?冗談も休み休み言ってください!」

 

 

大和は目尻に涙を浮かべながら矢島を怒鳴りつける、駆逐艦たちも矢島の発言の意味をようやく理解し始めたのか身体をガタガタと震わせながら泣き出した。この男の外道とも言える艦隊運用には大和も我慢の限界になりつつあったが、もうこれ以上好き勝手にはさせられない。

 

 

「上官に対して随分な言いようだな、お前が何と言おうとこれは決定事項だ異論は認めん、もし従わないならルームメイトを解体するぞ、代わりの艦娘など建造でいくらでも増やせるんだからな」

 

 

「っ!!あなたという人は…!!」

 

 

憎々しげに矢島を睨み付けるが、当の本人はそんな事全く意に介さず駆逐艦たちの方へ歩み寄る。

 

 

「言っておくが、生きて帰ってこようだなんて考えるんじゃねぇぞ、てめぇらは大和たちを立てるための捨て駒だ、元々運用コスト削減のために解体処分する予定だったてめぇらに活躍の場を与えてやったんだ、それに感謝して死んでこい、万が一生き残れたら帰ってきても構わんが、本隊の損害がデカかった時は役割を果たせなかったと見なしてお前らとルームメイト全員を解体する」

 

 

「「っ!?」」

 

 

矢島の決定的とも言える言葉に駆逐艦たちの表情が絶望という二文字に染まっていく、自分たちはもうここに帰って来れない。それを理解してしまったからだ。

 

 

「金剛、今の内にこの駆逐艦共の部屋を片しておけ、備え付け以外の家具や私物類は少しでも金に換えて資金にしろ」

 

 

「………はい」

 

 

既に帰って来れないという前提でこの作戦を立てていた矢島は金剛にそう命令する、金剛は消え入りそうな声でそれに答え、顔を俯かせながら提督室を後にした。

 

 

「それでは速やかに作戦に移れ」

 

 

矢島はそれだけ言うと、執務机に戻って書類とにらめっこを始めた。といっても仕事のモノではなく余所の鎮守府や駐屯基地への賄賂について書かれた汚職の証拠なのだが。

 

 

「…行きましょう」

 

 

これ以上の抗議は無駄だ、そう判断した大和は艦娘たちを引き連れて執務室を後にする。

 

 

 

 

出撃ドックに向かった大和たちは艤装の準備を済ませると、紫色のプロテクターのようなパーツを身体の各部位に装着する。

 

 

これは強化装甲(バルジ)と呼ばれるモノで、先頃大和の話にあったように傷や痛覚、出血などを抑える“加護”と呼ばれる艤装の力を底上げし防御力を強化する効果を持つオプションパーツだ、しかし装着すると機動力が下がるデメリットがあり、敵の攻撃を回避しづらくなってしまう。

 

 

「大和」

 

 

強化装甲(バルジ)の装着作業を終え、さぁ出撃しようかというところで金剛が何やら荷物を抱えてやってきた。

 

 

「…提督(あいつ)(イヌ)が何の用だ?駆逐艦たちの部屋の掃除はいいのか?」

 

 

武蔵が嫌味を含ませながら金剛を非難するが、大和はそれを片手で制する。当の金剛は武蔵の言葉など意に介さず、真っ直ぐ大和の方へ歩いていく。

 

 

「…これ、使って」

 

 

金剛に渡された箱を開けると、中には何やら艤装のパーツのようなモノが入っていた。

 

 

「これは…?」

 

 

「『応急修理妖精核(ダメージコントロール)』、艤装の耐久力が無くなって加護が消滅したときに一度だけ耐久力を回復させる事が出来るオプションパーツよ、これを艤装の中枢部分である“妖精”に取り付ければ一度だけ轟沈を免れることが出来る、それを駆逐艦全員分用意したわ」

 

 

「金剛…」

 

 

「私に出来るのはここまで、あとは頼んだわよ、大和」

 

 

金剛はそれだけ言うと出撃ドックから出て行った。

 

 

「…ありがとう、金剛」

 

 

大和は既にいなくなった金剛にお礼を言うと、応急修理妖精核(ダメージコントロール)を駆逐艦たちの艤装に装着させる。

 

 

「…みんな、必ず全員で帰るわよ」

 

 

大和のその言葉に、全員が頷いた。

 

 

みんなで守れば大丈夫。この時の大和はそう信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、『現実』というものはその想いを嘲笑うかのように重くのし掛かる。

 

 

 

 

「加賀と瑞鶴が大破したぞ!このままじゃ危険だ!」

 

 

長門の戦況報告に大和は静かに焦りを募らせていた、南方棲姫とその随伴の深海棲艦による想像以上の攻撃に被害が徐々に拡大していき、最早壊滅寸前という所まで追い込まれていた。

 

 

(まずい…!このままじゃこの子たちが…!)

 

 

必死に敵の攻撃を避けながらこまねずみのように動き回る駆逐艦たちを見ながら大和は頭をフル回転させる、既に全員の応急修理妖精核(ダメージコントロール)は発動済みであり、あと一発何か攻撃を貰えば確実に轟沈する、駆逐艦たちを沈ませるものかとダメージを減らすために攻撃をある程度庇ったことも手伝って、本隊のダメージも深刻なものになりつつある。

 

 

「ほう、なかなかどうして粘るじゃないか、ベアトリスからある程度聞いてはいたが、少しは骨のあるやつみたいだな」

 

 

いくつもの作戦を頭の中で考えては却下し…ということを繰り返していると、敵艦隊の旗艦である南方棲姫が不敵な笑みを浮かべながら挑発的な口調で言ってくる。

 

 

“敵ながらあっぱれ”という意味で捉えるならある種光栄な事なのかもしれないが、今の大和にそんな栄誉を受け取るような余裕など無かった。

 

 

「だがそれも終わりだ、女王兵級(クイーン)は後ろに下がって攻撃準備!王兵級(キング)は前に出て総攻撃!」

 

 

南方棲姫が深海棲艦たちに指示を出すと、艦載機の発艦準備のためか空母棲艦が後ろに下がり、戦艦棲艦が前に躍り出てくる。そして戦艦棲艦たちが次々と主砲を撃ち出してきた。

 

 

(マズいっ…!)

 

 

これだけの砲撃を受ければ強化装甲(バルジ)を着けているといえど致命傷は免れない、どうする、どうすればいい…などと一瞬で色々な事を考えていた、が。それは突如として中断させられる事となる。

 

 

「大和さん!」

 

 

刹那、横から衝撃が加わって大和は横方向に突き飛ばされてしまった、あまりにも突然の出来事だったため、マトモな受け身も取れず海面をゴロンゴロンと転がった。

 

 

いったい何が、と大和は突き飛ばされた方へと視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…」

 

 

そこには、自分を砲撃から守るようにして立ちふさがる駆逐艦たちの姿があった、そしてその内の1体…春雨がこちらの方を振り向き、確かにこう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、駆逐艦たちのいた場所に、砲撃の雨が降り注いだ。

 

 

 

 

 

結果から言えば ()として使われた駆逐艦たちは全員轟沈、標的である南方棲姫はこちらにとどめを刺す寸前の所で何者かからの交信を受け取った後に撤退。勝ちもしなければ負けもしなかったという何とも言えない結果となった。

 

 

「貴様ら!盾を持たせておきながらこの体たらくは何だ!南方棲姫を撃破出来なかったどころか全員大破するというこの大損害!一体全体何をしていたぁ!」

 

 

大和の報告を聞いた矢島は怒り心頭といった様子で大和たちを怒鳴りつける、彼の中では駆逐艦の全滅は予定通りなのか、欠片も触れようとはしなかった。

 

 

「…提督、先程造船所の結城所長からお電話がありました、至急連絡が欲しいとのことです」

 

 

「む…分かった、ではお前たちはもう下がれ、全く…ここで戦果を上げられれば昇進のチャンスだったというのに…」

 

 

矢島はぶつぶつと文句を言いながら大和たちに退室を言い渡す。その態度に思わず手が出てしまいそうになるが、そんな事をすればこちらの首を絞めることになるのは明確なので何も言わずに提督室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その後、入渠での回復を済ませて部屋に戻った大和はひとりベッドに力無く倒れ込む。

 

 

 

「…みんな…ごめんなさい…」

 

 

必死に嗚咽を堪えながら涙を流す大和の声は、誰に届くこともなく部屋の中へと消えていった。

 

 

 

 

 




次回「進み出した一歩…?」

今回の前任のシーンは都合で色々端折ってるのでマイルドになっています。
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