朱き右腕   作:三途リバー

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くどいようですが、筆者は三国志に詳しくありません。
時代、場所、人物等、滅茶苦茶だとは思いますがご容赦頂けると幸いです。


登壇

緋色の鳳が、波を断ち割り駆けてくる。

 

怒号も、悲鳴も、何もかもを呑み込み、踏み潰し、止まることなく迫ってくる。

 

「火が…緋が、奔っている…」

 

呻くように言ったのは、一体誰だったか。

 

 

命を喰らい、死を撒き散らしながら一直線にこちらへ突き進んでくる暴将を前にそんなことは些事だ。

 

動かねばならない。

止めねばならない。

……逃げねばならぬかも、分からない。

 

いっそ清々しくなるほどに嬲られている自軍を視界に収め、張郃は言葉を失う。

 

 

万余を数え、尋常ならざる覇気を以て立ち塞がった曹操軍…南下先遣隊は決して弱卒などではない。

幾多の鉄火場、綺麗事だけではない地獄を潜り抜けた猛者達だ。

それを、千にも見たぬ小勢が真っ向から断ち割ってくる。

 

鎧兜から馬具まで緋色に染め上げた一団は、突撃の勢いを全く衰えさせることなく駆けていた。流石に数は減らしたものの、それでも濡れ紙を突き破るが如く暴れている。

 

張郃とて衰退の一途を辿りつつあった袁家の武を支え、曹操に膝を屈したもののその直接の原因は政敵からの讒訴、という錬磨の武人だ。敵の暴走とも言える進撃を指をくわえて見ていた訳では無い。中央を下がらせ、左右に大きく展開することで孤立させるよう指示を飛ばした。

 

だが鳳の動きはそれよりも速い。

 

先頭を駆ける男が左手を翳すだけで、鳳の身体から一部が左右へと別れ、展開しようと薄く広くなった壁を突き崩す。無論正面を往く本隊が止まるはずもなく、難なく包囲を打ち破った先でまたひとつの鳳へと戻っていく。

 

鳳は、尾を引いて駆け続ける。

その一条の軌跡に残るはただただ死のみ。

 

「…あれほどの将をここまで隠し持っていたとは、孫家も中々どうしてやるものよ。袁術をあれほど容易く食い破ったのも頷ける」

 

今まで数々の戦場に身を置いてきたが、「朱」の旗を掲げる一団には全く覚えがない。あの反董卓連合の戦禍においても、孫家で有名を馳せていたのは韓、程、黄、祖くらいだ。

 

孫家で朱と言えば古参の朱治が思い浮かぶが、彼はどちらかと言えば幕下にあって将兵たちを統括する役回りだった筈。

 

「なんにせよ、覚えておかねばならぬ。そして、それを曹操様に伝えるためにはまず生き延びねばな」

 

まさか敵将がその朱治の義息、しかも孫呉の武官達から各々の武技を叩き込まれた通称「孫呉注力決戦兵器」(命名:呂範)などと知る訳もなく、張郃は窮を脱すべく槍を扱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

必死に槍を突き出してくる兵を難無く踏み殺しながら、久焔は此方へと向かってくる「張」の牙門旗を視認した。

 

「流石に木偶の坊じゃないな、敵将は」

 

あの曹操の先遣隊だ。降将を矢面に立たせるのは定石と言えば定石だが、同時に鼻っ柱を折られれば全軍の士気が地に落ちるという難しい役割。

流れが傾き、戦場全体が混乱する中にあって直属軍を前進させるのを見るに張郃というのは中々の人物らしい。

 

軍装を緋色に統一し、返り血を浴びて更にその色を濃くした背後の軍団を振り返る。

 

「…止まったら死ぬ。後ろは粋怜様に任せて、俺達は前を切り開くことだけ考えろ。敵は歴戦だろうが、結局は人。殺せば死ぬさ」

 

突き破られた曹操軍は荒ぶる暴風に晒され、恐怖に足を止めている。今頃は師の1人が追撃・殲滅戦を仕掛けているだろう。

 

「ぶち当たった奴ァ全て敵だ!人と当たったら人を斬れ!魔と当たったら魔をも斬れ!孫呉の道を開くのは、俺達朱然隊だ!!!」

 

「「「「応ッッッ!!!!!!!!!」」」」

 

短く、されど太く応える精鋭に会心の笑みを浮かべる久焔。

 

多少の贔屓目が入っているとしても、祭が天下の飛将軍呂布に食い下がれると評した強さは伊達ではない。

なにしろ、孫呉が誇る将達が各々の技術・心魂を余すことなく注ぎ込んだのだ。

 

韓当から騎馬、撃剣を。

程普から用兵、軍略を。

黄蓋から武技、心胆を。

祖茂から暗器、節義を。

 

そして、朱治から守るべき存在を。

 

孫呉の魂を受け継いだ男が、歴史の表舞台へ駆け上がる。

 

 

 

 

 

 

「孫仲謀が右腕、朱義封!!推して参る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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二刻後、朱然隊本陣。

部下を休ませ、被害状況を確認していた久焔の元に駆け寄ってきたのは師が1人、程普だった。

 

 

「くぅ坊!!」

 

「粋怜様!わざわざのお出むkわぷっ!?」

 

幼子のように胸に掻き抱かれ、抗議の声を上げようとした久焔だが母性の権化に押し包まれそれもままならない。

 

粋怜は孫呉の宿将として勇名を轟かせる女傑だが、幼い頃から手取り足取り久焔を養育してきたひとりでもある。

それに彼女は、よく言えば豪快、悪く言えば粗暴な孫呉の将の中ではかなり温厚な女性だ。

今でこそ情勢不安定な国境守備に就いているため中々会えないが、久焔のことを公私にわたって可愛がってくれた。

 

「良くやったね、くぅ坊…うん、立派になった!」

 

「師匠に恵まれましたからね。兄ィにはこれで大成しなかったら嘘だろ、とか言われましたもん」

 

「あはは、刹渦は相変わらずだねぇ。でも本当に大手柄だよ、くぅ坊。緒戦で曹操の鼻っ柱をへし折ったのはかなり大きい」

 

「でも大将首は奪り損なったのは不覚です。殲滅戦を押し付けておきながら、申し訳ありません」

 

「なぁに言ってんの!充分すぎる戦果よ、胸張りなさい!それに、いずれは私達を顎で使うくらいになってもらわなきゃ困るんだから気にしない気にしない!」

 

あの後、久焔は張郃直属の軍を散々に蹴散らし、追い立てたものの流石に追撃の余力は残っていなかった。

結局、朱然隊に貫かれ戦意をへし折られた曹操軍を鏖殺しながら進軍してきた粋怜との合流を待つ形で休息を取っていたのであった。

 

「ありがとうございます、粋怜様。してこれから如何しましょう。兄ィからは救援軍を編成する時間を稼いでくれ、とだけしか頼まれておりませんので…」

 

「救援軍の本隊来る前に全部蹴散らしちゃったからね……でも、私達から曹操へちょっかいかけるのは無しね。ムカつくけどそんな余裕ないのが現実。張郃軍を面白いように叩けたのも、私を包囲して士気が緩んでたのがあるだろうし。あ、くぅ坊達の頑張りは勿論ね?」

 

「援軍の報が向こうに入る前に辿り着けるよう、歩兵をギリギリまで絞ったのが奏効しましたね。無い知恵絞った甲斐がありましたよ」

 

「知恵っていうか脳筋な気がしないでもないけど……ま、まぁ、何はともあれ救援ありがとうね。叛乱討伐から息つく間もなく、大変だったでしょ?取り敢えず今夜は撤収してゆっくり休みましょ」

 

「はい!兄ィにはウチから早馬をとばしたんで、5日のうちには沙汰があると思います。救援軍本隊はそのまま予備隊として粋怜様の指揮下に入るんでしょうけど、当面の間は俺もご一緒させて頂いても構いませんか?糧食はおっつけ届くよう手配してますし、ご迷惑にはなりません」

 

ここにおいて、粋怜は本日最大の驚きを得た。

電光石火の奇襲を仕掛けたことも、そのまま戦場をぶった斬って敵本陣まで辿り着いたことも驚きと言えば驚きだが、どこかで『久焔ならば』との思いがあった。

昔から勇武に関しては突出した少年だったからだ。

 

しかし、戦闘後に見せた将としての対応能力からは、荒削りとはいえ経験不足を殆ど感じさせなかった、

あの久焔が、とは思わずにいられない。

 

「大きくなったねぇ、くぅ坊♪」

 

「な、なんですかいきなり!そりゃ背だって伸びますよ、もう19なんですから!」

 

「ふふ、そっかそっか♪いやーこれで楽しみがまた増えた!久焔と並んで戦場を駆けるのは勿論、祭達と一緒に手足のように使われる日も遠くないかもね!」

 

「幾ら何でも恐れ多すぎますよ!て言うか粋怜様達、俺の言うこと全然聞いてくれそうにないんですけど!!」

 

窮地が一転の大勝利か、それとも愛弟子の思わぬ成長か。

或いはその両方ゆえか、粋怜の胸は満点の星空の如く晴れ晴れとしていた。




いずれオリキャラのちゃんとしたプロフィールを
纏めようと思っています。
というか蓮華様が全然ヒロインしてねぇ!!!

ところで、これを書くにあたりかるーく孫家の家臣達を調べたりしていたんですが陸遜バケモンじゃねぇの頭おかしい…となりました
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