AF使ってダンジョンに潜るのは間違っているような… 作:aF
間もなく、【未完に捧ぐ詩】が開演致します。本劇の終幕を以て、本作の区切りとさせて頂きます。どうかごゆるりと、お席にお座りになってお楽しみ下さい。
あの不気味な男との取引(脅迫)の結果無事に回収することができた、気絶したアマゾネスを抱え、道化の眷族たちは路上を駆けきり、彼女を預け戦場に戻ろうとまた駆けていた。
「フィン!」
「わかっているよ、アイズ!」
敵を見つけた、そう言わんばかりの声にフィンも頷く。
そこにいるのは一組の男女。狼の獣人に威厳持つエルフ……すなわち、【凶狼】ベート・ローガと【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アールヴ。
だが、敵に回ったはずの2人から聞こえたのは衝撃を与える一言であった。
「フィン! 敵に回っておきながらこんなことを言うのは悪いとは思うが……スピネを止めるぞ!」
「なんだって? なぜスピネの味方となり【異端児】を守ろうとする君たちがそんなことを僕らに頼む!」
「立場、敵味方、んなこたぁアレに比べりゃどうでもいいんだよ、いいからとっとと来い!!」
狼人がそう言い放つ理由。それを表すには、時を少し遡る必要がある。
理由を語る前に、その理由の前にあるやりとりから流す。これもまた、語り手の特権だろう。第三シナリオ 【大団円】。またの名を【未完に捧ぐ詩】と彼の中で定義されているそのシナリオの開始の合図は第二シナリオ……彼曰く、真の名は【仕組まれた交差】……それの完遂。
第二シナリオまでが『民衆が抱く【異端児】に対するイメージの変更』であるならば、第三シナリオは『英傑という存在に対しての疑問の提起』である。
「そも、英傑とは何を以て英傑足るのか。未だ良くわかっていなくてね。人を導くのが英傑足るのかと言われればそうな気もするが、武勇を以て争うのもまた英傑だ」
「……あまりにも突然になにを語るんだ、君は」
「いや? 【神造の英雄】を生まんと欲する貴神にだけわかることもあるかと思ったんだよ」
「ふむ……生憎だけどその答えを持ち合わせてはいない」
そう言い腰かけた城壁より立ち上がるナニカ……『短髪に切り揃えられた』黒い髪が特徴的な『男』。
対していたのは男神、名をヘルメス。【神造の英雄】を作らんと暗躍していた神物である。しかし、そのヘルメスの端正な顔は歪んでいた。
「これから君は何をするつもりだ?」
「まだわからないと目を背けるつもりか?」
「……君は」
「まあいいんだよ、どうでも。貴神が鐘の音を鳴らすには似合わないことだけが分かれば十分だった。それでは」
「なっ!?」
城壁から飛び降り……いつの間にか空飛ぶ白い杖へと優雅に腰かけているソレが目指す先は中央広場、ただ一人の竜人と多くの眷族たちとで今なお続く争いのど真ん中。
ソレはあまりにも唐突に現れ、あまりにも唐突に全てを終わらせに来ていた。
「いっくよー!!」
「総員! 来るぞ構え!!」
「そこまでにしてくれ、いい感じに邪魔なんだよ」
「「ッ!?」」
降り立ったスピネ・モデスト……その言葉と装いにスピネらしさというものが一切ないことだけは気になるが、とにかく絶望的な状況になったと【反異端児連合】の指揮官は舌を打つ。
次の瞬間。
「お疲れ様だねアーテルバス、ゆっくりと休むといい。そう、ゆっくりと」
「えっ……んきゅっ!?」
「「なっ!?」」
スピネ・モデストはアーテルバス……アデルに近付き、その魔力を以て意識を刈り取った。
そしてソレは一言、残された連合の者たちに告げる。
「ここから先は俺が相手になろう。あぁ大丈夫だ、退屈はさせないから」
僅かな時が過ぎた。また、暴虐の嵐も過ぎた。
「人同士の繋がり、同じ想い……想いの最上級は憎悪だろうにそれを共有してなお抗いさえ出来ないのか? 不甲斐ないね全く、嫌になる。『凛』は英傑とは想いの集合であると言っていたが……それは本当なのかな? ヘルメスの【神造の英雄】計画……アレにも理があったのだと思わざる得ないほどに脆弱だ」
ソレはぼやき、そして聞きたくなかった足音を聞きつける。
「あぁ……最悪の、タイミングだ。リヴェリア……それにベート」
「なぁ……スピネ。このような状況でこんなことをお前に聞くのもなんだが……『お前は誰だ』?」
「全く、忘れたか? 【ヘスティア・ファミリア】所属、レベル7、スピネ・モデス「そうではないだろう」……おや」
「繰り返すぞ。神ヘスティアよりのお言葉だ……『お前は誰だ』!?」
この体に刻まれた『転生神』の【神の恩恵】が今の己を象る。スピネ・モデストの身に刻まれた『竈の女神』の【神の恩恵】は一時的とはいえ体ごとこの世界から離れ、効力を失っている。それをヘスティアは人ならざる力で感知したのだろう。
ヘスティア経由でしか知り得ない故に、ヘスティアに会い頼まれて彼女らが知るに至ったと推測して、男はこう独り言のようにごちる。
「どうしても答えが要るかい? 要らんだろ? 知りたくないんだろう? いいじゃないかそれで」
「とっとと言いやがれ……ッ!!」
「アブないなぁ全く……始めるか? ベート・ローガ」
ローブが捲れあがり、白い槍と銃……【音速機構】の武装と黒い輪……【強襲黒輪】の武装が展開される。しかし、やはりそれはスピネ・モデストではないのだとベートは確信した。
そこまで考えてから、ひとまずの手としてベートはリヴェリアに声を掛ける。
「おいババァ、フィンたちを呼ぶぞ」
「アイツらが来ると、そう思うか?」
「来るだろ、アイツらの本心はどこまでいってもスピネ打倒にあるはずだ。俺よりも負けず嫌いだぞアイツらは」
「ふっ、違いない。と、いうわけでだ。また後で見えよう」
「お前らを逃がすと思うか?」
「舐めすぎだぞスピネ、覚えてねぇのか?」
からりと地面に転がした魔剣をベートは踏み砕き、勢いそのままに蹴りを放って凄まじい閃光を解き放つ。
その光は威力よりかは目眩ましが本懐。光が終わった後には成し遂げた魔剣の欠片が落ちているだけで、2人の姿はすでになかった。
「あんなのあるのか……もう少しちゃんとアニメでも見れば良かったか? 生憎ソード・オラトリアは中途半端なんだが……そっちの技かな? まぁいい……愛すべき妹からの決別の願いだ。兄として……今こそ果たさなきゃな」
そうして、鐘の音が響き始めた。
「で、どうにかアイツから退いてお前らを探したって訳だ。アレはさっさと止めた方がいい……普段のアイツじゃねぇ」
そう説明を締め、フィンに助力を乞う2人。そこに、凄まじいまでの殺意が重さを持ったかのような重圧が降り注いだ。
「ベートがそこまで言うならば相当の……ッ!?」
「……ッ! みんな! あれは……あれはダメなもの!」
「アイズがダメなもの、と言いきるか……相当だな」
再び集まった道化の眷族らが近付いてくるソレを見た。無数の円形の魔法陣。蒼い光でできた円が傾き重なっただけの冠。存在から発される声。鉄がぶつかり合う音はまるで鐘が鳴るように響き渡る。
それは、【天使】というにはあまりにも機械的。
それは、【神】を名乗るにはあまりにも冒涜的。
それは、【悪魔】と表現するにはあまりにも神々しい。
それこそは【機械仕掛け】、その力の表出。
それから放たれる全てが、【スピネ・モデスト】ではなく【男】……『東城誠』と名付けられ育てられ、そして死んだ男の物。だがそれを道化の眷族が知ることはない。
「ナニに成り果てた、スピネ……」
「成り果てた、か。東方の遊びに将棋というものがあるそうだ。『成る』とは即ち進化を指すらしい。がまあ……あれが恩恵の果てとは思いたくないね」
最早それは人と呼ぶには相応しくないのだろう。くしゃりと潰れ、浮かぶ円の中に機械が畳まれていく。魔法陣がいくつもいくつも重なってより大きな魔法陣を作っている、ソレだけが浮かぶ。
「【嗚呼人類ノ叡知ヨ目覚メン、人ノ子ヨ今コソ『工房』ノ扉ヲ開コウ】……英傑の夢、鐘の音は何処に」
大きな組み合わさった魔法陣『だけ』になったソレは、魔法陣の中に秘めた扉を開く。そこから現れたのはアーティファクト。人類に、ベル・クラネルに与える卒業試験。それこそが【未完に捧ぐ詩】。
『第一楽章【人ならざるモノより】の開演をお知らせ致します』
ソレから飛び立った大量のアーティファクトたちが、道化の眷族たちに牙を剥く。
ソレは、鐘を待っている。
Q.で、今スピネもどきはどうなってるわけ?
A.魔法陣(厚みなし)の中に厚みのある機械を押し込んで完全にぺらっぺらの魔法陣一枚になって、肉体維持のリソースすら『工房』の機能に回しフル回転させてベルが来るまでAFを用いて耐久ゲーをしようとしている。
Q.楽章ってなんだよ
A.詩なんだからそりゃもう。
ちなみになにとは言わないけどフルオーケストラ→レチタティーヴォ→デュエット→アリア。
『東条誠』
東条家の長兄。スピネ・モデストの名を受けて転生したはずだが、何らかの事情によるものか、自称転生神の策謀により『工房』の中に生前の体に自称転生神の恩恵を与えられたものがあったため【魂割朋友】などを用いず『工房』のみで復活した。ちなみに『まこと』ではなく『せい』なのだが、誰も名前で呼ばないので問題がなかった。
いつかの話で語られた死んだ妹の名前は『東条凛』であることが本話で明かされることとなり、また『東条凛』とは兄妹以上のなにかを持っていることも推察されるだろう。
結局のところ、死んだところで魂は失われない。現代に生きるその青年が絶望する姿を困ったように眺める1つの魂があったことを、青年は知ることはなかったのだ。
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