魔法少女リリカルなのは 〜悪魔になった転生者〜 作:リーグルー
――――開けた視界に映り込む色は白。白、白、白、何処までも白く、飽きるんじゃないか、とどうでもいいことをつい考えてしまう程の単色。俺はその、何度か見たことのある光景を見てから、適当に横になって目を閉じる。眠いし、どうせ此処に来たなら、何か伝える事がある、ということなのだろう。なら、すぐに声を掛けてくる筈だ。
「………本当に何時でもマイペースじゃのう」
そう後ろから声が掛けられる。声のする方へ振り向くと、案の定、神様………うん、爺さんの方がしっくりくるな。んじゃ、爺さんで。………とりあえず、爺さんが立っていた。
「………久しぶりだな、爺さん。んで、何の用?ぶっちゃけ、眠くて仕方ないし、つまんなそうな話だったら速攻で寝るつもりだけど」
「曲がりなりにも神の前でぶっちゃけすぎじゃ。………今回はお主に頼みたいことがあって此処に呼んだんじゃ」
俺の質問に、爺さんはそう答える。………頼み事?………めんどくさそうだなぁ。
「却下とか、有り?」
「無しじゃ。………というか、こちらのミスがあったのは事実じゃが、そっちに責任が無いこともない。それに、これはお主にとっては『仕事』じゃよ。のう?何でも屋『エリス』」
爺さんはそう言って俺ににやり、と笑みを浮かべてみせる。………成程。うん、確かに仕事なら断れないな。
「………はいはい。依頼内容にもよるけど、爺さんが犯罪紛いの事をやらせる意味は無いからな。依頼は『エリス』が引き受けましたよ、っと。んで?依頼内容は?」
「その前に一つ質問じゃ。お主の前に『女神』は現れたかの?」
俺がした質問に、爺さんはそう質問で返す。………あぁ、女神ね。そういや、あれの事聞こうと思ってたんだったな。
「あぁ、会ったし、ついでに殺しておいたけど………あれ、実際何なんだ?あの世界に女神が居る訳無いし、そもそも構成が女神のそれじゃなかった、っていうか何か魔法っぽかったしな………あれ、女神の皮を被っただけの別物だろ?」
俺の言葉に爺さんは頷く。どうやら当たりらしい。………まぁ、女神じゃないっていうの意外は分からないんだけど。
「あれは、世界の歪みじゃ」
「歪み?」
疑問の声を上げて聞き返した俺に、爺さんは説明を始める。曰く、俺が転生した世界は物語として一つの完成を見せた世界であるらしい。その完成された世界に、その世界に元々存在しない筈のものを送り込むと、世界がその異物を世界に馴染ませようとする。完成された物語を崩してしまった場合も同じだ。そして、馴染ませようと世界が動かした時にどのようにしても発生してしまうのが、歪みであるらしい。
「………まぁ、大体歪みについては理解できたけど、それが何で女神の形になってんの?」
「それは簡単じゃ。歪みを出した本人、というよりはお主が持っている力の大元、『寂しがりの悪魔』の記憶から形成されていて、その中で歪みとして相応しかったのが女神だっただけじゃ。もちろん、他の二人の転生者が出した歪みも、二人が持っている力の本質が、歪みとして相応しい、と認識しているものが出てくる筈じゃ」
爺さんの答えに、俺は成程、と頷く。確かにそれなら、あれが女神の形をしていた事にも納得できる。つまり、あれは俺が出した歪みだったのだろう。………そこまで完成された物語、とやらを変えた記憶は無い………が、可能性があるとすれば、シュテルの件か。
「………っていうか、何処に爺さんのミスがあるんだ?今の話を聞いてた感じだと、何にもミスしてないじゃん。………いや、強いて言うなら、俺達を転生させたこと事態が世界から見ればミスなんだろうけど」
俺はさっきまでの爺さんの話を聞いていて、疑問に思ったことを爺さんに聞いてみる。爺さんの話でいけば、今回のあれは完成された世界、に異物が入り込んだ時に自然に発生する現象である筈だ。爺さんの関与するものではない。
「いや、それがじゃな、こうやって誰かを転生させる時のために、歪みを発生させない転生をさせることができるんじゃよ」
「………は?」
爺さんの予想外の台詞に、俺は自分でも分かるほどに間抜けな声を上げていた。………何?歪みを発生させない転生のさせ方、なんてものがある?ってか、その手に持ってる薄い説明書、『ミミズでも分かる完璧な転生方法』とか書いてるんだけどさ、曲がりなりにも神様がそれを間違ったら不味いと思わないのか?
「………あぁ、成程成程、つまり、俺達を『世界にとっての異物』としてじゃない方法で転生させる事があったんだけど、爺さんはさすがに歳も歳だから軽くボケてて、『世界にとっての異物』として俺達を転生させた、と。んで、さすがに歪みが酷くなってきたから、依頼として俺に歪みを排除させようとしたって感じであってるか?」
へらへらと笑みを浮かべながら言った言葉に、爺さんは何も言えず、頷くだけで答える。………状況的に言われても仕方ない、とか思ってるのかもしれない。
「………よし、大体分かった。確かにこっちにも責任が無い、とは言えないからな。依頼は受けるよ。………だけど、その前に一つ。シュテルが「魔法が効かない」とか言ってたんだが、歪みを消すのに、何か特別なものは必要なのか?」
俺の質問に、爺さんはふむ、と頷いてから、歪みを消すのに必要なものについて、説明をする。曰く、歪みは発生させた本人と対応するもので、発生させた本人の能力によって、でしか消すことは出来ないらしい。
「………それつまり、俺じゃあ銀髪くんとか、黒髪くんとかが出した歪みに対応出来ないって事じゃね?」
「いや、お主は例外じゃな。『全ての式を解く者』の力を使えば、問答無用で消滅させられるじゃろうし、あの忘却欠片『死の収刃(メルキル)』を使って殺してしまっても消滅する。ついでに、お主が依頼を受けるじゃろう、と思って、協力者も一人、今度は歪みを発生させないように転生させたからのう。その転生者が歪みを消滅させられるように、お主が作る忘却欠片(ルール・フラグメ)に歪みを消滅させられる機能を付けておいた」
爺さんの言葉に、俺はめんどくさそうに溜め息を吐く。………受けるかどうかも分からないのに、協力者を転生させた事とか、俺がその協力者に忘却欠片を渡す事前提で話を進めてる事とか、そもそも、俺の作った忘却欠片は魔眼持ちしか使えないはずで、そうすると必然的に、その転生者は魔眼持ちになる、ということとか、突っ込む所が多すぎたせいで、面倒になったのだ。
「………その転生者はその話を了承したのか?」
「もちろんじゃ」
爺さんの言葉に俺は頷く。強制的にやらされてるならともかく、自分でやってもいい、と言ったなら、それはその転生者の自由。口を挟む意味はないな。
「ならいいや。んじゃ、そろそろ帰るわ。………何処かの誰かさんのせいで、明日も面倒な学校があるからな」
「おぉ、そうじゃったのう。完全に忘れておったわいそれじゃあ、依頼、よろしく頼んだぞ」
くるりと爺さんに背を向けて出口の方へと歩き出した俺の背に掛けられた声に、手をひらひらと振るだけで答えた俺は、そのまま光が溢れている出口まで歩いていき、丁度出口を越えた所で、前と同じように、意識を失った。