ウルトラマンタイガ 〜NEW BUDDY, NEW RAINBOW!〜 作:門矢零
感謝っ…!圧倒的感謝っ…!
愛と璃奈と別れ、菜々は校内の廊下を歩いていた。
音楽室を通り過ぎようとしたその時、ピアノの椅子に座っている一人の少年の姿に気づき、音楽室内を覗くと、そこには虹野宏高がいた。
耳にイヤホンを付け、音楽を聴きながらピアノに頬杖を突き、上機嫌に鼻歌を歌っている。
よくよく聞いてみれば、それは菜々の……優木せつ菜の曲、『CHASE!』だ。
それに気づいた菜々が、不意に呟いた。
菜々「何でその曲を……」
すると、菜々の気配に気づいた宏高が不意に顔を上げ、驚きの声を上げながら椅子から立ち上がり、慌ててイヤホンを外した。
宏高「ん?どわぁっ‼︎生徒会長⁉︎」
菜々がグランドピアノの側でワタワタしている宏高に向かって歩いて行きながら訊ねる。
菜々「虹野宏高さん。音楽室の使用許可は取ったんですか?」
宏高「いやぁ〜、あの〜……ごめんなさい‼︎」
直角に腰を曲げて頭を下げる宏高。
宏高は頭を上げると、その手を頭に当てて誤魔化し笑いを浮かべて言う。
宏高「あっははっ……すごく静かだったから、ついのんびりしたくなっちゃって」
菜々「はぁ……」
菜々は怒る気が失せたような溜め息を吐いた。
すると宏高が唐突に言った。
宏高「ところでさっき、せつ菜ちゃんの曲知ってるみたいな感じでしたよね?」
菜々「えっ⁉︎」
かと思えば菜々に興奮した様子で詰め寄り、早口で捲し立てた。
宏高「良い曲ですよね『CHASE!』‼︎動画とか観ました⁉︎もしかして、会長もせつ菜ちゃんのファンだったり⁉︎そうならそうと早く言ってくれれば良かったじゃないですか〜!せつ菜ちゃんの事色々語りましょうよ!あ、そうだ!『CHASE!』の他にオススメの動画あったら教えてくれません⁉︎探してるんだけど中々見つからなくて‼︎」
菜々「お、落ち着いてください‼︎」
宏高「あ!すいません……」
菜々の言葉で宏高は平静を取り戻し、菜々から距離を取る。
菜々「そういえば先日お会いした時、優木さんに会いたがっていましたね?」
宏高「はい!大好きですから!」
菜々の問いに宏高は笑顔で無自覚告白。
たちまち菜々の顔に朱が差す。
それに気づかずに宏高は窓の方へと歩きながら語り出す。
宏高「この前、ライブをやってて……凄かったんですよ。せつ菜ちゃんの言葉が、胸にズシンって来たんです。歌であんなに心が動いたのは、初めてでした」
菜々「…………」
宏高「俺、特撮とかアニメくらいしか夢中になれるものが無かったんだけど、あの日からスクールアイドルにハマって、今まで以上にすごく楽しいんです!歩夢と一緒に、同好会も入ったし…」
菜々「同好会?」
宏高「はい!かすみちゃんが誘ってくれて……あ」
そこまで言った瞬間、宏高は焦った様子でワタワタ両手を振った。
宏高「ち、違うんですよ!勝手に部活始めたとかじゃなくて……」
その様子を見た菜々はクスリと笑った。
菜々「特に問題ありませんよ。スクールアイドル同好会は一度廃部になりましたが、新しく立ち上げてはいけないと言う校則はありませんし」
宏高「え?」
菜々「部員が5人以上集まったら、いつでも申請に来て下さい」
宏高「そうなのか……」
菜々「……優木さんが聞いたら、喜ぶでしょうね」
自分の事なのに、何処か他人事のように言う菜々。
宏高「だとしたら、嬉しいな」
しばしの沈黙。
やがて口を開いたのは宏高だった。
宏高「何で辞めちゃったんだろう……せつ菜ちゃん」
飛び出したのは単純な疑問。
宏高「こんな事考えても仕方ないって分かってるんですけどね。きっとせつ菜ちゃんも、色々考えての事だろうし」
宏高は菜々を見るが、菜々は無言で窓の外の景色を眺めている。
宏高は続ける。
宏高「でも、時々思っちゃうんですよね。あのライブが最後じゃなくて……始まりだったら最高だろうなって」
菜々「…何でそんな事言うんですか」
宏高「え?」
ようやく菜々が発した言葉は、それだった。
いつも以上に冷淡な口調。
菜々「良い幕引きだったじゃないですか。せつ菜さんは、彼処で辞めて正解だったんです。あのまま続けていたら、彼女は部員の皆さんをもっと傷付けて、同好会は、再起不能になっていたはずです」
宏高「え?そんな事は──」
菜々「虹野さんは、ラブライブをご存知でしょうか?」
宏高の慰めを途中で強制的に打ち切り、菜々はそんな疑問をぶつけた。
宏高「ん?スクールアイドルの全国大会みたいなものですよね?」
菜々「その通りです」
日本中のスクールアイドル達が集い、パフォーマンスで競い合う。
それがラブライブ。
かつての菜々……せつ菜を含めた同好会も、そこを目指していた。
菜々は宏高に背を向け、感情を圧し殺したように話す。
菜々「ラブライブはスクールアイドルとそのファンにとって、最高のステージ。貴方もせつ菜さんのファンなら、そこに出て欲しいと思うでしょ?スクールアイドルが大好きだったせつ菜さんも、同好会を作り、グループを結成し……全国のアイドルグループとの競争に、勝ち抜こうとしていました」
懺悔にまみれた口調がこの場を支配する。
菜々「勝利に必要なのは、メンバーが1つの色に纏まる事。ですが、纏めようとすればする程、衝突は増えていって……」
菜々の中から、僅かに優木せつ菜の感情が顔を出す。
しかしそれは、自責の念。
菜々「その原因が、全部自分にある事に気付きました。せつ菜さんの大好きは、自分本意の我儘に過ぎませんでした」
自然と、菜々は拳を握っていた。
菜々「そんな彼女が、スクールアイドルになろうと思った事自体が、間違いだったのです。幻滅しましたか?」
宏高は……何も言えない。
せつ菜の心境を代弁するように語る菜々の言葉が、宏高の心に重くのしかかっていた。
重苦しい静寂が続く中、そこに歩夢が現れた。
歩夢「宏くん?」
宏高が歩夢の方に振り向いたのと同時に、
菜々「失礼します」
菜々は宏高の元から去り、音楽室を出て行った。
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生徒会室に戻ってきた菜々は自分のノートパソコンで、以前お台場で行った自身のライブ映像を見返していた。
そのコメント欄には、多くの称賛の声が載せられていた。
韓国語や中国語で書かれたものもある。だがその中には、
でも、やめちゃったんだって
一体どうして?
もったいないね
ラブライブエントリーしないんだ
いい線いってたかもしれないのに
ラブライブへの参加を期待する声、引退を惜しむ声も数多くあった。
そのコメントの数々に菜々は心が揺らぎ、堪えかねて机に突っ伏す。
しばらくして落ち着いた菜々は頭を上げると、ノートパソコンを閉じ、鞄を持って校舎を出た。
【菜々の独白】
期待されるのは嫌いじゃなかったけど……一つくらい、自分の大好きなことも、やってみたかった。
私の“大好き”が、誰かの“大好き”を否定していたんだ。
それは結局、ただの我儘でしかなく、私の“大好き”は、ファンどころか……仲間にも届いていなかった。
ケジメでやったステージが、少しでも同好会の為になったのなら……優木せつ菜だけが消えて、新しい虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が生まれる。
それが……私の最後の我儘です。
続く。
音楽室のくだりは、若干シチュエーションを変えました。
あと宏高はせつ菜のことをちゃん付けで呼んでいますが、本人の前ではさん付けで呼びます。
この時点では宏高は菜々がせつ菜であることを知らないので、違和感あるかもしれませんが…
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