ウルトラマンタイガ 〜NEW BUDDY, NEW RAINBOW!〜 作:門矢零
そんなに彼方が好きになったのか?音楽業界(笑)
練習が一通り終わって、そこから皆が楽しい気分になれるメインイベントたる遥の歓迎会が始まる。
部室の丸テーブルの上にはティーセットを使った何品かのパン類やお菓子が揃えられ、宏高の仕切り直しのセリフを合図にメンバーは声を揃えて歓迎する。
宏高「改めまして〜」
一同「ようこそ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会へ‼︎」
遥「凄いっ…!本格的…っ!」
当の迎えられた遥は、目の前のご馳走や本格的ティータイムに目を奪われてそれどころではなかった。
せつ菜はその様子に微笑み、宏高は遥を座らせる。
せつ菜「喜んで頂けて嬉しいです!」
宏高「さぁ、座って座って」
遥「あ、はい!」
主役である遥が座れば、他のメンバーも次々に着席していく。
エマは申し訳なさそうに、かすみは自慢げに言う。
エマ「急いで準備したから、お菓子はクッキーしか焼けなくて」
かすみ「かすみんは特製コッペパンを用意しました!」
遥「可愛い〜!」
遥がコッペパンやクッキーの出来栄えに感激していると、かすみが腕を組んでドヤ顔で言った。
かすみ「フフンッ♪それほどでもありますよぉ」
そしてようやく各々が歓迎会のご馳走に手を付けていき、かすみ特製コッペパンを食べた彼方がキラキラした顔で遥に言う。
彼方「んんっ⁉︎遥ちゃん!これ彼方ちゃんイチオシ〜!」
遥「じゃあ!はむっ」
彼方に勧められて、遥も特製コッペパンを口に含む。
遥「美味ひぃ〜!」
遥は片手で落ちそうになる頬を押さえて表情を幸福に緩め、それを見てかすみが「ニッシッシ♪」と笑ってガッツポーズを決める。
自身の手作りパンが褒められて上機嫌になっていると、エマはクッキーを食べながら、果林は紅茶を飲みながら遥に勧める。
エマ「クッキーも沢山食べてね?」
果林「そうね。エマが食べ過ぎる前に」
エマ「果林ちゃ〜ん!」
そんなやり取りに一同が「アハハハハハハッ‼︎」と楽しげに笑う中、宏高は遥に訊ねる。
宏高「今日、見てみてどうだった?」
遥「あ…はい!お姉ちゃんも皆さんも楽しそうでした!それぞれの個性に合った練習もあって、素敵な同好会ですね!」
宏高「ありがと。そう言ってもらえて嬉しいよ」
その直後、ガタッ!と大きな物音がした。
宏高&遥「ん?」
2人の目の前で、彼方が突然テーブルに突っ伏してしまったのだ。
遥「え…お姉ちゃん…?」
呆然とする遥を尻目に、しずくは言う。
しずく「大丈夫ですよ」
そして寝てしまった彼方の頭に枕を差し込み、エマがブランケットを背中に掛けた。
しずく「枕はちゃんとありますから」
遥「え⁉︎」
エマ「この枕、彼方ちゃんのお気に入りなの。寝心地良いんだって」
エマがそう言うと、遥は動揺したように訊ねる。
遥「あの!お姉ちゃんはよく寝ちゃうんですか?」
しずく「はい。私の知る限り、彼方さんは寝るのが大好きだと思いますよ?」
エマ「特に膝枕で寝るのが好きだよね」
遥「膝枕ぁ⁉︎」
しずくとエマの返答に上擦ったような声で驚く遥に、愛も言う。
愛「そうそう!愛さんもしてあげたよ〜」
遥「お姉ちゃん……皆さんに膝枕をしてもらうほど、頻繁に寝ているんですね…」
どこか難しい顔を浮かべる遥を他所に、しずくと璃奈はここ最近の彼方の居眠り態度を思い返す。
しずく「そう言われると…最近、いつにも増してよく寝ているような……」
璃奈「確かに……練習しながら……寝てた」
宏高「…そうなの?」
しずく「はい。この前も、全然起きないくらい熟睡してて……」
そして全員の視線が熟睡してる彼方に集中する。
エマ「彼方ちゃん…?」
試しにエマが声をかけてみるも、彼方が起きる気配はなかった。
外は夕方になり、寝てしまった彼方の事は起きるまでそっとしておく事になり、部室では遥との会話が続いていた。
宏高「俺は、皆からの推薦で部長になったんだ」
遥「へぇ〜!そうだったんですね!」
宏高が遥に自身が部長になったきっかけを話していると、ようやく寝ていた彼方が起きた。
彼方「……あれ?」
遥「目、覚めた?」
寝惚け眼で周囲を見回す彼方に遥がそう訊ねると、
彼方「…ハッ⁉︎くぅ〜っ!遥ちゃんにお姉ちゃんの恥ずかしい所見られてしまった〜〜っ!」
彼方は状況を理解して完全に目を覚まし、枕を顔に押し付けて羞恥に悶える。
遥「恥ずかしくなんかないよお姉ちゃん。疲れて当然だよ?いっぱい無理してるんだから」
彼方「…ん?無理してるって、何を?」
遥「やっぱり……」
彼方「遥ちゃん?」
彼方が無意識だった事にますます心配そうな顔をする遥に対し、彼方は本当に心当たりがないような顔をしている。
そんな彼方に気付かせる為に遥は言う。
遥「お姉ちゃん、同好会が再開してから、あんまり寝てないでしょ?」
彼方「うん。つい楽しくて〜」
遥「私、お姉ちゃんが忙しすぎて、倒れちゃうんじゃないかって心配で……それで、今日見学に来たの」
彼方「そうだったの?」
それが遥が、虹ヶ咲学園を訪ねた理由だった。
遥「でも、今日のお姉ちゃんは、疲れなんて感じさせないくらい元気で楽しそうで、すごく嬉しかった!いつも私を優先してくれたお姉ちゃんが、やっとやりたい事に出会えたんだ!って」
彼方「遥ちゃん……」
宏高(……?)
何かおかしい。
宏高だけがそう感じている中、遥は続ける。
遥「今のお姉ちゃんには、同好会がとても大事な場所だって、よく分かったの。だから私、決めたよ」
彼方「ん?何を?」
話についていけない彼方。
そんな姉の目をまっすぐ見つめ、遥は自身の決意を告げる。
遥「私……
スクールアイドル辞める‼︎」
ほんの数瞬。
この部室内の空間だけ時が止まったかに思えるような、そんな沈黙が続いた。
1分くらい経ったような気がする。
ようやく、言葉の意味を呑み込めた彼方から微かに反応が聞こえた。
彼方「ん⁉︎」
そして、宏高は驚愕し、彼方は絶叫した。
宏高「なっ……⁉︎」
彼方「えええええええええええっ⁉︎」
他のメンバー全員も、戸惑いを隠せない。
『えっ……』
彼方「や……やめ……どっ……⁉︎」
彼方は問い質そうとするも、あまりの動揺とショックで上手く呂律が回らない。
代わりに宏高が問い詰める。
宏高「どうしてさ⁉︎」
遥「このままじゃ、お姉ちゃんが体壊しちゃうから……」
彼方「彼方ちゃんが寝ちゃったせいで、遥ちゃんの事心配させちゃったの?大丈夫だよ〜!」
何とか思い止まらせようと妹を宥める彼方だが、遥は椅子から立ち上がって強く反論する。
遥「全然大丈夫じゃないよ‼︎」
彼方「ああっ……あ……」
遥「お姉ちゃんはお母さんが忙しいからって、お家の事全部して!家計を助けたいからって、アルバイト掛け持ちして!奨学金貰ってるからって、勉強も頑張って‼︎その上スクールアイドルもなんて、誰だって倒れちゃうよ‼︎」
それは大事な姉の為に、妹として出来る最大限の思いやりと恩返しだった。
やがて遥は姉の重荷を外す思いで呟く。
遥「もういいの……」
彼方「ぇ…?」
遥「私の事より、お姉ちゃんにはやりたい事を全力でやって欲しいの」
彼方「……遥ちゃん……」
ここで情報を整理する為に、しずくが恐る恐る遥に訊ねる。
しずく「あの〜……その為に遥さんはスクールアイドルを辞めるんですか?」
遥「はい」
しずくの問いにも毅然と返す遥。
それだけで彼女の引退宣言が本物であるという事が嫌でも伝わってくる。
当然、彼方がそれを良しとする筈がなく、遥の両肩を掴んで言い聞かせるように言う。
彼方「ダ、ダメ!そんな、遥ちゃんは夢を諦めちゃダメぇ‼︎」
遥「お姉ちゃんが苦労してるの分かってて、夢を追いかけるなんて出来ないよ‼︎」
彼方「あっ……そんなの、気にしなくていいんだよ〜。だって、遥ちゃんは大事な妹なんだもん」
遥「どうして……?妹だったら、気にしちゃいけないの?」
彼方「心配させちゃってごめんね?彼方ちゃん、もっと頑張るから!」
違う。
自分が伝えたい事はそうじゃないのに中々分かってくれない彼方に、遥は初めて姉に対して激情を抱いた。
遥「…っ!お姉ちゃんの、分からず屋‼︎」
遂に業を煮やした遥は、そのまま部室を飛び出してしまった。
彼方「あっ!」
宏高「遥ちゃん⁉︎」
宏高は慌てて起立してから、「俺見てくる!」と言って遥を追いかけて部室を出る。
取り残されたメンバー、特に彼方は追いかける事すら出来なかった。
遥のあんな言葉を聞いてしまったから。
彼方「は……遥ちゃんが……怒った……?」
遥があんな風に声を荒げて怒る所を初めて見た彼方は、思考が真っ白になる程に茫然自失してしまっていた。
────────────────────
虹ヶ咲学園の正面入口。
宏高「遥ちゃ〜ん!」
遥「あ…」
宏高「ハァ……ハァ……」
学園を出ようとしていた遥を呼び止めた宏高は、気まずそうな表情で訊ねる。
宏高「本気なの?スクールアイドル辞めるって」
遥「はい」
宏高「ぁ……君は、それで良いの?」
遥「もう、決めた事なんです。お姉ちゃんが背負ってきたものは、今度は、私が背負うべきなんです。お姉ちゃんの事、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた後、遥は宏高に背を向け、そのまま去ってしまった。
宏高はその場に立ち尽くし、先程の遥の言葉の意味を考えていた。
彼方が背負ってきたものを遥が背負う。
それはつまり、姉の苦労や負担をこれからは遥が引き受けるという事。
スクールアイドルを捨ててまで。
とてもそんな境遇の中で、彼方がスクールアイドルをやっていける訳がない。
そんなのは絶対にダメだ。
きっと何か他に良い方法があるはず。
彼方と遥、どちらの夢も大切だと思う宏高は、再び遥を呼び止めようとしたが───
フーマ『その辺にしときな』
フーマに止められた。
タイガ『宏高……こればかりはあいつら2人の問題だ』
タイタス『ここで君が無闇に首を突っ込んでも、かえって状況を悪化させるだけだ……』
宏高「…っ!それでも……」
タイタス『今は様子を見るしかない』
ウルトラマン達に諭され、宏高はもどかしい気持ちで遥の背中を見送るしかなかった。
続く。
すれ違う
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