大統領 彼の地にて 斯く戦えり(改訂版)   作:騎士猫

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少し短いですが切りが良いので。
一話の状況説明が文章だけだと分かりづらいかと思い簡単な展開図を作りました。

【挿絵表示】

NATO基準で作ってありますが、一応表示の説明も載せておきます。

・兵科記号
四角内×マーク…歩兵
上記に加えて楕円マーク…機械化歩兵
歩兵マークの上側に楕円、下側に〇3つ…即応連隊の各大隊(現実だと米軍のストライカー部隊に使用される)

・兵科記号の上にある表示は部隊規模を表す
〇3つ…小隊
棒1本…中隊
棒2本…大隊

・兵科記号右にある表示は部隊名
403の場合第403機械化歩兵中隊となる
RDR/Ⅰのような場合は即応連隊第一大隊

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一部表現の修正と変更を行いました


二話 反撃

つい1時間ほど前は10万人を超える人々が集い、歓喜の熱で沸いていた記念広場。それも今では槍で突き刺され、剣で切り裂かれ、馬や人に踏みつけられた市民の骸が一面に広がっている。死体から流れ出る血によってそこら中に血だまりができ、まさに地獄の様相を呈していた。

 

 広場を占拠した門からの襲来者は続々と数を増やし、広場に陣を築きつつあった。その中でも馬に跨り、マントを纏って特に威風を放つ男は、兵が組み立て式の攻城兵器を準備している様子を見ていた。

「将軍、広場の敵は一掃しました。第3陣以降はそのまま市街に向かっております。攻城兵器の準備も順調です」

 そんな彼にスキンヘッドの副官が報告を行う。

「そうか」

 事が順調に進み高揚を隠せない副官とは反対に、数々の戦を戦ってきた歴戦の将軍は自身の感じる気味の悪い予感を払拭できないでいた。かつて攻め滅ぼした国の中にも最期にとっておきの反撃をして痛手を与えられた事があり、抵抗の脆さを不気味に感じざるを得なかったのである。

 

「卿は不安にならんか?」

「はっ?」

「我々は何と戦っているのか。我々は何処へ来てしまったのかと…」

 将軍の視線の先には摩天楼が広がっていた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 門から現れた武装勢力に対し、圧倒的な数の劣勢から守勢に立つことを余儀なくされていたロンディバルト軍であったが、遂に反撃の狼煙が上がろうとしていた。

首都警察隊と市内駐留の各部隊が必至の防衛線を行う事2時間余り、首都郊外に展開していた首都防衛の要である首都防衛師団(CDD)が、首都高を用いた緊急機動の末漸く到着したのである。首都高から続々と各防衛線に加わっていく彼らを、戦闘員だけでなく民間人も歓喜の声で迎える。彼らはその声に手を振って応えながら、時折目にする負傷者や身を震わせながら涙を流す人々の姿に怒りと復讐心を湧き立たせるのだった。

 

 ハイドリヒの言葉通りCDDの展開が完了したロンディバルト軍は、即応小隊に続いて到着した第113空中強襲大隊の主力によって制空権を確保すると、14時20分に反撃を開始した。CDDの指揮官を務めるフェルディナン・ルフォール准将がこの時言ったとされる”中央は押されている。両翼は良く持ちこたえている。状況は最高、これより反撃する”という状況を逆に利用して東西2方向からCDDの2個戦闘旅団が突破機動を行っていく。

「統制射の後に前進!広場まで突っ走るぞ!行進間射撃で敵に反撃の隙を与えるな!!」

 戦闘旅団の前衛を担うのは市街地での運用を想定した装輪装甲車である。105㎜ライフル砲の一斉射が陣地に迫っていた敵の先頭集団を文字通り吹き飛ばし、動揺した様子を見せる敵に向けて一糸乱れぬ前進を始める。その姿はまさに壁が迫ってくると敵に錯覚させた。武装集団の指揮官は弓兵に攻撃を命じるが、携行対戦車兵器に耐える抗堪性を持った装甲に全て弾かれていく。

 

「何だあれは!?木工車ではないのか!?」

 矢を弾く音から鉄製であると分かった指揮官は驚愕した。あれほどの大規模な鉄の装甲を作れるほどの鋳造技術は聞いた事が無かったからだ。

「広場まで下がれ!投石器ならばっ――」

 彼はすぐに攻城兵器の存在を思い出し、あれならばあの化け物にも効果があるはずだと考え、部隊に後退を命じようとする。しかし、

「ぐぁはっ!?」

ビルの屋上から狙っていた首都警察の狙撃班によって肩を撃ち抜かれ、そのまま落馬してしまう。

 

「隊長!?」

「隊長がやられたぞ!」

「攻撃だ!仇を討つのだ!」

 動揺した武装集団はがむしゃらに突撃していくが、車載機関銃による弾幕の前に次々と薙ぎ倒されていく。

「ぎゃぁあっ!!」

「ぐわっ!」

 

「こ、後退しろ…全員退けっ…!」

 両肩を支えられて立ち上がった指揮官が再度後退を命じると武装集団は半ば潰走しながら下がり始める。

 

「逃がすな!AHPt(攻撃ヘリ小隊)を回り込ませて挟み撃ちにするぞ!」

 装甲部隊を率いる先鋒指揮官はそんな背を向けて逃げ出す敵を見逃さず、すかさずヘリ部隊に支援を要請する。潰走していた武装集団は十字路に差し掛かった所で、攻撃ヘリの機関砲と装甲部隊の機関銃の十字砲火を食らって壊滅した。

 

「もはや広場まで我々の敵は存在しないっ!全部隊突入!!広場を奪取して敵主力の後方を突くぞ!」

 残敵掃討を後詰の機械化歩兵に任せ、装甲部隊を先鋒に戦闘旅団は一直線に広場に迫った。

 

「何だあれは!?全く攻撃が通じんぞ!」

「ダメだっ!止められない!!」

 これまで防御に徹していたロンディバルト軍のいきなりの反撃に武装勢力は狼狽え、小部隊ごとに迎撃に出ては次々と撃破されていく。遂に戦闘旅団の先鋒は広場入り口まで達し、横陣を組んで待ち構えていた武装集団を文字通り蹴散らし、ひき潰しながら広場中央を目指した。途中避難しそこねて林に隠れていた市民を収容するなどしつつ、広場中央に着いた戦闘旅団は向かい側からも広場に突入していたもう一つの戦闘旅団と共に、攻城兵器を有する本陣と思われる陣地に一斉攻撃を開始した。

 

「撃て撃て!!市民を殺戮した蛮人どもを皆殺しにしろっ!!」

「女子供も見境なしに殺しやがってっ!!」

 市民を殺戮された怒りも手伝って、その攻撃は苛烈であった。武装勢力は盾を構えて防御の姿勢をとるが、ライフル砲の一斉射で陣形が崩れるとそこに機関銃の集中射撃が行われ、体を穴だらけにされながら倒れていく。

 

「弓を放ち続けろ!歩兵は陣形を崩すな!!」

 将軍の傍では副官が必至に命令を下すが、もはや命令は爆音に搔き消され、兵は次々と薙ぎ倒されていく。

「もう嫌だっ!こんな戦があってたまるか!!」

「助けてくれ!」

 爆音と断続的な破裂音がしたと思えば直後まで隣にいた兵士が死んでいる。次は自分の番だ。そう考えるともはや彼らに戦う気力は残っていなかった。兵士達は上官の制止を無視して盾や槍を捨てて降参の意思を示す。

「ぎゃぁぁああっ!!」

「降参だっ!!降参するから、がぁはっ!!」

 言葉が分からないロンディバルト軍の兵士達はそんな彼らも纏めて攻撃していく。戦う事も降参する事も出来ないと知った兵士達は、ただ自分の死ぬ順番が来るのを待つ事しかできなかった。

 

「何なのだ……今まであんな化け物は見た事がない…。帝国一の精鋭たる我が軍が…こうも容易く…?」

 将軍は当初感じていた不気味な予感の正体を今まさに思い知った。とはいえ、これまで幾つもの国を滅ぼしてきた帝国の先兵としての自信があった彼は、今起こっている事が本当に現実なのかと疑った。精鋭揃いの自身の軍が、未知の強大な力の前にいとも容易く葬られていく様を現実だと思いたくなかったのだ。

「これは夢だ…。何か、質の悪い夢なのだ…、そうに違いない……こんな事が、こんな事があるはずが……」

 彼は最後まで、自分たちが一体何に敗れたのか知る事なく爆発に巻き込まれていった。

 

 広場を占拠していた武装勢力を駆逐する事に成功したロンディバルト軍は、官庁街側出入口に出現している門を確保した。門から新たに敵が現れないと分かると、機械化歩兵部隊を警戒に残して2個の戦闘旅団はそのまま北上した。官庁街に居る敵主力は後背を突かれ、正面からも防衛に徹していた残りのCDDの部隊が反転攻勢を行った事で前後を挟撃されて壊滅した。

 

 

 15時ちょうどに武装勢力は完全に掃討された。民間人の死者は7千人を超え、軍・警察にも200人近い戦死者を出した一連の戦闘は公式には統一記念式典虐殺事件“とされたが、市井の人々の間では”血の統一記念日事件”と呼ばれる事となる。

 

 ハイドリヒに事後処理を任せたミーストは広場にやって来ていた。未だ戦闘の跡がはっきりと残っている此処には野戦病院と遺体安置所が置かれ、離れ離れになった家族や友人を探す人々で埋まっていた。中には職員から悲しい結果を聞かされたのだろう、母親が泣き崩れる光景もあり、その泣き声はミーストの胸にも響いていた。

 

 そんな惨状が広がる広場に、彼はぽつんと一人俯きげに立っている少女を目にした。少女に近づくと膝を曲げて目線を同じくすると努めて優しい声で問いかける。

「お父さん、お母さんとはぐれたのかい?」

 少女は終始無言だったが、ゆっくりと縦に頷く。

「そうか、ならお兄ちゃんも一緒に探してあげよう」

 そう言って手を差し出す。

「だいじょうぶっ、任せて」

 続けてそう口にするミーストに、少女は恐る恐る手を伸ばす。

「……っ」

 手を握ると同時に溜まっていた感情が雪崩の様に流れ出ていく。ミーストには少女の頭を優しく撫でて慰める事しかできなかった。

 


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