朱き右腕   作:三途リバー

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最後に久焔のイメージ画像を挿絵表示しました。
二次創作使用可との事で、 ガラの悪い男メーカーhttps://picrew.me/share?cd=iPgThUOxwf さんを使用させて頂きました。



回天編
RED


雪蓮が睨んだ通り、程なくして山越が孫呉に反旗を翻した。北方から陳珪の軍勢も援軍に来ているという。

これを受け、久焔は早々に討伐軍を編成。陣頭に立つ山越の長、厳白虎を討つため電光石火の勢い建業を出立した。

その結果──

 

『げぇっ、朱然!』

 

緋奔(ひばしり)だ!緋奔義封だぁっ!!』

 

『た、退却!退却ーーーーッッ!!!』

 

「緋奔義封ってなんだよ……」

 

当の本人が困惑するほど、その武名が鳴り響いた。

あまりの速攻と目を覆いたくなるような苛烈さで瞬く間に山越の主力を叩き、厳白虎を3度にわたって破った結果陳珪の軍は彼らを見限り戦わずして徹兵した。

緋色の装束と統一された軍装、まさに火を噴くような勢いで攻め上る久焔にはいつの間にか『緋奔』などという大層な渾名が付いている。

 

現在、通算4度目の会戦の最中にして、戦う以前に敵前線が崩壊している最中であった。

 

「ふはははは、良いではないか!味方ではなく敵に恐れられて付いた二つ名ぞ!誇らしき戦訓と受け取っておけぃ!」

 

豪快に笑って久焔の背を叩く大柄な男を、董襲と言う。

朱家の人間ではないが、元々山越との窓口を務め前回の衝突では蒼藦と共に彼らを打ち破った勇将だ。

山越に詳しく、実績も充分な彼に請うて補佐を頼んだのは誰あろう久焔である。

 

「それで緋奔殿、如何致そうか。儂が追撃に出ようか?」

 

「その呼び方止めてくださいよ!……追撃の陣頭には俺が立ちます。功に逸らないよう、しっかり防御を固めて行きましょう。伏兵の可能性もなくはありません」

 

「ふはは、ますます頼もしき大将じゃわい!うむ、儂もご同道致そう!」

 

もう一度背を叩き、董襲は配下のもとへ指示を出しに行く。久焔も朱家の精鋭達に向かって声を張り上げた。

 

「これより掃討に移る!」

 

これまでの戦ぶりで、朱家の兵達もすっかり久焔を認めたようである。紅皝無頼を肩に担ぎ、そのまま馬上の人となった久焔の周りを槍兵が固め、ゆっくりと進んでいく。

まるで獲物を追い詰める1匹の獣のように、整然と進んでいく軍勢。

 

その姿に更に恐怖を煽られ、山越の軍は我先にと背を向けて走っている。

それを視界に収めつつ、久焔は隣の副官だけに聞こえるよう囁いた。

 

「いるな」

 

「えぇ、いますね」

 

無論伏兵が、である。

都合4度の戦いで連戦連勝、勝ちに奢った孫呉の兵を一挙に血祭りにあげる。いかにも考えそうなことであるし、幾らなんでも敵の逃げ足が鮮やかすぎた。

 

「俺を釣りてぇならもっと本気の粘り腰を見せろ、だらしのねぇ」

 

「久焔さんてなんだかんだ言って戦馬鹿ですよね」

 

「志願して付いてきたお前には言われたくない」

 

久焔さんより大分マシ、とぶぅたれるのは包だ。指導役であり、度々講義を受けていた雷火が荊州問題にかかりきりになったため暇が出来たらしい。

将来的には軍師志望ということで、彼女にも経験が必要という穏の口添えを得、久焔の副官役を志願した。

 

実際問題、彼女の策は見事である。ここまで順調に進んできたのは朱家軍や久焔本人の力だけでなく、包の的確な指示があってのことだろう。

 

「下がるか、包」

 

「いえいえ、心配ご無用。軍師たるもの、血風剣戟にも慣れておかねばいけませんからね。まぁいざという時は久焔さんが守ってくれますよね?」

 

「また調子の良い…まぁ指一本触れさせないから安心しろ」

 

言い残し、久焔は馬の腹を蹴った。

それに応じてかねてより示し合わせた旗本400が鉄盾を手に付き従って駆けていく。

 

ぽかんと口を開けた包が久焔の言葉の意味を理解した頃には、もうその背は遥か前方。

 

「ッッ〜〜〜!!!だからそういうとこですよ!!!」

 

叫びながら自身も馬腹を蹴る包を見る兵の視線が、心做しか生温かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大剣が残像を描くたび、面白いように首が飛ぶ。

それもひとつではない。4つも5つも、まるで重さが存在しないかのように血飛沫をあげながら飛んでいく。

 

「──!……!──!!」

 

既に返り血に塗れ、尚も文字通り血の雨を降らせる悪鬼のような男に怯えたのか、兵達はなにかを叫んで背を向けようとする。

 

だが、悪鬼がそれを許す筈もない。

 

一撃で6人の胴をかっさばき、その勢いのまま呆然と立ち尽くす敵中に突っ込んでいく。

 

大剣の舞は、嵐だった。

 

無慈悲に、平等に、人の波を跳ね散らして斬り殺し進んでいく。

 

嵐に呑み込まれた命が三桁に上ろうかというとき、ようやく暴風が凪ぎはじめた。無論、遺る生命などひとつも無い。鏖殺である。

 

「次が最後だな」

 

台風の目となっていた久焔は、既に返り血塗れで肌の色も分からない。部下が差し出した布で顔を拭いながら後ろを振り向くと、これまた体を赤く染めた董襲がいる。

 

「うむ。斥候が30里先の砦に厳白虎本人と思われる男を確認した。篭っている山越は恐らく3000と言ったところだが…」

 

「陳珪の援兵が隠れてますね」

 

2人とは対照的に、いつも通り白い服装の包が顔を出した。

山越兵の死体をひっくり返して装備を確認している。この遠征軍に身を置くうち屍山血河にも慣れたらしく、表情ひとつ変えずにズタズタの鎧を叩いた。

 

「血で分かりにくいですけど、大分新しくて質も良い。山越がここまでの装備を揃えられるとは思えません。陳珪は完全撤収じゃなくて物資提供は続けてると見ていいです」

 

「引いた援兵を砦に隠して数を頼んだ俺達を引き付けて叩く、か。いかにも賢い奴が考えそうだな。真正面から踏み潰せないことはないが、損害は出来るだけ抑えたい。包、策」

 

「ぶん投げですか!?」

 

「やりたくないなら俺が考えるが?折角手柄立てさせてやろうと……」

 

「ぜひそのお役目この魯子敬に!緋奔義封の副官として恥じぬお働きをばご覧にいれます!」

 

「緋奔はやめろ、なんかむず痒い!」

 

2人のやり取りを、微笑ましそうに董襲が見ている。

慈父のような眼差しをむけながら、彼は内心舌を巻いていた。

 

(朱然殿…苦労知らずの御曹司かと思うたがいやはやとんだ見込み違いよ、これは蒼藦など話にならぬ傑物。魯粛殿も危なっかしい所はあるが中々どうして見事な策士。うぅむ、曇っていた孫呉の道筋に光明を見たわ)

 

次代の台頭を垣間見た董襲の心は軽い。

白熱する2人をよそに、満足そうに髭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4日後。

砦を包囲した討伐軍は2種類の矢文をそれぞれ別の場所へと打ち込んだ。

片方には厳白虎の首を差し出せば陳珪軍の兵は助けると。

片方には陳珪軍主将の首を差し出せば山越は助けると。

更にはいずれの文にも、2日待って応答が無ければ総攻撃と書いたのが効いたらしい。

その夜には砦のあちこちから怒号が響き、あれよという間に火の手が上がった。

 

「悪辣な事考えやがる…」

 

「えー、久焔さんの兵糧を餌に釣り出して火攻めとかより数倍死傷者少ないですよぅ」

 

確かに雪蓮から徹底的に叩けと命を受けたものの、流石に騙し討ちは怨嗟の尾を引くだろう。懸念を示した久焔だが、山越を完全に孫呉の支配下に置くには良い機会という董襲の言に、その腹案を容れることとした。

 

「あ、出てきましたよ。あれは…山越ですね。陳珪軍の大将首です、ほら、槍に刺さってるアレ!」

 

「よし、じゃあ厳白虎は約束通り…」

 

「さぁさぁ久焔さん今ですよ今!全軍突撃の合図!ほら銅鑼鳴らして、敵の気が緩んでる今こそ好機ぃ!一人残らず殺っちゃいましょう!」

 

「孫呉の名声を必要以上に落とす真似できるかこの馬鹿!!投降は容れる、却下だそんなもん(突撃)!董襲殿、良いですね!?」

 

「魯粛殿、朱然殿の仰る通り。山越全てを撫切りになど到底出来ぬ。雪蓮様が仰せになった『徹底的に』とは部族の絶滅ではないぞ。反抗の気概を折ることにこそその御心はあり」

 

「は〜〜い…」

 

「斬れば斬るだけ良いって話じゃないんだよ。陳珪軍も曹魏方面の貴重な情報源だ。可能な限り生きて捕らえろ」

 

かくして、厳白虎以下山越3000名が討伐軍に投降。

豪族に続き、不服従民の叛乱を僅か1ヶ月で鎮圧した緋奔義封の名は呉の国内外に鳴り響くこととなる。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 




山越の数度に渡る叛乱、それに陳氏が1枚噛んでたこと、朱治親子が討伐にあたったこと、朱然が1ヶ月でそれを平らげたことは史実です。時系列滅茶苦茶だし陳珪じゃなくて陳登だし色々とアレですが生暖かい目で見守って頂ければ幸いです。

あと第二章突入にあたってサブタイの雰囲気を変えてみました
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