数百年生きる妖怪がVtuberになった件   作:鬼怒藍落

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こっそり朝に


#認知しろ鴉

 

『どうするのかしら浮世鴉様、招待を受ける? 受けない?』

 

 ……与えられる二つの選択肢。

 当然ながら受けるメリットはない。相手の目的が分からない以上、下手に誘いに乗るのは愚策だからだ。

 だけど……今までの態度を考えるに、害はないと思うのだ。

 相手の目的は分からない。だけど信じてもいいと思う……何より推しのことは信じたいのだ。

 

「その誘い乗るのじゃ」

『そう、よかったわ』

「だけどな……俺の周りに危害を加えるのであれば滅ぼすぞ――小娘」

  

 だがこれは釘を刺しておく。

 いくら推しの一人とはいえ、俺の周りに手を出してくるのなら敵だ。そこに慈悲はなく、滅するだけ。

 

『――そこは安心して頂戴、危害を加えるなんてしたくないもの』

「そうかその言葉忘れるなよ」

『ええ。じゃあここに来てくれないかしら?』

 

 そう言って、通話アプリにDMが飛んでくる。

 ということは今日こいという事なのだろう……誘いに乗ると言った以上行かないわけには行かないので、俺は住所を記憶して寝ているであろう雫に置き手紙を書いてからそのまま家から飛び去った。

 

 場所的には妖プロ本社がある秋葉原の近くだろう。

 狙ってやったかは分からないが、警戒しといて損はなし……錫杖を久しぶりに持ち出し、東京に向かって飛んでいく。

 何かあった時の為に鞍馬と酒呑そして土蜘蛛一家に連絡を入れておき、準備は万端。大好きな秋葉で戦闘なんかしたくないが、もしもの場合は致し方ない。

 

「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……はたまた別の妖か。どうなるか」

 

 そして、バレないように気配を消して人間達の所に降り立ち送られた住所に向かったらそこは――なんの変哲もない居酒屋だった。

 

「……ここであっとるのか?」

 

 思わず人前なのに妖怪口調になってしまう。

 信じたくないし間違ってるかもしれないので念の為スマホで住所を確認。

 ヒットするのは目の前の居酒屋――何度見てもその結果は変わらず、ここが集合場所のようだ。

 

「立ってるのも悪いし入るか」

「いらっしゃいませー! 何名様でしょうか?」

「あー、先に待って貰ってるんだが……名前は確か」

 

 あ、やべ。

 そういえば、彼女の名前を聞いてなかった。

 というか、こんな場所に呼ばれるなんて思ってなかったから聞けるわけがなかった。まじでどうすんだよ、これじゃあ合流できずに終わるぞ?

 

「あ、来たのね鴉さんこっちよ」

「あぁあのお客様の連れですか、どおりで」

「……どおりで?」

「いやなんでもありません、とりあえずどうぞー!」

 

 店員に案内されたのは奥の個室。

 そこにいたのは居酒屋には似合わない、ゴスロリチックな服装の――とても見覚えのある少女だった。

 記憶を辿りに思い出してみればそこにいたのは数百年前に一緒に過ごした吸血鬼の少女を成長させたらそうなるような、配信通りの姿。

 そういえば、セレネ様を推し始めた理由は懐かしさだったなぁとそんな事を思い出し……俺は目の前の少女の正体を理解した。

 

「俺が言うのも何だが、配信にそのままの姿を出すのは止めた方がいいと思うぞ」

「貴方にだけは言われたくないわ、鴉さん――というか、改めて聞くけど今の素はそれなのね」

「まあな……それと覚えてなくて悪かった」

 

 今思えば声で気付けば良かった。

 だけどそれは後の祭り、今はもう俺は謝るしかない。

 そう謝ったところ、彼女は全く気にしない素振りで笑ってからこう言ってくれる。

 

「私も貴方が生きてるなんて思ってなかったもの、それで相子じゃ駄目かしら?」

「助かる――すまなかったな」

「だからいいわよ……あ、この場合こう言えばいいかしら? 認知しなさい鴉様」

「くはっ、そういえばそのタグ流行ったな。まあ主らは俺の子供みたいなものじゃし、認知はするぞ――鶫は駄目だが」

 

 久しぶりの再会。

 しんみりする必要も無いし、とりあえず酒を頼み俺は席に腰掛けた。

 ……積もる話はいっぱいあるしとりあえず酒でも飲みながら話すとするか。

 

「大きくなったな、というか成長期いつだったんだよ」

「貴方と別れた後ね、ソルはまったく変わってないわよ」

「……そういえばソルも本名だよな、ネットリテラシーちゃんとしろよ」

「だから貴方に言われたくないわ、がっつり本名で実写じゃない」

 

 ……それは言わないで欲しいな。

 俺の名前とか忘れられてると思ってたし、何より俺の事知ってる妖怪がまだ生きている事自体最近知ったし……京都勢は別じゃが。

 

「……何も言えないな」

「昔からだけどやっぱり貴方時々抜けてるわよね、私達育てるときも苦労してそうだったし」

「技術はあるが知識はないからな俺の場合」

 

 俺の能力の一つである演じるは、その演じた者の知識までは手に入らない。

 分かりやすく言えば経験と技術のみを憑依させるみたいな力なのだ。だからその場でだけ使うのはいいが、継続して使うとなるとならす必要があるし知識も手に入れなければいけない。

 

「難儀な制約よね、まあそれでもチートだけど」

「儂の周りそれだとチートばっかじゃぞ」

 

 天狗勢しかり、酒呑しかり……儂の知り合い達は個人で国落としぐらい出来る化物ばっかりだ……酒呑なんて変身を三回残してるし。

 改めて思うが日本はバグである。

 よく儂生きてたなー。

 

「で、聞きたいんだが……なんでセレネは配信始めたんだ?」

「そうね、面白そうで気になったし会社運営してて暇だからね」

「……まさかの社長?」

「リアルでも割と魔王やってるわ、社員も結構人外多いわよ」

 

 それどんなゲームかラノベ?

 内容としてはアレだな、会社経営系か日常系のドタバタコメディ。

 多分主人公はソルだろう。あの子はツッコミタイプだし、よくセレネに振り回されていたから。

 

「そういえば、ソルは元気か?」

「ソルは……元気だけど家ではやばいわね、毎日貴方の配信見てるわ」

「それは嬉しいが、ちゃんと寝るようにいうんだぞ? 体調崩したら心配だし」

「大丈夫よ、今も貴方の作った棺桶ベッドを大事に使ってるわ」

「……今度新しいの作るのじゃ」

 

 あれ作ったの何百年前だ?

 確か出会ったのが五百年前で、別れたのがそれから六~七十年ごぐらいだから下手に数えても三百年物のベッドだ。

 

「ソルは俺と会ってること知ってるのか? あいつなら来そうなんだが」

「絞めたわうるさそうだから」

「えぇ――今度そっちの家行くぞ?」

「それは私が死ぬから止めて頂戴」

「なんでじゃ?」

「なんでもよ」

 

 よく分からないが、家に行くのは駄目らしい。 

 ちょっと残念だがそれも仕方ない。今度お邪魔できる機会があれば行かせて貰おう。

 

「そうだ鴉様、ちょっと目を見てくれないかしら?」

「なんじゃ急に――ってセレネ、なぜ睡眠技…………ぐぅ」 

 

 目を見た途端にかけられるチャームの亜種。

 それを食らった儂はかなりの眠気に襲われ寝てしまった。

 最後見た光景は、この席に近付いてくる巨漢のマッチョ……なんで? と思ったが、俺は睡魔に抗えずそのまま眠った。

 

「ちょっと邪魔な客が来たからよ――で、何の用かしらエクソシスト、私今大事な人と話してるのだけど?」

「……貴様が人間と密会してるとソル様から連絡があったのだ。何をする気だ? 吸血魔王?」

「……あの馬鹿、後で絞めるの確定ね」

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