魔法少女リリカルなのは 〜悪魔になった転生者〜 作:リーグルー
遅くなりました。理由は特にありません。ただの怠慢です。
「………きて、起きて!雨音くん!」
――――時間はシュテルが女神の姿をした世界の歪みに襲われた次の日………いや、実際にはシュテルが襲われた時には日付が変わってた筈だから当日か、の昼頃。朝からずっと机に突っ伏して寝ていた俺に、高町から声が掛けられる。………他の奴等は俺に声を掛けてこなくなったのに、高町だけは何時までも声を掛けてくるんだよなぁ。
「………何、高町。正直俺、何時もの三倍は眠いから、俺がどうでもいいって判断した時点で寝るぞ?」
「それ、何時もの雨音くんとほとんど何にも変わって無いよね?………って、そうじゃなくて!由紀ちゃんが雨音くんと話したいんだって」
俺の言葉に突っ込みを入れた高町は、俺にそんなことを言ってくる。………全く聞き覚えのない名前。と言うよりも誰だかも分からない相手が話したい、と言われるほど目立った記憶も、目立つ様な外見も俺はしてない筈だ。
「………人違いじゃね?ていうか、誰?」
俺は軽く欠伸をしながらそんな事を言ってみる。それに高町は、がっくりと項垂れて溜め息を吐く。
「もしかしたら、って思ってたけど、やっぱり知らなかったんだ……今日来た転校生だよ」
「こんにちは。はじめまして、になります。今日この学校に転校してきました、風見 由紀(かざみ ゆき)です………って、今日の朝も言ったつもりだったんですけど、雨音さんが寝ていたようだったのでもう一度自己紹介をしに来てみました。これからよろしくお願いします」
呆れた様に言った高町の後ろから、高町の言葉に続けるようにして、赤みがかった黒髪に、ほとんど閉じているくらいにまで目を細めて笑顔を浮かべている少女――――風見はそう自己紹介をしてくる。………この中途半端な時期に転校生、ねぇ。
「………まぁ、いいか。あんたも知ってるみたいだけど、俺は雨音里緒。よろしく、んでおやすみ~」
俺はそう答えると、再び机にばたんと突っ伏して睡眠を開始する。何か高町っぽい声が俺を起こそうとしてくるのが何となく聞こえてくるような気がするが、そんな事で睡眠を止めるような俺じゃない。どんどんと意識が遠くなっていき、そのまま、完全に意識が消え去る直前、
「………本当に、あの時から少しも変わって無いね。君は」
何となく懐かしい様な、それでいて何故か思い出せない、そんな声が聞こえたような気がした。
◆
「あ~あ、ったく、めんどくせぇ」
放課後。ふらふらと歩きながら、俺はそんなことを言ってみる。最近口癖になってきた気がしないでも無いその言葉は、しかし紛れもなく俺の本心だ。………まぁ、その理由はと言うと、
「………あのさ、本当は言うのも面倒くさいから放置してたけど、それも面倒になってきたから言うぞ?何か用事があんならさっさと出てきてくんないかな?学校出た辺りから人の事付け回して、何か楽しい?」
そう、大体学校を出て少し歩いた辺りから、何故か尾行されているからだったりする。俺が溜め息を吐きながらそう言って振り返ると、建物の影か少女が姿を現す。朝に自己紹介をされた、風見だ。
「………やっぱりバレちゃいましたか。何時かはバレると思っていましたけど、まさか最初からバレているとは思っていませんでした。さすが、神様が「転生者の中で現在最強」何て断言するだけはあります」
風見はそう言いながら、悪戯が見つかったような顔をして小さく舌を出してみせる。………どうやら、気配まで消して尾行していたのはただの遊びだったらしい。
「………はぁ、んで?何の用だ?まぁ、さっき神様がどうとか、転生者がどうとか言ってたから、大体そっちの事何だろうけど」
「はい、当たりです。………それとは別にもう一つお願いもあるんですけど、それは後に回しましょう。神様から聞いていると思うんですけど、私がここにいる理由は世界の歪みの除去です。簡単に言えば、雨音さんの手伝いをさせて貰うことを条件に、転生させて貰った転生者です。」
「ふ~ん、そういや、そんな事も言ってたっけな、あの爺さん。んで?能力は?何かしらの魔眼を持ってるのは知ってるけど、風見の能力について詳しい事はよく知らないからな。教えてくれない?」
名乗った風見に、俺はそんなことを聞いてみる。しかし、風見は口を閉ざしたまま、何も喋らない。
「………さすがに、能力も分からない様な奴に手伝って貰おうとは思わないんだけど?」
俺が疲れたような口調でそう問いかけると、風見はそれにあはは、と笑って返してくる。
「それはきっと逆ですよね雨音さん。あなたはきっと、今の状況で問われて直ぐに自分の能力をぺらぺらと喋ってしまう様な人間に手伝いはさせないでしょう?そんな人間は足手まといにしかなりませんから。それに、私はまだ、雨音さんから手伝ってもいい、という許可を貰ってません。雨音さんの武器でしか私には歪みを消す方法がありませんから、雨音さんが許可を出してくれないと、私は何も出来ません。………ということは、雨音さんはまだ、私の敵になる可能性がある、ということです。敵になる可能性があるのに、自分の能力を教えるのはただの馬鹿だと思います」
「………おっと、こりゃ、思ってた以上に優秀だなぁ」
風見の言葉に、俺はそんな呟きで返す。………確かに、さっきの質問で答えるような奴なら、手伝わせる気は全く無かった。正直に言って、これから何が出てくるかもよく分からない相手と戦うとき、自分の事をすぐに喋ってしまう様な奴は邪魔にしかならない。人を騙すような奴が現れたら、そんな奴は弱みにつけこまれるだけだから。だが、風見は今の質問だけで最悪の事態、つまり、俺が現在進行形で風見の敵で、風見を殺そうとしている、という場合までを想定している。さっき尾行していた時の気配の薄さで、かなり実力があることは分かっているから、全体的に見ても風見が優秀なのはよく分かる。
「………んじゃ、最後に質問してもいいか?」
「………私が神様の依頼を受けた理由ですか?」
俺の言葉に風見はそう答えて、困ったような顔になる。………本当に風見は優秀だと思う。確かに、それを聞くのが、質問者にとっては一番相手を信用しやすい。どこの範囲まで利害が一致しているのか、それの判断がしやすいからだ。それさえ分かっていれば、協力する部分と、しない部分とを使い分けられる。確かに、本当ならそれを質問するべきだろう。
「………いや、んな困ったような顔されても、それは聞く気無いから。人の事情云々に首突っ込むのはめんどくさそうだし」
「………へ?」
俺の言葉に、風見は間の抜けた様な声をあげる。かなり予想外の事だったらしく、閉じた様な目のまま呆然としている。
「とにかく、俺が聞きたいのは一つだけ。………あんたが受けたのはちょっと間違えれば命を失う様な、危険すぎる依頼だ。もしあんたが死んだとして、その直前まで仕事を受けたことが間違いじゃなかった、って言い切れるか?」
「………どうでしょうか?そんなのは実際にその状況にならないと分かりませんから、何とも言えません。私が言えるのは今は一つだけですよ」
俺の質問に、風見はそう答えると一度だけ息を軽く吐く。そして、息を吸い込むと、
「私は、今の私が後悔しない選択を選びました。これだけは間違いありません」
そう答えた。それに、俺はへらへらと笑ってみせる。………本当に、文句を付けられないな。
「………合格。むしろこっちから頼んで手伝って貰いたいくらいだ。んじゃ、改めて、宜しく、風見」
「はい、宜しくお願いします、雨音さん………と、そうでした。能力の事、今話しておきます」
「ん?ああ、話してくれんの?………んで、どんな能力?」
俺の言葉に風見はさっきまでほとんど閉じかけていた目をゆっくりと開く。その目の中央には、赤い十字模様が輝いている。………それが指すのは、つまり、
「『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』か。そりゃまたとんでもない眼だな」
「あはは。後、『全結界』だそうです。この町一つ分くらいは見れますから、シュテルさんが雨音さんに協力する、という話になったことも知っています。………ちなみに、制約としては、片方づつしか使えない、ということですね」
俺の呟きに風見はそう答える。………確かに、今の情報は本当らしい。俺がシュテルに歪みの事を話したのは今朝の事で、シュテルが俺に協力する、と言ってくれたのも今朝の事だ。誰にも話す訳がないから、今のを知ってるとすれば、気付かれずにあの場に居るか、風見の言う様に『全結界』を持っているかのどちらかだ。俺の家にはかなり強力な結界を張っているため、知らなければそこに家があることすら分からない。つまり、前者はほとんど不可能なのだ。つまり、風見の言う通り、風見は『全結界』を持っている、ということになる。
「と、まぁ、そんな風に私の能力が分かったところで、一つだけお願いしたいことがあるんですが………」
と、そこまで考えたところで、風見が急に、申し訳なさそうにそう声を掛けてくる。………そういえば、最初の方もそんなこと言ってたなぁ。
「………何?あんまり無茶苦茶なのは無理だぞ?」
「………いえ、あのですね。こっちとしては無茶苦茶じゃないのが少し申し訳無いくらいなんですけど、………雨音さんの家に、居候させてもらえませんか?」
……………はい?
「えぇ、はい。何となくそんな顔されるような気はしてましたよ?でも、仕方ないじゃないですか!家が無いんです!正確には、あの神様が用意し忘れたらしいんです!手紙には「雨音を頼れ~」何て適当なことしか書いてないし、本当はあんまり迷惑は掛けたく無いけど、雨音さん以外頼れる人は居ないんです!お願いします!居候させてください!」
風見はさっきまでの冷静な態度を何処かに捨てて、ほとんど土下座をする様な勢いで頼み込んでくる。勢いに押された俺が頷くと、風見は俺を救世主を見る様な眼で見つめてくる。………爺さん、家を忘れんなよ。
「………はぁ、まぁいいや。んじゃ行くぞ?風見」
俺はそう言うと、自分の家に向かって歩き始めた。………何でだろう、何か、めんどくさそうな事になりそうな気がする。
能力説明
殲滅眼
魔法を喰らって自身の身体能力を普通じゃ有り得ないまでに上昇させられる。正確には精霊、この世界では魔力素を喰らっているため、人を喰らう事ができる。
全結界
頭の中に魔方陣を埋め込むことで、人では感知出来ないレベルの範囲を知覚出来る様になる。代償として、本来の視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚は無くなってしまう。………ちなみに風見は、全結界を使っている間は本来の五感を全て失っているが、殲滅眼を使っている間は五感が戻る。その代わり、殲滅眼を使っている間は、魔法か人を喰らうまで、絶えず餓えに襲われ続け、魔法や人を喰らったとしても、その分が切れてしまえば、また餓えに襲われる。