十刃になりたかったお姉ちゃん   作:バラフバフ

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第1話

「水色!悪いっ!今起きたとこなんだ!上がって待っといてくれるか?」

 

その日の朝、黒崎一護は珍しく遅い時間に目を覚ました。

 

少女の姿をした死神、朽木ルキアと出会い、彼が死神代行として虚、魂を食らう化け物と戦うこととなってから既に一月が経とうとしていた。学生と死神の二重生活によって彼が疲弊していたのは確かだが、それでも寝坊することなど今日まで無かった。というのも

 

「あーーーーもーーーー何だって今日に限って親父の奴は起こしに来ねーーんだ!?」

 

普段であれば彼の父親である黒崎一心がウザったらしいハイテンションをひっさげ、息子を叩き起こしに来るのだが、今日に限ってそれがなかったのである。

 

「いつもなら呼んでもねーのにガ―――ッと………」

 

そのことを疑問に思いつつ、彼は時計に表示された日付を見つめ、その訳を悟る。

 

 

6月16日

 

 

「……そうか………近いんだな…」

 

 

6年前の明日、6月17日。

 

彼の母親と、”姉”の命日である。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

なんか気づいたらくたばってて、目の前に神的な爺がいた。

 

何かごちゃごちゃとまくし立ててきたんでめんどくせーから思いっきり聞き流してたけど、俺様を好きな世界に転生させてやるとかゲロやべえこと抜かしてくれちゃったから週刊少年ジャンプを代表するポエム作品、『BLEACH』の世界に転生させてくれ、つったら快くオッケーしてくれた。

 

そんで他にもいろいろ便宜図ってくれちゃうって言うもんだから、俺様の激推し集団、十刃の一人に転生させてくんね?ってダメ元頼んでみたら、こりゃまた快諾。

 

んでそっから調子乗って、出来るだけ色んなキャラと関わりたいと言ったり、帰刃はこーゆうのがいいと妄想語ったり、思いつく限りの望みをとにかくオーダーした。

 

……しっかしそん時ToLoveるの美柑ちゃんの外見になりたいっつった時の爺の表情、ありゃ何だ。

 

いいじゃねえか成人男性が幼女になりたがっても。

 

そんでいよいよ俺様の新たな生がスタートって段になって爺が爆弾発言ぶち込んできやがった。

 

「あくまで要望は参考にするだけで全部叶う訳じゃないんで、あしからず」じゃねえよ、クソ老害が!

 

最初に言った?知らねーよ!聞いてねえんだよ、こっちはよォ!!

 

俺様のチート転生に瑕疵があってみろ、次会ったときにテメエの頭掻っ捌いて、針で脳髄かき回してやっからなあ!!!

 

 

 

 

おぎゃあと生まれた俺様だ。

 

そんで初めて聞いた言葉は

 

「おめでとうございます、女の子です」

 

だとよ。

 

はい、不具合一つ目―!

 

十刃つったろうがァァァァァ!!!!!!!!!!

 

あの腐りかけの……………………………

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「違うから織姫!それ違うから!!」

 

「あ……あんたまた居残りさせられたいのッ!?」

 

「???」

 

朝、空座第一高等学校1-3の教室にて、井上織姫は友人の小川みちると有沢竜貴から自身の美術の課題の出来に関してツッコミを受けていた。

 

と、そこへ

 

「あ、おはよう!黒崎くん!!」

 

彼女の想い人であるクラスメイトの黒崎一護が現れた。彼はすぐに井上へと向き直り

 

「おう!オハヨ!井上!」

 

と、いつになくにこやかな表情とトーンで返した。

 

「な……何あれ…どうしたの!?黒崎くん今日ヤケに機嫌いいじゃない?ねえ、織姫!?」

 

普段とかけ離れた様子に面食らう小川。しかし井上は

 

「なんで……黒崎くんあんなピリピリしてるんだろ…」

 

「…え?」

 

彼の朗らかな態度に隠した内面を敏感に感じ取っていた。

 

「みちる、今日って何日だっけ?」

 

「え?6月16日…だけど?」

 

「そっか」

 

困惑する小川を他所に今度は有沢が突然日付を尋ねると、直後どこか遠い目でこう続けた。

 

「織姫、やっぱアンタすごいわ。あたしはあれに気付くのに3年かかったもん」

 

「たつきちゃん…?」

 

「もし一護に急ぎの用があるなら今日のうちに済ませときな

 

…あいつ、明日休みだから」

 

 

そんな彼らの様子を朽木ルキアと…石田雨竜が見つめていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

転生してから早数年、霊感に目覚めたり弟できたり小学校に入学したり色々あったよ。

 

俺様、今世では黒崎美柑という名前です。

 

そう俺様なんと主人公黒崎一護君のお姉ちゃんになっちゃいましたよ、ハアー。

 

色々不満はあったけどよ、そう、オーダーしたもんが外見以外一個も反映されてねえとかさ、それでも前世の知識もあったからそれなりにエンジョイできてますよ。

 

俺様ってば、歳のわりにしっかりしてるし、下の子の面倒もよくみるいいお姉ちゃんだし、外見もいいし、勉強もできるし、さらに今世じゃ運動神経もいいし、まあ周りと話題合わせんのには苦労したけど、そこは慣れたし、まあ、もう周囲からの評価はバリクソ高いわけですよ、ハッハー。前世知識チート最高!あ、霊感あるけど言いふらしちゃいませんよ、不思議ちゃんにはなりたくないんで。

 

さらに両親は……ヒゲはちょっとウザいけど……どっちも優しいし、下の子も可愛いし、言うことなし。

 

今日は可愛い弟と一緒に近所の駄菓子屋にアイス買いに行きましたぜ。いやあ、ショタ一護意外と可愛いですよ、素直で。

 

その我が愛しの弟が帰り道にすっ転んでねえ、これが泣くの我慢しようと若干の強がり見せたのよ、結局泣いたけど。

 

俺様にカッコつけたかったのかねえ、かーわいいー。

 

しっかし家帰ってから、もう泣かない宣言貰っちゃったのはちょっと寂しいかな。

 

だからまだバリバリ甘えてきていいんだぜ?的なこと言ってしまった。

 

まだ俺様は頼られていたいのだ、弟よ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

空座第一高等学校1年の浅野啓吾は帰宅してすぐに

 

「……げ」

 

「あ?…げ、って何?何か文句でもあんの?」

 

「…イヤ、何もないっス」

 

先に帰宅していた姉のみづ穂に出くわした。

 

何で今日早ェーんだよ……」

 

「聞こえてるからな、オイ……今日は生徒会の仕事が早く終わったのよ」

 

「あ、そっスか…」

 

別に仲が悪いという訳でもないのだが、お互いを鬱陶しく感じる年頃故の微妙な空気が流れる。

 

やがて思い出したようにみづ穂が軽い調子で啓吾に問いかける。

 

「……そーいえば、一護くんどうだった?何か変わった様子とか……」

 

「え?別にねーけど……ああ、ちょっと機嫌よかったかもな」

 

「……そ」

 

それだけ聞くとみづ穂は自室へと消えた。

 

「……何なんだ、アイツ」

 

疑問に思った啓吾が、ふとカレンダーに目を向ける。

 

「………ああ、そっか、あの人の」

 

姉も友人もきっと6年前の明日亡くなった、彼女を悼んでいるのだろう。

 

そして彼にとって彼女は彼の初恋を奪った相手でもある。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

俺様、小学校上がってから実は塾に通わされてんだよな。

 

最初は俺様、中身は成人男性だから身にならねえし、絶対御免蒙ると思っていたんだけど、通い出すと意外と面白ぇ。

 

勉強の内容ってか教え方がまあ興味深ぇ。今迄全く気にも留めなかったんだけどよ、教えるテクニックてのはやっぱあるんだな。

 

それはそうと、その塾に何か妙に敵愾心剝き出しのクソガキがいやがる。

 

コイツも中々優等生なんだが、俺様と比べるとどうにもな。

 

ま、せいぜい頑張れや。

 

と、思っていたんだけど、最近このクソガキ何やら伸び悩んでいそう。

 

いや、別にいいんだけど、何か成績張り出される度に俺様を射殺すような視線で見るのはやめて欲しい。

 

で、ある日、塾に早めに来て暇を持て余してたら、例のクソガキ発見。

 

何か塾の課題で詰まってるみたいだったから、暇だし強引に話しかけて解き方教えてやった。

 

 

そっからそれがきっかけでそいつがよく俺様に分からないとこを訊きに来るになった。

 

俺様としては教えるのも嫌いじゃねえからまんざらでもなかったし、そのうち勉強のこと以外も話すようになって、わりと仲良くなった。だけど、よく話すようになってから向こうから言われた「話してみたら意外と馬鹿」って言葉、ありゃ何だ?俺様のどこが馬鹿だというのだ。言い返したらまた馬鹿だと言われた、解せぬ。

 

 

そして驚愕の事実判明。

 

このクソガキ、一護の友人(になる予定)の浅野啓吾のお姉さんだった。

 

コイツの家に遊び行ったときにたまたま出くわして、なんか見覚えあるなと思ったら、案の定でしたわ。

 

しかし、やっぱ家によって姉弟事情って違うのな。

 

こっちは完全に姉の尻に敷かれてて哀れだったから優しくしてやった。

 

そしたら結構懐いてくれてさ、可愛いもんだよ。

 

しかし、モブだと思ってたら、たまたまネームドキャラだったとか……こんな偶然もあるんだなあ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

既に日は落ち、家々に明かりが灯り始めた頃、黒崎家からは賑やかな声が響く。

 

明日家族総出で墓参りへと向かう、その打ち合わせをしているのだろう。

 

そんな様子を窓を通し、少し遠くから眺める小さな人影が一つ。

 

年齢は十代前半ぐらいだろうか、パイナップルを思わせる髪型や白いケープのような衣服など、外見上目を引く点は多くあるが、何より奇妙なのは頭部の両側に張り付いた髪飾りのような仮面片である。

 

ふと、その人物が背後へと声をかける。

 

「……やあ、久しぶりだね………雨竜くん」

 

虚を屠る狩人、滅却師(クインシー)の生き残りである石田雨竜がその人物の背後で弓を構えていた。

 

「…ええ、お久しぶりです、黒崎さん」

 

「物騒だなあ…そんなビクつかなくてもいいのに」

 

張り詰めた空気と裏腹にその人物は雨竜へとにこやかに応じる。しかし、雨竜は緊張を解くことはなく目の前の相手の一挙手一投足に集中している。

 

「……一応訊いておきますが、貴女は()()()ですか?」

 

「その弓を見るに、もう分かってるんでしょ?」

 

その言葉は、目の前の存在を敵だと雨竜に改めて確実に認識させるものだった。

 

しかし、矢が放たれることはなかった。

 

依然として矢の矛先は例の人物を向いている、が、雨竜の呼吸は荒く、腕は震え、照準がうまく定まっていない。

 

その姿を視界に収めたその人は少し悲しそうに微笑むと、努めて平静さを取り戻そうとしている雨竜の手に自身の手を置き、囁く。

 

「虚を前に情を持ってはダメだよ、でないと……死ぬよ?」

 

言葉と共に彼女は突如として姿を消した。

 

「っ!」

 

すぐさま霊圧を探るも、どこにも見つからない。どうやら既に索敵可能範囲から抜け出したようだ。

 

「……クソッ」

 

緊張が解け、膝から崩れ落ちる。

 

虚に弓を引けなかったこと、それを雨竜は深く恥じた。

 

 

滅却師として許されない行為であったこと、確かにそれも一つの要因ではあったが、それよりも、逃がしたことを深く()()している自身を、恥じたのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ある日河川敷辺りを歩いてたら、何かメガネのショタっ子が泣いてたから迷子かと思って話しかけた。

 

何かお父さんと喧嘩したとかで帰りたくないとか言うから、じゃあ俺様が一緒に謝りについてってやるぜ!って強引に家まで案内させてついてった。

 

で、そっからが驚きだったんだけど、石田って表札あったからマジかと思ったら、やっぱショタっ子石田雨竜くんでした。

 

俺様の顔見てお父さんの竜弦さん驚いてたけど、なんか普通に茶出して歓迎してくれた。

 

向こうがなんでもねえ感じでお母さんの近況とか訊いてきたからこっちも特に意識することなく何も知らない体で答えた。

 

俺様の顔知ってるってことは、多分交流あるんだろうな。いやヒゲあたりが一方的にグイグイ行ってんのかもな。

 

一応その日は親子で和解したみたいで、それ見届けてから帰った。

 

その後も何でか雨竜くん、ちょくちょく見かけるようになって会えば話す程度には仲良くなった。

 

そのうち、俺様に霊感があることがバレて、そしたら雨竜くんが虚についてレクチャーしてくれた。

 

つってもこーいう化け物を見たら逃げること、ぐらいな内容だったけど、俺様のためを思って一生懸命話してくれてマジ可愛いかった。

 

俺様子ども好きかもなー……教えるのも好きだし…教師とか目指そっかな………。

 

そーいや、そろそろ一護も9歳ぐらいになるし、6月も近い。

 

俺様いることで原作のストーリーラインからどれだけ外れるかはわかんねえけど、お母さんが死ぬ可能性は依然としてあるし、取り敢えず一護には知らない子を見かけても一人で助けに行こうとせずに、大人を頼るよう言い含めておいた。

 

でもなあ、不安だなあ。

 

正直、転生した直後は不満垂れ垂れだったけど、今は本当に良縁にばっか恵まれて楽しい日々送ってる。

 

失いたくねえなあ……当日は早めに家帰ってから周辺見てまわろう。

 

何が出来るわけでも無いけど、二人が安全に帰れるよう見張るぐらいはしときたい。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ハァ…ハァ…ッ…ハァ、かひゅ、ゲホッゲホ!」

 

「一護!おい、一護!くっ、一体どうしたのだ、突然…」

 

改造魂魄を巡る騒動に奔走したその日。

 

無事、改造魂魄を捉えることに成功した後、ふとルキアが少し遠くにあるビルに一瞬だが霊圧を感知した。すぐにそちらに目を向けたが、そこには何もいなかった。

 

気のせいかと思いながらふと一護を見やると、目を見開き、先ほど自身が霊圧を感知した付近を見つめていた。

 

どうしたのかと疑問に思ったその時、彼は突然過呼吸を起こし、膝から崩れ落ちた。

 

「……ご…………さい……ゴホッ」

 

「何だ?何を見たのだ?」

 

苦しそうに荒い呼吸を繰り返しながら、一護は何かを呟いている。

 

ルキアはそれを見た何かについて伝えようとしているのだと考え、聞きとろうと耳を澄ます。

 

途切れ途切れで紡がれる言葉、しかし、ルキアは確かに聞いた。

 

「ごめん………なさい……姉ちゃん…ごめん……ごめんなさい………」

 

「……一護…」

 

ひたすらに紡がれる言葉にどうすることも出来ず、ルキアはただ黙って見守ることしかできなかった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

(いったいどこに行ったの…………)

 

黒崎真咲は町中を走り回っていた。

 

娘である美柑は自慢の娘だ。ちょっぴり抜けているところもあるが、成績は優秀で面倒見も良く、下の子からも懐かれている。そんなしっかり者の我が子が、何故か日が暮れて夜になっても一向に帰ってこないのだ。

 

塾に連絡をしたが今日は体調が悪いので休むと本人から連絡があり、来ていないとのことだった。

 

既に警察には通報したが、何もせずにじっと待つことなどできず、また、当然夫も同じ気持ちだったようで、二人で探し、子どもたちは先に寝かせようと考えたのだが、長男の一護が自分も探すと言って聞かなかったため、下の二人は寝かせ、自身と息子の二人、夫一人の二手に分かれ、夜の町を駆けていた。

 

あの子は親の贔屓目を抜きにしても可愛い外見をしている。それは自慢であったが、今はそのことがさらに不安を掻き立て、よからぬ想像がどんどん際限なく浮かぶ。

 

探すうち河原に至る。

 

川は連日続いた雨で氾濫していた。

 

歳のわりに賢い娘がよもやとも思ったが、足を滑らせて落ちたという可能性もある。

 

ふと、後ろにいた息子が立ち止まる。

 

「あ、姉ちゃん!母ちゃん!姉ちゃんいた!姉ちゃんいたよ!」

 

その声に振り向き、その場を目指すと、確かにそこには娘の姿があった。

 

しかし、その背後にいた存在、それが黒崎真咲の足を止めた。

 

そこにいたのは虚、そしてその形態から考えるに、あの娘の形をしたものは疑似餌か。

 

そこまで思考が至れば分かる……分かってしまう。

 

黒崎真咲は優秀な滅却師だ。

 

虚との交戦経験もそれなりにある。

 

故に理解できてしまう。あの虚がどういったタイプで、そして己が娘がどのような結末をたどったのか。

 

そして、その絶望的な事実が一瞬彼女の動きを止めたのだ。

 

故に、それは起きた。

 

「姉ちゃん!どこ行ってたの?そこ、危ないよ!」

 

己が息子が娘の姿をしたものへと足早に向かう。

 

 

 

「っ!一護っ!戻りなさい!」

 

 

息子の声と共に我に返り、彼女は叫ぶ。

 

しかし、時すでに遅く、息子は虚のほど近くにいる。

 

「え?」

 

息子が振り向くも、もう既に虚はその鋭い爪を振りかぶっている。

 

急ぎ飛廉脚による高速移動で息子の傍まで移動し、そして弓の形状をとる滅却師の武器、霊子兵装を構築せんとしたそのとき、

 

「っ?な、なによ、これ………」

 

構築されかけていた霊子兵装、それが再び霊子へと還り、崩壊していく。

 

それどころか、彼女は自身の内から滅却師としての力が抜けていくような感覚を覚えた。

 

その日は6月17日。

 

滅却師の王、ユーハバッハが自身が不浄と断じた滅却師からその力を奪い取った日だった。

 

武器を構築できない、そんな絶望的な状況下でも彼女は己がすべきことをしっかり認識していた。

 

すぐさま息子を庇うも、その結果虚の攻撃を直に受けてしまった。

 

しかし、それで終わるはずはない。

 

彼女はかばいながらも発動させていた、滅却師が己が術を込めた銀筒という武器を

 

「ぐっあああああああああ!!!」

 

件の虚は悲鳴を上げのたうち回る。

 

「許さん!許さんぞぉぉぉぉぉぉ!!!小娘ごときがこの儂に、」

 

激昂し、今すぐにでも目の前の不遜な羽虫を始末したいと虚は強く思う。

 

しかし、怒りのまま追撃を加えることは能わなかった。

 

黒崎真咲は本当に優秀な滅却師であった。

 

彼女は息子を庇いながら、既に銀筒を用意していた。

 

しかし、それはこの虚を殺しきるほどのものではなく、そして数も少なかった。

 

あくまで護身用であり、また街中での戦闘を想定し、現世に影響を与えるほどの強力な術を込めることはしていなかったためである。

 

よってここですべきはこの虚の撃退ではなく、息子を守ることである。

 

彼女の狙い通り、虚は銀筒をちらつかせれば怯み、やがて姿を消した。

 

 

 

「……くっ、……ハアハア……」

 

 

しばらくして虚が完全に立ち去ったことが確認でき、彼女は一気に気が抜け、強烈な倦怠感に襲われる。

 

息子はどうやら虚の強力な霊圧にあてられ、気を失っているようだ。

 

 

「………ごめん……ごめんね、一護……夏梨、遊子…あなた……………………………美柑」

 

 

自分はもう死ぬ。それは惜しくない。こうして息子を守り切ることが出来たから。

 

しかし、この子たちを残していくことが、そして、娘を、美柑を救うことが出来なかった、そのことが堪らなく、

 

 

 

惜しい

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

グランドフィッシャーという虚がいた。

 

疑似餌を用い、得物を誘う、狡知に長けた虚。

 

しかし、それだけだった………それだけのはずだった。

 

 

 

ある時からその虚は変わった。

 

 

共食いをするようになったのだ。

 

 

それも毎日休むことなく、同族を探して駆けずり回り、ひたすら獲物を求め、それも間断なくひたすらであったため、その量も尋常ではなかった。

 

 

その疑似餌は人ではなく虚を誘うものに、身を隠す術も虚へと向けたものに、それぞれより発展した。

 

 

やがて、その虚は大虚と呼ばれる存在となった。

 

 

しかし、共食いはやめなかった。

 

 

同族相手に鍛えられた気配遮断技能により、その虚は一度も他の虚から手傷を負わされることはなかった。

 

 

下級から中級へ、中級から最上級へ、その成長速度は異常の一言に尽きた。

 

 

やがて、最上級へと至ったとき、その虚は己が疑似餌を切り離した。

 

 

いや、いつからだろうか、それはもはや疑似餌ではなかった。

 

 

その瞳には確かな意思が感じられ、また纏う霊圧は本体とはくらべものにならなかった。

 

 

そこにいたのは疑似餌ではなく、グランドフィッシャーという虚に寄生し、最上級大虚へと至った、かつては黒崎美柑と呼ばれていた魂が変質を遂げた、一匹の破面であった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

見つかったと思ったときにはもう遅かった。

 

俺様の眼前には既にグランドフィッシャーの口腔が広がっており、逃げる術はなかった。

 

俺様の魂はバラバラに引き裂かれ、無残に食い散らされた。

 

 

しかし、そこで終わることはなかった。

 

何故か俺様の意識だけはグランドフィッシャーの中にあり続けた。

 

そこから俺はずっとグランドフィッシャーの両目を通して、繰り返される戮殺を見せつけられた。

 

母から始まり、様々な人間がグランドフィッシャーの疑似餌に騙され食い荒らされるのをずっと見ていた。

 

俺様を食ったことが影響しているのか、俺様の友人も何人もグランドフィッシャーの犠牲になった。

 

それも俺はただずっと見ていた。

 

必死に逃げ回った末に捥がれた足を、肉親を庇って吹き飛んだ腕を、末期の言葉を言い切る前に砕かれた顎を、小さい命を抱えていながら無情に抉られた腹を、ただ見ていた……はずだった。

 

しかし、やがて何十回目の鮮血で腕を濡らした時、ふと気づいた。

 

身体を動かしているのは、俺だった。

 

いつからなのかは分からない。もしかしたら食われてからずっとそうだったのかもしれない。

 

途端に恐ろしくなった。

 

それから、人を食えなくなった。

 

 

何もしていないと恐ろしくて堪らなくなる。

 

だから同族を狩り続けた。

 

殺戮衝動に身を任せていれば何も考えないでいられる。

 

だからずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと……………………………

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた時、何故か俺は死んだ時と同じ姿で砂漠に立っていた。

 

傍らにはグランドフィッシャーの肉体があった。

 

 

呆然としていると、俺の頭上から男の声が響いた。

 

「やあ、お初にお目にかかるグランドフィッシャー……それとも、こう呼ぶべきかな、黒崎美柑」

 

目を向けた先には三人の死神。

 

ああ、そうか

 

「ご要望通りってか……ハハ」

 

 

 

 




お読みになっていただき、ありがとうございました。

昔消したやつから主人公だけ引っ張ってきて書き直した駄文です。
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