「お前なんか……死んでしまえ」
そんな無責任な呪いの言葉。
それを受けたミシェルは自棄になったというより、悲しみながらその場から離れることになり……儂の操作で別の部屋へと移動させられた。
やってきたのは暖炉が大きな部屋で、その中で暖炉を調べればやってきたのはあのメイド。さっきまでの二人の会話を聞いていたのか、彼女はミシェルの気持ちを一切考えずに慰めの言葉をかけていく。
彼女がかけた言葉は、とても身勝手なもので「ピエールの事など気にしなくていい」、「あの人はいつもミシェルの悪口ばかりで、僻みっぽいんだと思います」と……そして最後に才能のことで妬まれ、仲良くしたい弟にあんなことを言わせてしまったミシェルに対して、最悪のタイミングでの「才能は消えたりしません」…………と。
「慰めはいいんじゃがな……タイミングってものがあるんじゃよメイドよ……」
[なんで誰もミシェル君の事を気にかけてくれないんだよ]
[あれでしょ? 天才だからっていう風潮]
[「天才ならなんでも出来るだろ?」「天才だからこっちの気持ちが分からないだろう」とかいうあれか]
[ミシェル君はただ一緒に演奏したいだけだったんだろうなぁ]
[ピエール君の気持ち分かるけど、ミシェル君ずっとみてた私的にちょっと嫌な感じ]
[シャルロット空気読んでくれ]
[メイドォ……]
続いて流れるのはミシェルの独白。
そこで分かった事は一つ。ミシェルが欲しかったのは、弟と二人で何も考えずに楽しく演奏できていた楽しかった日々で、栄光・名声・賞賛なんてモノ――少しも欲しくなくて、ただ弟という家族と一緒に何かが出来ればそれでよかったんだろうに……。
「ずっと我慢してたのは、ミシェルも同じ……子供だから仕方ないが、もうちょっと言葉を交わせればきっと喧嘩は起きなかったんだろうな」
今までのミシェルを見る限り、この子はあまり言葉で伝えるのが苦手なのだ。
言葉にしなければ分からないと言われることもあるかもしれないが、天才という眼鏡をかけて誰も彼を見ようとしなかったのが一番最悪だ。
ヴァイオリンのせいにして暴れるミシェルは、暖炉へとそれを放り投げようとしたのだが……その直前にどこかから猫が鳴き、彼の事を止めたのだ。
「そうか……この猫がクロエ、か」
[やっと登場したクロエ!]
[猫だったのか]
[可愛いな]
[猫に慰められるミシェル君も可愛い]
[それを見てほっこりしてる鴉様も可愛い]
[でも、確かこの猫をミシェルは……]
[嫌な予感しかしない]
[怖いな]
続いて流れる回想は……猫クロエと、ミシェルの短い日々。
ピエールと喧嘩中の彼を癒してくれる黒い野良猫は、確実にミシェルを癒やしてくれて順調に彼を救ってくれていたはずだった。
だけど、ある時メイドのシャルロットに見つかってから秘密の共有者となり少し経った頃……嫌な予感がミシェルに過り…………。
その日、目覚めたミシェルは廊下で狼狽えるシャルロットに話しかけ、どこにもいないクロエの場所を問いただした。混乱するミシェルは強い口調で、クロエを殺してしまったかどうかを聞き、その剣幕に怯えながらもシャルロットは答えていく。
「山に逃がしたのか……豊かな山ではなさそうじゃな」
恐る恐るといった感じでの答え。
赤文字での強調……それから考えるにシャルロットは殺したも同然だと考えていると思っていいだろう。
シャルロットの背景も今までの回想で分かっているし、仕方ないというのも理解出来るが……そんな事を考える脳は今の混乱したミシェルにはないだろう。
続くミシェルの台詞での回答に、やはり豊かではない寂れた山だという事もわかり……どうしようもなく、何も出来ないもどかしさに儂は襲われた。
「そして犯人はピエールか…………だけどそれを伝えるのは悪手じゃ」
いまのミシェル視点では、一番の裏切り者は教えないと約束してくれたシャルロット。
だけど、彼女は悪くないということもまだ理解出来ていたのか……それを彼は言葉には出来なくて、「もう全部どうでもいいや」と諦めることしか出来なかったようだ。
「……ミシェル、つらいな……それにピエールは顔が暗いし、シャルもアウトな感じか」
次に向かう必要があったのは、父親の部屋。
その父親はアランとは全然違うが、子供をモノだと思っているのは同じようで、まったくミシェルを見ようとしない。子供を脅して思い通りにするなど、あってはならないこと……そして最後に、彼に聞かせるつもりはないだろうが、かなりの声量で「今のうちに使っておかなければならないというのに……」という、絶対に親が子に言ってはいけない言葉を残した。
その後のミシェルの独白は見るのも辛いもので、子供に利用価値があるだけだからと悟らせるのは本当に……心の底から怒りが湧いてしまう。
子供は誰かの物じゃない。
儂は子を持った事がないから、親の義務を説くつもりはないし、説けるような妖怪ではないが……親というのは、子供が好きに生きて笑って死ねるように、その道を敷いていく者だと儂は思っている。
「このゲームの親は、どうして――いやでも仕方ない……とは思えないな」
[ブッkillyou]
[親共まとめてレクイエムしたい]
[スタンドかな?]
[ディアボロより酷い目にあわせたる]
[無限にヤレ]
[待ってこの後のシャルロットの会話とか嫌な予感しかしないんだけど!?]
[分かる嫌な予感しかしない]
[これ以上地雷は踏まないでくれ]
「あー……狂信者か? このメイドは……ミシェルの才に魅入れられている感じか」
それとも恋しているからこそ、彼を絶対視して他の者を貶す事で彼の事を守ろうとしているのかのどっちかか……どちらもでいいが、少しでもミシェルを見て欲しいのじゃ。
身勝手すぎる彼女の言い分に、遂にミシェルは抑えきれなくなったのか……彼女を突き飛ばしてしまった。
突き飛ばした時の「ふざけるな、お前に何が分かるんだ!?」というもので、今までの全ての不満が爆発したような言葉だった。
「待て!? なんじゃ今の音は!?」
台詞を読み進めていたら突如として、一度どこかで聞いた事があるようなシャンデリアが落ちる音がゲーム内に響きだした。
そして驚きのままボタンを押してしまい、出てきたのは血塗れのシャルロットの一枚絵。
どうみても即死……生き残っている気配は微塵も感じる事が出来ず。事故だが彼女をミシェルは殺してしまったらしい。
「やばい、今のミシェルにそれはヤバいのじゃ!?」
続いて流れる独白は、自分を責めるようなものだったのに……次第に赤い文字へとシフトして、この状況を肯定するかのような内容と「僕は悪くない」という自己防衛。
その後ミシェルが、白い野良猫を殺しているようなシーンが映され、赤文字独白での何も知らないような態度を貫いて、誰も罰してくれなかった事を知ってしまった。
「この二人は、似ているな……だからここまで惹かれ合っているのか」
[改めて凄いゲームだよこれ]
[ミシェルにも非があるけど、一番悪いのは親だよね]
[どっちも親が悪いし、音楽に関係あるの凄いね]
[回想長かったけど見れて良かったわ]
[ミシェル君ずっとつらかったんだろうな]
[これ親が揉み消したりしたのかな? やりそうだし]
演奏が終わり、クロエとの会話が始まった。
その中でもう少しで呪いが解けるという事を儂は知り、改めてこのゲームを絶対に終わらせるという事を決意する。そしてセーブ本の横に現れた「二階通路の鍵」を入手して、そのまま二階で唯一開けることが出来なかったあの扉へ向かうことにした。
「よし……開けたが……なんで血塗れのぬいぐるみが出迎えてくるのじゃ?」
早速のホラー要素にちょっと心を折られながらも先に進み、下へ続く鉄の梯子を降りていきその先にあったセーブ本を使ってから一通りこの部屋を探索することにした。
「うーん、何もないようじゃな……奥にある左側の部屋が空いているようじゃし、先にそっちに向かうか」
[そういえば鴉様一回も鏡の前に立ってないよね]
[え、鏡に何かあるの?]
[このゲームちょっと調べてそれしか知らないけど なんか鏡に隠し要素あるらしいよ]
[気になる]
[鴉様見てよ、気になるからさ]
[あれ……なんかめっちゃ顔を逸らして口笛吹き始めたよ鴉様]
[草]
やばい、ずっと意図的に鏡の前に立ってこなかった事がバレたかもしれない。
いやだって、無理じゃろ? 鏡と言えば日本でもホラーの定番要素。もしも見ている時に何かあるとか考えてしまえば高確率で心臓が止まる自信があるぞ儂。
しかもこのゲームの事だ絶対に何かあるだろうから、今までずっと見てこなかったのに……。
「え、主ら……儂は何度も鏡の前に立ったぞ? 忘れたのか……あーあ、忘れてもうたかー、仕方ないのうこれからはちゃんと覚えておくんじゃぞ? まあこの鏡はどうせ! 何もないだろうし、見る必要もないだろうから、スルーして別の部屋に行くかのう!」
[ギアスを持って命じる――鏡の前に立て]
[立って]
[そうかそうか、忘れたよ……立って?]
[見ろ]
[何もないんでしょ? 見れるよね?]
[紛れもなく雑魚い]
[自白してるようなものじゃん]
「いやまって、マジでここ嫌な予感するの……だから次出てきたら見るから……ね? お願い、別の部屋行かせてよ、マヨイビト達」
嫌な予感がするし、もうプライドとか知らない。
ここは全力でロリになってでも、乗り切ってこの場を生き残る。
絶対に言いくるめて、儂はホラーを絶対に見ないようにするのだ。
[この鴉ロリを使いこなし始めた……だと]
[そういう事なら仕方ない]
[許してあげるよ]
[許してあげるから頑張ってね]
[みんなロリに弱すぎるでしょ]
[俺らも雑魚じゃん]
[このロリに頼まれたら許すしかなくない?]
[分かるわ、このロリは反則]
「許された感じじゃな……じゃあ部屋にはいるが、早速鍵が落ちておるし幸先がいい感じじゃな」
そうやって拾うことが出来たのは「地下一階東物置の鍵」、入っただけで鍵が手に入るとは、本当に終盤という感じな気がするのじゃ。
手に入ったことで早速それを使う為にテキストを進めようとしたのだが……その瞬間、何故か置かれていた電話が鳴り始めたのだ。
「…………儂知らない……電話の音なんて聞いてないし、動く受話器なんて見えないのじゃ」
[ロリ化するのはっや]
[本当に雑魚いなぁ]
[ホラー要素から逃れるためにこの部屋に来たのに……すぐに襲われるのは流石鴉様としか言うしかない]
[まじでどんなゲームにも愛されるの草なんだ]
[ガチ怯え]
[心臓弱すぎない?]
「え、あのさ……この電話出るしかない感じかのう? 怖いのじゃが……でも出るしかないっぽいんじゃが……」
心構えも出来ぬままその電話を調べてみれば、赤文字で「ペンを用意したか?」と聞かれたので、一度用意してないを選んで装備してからもう一度それを調べる事にした。
そしたら七桁の数字が出てきたのでそれをメモっているような描写の後で、万能アイテムでこれまで数多くの謎を解いてきた「羽ペンとインク」がここで退場してしまった。
「これは今手に入れた鍵で入れる部屋で謎を解く感じかのう…………なんか関係ありそうなメモとピアノがあるし――また謎解きじゃな」
とりあえず奥にあったセーブ本を使い、セーブをしてから色々この部屋の探索を開始しする。
部屋の中には謎解きのヒントになりそうな本と――――クロエが残したような日記のような物があったのだ。
その日記の中には、「私」と「呪い」が分離して猫に姿を変えたという事が書かれていて、その白い猫を殺す必要があり、その猫を倒すには「小さな鈴」が必要で、それを黒い猫に装備させる必要があるというのだ。
「まて、黒い猫は多分ノワールの事じゃよな……それにミシェルは今「小さな鈴」を持っている」
一度部屋からミシェルを出して、外にいるノワールを鈴を持った状態で調べてみると、正解だったのかノワールの首に鈴を着けることが出来た。
これがどういう風に作用するのかは分からぬが、きっと何かの布石であろう。
その後に部屋に戻って七桁の数字の謎をピアノで解き、そのまま出されたピアノ付喪神からの八個の質問を儂は攻略した。
「ちょっとやさぐれていたが、癒やしキャラであったなこいつは……頑張るから見守ってくれると助かるのじゃ」
[ピアノさんに敬礼]
[鍵もくれたし応援してくれたし……こんなの惚れる]
[鴉様ならクリアしてくれるよ、だから待っててね」
[呪いは絶対に終わらせる]
[キメラ大好き:ピアノ姐さんの擬人化書いてくる]
[それは草]
彼女に貰った「地下一階南物置の鍵」。
それを使うのはこの下にあった部屋だろう。
何があるか分からないが、どういう訳か今まで活躍してくれていた直感がこの部屋がヤバいと告げているのだ。今まで生きていた中でも数多く働いてくれた儂の直感、それを信じない訳にはいかないので、儂は三つほどのファイルにセーブしてから、その部屋に入ったのだが……。
「白黒じゃと? それに何故ここにクロエがおるのだ?」
入った部屋はとても広く豪華だったが、何故かこの部屋だけ白黒だったのだ。
それに、ここにいる筈がないクロエがいて、どうしようもなく不気味な気配を感じてしまう。それに何故かこの部屋には二つセーブポイントが用意されていて……下の方には白髪の少女がぽつりと立っている。
「ここで直接対決か? でもそれにしては大人しいし、何か様子が変じゃ……最初会った時の様子を見るに、問答無用で襲ってくるような状態だったし……なんなのだ此奴は……」
念の為にまたセーブ。
そして話しかければ画面が暗転して――――。
白髪クロエが瞬時にあのメイドに変わり、最初に襲われたときのように一瞬ミシェルが固まった。
「なっ……何故ここにあのメイドがおるのじゃ!? とにかく逃げるぞミシェル!」
突如始まるこのイベントはもう既に経験しているので、逃げられないという事はない。
ただすぐに走り出せばやられないと分かっているので、すぐにダッシュキーを押して儂はミシェルをこの部屋から逃げさせた。
――――だけど、儂的には逃げた後の方が心配じゃ……だって、ミシェルにとってシャルロットは地雷のような物、しかも自分が殺してしまったと理解している相手であり、もう二度と会うことがなかっただろう罪の証。
「これは……向き合わなければならないというイベントか?」
今道しるべが無い以上、あの部屋に戻るぐらいの選択肢しか儂は思いつかなかったので、いつものようにセーブをしてからあの部屋に戻ってみることにした。
そして戻ってみれば、そこにはあの時の回想で死んでいたときと同じ状態で横たわっているシャルロットがおり、勝手にイベントが進行し始めたのだ。
「待て……このメイド死んでもミシェルに憑いていたのか?」
え……なにそれ、怖すぎない?
……シャルロットの怒濤の台詞。
「逃げるなんて無理ですよ?」と囁くように告げるシャルロット。
「ずーっとずーっと何処までも、坊ちゃまを追いかけますから!」と主人を愛し、褒めて貰いたいように言葉をかけてくる狂信者。
怖い、今すぐやめたい……悪意――いやこの重たい好意が嫌だ。
いや違う、ここまで病的な好意など儂にとっては見ているだけで毒になる。
怖い、異常なまでの想いが痛い。創作物と分かっていても、このキャラが感じている感情を嫌にでも理解してしまう。
このメイドの異常性をよりプレイヤーに理解させるような、巨大で真っ赤な瞳――それを見てるだけで、身が竦み……ボタンを押す手が進んでくれない。
だけど、マヨイビト達に先を見せるために頑張って進めれば、メイドの彼女はミシェルの過去の罪をとても得意げに暴露して、そしてとても丁寧に……自分の正体を嗤いながら告げた。
「私はミシェル坊ちゃまの呪いですわ」