魔法少女リリカルなのは 〜悪魔になった転生者〜 作:リーグルー
………そこは、『孤独』という言葉を体現したような空間でした。人どころか生物さえ存在しない、してはならない様な空間の中に『それ』は存在しています。
――――独りは嫌だ。寂しい。怖い。誰か………誰か気付いて。
道化師の様な姿で独りその空間に佇んでいる『それ』は、そう言って泣き叫んでいます。同時に、全くそうとは見えないというのに、何故か私は『それ』が悪魔である、ということを理解しました。
私はその『悪魔』に近付いていきます。それでも『悪魔』は私に気付く事はありません。………当然でしょう。これは私の夢の中なのですから。
残り数メートル、といった所で、不意に、何かに気付いた様に、『悪魔』は俯かせていた顔を上げました。その顔は、私がよく見知っている顔。
「………リオ……?」
目を開き、ベッドから上半身だけを起こした私は、そう呟きました。………たった今、夢に出てきた『悪魔』は、彼の顔と瓜二つの顔をしていました。………私を人間にしてくれた、私が居候している家の主の顔と。
「………これの、影響でしょうか?」
私はそう呟きながら目を閉じ、もう一度開きます。すると、瞳の中央に、朱色から、かすかに紫がかったピンク、ピンクがかった青それから再び朱色へと明滅する五方星が浮かび上がります。リオ曰く、この眼は『魔眼』と呼ばれるもので、名を『複写眼(アルファ・スティグマ)』と言うそうです。全ての魔法の構成を見ることが出来て、その上それを使うことが出来る、という代物で、信じなかった私にリオが魔法を使って見せ、私がそれと同じ魔法を作り上げて私自身が驚いたものです。
「………あの夢がこの眼の影響だとすると、私がこの眼を手に入れたのにはリオが関わっている、という事になりますね」
私は確認するようにそう言って、一人で頷きます。………実は、私がこの眼になったのにリオが関係している、というのは、この眼に気付いて、リオにこの眼の事を聞いた時から分かっていました。何故なら、リオが私を人間にする前にはこの『複写眼』を持っていませんでしたし、何より『複写眼』について詳しいリオが、何も関わっていない、というのは、いくら何でも偶然が過ぎるからです。
「………まぁ、考えていても仕方がないでしょう。リオが話してくれるまでは待つつもりでしたから、あまり意味はありませんし。………午前三時ですか。まだしばらくリオは起きてこない筈ですから………そうですね、新しい魔法の構想でも練りましょうか。」
私はそう呟いて歩き始めました。………新しい魔法の構想を練るのは、最近………というよりも人間になってからの私の趣味です。リオの使う魔法の構成を見てから、私や、ナノハの使っている魔法の構成がどれだけ適当なのかを痛いほど理解し、それを改良しているうちに楽しくなってきて、現在、趣味へと昇華したものです。………正直、魔法の構成を弄るのがここまで楽しいとは思っていませんでした。リオが趣味にしているのも大いに頷けます。
≪ヒュィィイイイアァイァィア!≫
突然聞こえてきたこの世のものとは思えない声に、私は警戒しながら声の聞こえてきた先を確認します。………どうやら、声は外から聞こえてきたようです。
「――――ルシフェリオン!」
私は近くにあったルシフェリオン――――私がリオに頼んで作ってもらったもの、を掴むとそう叫んで、セットアップと同時に結界魔法を展開させます。………この結界魔法はリオの作った特殊なもので、結界魔法にも関わらず隠密性が高く、張っても外にいれば誰も気付かない、という仕様になっています。………もちろん、作ったリオなら気付くでしょうが。
≪………ほう、ムシケラの分際で、我が声を聞くとは………≫
「………あなたは一体………?」
外に出た私は、そこにいた人影を見て、そう口にすることしか出来ませんでした。………首から下は純白の羽衣の様なものを纏っている、普通の女性の姿をしていても、首から上の目や口、耳などから蛆虫の様なものが出たり入ったりしていて、人とは思えないおぞましさを見せているのです。むしろ、ここまで冷静な自分を誉めたいくらいですね。
≪は、はは。ムシケラの分際で我が名を聞くか≫
人の形をした『それ』は嘲笑うようにそう言って、魔法陣を展開させました。『複写眼』で魔法の構成を見ると、それは途方もない程に圧縮された魔力の込められた砲撃魔法の様なもの。威力でさえナノハの『ディバインバスター』より上だというのに、その上に最終的には対象を死に至らしめる呪いまで付加されている、質の悪いもの。
「くっ………ブラストファイヤー!」
私はギリギリでその砲撃を避けると、『それ』へ向けて砲撃を放ちます。………もちろん、非殺傷設定は切っています。あれは、非殺傷で倒せるような相手ではありません。私の放った砲撃を、『それ』は動かず、私の砲撃は真っ直ぐに突き進んでいき、それに当たる前に、跡形もなく消え去りました。
「なっ!」
≪ははは、この程度か?もっと足掻いてみせろ、ムシケラ≫
それは驚く私にそう言うと、それは体から数体の化物を発生させ、それを弾丸の様なスピードで打ち出してきました。驚いて動くのが遅れた私は、化物達の接近に対応することが出来ず、そのまま、化物達がした自爆の爆発に飲み込まれてしまいました。
「………か、は………ぅぁ……ぁ………!」
吹き飛ばされて地面に叩き付けられ、うつ伏せに倒れた私は、視界が霞み、呼吸が出来ず、動こうと意識するだけで身体中に激痛が走り、一切動く事が出来ません。霞む視界の端では、新たに産み出された化物達が、此方に向かって来ているのが確認出来ました。私は、このまま………。そう諦めかけた私の耳に、
「廻れ、『ファブルスの月輪』」
そんな、聞き慣れた声が響きました。
◆
「………んで?随分危なかったみたいだな、シュテル」
「………リ……オ?ど………うし……て?」
『ファブルスの月輪』によってバラバラに切り裂かれた『女神』の手下を見ながら言った俺の言葉にシュテルは信じられない様なものを見たかのような顔でこちらを見て、そんな事を問いかけてくる。………どうしてって、
「何が?此処に来たことの理由なら、あれの相手をすんのは俺が適任だからで、シュテルを助けたのは居候に死なれると寝覚めが悪いからだな」
そう言いながらくるくると指を宙に踊らせて魔方陣を描いていく。ほとんど一瞬で、魔方陣は完成する。
「求めるは癒し手>>>・疲射」
俺がそう唱えるのと同時に、魔方陣から淡い緑色の光が溢れ出し、シュテルを包む。光が消えると、驚いたような顔でシュテルは立ち上がった。
「………これは?」
「まだ動かないほうがいいぞ。痛みと疲労をとるだけの魔法だからな。傷を治した訳じゃない。………んじゃ、そろそろ俺は、あの『女神』を殺してくるから。お前はここでじっとしてろ」
「ですが………」
「ですが、じゃなくてさ。お前じゃあれには勝てないし、傷も治ってないからお前の体、ぼろぼろだぞ。いいから任せとけって」
俺の言葉に、シュテルは反論は出来なくてもまだ納得のいかないような顔をしている。………仕方ない、か。
「んじゃ、言い方を変えるぞ?………化物の相手は、化物で十分だよ。わざわざシュテルみたいな人間がやることじゃない」
俺はそう言いながらリミッターを外して力を解放する。シュテルは俺の雰囲気の変化に、一瞬だけびくっと震えた後、溜め息を吐いて、
「終わったら話を聞かせて貰いますよ?」
と、そんな事を呆れたように言う。俺はそれに片手を振るだけで答えて『女神』の方へ歩いていき、少しして辿り着く。
「ふぁ………んじゃ、そういうことだ。眠いし、説明もしなきゃいけないらしいからな。さっさと終わらせてもらうぞ?『女神』」
俺はそう言って、手に黒いビー玉の様なものを出現させる。
「伸びろ、『死の収刃(メルキル)』」
俺がそう唱えると、黒いビー玉を中心にして赤黒い液体が溢れ出し、一本の剣を形作る。それと同時に、俺の視界には気持ち悪い色の線や点が大量に見えるようになる。
≪な………『死の収刃』、だと?貴様が、悪魔が何故、そんなものを………≫
「どうしてかな?………ま、そんなんどうだっていいだろ?どうせ聞いても分かんないだろうしな」
俺はめんどくさそうにそう返すと、全力で移動し、一瞬で『女神』の前に現れる。
「んじゃな。『女神』」
そう言って俺の動きに一切の対応が出来ない『女神』の胸にある点に剣を突き刺す。『女神』は突き刺された胸を中心にしてバラバラに裂かれ、断末魔さえ上げること無く消えていった。………この忘却欠片がみせるのは、『死』だ。条件によっては、生物だけでなく概念だろうと物質だろうと『死』を与える事が出来る、化物が使うのには相応しい剣。
「よし、終わったっと」
そんな事を呟きながら、外していたリミッターをつけ直し、『死の収刃』を元の黒いビー玉に戻す。そのまま、シュテルにどう説明するか、なんて事を考えながら、シュテルのいた方へと戻って行った。
第十二話投稿。
忘却欠片説明!
・ファブルスの月輪
中心に穴の空いた円盤型の忘却欠片。唱えて投げるとあら不思議、自分を中心にしてかなり広い範囲を輪切りにします。避け方は地面に伏せるか、使用者の近く、中心の範囲内にいるかになります。
・死の収刃
オリジナル忘却欠片。剣の形になったそれを握ると、生物や物質の『死』を見ることが出来る。条件として、人を殺した事があるものだけが使え、その後は殺した生物の数に応じて効果が強くなっていく。………ちなみに、最終段階まで行けば時間でも、神様でも、どんなものでも殺す事が出来るようになる。………元ネタは『直死の魔眼』と『魔剣スイッチ』の暗殺特性。