アマゾネスとして生まれた私は〇〇になる。   作:だんご

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こうかな、これかなって思ってちょっと時間がかかりました。
少し詰め込み過ぎたかもしれない。


ベルくんを推せ(後編)

 「なんでソフィーネがここにいるのっ!?」

 

 「っ!」

 

 白目の私。

 目をパチクリとしたベル・クラネル。

 ファイティングポーズをとって警戒心のむき出しのアイズ、ティオナ。

 

 一触即発の事態に、私は心の中で叫んだ。どうしてこんなんばっかり。

 

 アイズとティオナがここまで警戒するのも当然の話だ。

 メレンの港町では、カーリーたちと共謀し、彼女のお仲間たちと盛大にやりあったのだから。

 警戒しない方が変な話。いや、むしろ問答無用で切りかかってこない分、まだ彼女たちは優しい方である。私なら問答無用で切りかかっていた。

 

 「いやー、あのー、私もそこのベル・クラネルくんを鍛えてほしいと頼まれてきたんですけど」

 

 「……誰に?」

 

 アイズからのめっちゃ厳しい視線。

 クール系美人のギロリと睨んだ顔は、氷のように冷たくて綺麗で興奮すら覚える。

 だが、ここまで居心地が悪い状況では、喜ぶものも素直に喜べない。

 

 「彼の主神のヘスティア様です」

 

 「え、じゃあ、あなたがヘスティア様が言っていた『秘密の助っ人』さんですか!?」

 

 そう言い放ったベル・クラネルに、内心複雑な思いが込み上げてくる。秘密の助っ人とか何それ恥ずかしい。

 

 なんていうか、ヘスティア様もそうなのだが、この世界の神様ってそういう言葉遊びであったり、意味深げな言葉が大好きなのだ。

 ドラマの世界みたいでカッコいいのかもしれないが、当事者になるととてもむず痒い気持ちになる。二つ名とか、「♰」を使ったりだとかは二次元だけで十分だ。リアルは精神が死ぬ。

 

 しかし、あのヘスティア様がどや顔しながら眷属を前に言っていたと考えると、可愛らしくて許せてしまう。Cute is justiceだ。

 

 「そんな大したものではないのですが、たぶんそれです。ソフィーネと申しますので、どうかよしなに」

 

 「え、えぇっ!?」

 

 戸惑いの声を上げるベル・クラネルと、視線を迷わせるアイズたち。

 そして私は初めてみるベル・クラネルに興味津々であった。

 

 なるほど、これがヘスティア様の愛する眷属、あのベル・クラネルか。

 

 真っ白な髪に赤い瞳。

 細身であり、筋肉モリモリのマッチョマンではないようだ。

 顔もカッコいいというより、可愛いと言われる容姿。どことなくウサギに似ている。

 

 なんというか、歓楽街のお姉さまたちに大変人気になりそうなお顔である。

 この子だったら、お金はいらないから相手をさせてほしいって人も多いのではないだろうか。童顔のイケメンだからな。

 

 いつだって、どの世界だってイケメンはそれだけで価値がある。やっぱり世の中顔なのだ。

 だけど不細工な人も安心してほしい。アマゾネスなら力こそパワーであれば、不細工であろうがモテモテだ。ただしチンコは死ぬから気をつけておけ。

 

 ううむ、ベル・クラネルは歓楽街に来させない方が良いな。

 ヘスティア様がブチギレフラグである。

 

 女神なんてものは、だいたい愛する眷属に過保護で、嫉妬深い。

 自分以外のどうでもいい女が寄り付けば、モンペみたいに「うちの子になにしてんだ」と怒鳴り込んでくるぐらいには、だいたいの女神は眷属へ愛着しているものなのだ。

 

 ヘスティア様は処女神でもあるので、まず間違いなく歓楽街は気に入ってはいないだろう。

 まぁ、正しいと思うな。あそこはほぼ肉食系女子しかいないし、行ったら十中八九ベル君のベル君は美味しく頂かれることだろう。

 初体験が複数とかロマンは感じるが、下手すればベルくんのベルが死んでしまう。

 

 「あの……アイズさんやティオナさんとは、何かあったんですか?二人とも、ソフィーネさんをとても警戒しているようなのですが」

 

 「ベルさんに言えないぐらいには、いろいろありました。ぶっちゃけ、今一番私が会ってはいけない人たちだと思います」

 

 「それって、大変なことじゃないですかソフィーネさん!?」

 

 ヘスティア様にはこういう身分であるために、なるべく私の話は内緒にしていて欲しいと出会ったときから頼んでいた。

 それ故に、今回も気を使って、私の詳しい話は伝えていなかったのかもしれない。私の名前やらプロフィールとか。

 

 本当はそれで問題はなかった。ヘスティア様には何も過失はない。

 だって彼女は私がイシュタル・ファミリアであることも知らないし、ロキ・ファミリアと敵対していたなんて知る由もないのだから。

 

 だが、今回に限ってはひっじょーにマズい。

 

 まさかこの二人が、ベル・クラネルの指導にあたっていたなんて。

 メレンの後に、ロキ・ファミリアが改めてギルドに参上し、私のことを探りこんできた話は記憶に新しい。冷や汗たらたらものである。

 

 私はアイズたちとは戦いたくはない。

 必要以上にロキ・ファミリアと敵対することになるし、変な恨みを持たれてしまっては堪らないからだ。

 

 例えば、会社からあの会社の顧客引っ張ってこいって言われたら、誰だって奪おうとお給料のために頑張るじゃないか。

 それと同じように私だって喧嘩を売ってこいと言われただけで、それ以外に含むところは全くないのだ。

 

 後ろで混乱しているベル・クラネルと、このロキ・ファミリアの二人はそれなりに親しい仲である様子。

 私はエロスピリッツを満たしてくれたヘスティア様の頼みを叶えてあげたいし、そんなヘスティア様の大事な眷属である彼の関係を傷つけたくはない。

 

 「と、いうわけで。本当に私はロキ・ファミリアと敵対するつもりはありません」

 

 両腕を上げて降参のポーズ。プライドとかそんなものはそこらへんにぽーい。

 

 ちなみに、横にいたはずのサミラは既に後ろ十数メートルまで避難していた。

 お前いつの間に、と視線を向けると「勘弁してくれ」と何とも言えない顔で懇願された。いや、今回だけは私はあんまり悪くないと思うんだ。

 

 「……それを、信じろっていうのかな?言っておくけど、こっちはベートや他の仲間もやられているんだよね」

 

 ティオナの言うとおりである。こんなに怪しいのに信じろって言われても、中々信じてはくれないだろう。苦しい。

 

 「私としてはヘスティア様にお願いされただけで、本当に含むところはないのですよ。あなたたちが私に思うところがあるのは仕方がないのですが……」

 

 切りかかられて当然。命を狙われて当然。

 それだけのことはした。ああだった、こうだったと言って、その責任をこの場で否定するつもりはない。

 

 「どうしても、というのであれば。かかってくるつもりなら、受けて立ちます」

 

 かといって、この場を退くつもりもない。

 

 私はヘスティア様と約束した。イシュタル様に行ってこいと背中を押された。どうしてここでノコノコと歓楽街に帰ることができるのだろうか。

 

 約束と女の膜は、貫くときに貫かないと男とは言えない。

 

 胸を張ってエロマンガを読んで興奮するために。心のチンコを誇れるようになるために。

 私は己の信仰にかけて、ここで退くわけにはいかないのである。

 

 私の気炎を見たアイズとティオナの顔色が変わり、彼女達から流れた汗が下へと落ちていった。

 私は降参のために上げていた両手を下ろすと、腰を落として攻撃に備える。

 

 「先手はどうぞ。それが私なりの義理です」

 

 この戦い、先手は向こうに受け渡す。

 

 何があったとしても、最初の一撃を必ず逸らさずに受け止める。どんなに大怪我をしても構わない。

 これこそ私ができる、せめてもの身勝手な義理の果たし方だ。

 それに、こっちからしかけるならともかく、向こうから襲い掛かってきたのであれば他に説明できる十分な理由にもなる。

 

 心臓が激しく鼓動し、血がぐんぐんと勢いよく体を駆け巡っていく。

 

 重く、剣呑な空気になる中。

 二人の影が私とアイズたちの間に飛び込んできた。

 

 ベル・クラネルとサミラだ。

 

 「や、止めてください!何がみなさんにあったかはわかりませんが、一旦落ち着いて話し合ってからでも遅くはないはずです!」

 

 ベル・クラネルはそれぞれに手を向けて動きを制し、声を張り上げる。

 

 私は驚いた。

 こんな超高ランク同士の間に割って入れる度胸がある奴は、中々いるものではない。

 

 声は震え、引き気味ではあるものの、私たち三人の威圧に負けずに立っているだけで素晴らしい。並の人間ではこうはいかないはずだ。

 

 「……メレンでのことは、イシュタル・ファミリアとしての問題だ。今回の件に、ソフィーネ様が含むところはない。お前たちがここにいることも、こちらは全く知らなかった。これは本当の話だ」

 

 サミラも相手がはるか格上であるにも拘わらず、それに負けじと鋭い眼差しをアイズとティオナに向けて言い放つ。

 彼女の足はよく見ると震えているので、ベル・クラネルと同じく、恐怖を必死に抑えつけながら立っているのだろう。

 

 そのガッツに「おお!」と感動していると、サミラの顔がこちらに向けられた。

 涙目で「ソフィーネ様、マジ勘弁してくれ」と睨みつけられた。

 

 なんか、その、ごめん。今度は何かおごります、本当にごめん。

 

 「……わかった」

 

 ベル・クラネルと視線を交わしたアイズが、静かに自分の剣を鞘に納めた。

 それを見たティオナも得物を下ろし、私も体に張り巡らせた気を霧散させていく。

 

 「うーん、アイズ。いいの?」

 

 「うん、ソフィーネは、私たちと戦うつもりはないんだよね?」

 

 アイズの問いに私は頷いた。

 

 これはベル・クラネルの信用が、アイズにとっては大きなものであったからに違いない。

 やはり、彼女たちとベル・クラネルの間には、並々ならぬ大きな繋がりがあるようだ。

 

 「ありません。イシュタル様もカーリーからの要望によって、私にあなた方と戦うよう命じた。そのカーリーが敗れた今、私はあなたたちと戦う理由はない」

 

 「そっかぁ。実は私、ベートを倒したっていうソフィーネと少し戦いたかったんだけどなぁ。でも、ここはアルゴノゥト君を優先しないとね」

 

 「私も、少し残念……。でも、ソフィーネは私たちよりも強い。ベルにも、いい刺激になるかもしれない」

 

 あっさりと下がった二人に、今度は私の方が不思議な気持ちになる。

 

 「あの、私って一応あなたたちのファミリアに盛大に喧嘩を売ったのですが……」

 

 「うん。でも、元々ソフィーネには食人花のときに助けてもらっているし、アイズの相談にものってくれたって聞いてたから!カーリーたちがこっちに来ることも教えてくれたしね!」

 

 「ええ、まぁ、それはそんなこともありましたが……」

 

 「メレンの時だって、ベートや他の仲間を殺すつもりがあるなら、きっと殺していたでしょう?誰も死んでないってことの意味ぐらい、団長もベート自身もみんなもわかっていたもの。あれぐらいのことなら、別にファミリア同士の争いの中だと珍しくないからね!」

 

 「そ、そんなものなんですか?」

 

 「うん、ここだとそんなものだよ。流石に、イシュタル・ファミリアには良い気がしないけれど、私個人はそんなにソフィーネのことは嫌いでもないから」

 

 え、なにこの子……。天使、天使なの?

 満面の笑みのティオナに、思わず私の胸がときめいてしまう。

 

 テルスキュラだったら絶対に地の果てまで追い詰めてぶっ殺す的な感じなのに、どうしてこんなに寛容性があるのだろうか。

 これがオラリオという、文明国家に先んじてたどり着いた先輩としての余裕?人としての器の違い?

 

 だめだ、眩しい。眩しすぎてティオナのことを真正面からみれない。尊い。

 

 これはもうティオナじゃない、ティオナパイセンである。

 オラリオという文明国家に触れた、テルスキュラ出身の先輩として私は彼女に敬意を持つべきなのだ。

 

 両手で目を覆い、「おぉぉぉ」と感嘆の声は口からこぼれる私。

 そんな私を引き気味で見る四人の冒険者たち。

 

 「ありがとうございます、ティオナパイセン」

 

 「ぱ、パイセン?」

 

 「これは一つ貸しにさせてください。流石にファミリアやイシュタル様は裏切れませんが、私が可能なことでしたら、あなたたちのために動くつもりです」

 

 「えーと、ありがとう?」

 

 困り顔のティオナとアイズ。

 「また変なことをやってる」と呆れかえっているサミラ。

 目をぱちくりさせるベル・クラネル。

 

 って、やべぇ。肝心のベル・クラネルをほったらかしにしてしまっていた。

 

 「あー、ごほん。すいません、ベルさん。あなたには大きなご迷惑を」

 

 ベル・クラネルが私たちの間に割って入ってくれていなければ、このような展開には至らなかっただろう。

 私は彼の人徳によって救われたようなものである。

 

 「い、いえ。わざわざ来てもらったのに、その、なんていうか」

 

 「私と彼女達の因縁に巻き込んでしまい、申し訳ございませんでした。私の名前はソフィーネ。しがないアマゾネスではありますが、それなりには戦えるつもりです。よろしくお願いいたします。」

 

 「そんなっ!?えっと、こちらこそ、あの、よろしくお願いしますっ!」

 

 私の九十度のお辞儀をみたティオナは、後ろの方で「もしかしてソフィーネって変な人?」とアイズに話しかける。アイズは首をかしげていた。

 サミラはその会話を聞いて苦々しそうに胃の部分をさすっている。……今度、おかゆ作ってあげるか。

 

 「あの……。ところで、ソフィーネさんがアイズさんよりも強いっていうのは、本当なんですか?」

 

 おずおずと問いかけられた質問、唾をのむベル・クラネル。

 恐らく、アイズの先ほどの言葉を受けて驚いたのだろう。

 

 確かにアイズが先ほどそんなことを言っていたし、私がベートをうち破ったことは彼の知るところとなった。しかし、私はどう言葉を返していいものか迷う。

 

 「あくまで『今は』って話ですけどね。戦いなんて状況や戦い方によっていくらでも左右されます。ただ、純粋な一対一のぶつかり合いなら、今はまだ私の方が上手でしょう」

 

 ベルは信じられないような目で私を見て、次にアイズを見る。アイズがベルの視線に応えて静かに頷いた時、彼は強い衝撃を受けたようであった。

 

 レベル6であり、名が知られているアイズの言葉は、彼の心に重く響いたに違いない。

 名も知られていない私の言葉よりも、多くの実績を残したアイズの言葉に納得を得るのは当然である。

 

 ベルは顔を引き締めてすぐに私に向き直ると、私に負けないぐらいに腰を曲げてお辞儀をする。

 それはヴォルデモートもニッコリなお辞儀の姿勢だった。アバダケダブラ。

 

 「よろしくお願いします!僕は、僕はこの戦いに勝たなければならないんです!」

 

 おおう、なんというか、眩しい。

 真っすぐな姿勢、言葉にベル・クラネルがこれまで生きてきた道程が見えるようだ。流石ヘスティア様の眷属といったところだろうか。

 

 こういう裏表がないタイプの人間は久しぶりなので、ずいぶんと心が迷ってしまう。

 今更ではあるが、私のようなまっとうではない人間が関わっていいのだろうか。

 

 エロは素晴らしいものだし、私は私の生き方に誇りを持っている。

 

 だが、いくら私に誇りや自信があったとしても、それはこの世界ではまっとうな道ではない。

 そもそもテルスキュラ生まれで儀式を経験したアマゾネスに、まっとうな奴なんているわけがないと言ったらそれまでの話だが、エロマンガ大好きな私がベル・クラネルに関わって変なことにならないだろうか。

 

 共通の話題とかあるのか?

 エロマンガ?馬鹿を言うな、ああいうのはタイミングやら信頼性がお勧めする上では大事なんだ。

 

 見たい、気になるという少年にはエロマンガをお勧めできるが、まだ性の目覚めのない少年に見せてしまっては、場合によってはトラウマにもなってしまうことだってあるんだぞ。

 

 性を目覚めさせるエッチなお姉さんはそこのさじ加減、見極めが絶妙に上手いものだが、残念なことに私はそこまで機微が良い方ではない。

 そもそも、空気を読んで周りに合わせるような人間なら、今頃はテルスキュラでカーリーニッコリ修羅道まっしぐらである。

 

 もし突然エロをぶつけてしまって少年がエロにトラウマを抱き、エロから距離を取られてしまったら、それは性的な虐待である。

 おまけに正常な精神の発達過程を歩めなくなってしまい、将来人間的に大変苦しい目に遭わせてしまうことになるだろう。

 

 それにエロが嫌われてしまうということは、未来の一人の若人の大きな安寧を奪ったこということ。

 エロは人生の癒し、救いであるはずなのに、それがトラウマになってしまっては人生の楽しみの幅が大きく狭まってしまうことだろう。

 

 こんな悲しく、大きな罪はない。さもすれば、キリストが背負ってくれた原罪と同じぐらい重いのではないだろうか。

 

 ともかく、私という人間が関わっていいのか。こんな善良っぽくて、真っすぐボーイに私みたいなやつが絡んで良いのだろうか。

 

 推しのアイドルに汚れアイドルとか芸人が絡んだら、ブチギレたり、不安になったりする人たちがいる。

 私もそうなってしまわないか躊躇いがある。だってベル・クラネルは、ヘスティア様の推しなんだもの。

 

 アマゾネス達曰く、なんだかんだで私は濃いキャラらしいので、もしこれでヘスティア様に「君のおかげでベル君が変になった!」と泣かれてしまったら、流石の私もへこんでしまうだろう。とてもつらい。

 

 「……サミラ、ちょっとアイズさんやティオナパイセンと一緒に、話が聞こえないところで下がっていてもらえませんか。私はベルさんの人間性に興味があります。少しで良いので、二人でお話をしてみたいのです」

 

 「……つうことだけど、お二人さんは問題ないのかよ」

 

 「うん。ベルも彼の主神も認めたなら、私たちがそれに口を挟むのは間違い」

 

 「まぁ、アルゴノゥト君とソフィーネは初対面みたいだしねぇ。ていうか、本当にパイセン呼びなの?」

 

 「あれだ、諦めた方がいいぜ。こういう時のソフィーネ様はまともに相手をするだけ無駄だからな……」

 

 「ええと、その、サミラだっけ?よくわからないけれどドンマイ?」

 

 離れていく三人に頭を軽く下げると、すぐに私はベル・クラネルに向き直った。

 ベル・クラネルはやや緊張しているような面持ちで、それでもしっかりと私の目を見て向き合っている。

 

 「ベルさん、あなたはどうして冒険者になろうと考えたのですか?どうしてオラリオにきたのですか?」

 

 人が願いを持って立ち上がるに至った起源、源流は極めて重要なものだ。

 

 私がエロと出会い、エロマンガを描くべく生き残れたように。

 確たる道があれば、どんなに気持ちや心が揺らいでしまったり、他に逃げ道があったりしても逃げることはない。

 それは起源に立ち返って、歩むべき方向に戻って頑張り続けることができるからだ。

 

 これを人は俗に「回想シーン」という。

 回想シーンはそれだけで強い。オサレポイントが高い。だいたい勝てる。ただし脇役や準主人公がやるとだいたいは負けるというジンクスもあるが。

 

 この願いの源流を尋ねるということは、ベル・クラネルという人間性を知ることに他ならない。

 

 彼の信念は、彼の心はどれぐらいまで耐えきれるのか。どれほどの困難を望んでいるのか。

 プロと同じ訓練を、ダイエット目的できた人間にやらせる奴はいない。ベル・クラネル、私はどこまで本気であなたを鍛えればいいのですか。

 

 「冒険者を目指した、オラリオに来た、理由……」

 

 ベル・クラネルは少し迷っているようであったが、やがて覚悟を決めたのだろう。

 両手の拳を握りしめ、私の視線を正面から受け止めて口を開いた。

 

 ……あれ?なんかこの展開、熱くない?

 

 計らずしも降ってわいた展開に、私は思わずワクワクしてしまう。

 私はミーハーなところも結構ある。こういう少年漫画的な、ジャンプ的なシチューに憧れがなかったかといえば、それはウソになる。

 エロマンガも大好きだが、同じぐらい人が覚悟や決断を見せてくれるような、人間讃歌なマンガも大好きなのだから。

 

 さぁ、私に教えて欲しい。あなたはなんのためにここにきたのか。

 英雄になりたいからか?それとも、お金か?あるいは何かの因縁があってここに?尊敬する人がいるとか?あるいは誰かを助けたいから?

 

 想像できるだけの輝かしい主人公たちを思い浮かべ、どんな言葉が彼の口から飛び出してくるのかと私は胸を高鳴らせた。

 

 「僕は、出会いを求めてここに来ました」

 

 ……はい?

 

 「出会いとは、誰との?」

 

 「素敵な、女の子との出会いを夢見ていたんです」

 

 素敵な女の子との出会い?

 

 頭に無数のハテナが浮かんでしまう。

 彼はヘスティア様の眷属である。あの処女神で、おぼこな女神の冒険者である。私の知っている「女の子との出会い」とは、ひょっとすると意味が違うのかもしれない。

 

 「御爺ちゃんから、男ならハーレムを目指せと言われていて……」

 

 いや、合っていたわ。完全に一致していたわ。私の知っている出会いだわ。

 しかも、ハーレムなんて言葉が飛び出してきたわ。なんだよその爺、最高かよ。

 

 そしてそこから語られた彼のストーリーは、まさに私が前世で読んできたマンガに負けず劣らず、素晴らしい出会いと冒険と勇気に溢れていた。それは私の心を酷く揺らした。

 

 負けることも多かった。涙することも多かった。決して順風満帆といったものではなく、苦難と困難が常に彼の心を揺らし続けた。

 

 そしてベル・クラネルは、真正面から戦い続けてきたのだ。

 

 納得がいった。

 彼は本来一人ではなく複数人で抱える戦い、迷い、強敵に対して、常に一人で飛び込んで自分の道を貫き通してきたのだ。

 それは経験として血肉になり、偉業としてアビリティに刻まれ、彼を最短でレベル2に押し上げたのだろう。

 

 その根底にあるのは「出会い」、「ハーレム」。

 

 そしてそこには、祖父から受け継がれた言葉、縁を紡いだ人やその想い、自身の夢といった、大切なものを守るために己を高めていく彼の果てなき精神性がある。なんかジョジョ的な黄金の精神を感じる。

 

 これは、オラリオの台風の目になりうるのではないか。

 

 時代が英雄を求めるのであれば、それは私でもなく、アイズでもない。

 それはきっとベルのような人間なのではないのだろうか。

 これは予感だ。彼と出会い、その人間性に魅せられ、私は時代の節目を迎える予感を覚えたのだ。

 

 キリスト教でのサウロの回心のように、鬼滅で上弦の月が欠けたように、ジョジョでジョースターとディオが出会ったように。

 出会いの物事にはそれだけには留まらない、世界を変えてしまうような大きな時代の変化が生まれることがある。

 

 私はベル・クラネルとの出会いに、私とイシュタルが出会ったときと同じぐらいの大きな意味を感じた。

 

 それに、これが一番大事な話であるが……。

 

 「……素晴らしい」

 

 「え?」

 

 「出会いを、ハーレムを求めるその志。実にGOOD。血わき、肉おどるとはまさにこのことですね」

 

 私の顔は、今まさに笑っているに違いない。

 笑顔を抑え込むことも難しい。今だって、必死に歓喜の声を上げようとする自分をなんとか抑え込んでいるのだから。

 

 「あの、変だとは思わないんですか?そんなに褒めてもらえたのは、ソフィーネさんが初めてというか」

 

 「全然、変な話だとは思いません。むしろ、私にとっては最高の答えです」

 

 近年、ハーレムというジャンルは下火になってきてしまった。

 

 不誠実だとか、現実的ではないとか、倫理がどうとか、女性を軽視しているだとか、ハーレムになったら関係の維持が大変だとか。妙に細かいところをつついて、大事なものを見失ってしまっているように見える。

 

 多数の可愛い、綺麗な女の子たちに囲まれる。これ以上に素晴らしい理由など、そこにはないだろう。

 

 多くの女性に愛を囁いてほしい、多くの女性を愛したい。多くの女性に認めてほしい、多くの女性を認めたい。多くの女性に抱きしめてほしい、多くの女性を抱きしめたい。多くの女性に誘ってほしい、多くの女性を誘いたい。

 

 そこにそれ以上にどんな意味がある。それだけで十分じゃないか。

 

 そこにどうしようもなく夢があり、ロマンを感じてしまうのが男だろう。欲望に不可能性を感じても焦がれてしまうのが人間だろう。

 

 合理的なんてもので自分を取り繕いよってからに。不合理な人間が作った不合理な世界で生まれた人間が、不合理なものを求めないはずがないだろうが。

 

 何が合理的だバカタレ、エロいと思ったものに合理的も非合理的もあるか。エロいからエロいんだ。

 

 女の子と出会いたい、エッチしたい、ハーレムが欲しいと望むことに、いったいどんな否定される理由があるんだ。

 

 別に心の底から望んでいないのであれば、私だってこんなことは言わない。

 しかし、たとえ本人が望んでいても、ああだこうだと現実やら身の丈やら、自分が諦める理由を持ち出してその素晴らしい想いを否定することは間違っている。

 

 もっと正直に言っていいし、もっと正直にエロくなっていいはずなんだ。

 ハーレムは最高だ、ハーレムでいろんな女の子と仲良くエッチしたいと叫んでいいはずなんだ。

 

 だから私はこのオラリオで高らかに叫ぶんだ。私はエロが大好きなんだと。私はエロが最高なんだと。ハーレムだっていいじゃないか、ロマンがあるじゃないかと。

 

 人はいつだって、真善美という至高の世界を理想の形として世に残してきた。

 

 宗教が良い例ではないか。

 人生最後の行きつく先として、調和のとれた美しい安らかな世界を理想とする。

 それが現実的だとか、非現実的だとかは関係がない。そこを目指し、そこに相応しい人間になりたいと努力し、この不合理な世を生き続けるその姿が美しく、生きる意味となるのだ。

 

 キリスト教のヘブンのように、仏教の極楽浄土のように。

 その最後の理想の世界に向かって、そこに行きたいと善なる境地に執着し、自分の人格を向上させながら生き行くことが人生と、宗教は生きる意味を与えてくれているじゃないか。

 

 ハーレムを求め、ハーレムのために出会いを求め、それを理想としてこの世を生き行き、自分を高める人生。そしてキリストやブッタに憧れた人たちが歩む道程に、なんの違いがあるというのだ。

 

 ベル・クラネルはまさに出会いのために自分を高め続け、こうして困難にぶち当たり、それを乗り越えようとしている。

 その姿は美しく、どうにも人を惹きつけるのは真に生きているからこそではないだろうか。

 ベル・クラネルの生きる先にある出会い、ハーレムには、一つのエロの理想の世界があると確信した次第である。

 

 話を聞けば、ヘスティア様やリリルカ・アーデはまずベル・クラネルに惚れているっぽい。ティオナの視線も怪しいし、アイズだって何か特別な期待を彼に感じているようだ。素晴らしい。

 これがオラリオに来てたった数か月の成果というのだから、彼はまさに可能性の獣である。

 

 ハーレムとはエロにおいて概念を指す。

 二股三股四股の女を弄んで捨てるクソ野郎をハーレムとは言わない、それはやり捨てと言うのだ。

 このベル・クラネルであれば、真のハーレム、つまりスケベが大好きで女の子も笑っていられるという、古き良き、邪なき、原点なるジャンルのハーレムにたどり着けるのではないだろうか。

 

 今後ますますベル・クラネルの道程には多くの出会いがあるに違いない。

 なぁに、今はハーレムから一人を選ぶのではなく、みんな選んでも良い時代だ。

 天下のジャンプであっても、100人恋人にしてみんな幸せにするマンガもあるんだから問題はない。全部まとめて大切に、幸せにすればノープロブレムだ。

 

 こんな期待と興奮が高まるような、素晴らしい伸び株に投資しない愚か者はいない。

 ベル・クラネルと会話を重ねていく中で、私の決意はますます大きなものになっていった。

 

 エロを探求する者として、彼を鍛えることに迷いはない。私が彼に関わることに迷いはない。

 ああ、大いなるエロの導きは今ここにあり。これこそ使命、これこそ運命。

 

 だから、全力で行きます。

 

 「私は厳しいかもしれませんが、いいですか?」

 

 「はい!」

 

 「わかりました。では、すぐにダンジョンにいきましょう」

 

 「……え?」

 

 なんでダンジョン?

 そんな言葉がベルの顔から伝わってくるようだ。そんなベルを他所に、私はサミラに指示を出していく。

 

 「サミラ、控えていたアマゾネスたちに報告を。予定通りに鍛錬を行う」

 

 「……了解、ソフィーネ様」

 

 「階層の設定は任せる。私はダンジョンに詳しいわけではないから」

 

 「まぁ、ダンジョンで何かすることはこれまでも何回かあったからな。目星はつけているからな、任せておいてくれよ」

 

 サミラはちらりとベルを見ると、憐れむような、同情するような様子で笑った。

 

「そして【未完の少年】、気を引き締めとけよ?この人はヤバイからな」

 

 サミラはそう言い残して、この場から走り去っていく。

 ぽかんと可愛らしい顔を見せたベル。ダンジョンという言葉に目を丸くするアイズとティオナ。

 

 「ダンジョンであれば、どれだけ騒いでも邪魔はそうそう入りませんし、誰かに見られる危険性も少ない。ヘスティア様の期待に応えられるよう、頑張らせていただきます」

 

 三人に私は微笑みかけたが、何故か怖がられてしまったようだ。私の笑顔は純度百パーセントだというのに。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ベル様はどうしてこんなところに?」

 

 「わからない。わからないが、普通こんなところで訓練なんてしないだろうに」

 

 ベルの仲間であるリリルカ・アーデ、そして鍛治師のヴェルフ・クロッゾは、ダンジョンの中層にまで足をのばしていた。

 これもひとえに、彼らの団長であるベル・クラネルの安否を確かめるためであった。

 

 ソフィーネという冒険者に関わりのあるアマゾネスたちが、定期的にベルについて報告を伝えに来てはくれるものの、ベルが仲間の前に直接姿を現すことはなかった。

 

 それまではロキ・ファミリアのアイズとティオナが彼を鍛えてくれていた。

 この二人には面識と信頼があるのだが、ソフィーネという謎のアマゾネスにはどちらもない。それがリリルカたちにとって大きな不安になっている。

 

 主神であるヘスティアはソフィーネに安心の太鼓判を押してはいるものの、二人にとってソフィーネは彼らの主神ほど信用が置ける存在ではない。

 

 リリルカはソフィーネに助けられ、その強大な力を目の当たりにしている。

 助けられたことには感謝しているし、彼女の戦いっぷりはロキ・ファミリアの面々にも劣らないと思っている。

 

 しかし、ソフィーネの強さは保証できるとしても、出会ったときには顔は隠されていて、その言動は控えめに言っても気狂いそのもの。

 そんな彼女の人間性に信頼をおけるかといえば、どんなに大丈夫と思いこもうとしたところで難しい。

 

 あと、リリルカはソフィーネが叫んでいたようにそんなに貧相ではない。

 パルゥムの中では「ある」ほうだ。リリルカはソフィーネの言葉を思い出して複雑な気持ちになっている。

 

 そんな話をリリルカから聞いたのだから、同じ仲間のヴェルフの方も不安にならないわけがなかった。

 正体不明、冒険者登録がなされていないと知った時よりも、より不信感が増したと言ってもいいだろう。

 

 戦争遊戯まで残りの時間は少ない。

 

 現在行われている鍛錬がどのようなものか、どれほど進んでいるのか。

 実は人の良い主神が騙されていたのではないかと確認するために、こうしてソフィーネの同胞らしい案内役のアマゾネスに従ってダンジョンを訪れている。

 

 ちなみに、一緒にアイズやティオナも来ていた。

 彼女達もベルの安否と、ソフィーネの鍛錬に興味があったようだ。

 

 「お前さんも頑固なやつだな。どんなことをしているのか、少しぐらい教えてくれてもいいだろうに」

 

 呆れ気味に、やや苛立ち気味にヴェルフが案内役のアマゾネスに問いかけるが、アマゾネスはいっこうにその質問に答えようとはしなかった。

 

 「悪いが、私はお前達と会話するつもりはない。そもそも、今回の件とてソフィーネ様が勝手に話を受けられただけで、私たちはそれ以上の関りはない。自分で行って確かめろ」

 

 そのアマゾネスの対応は、いっそ敵対的と言ってもいいぐらいであった。いわゆる塩対応である。

 特にアイズやティオナへの返答はとげとげしく、二人はこのアマゾネスとコミュニケーションをとることを諦めていた。

 

 「……ベル様は、元気ですか?」

 

 それでもベルの身を按じ、辛抱強く問いかけるリリルカ。

 

 アマゾネスはこれまでと同じように投げかけられた言葉を無視、あるいは素っ気なく返答していた。

 

 だが、何度も何度も問いかけられ、リリルカの言葉に込められた想いに何か思うところがあったのだろうか。  

 あるいは、本人もベル・クラネルの仲間たちへと何か言いたいことがあったのかもしれない。やがては堰を切ったようにポツリポツリと話し始めた。

 

 「お前たちの団長は、すごい男だよ。あんなの、私たちだって耐えられない」

 

 「それは……。どういうことですか?」

 

 「ソフィーネ様は頭がおかしいんだ。私からすれば、あんなのはまともな奴がすることじゃない。死にたがりのバカか、阿呆がやることだ」

 

 「わからないな。何が言いたい?」

 

 リリルカにヴェルフが疑問を呈し、アイズやティオナの無言の視線が強くなる。

 ヴェルフは言葉の意味を確かめながら目を細め、リリルカは一言も聞き逃すまいと耳を研ぎ澄ませた。

 

 「ソフィーネ様の鍛錬に【未完の少年】がついていっているのは、それだけの覚悟があるんだと思う。それだけの守りたいものがあるんだと思う。だからこれから先、どんなものを見ても、お前たちはあいつを止めてやるなよ」

 

 真剣に、言葉をひとつひとつ選んで話すようなアマゾネスの話しぶりに、案内される四人の戸惑いも深まっていく。

 

 このアマゾネスの言葉には、どこか焦がれるような熱が感じられ、不思議と心に響くものがあった。

 

「あそこにいるアマゾネスたちは、みんなあいつに目を奪われているんだ。見惚れて、恋に落ちちまったやつだっているだろうよ。あんなの見せられたらそりゃそうなるよな。私だって、それこそあいつが戦い続けているところをずっと見ていたいぐらいだ。あれはなんていうか、私は無学だからいい言葉が思いつかないが、綺麗なんだ」

 

 そこではっと我に返ったのか、アマゾネスは再度口をつぐんだ。

 無言の時間が再び始まり、そして続いていく。

 

 やがてたどり着いた先には、案内役と似たような数人のアマゾネス。各々の武器を持ち、誰も近寄らないように警戒している様子であった。

 足元には滞在用と思われる食料などの物資。そして不自然に多い空のガラス容器。恐らくはポーション用のものだろう。

 

 このアマゾネス達の様子はどこかおかしかった。

 顔を青くする者や、頬を赤く染めている者。呆けている者や、疲れたように肩を落とす者など様々だ。

 

 見ればどれもそれなりの冒険者のようであり、この階層ではたとえ「怪物の宴」が発生しても問題なく対応できるレベルであった。

 そんな彼女たちがここまでそわそわしているのは、なんとも不自然に思える。

 

 アマゾネスたちが警戒している先は行き止まりであり、少し広い空間があるようだ。そちらからは何か激しい音が絶え間なく聞こえてくる。

 恐らく、そこでソフィーネはベルに鍛錬を施しているのだろう。

 

 案内役のアマゾネスが、さもあらんといった様子で同胞たちに話しかけた。

 

 「よぉ、調子はどうだ」

 

 仲間の言葉を受け、顔が青いアマゾネスは何かを思い出したのか俯いた。

 一方で、そばに居たアマゾネスは照れた様子で笑っている。同じ質問であるのに、ずいぶんとちぐはぐな反応であった。

 

 「無理、あんなの見ていられないって。他人事ながらにゾッとする」

 

 「いやー、あれだね、どことは言わないけど濡れるわ。もうびしょびしょ」

 

 見ているだけでも大変だな、と案内役のアマゾネスは頷いた。

 そしてあたりをキョロキョロと見まわしている。誰かを探しているのだろうか。

 

 「サミラはどうした?」

 

 「あいつ、ソフィーネ様係でしょ?当然つきっきりよね」

 

 「他の奴らはともかく、サミラはそうはいかないでしょうから」

 

 「……あいつも、可哀そうな奴だよな」

 

 気の毒そうに呟いた案内役の言葉に、ますますリリルカたちの疑念は深まっていく。

 

 「……ん?すまない、待たせてしまったな。この先だ」

 

 案内役のアマゾネスの指さした先は、先が見えない一本のダンジョン道。

 その奥からは剣戟の絶え間ぬ音。それもどんどんと激しいものになり、音の間隔に切れ目が無くなっていく。

 

「まぁ、なんだ。気を強く持って──」

 

 案内役のアマゾネスがそう言ってリリルカたちに言葉をかけようとした、その時であった。

 

 轟音。

 

 一瞬ダンジョンが大きく震え、ぽっかりと空いた道の先から一陣の風が流れる。それはリリルカたちやアマゾネスたちの髪を撫で上げ、揺らした。

 

 アマゾネスたちの顔が蒼白に変わる。

 

 「やっば!?ちょ、ポーションもって急ぐよ!!」

 

 「いや、この振動の大きさだとそれで足りるかわからん!エリクサーも持っていくぞっ!」

 

 アマゾネスたちの様子が慌ただしいものになる。

 見張り役を除いた数名のアマゾネスが、ベルとソフィーネがいると思われるダンジョンの奥へと駆けていく。

 

 リリルカたちは互いに戸惑いながらも視線を交わすと、彼女たちと同じようにダンジョンの先へと走った。

 

 その場所に到着するまでに、一分も時間はかからなかった。

 先ほど走り去っていったアマゾネスたちが、何かを囲むようにして声を張り上げている。

 彼女たちの間から見えるのは小さな人型。血と土に汚れた白い髪。

 

 リリルカが、ヴェルフが、アイズが、ティオナが、目を見開く。彼らの呼吸が一瞬止った。

 

 「おい、意識はあるか。ちくしょう、ポーションの使用を急げ!」

 

 「臓器や骨は大丈夫……。大丈夫だけど、それ以外がヤバイ」

 

 「心臓も止まってる!」

 

 ポーションを施され、アマゾネスの一人に抱き上げられた人影。

 それはリリルカたちが会いたかった、彼女たちの小さな英雄、ベル・クラネルであった。

 

 「ベル様っ!?」

 

 衝動的に駆けだしたリリルカが、ベルへの下に走り寄る。

 遠目で見てもボロボロな体。そしてベルの体をより近くで見て。リリルカは言葉を失った。

 

 「あ、ああ……」

 

 人はここまで壊れることができるんだ。

 

 リリルカの頭は真っ白になった。世界から音がなくなったように感じた。

 それが一瞬誰なのかわからなかった。いや、信じたくはなかったのだ。

 

 「……ベル、さま?」

 

 体中が血と土で彩られ、打撃によってうっ血した肌の色は変色し、はれ上がっていた。

 微かに開かれたまぶたからは、光のない瞳が虚空を見つめている。それを見てリリルカの目から涙がこぼれ落ちた。

 

 心が温かくなる笑顔が、あの焦がれた姿が、今の彼の姿からは微塵も感じられない。

 これがあのベル・クラネルなのだと、リリルカは頭ではわかっていても心で受け止めることができなかった。

 

 酷い、酷すぎる。いったい、いったい誰がこんな──

 

 「おい、見ない方が良いって。お仲間さんは下がってなよ」

 

 「よし、これで外傷は……。いや、ダメだこれ!」

 

 「サミラ、エリクサーで見えるケガはほとんど治ったけど、呼吸が戻らない……!」

 

 「またか!ソフィーネ様、責任もって早く何とかしてくれって!」

 

 リリルカは混乱し、どこかアマゾネスたちの会話が遠くに聞こえていた。

 ソフィーネ様、ソフィーネ?その名前に意識がかえってきた時、リリルカは自分の傍に立つアマゾネスに気がつく。

 

 「ほら、ベルさん。いつもの行きますよ、『偽・川神流』

 

 ソフィーネの指がベルの胸、心臓の位置に添えられ、押し込まれる。

 

 「『秘孔突き』

 

 ソフィーネの濁流のような清の気が、指を通してベルの体内に注ぎ込まれた。

 

 さらにソフィーネの『重ね合わせ』により、気の経路を通してソフィーネの気はベルの体を急速に循環。

 ベルの身体を強化することで、強引に体中の細胞を活性化させ、回復を大きく促進させた。

 

 ちなみに、この技は少しでも気の操作を誤ると、体内に込められた気が暴れ狂って爆発。肉体が強い者でなければクリリンのように破裂する。

 

 「がはっ!」

 

 「ベル様!?」

 

 「よし、戻ったぞ!」

 

 ベルの心臓が動き出し、彼の口から空気の塊が勢いよく吐きだされる。

 さらには、あれだけ酷い状態であったベルの体の傷が、瞬く間に消え去っていった。驚くべきはエリクサーの効果の大きさか、ソフィーネの気孔術か。

 

 リリルカが涙ながらに喜びの声を上げ、傍で介抱していたサミラが安堵の息をもらす。

 何度も咳き込みながら目を覚まし、意識を取り戻したベルは、最初は何が起こった解らない様子であった。

 しかしソフィーネの姿を見て状況を再確認し、続いてリリルカたちを見つけて目を丸くする。

 

 「リリに……アイズさんも?そうか、僕はまた……」

 

 「そうですね。何度目かは覚えていませんが、またです」

 

 「そう、ですか……」

 

 俯き、汗を額から流しながら歯を噛みしめるベルに、ソフィーネは乱れた髪を整えながら目で問いかける。

 休むか、続けるか、それとも止めるかと。

 

 ベルはすぐに立ち上がる。急に立ち上がったためか、体勢が崩れて倒れそうになるも、リリルカに支えられて事なきを得た。

 

 「やります!僕には、時間がないんです!」

 

 「よし、ならもう一度いきましょう」

 

 ソフィーネはベルの答えを聞くや否や、踵を返して仕切り直しをしようと試みる。

 だが、それが叶うことはなかった。彼女を止める者がいたからだ。

 

 「ちょっと、これ、ソフィーネ、どういうことなのかな?」

 

 怒りの声を上げたのはティオナ。

 

 眉を吊り上げ、声を震わせてソフィーネを睨んだ。

 ベルの心配でかかりっきりのリリルカを除いた他の面々も、あまりにも惨いベルの姿を見たからか、強い非難の目でソフィーネを睨んでいた。

 

 「どう、とは……。私なりの修行をしているのですが」

 

 「こんなの、修行じゃない」

 

 ティオナの言葉はやけに空間に響いた。

 ベルの様子を見に来た四人だけではなく、ソフィーネの仲間であるはずのアマゾネスたちからも少なくない抗議の目が向けられている。

 

 「テルスキュラの方がまだマシなぐらいだよ。ソフィーネは、なんでこんなことをしているの?ベルは今、死んでいたよ。ソフィーネは今、ベルを殺したんだよ」

 

 「違います、心臓と呼吸が止まっていただけです。綺麗に相手を壊す、だからこそベルさんはこうして──」

 

 「おかしいって、力づくで説得されなくちゃわからないの?」

 

 ティオナの顔から感情が抜け落ちた。同時に空気がひりつきだす。

 ティオナは静かに激怒していた。これ以上ないぐらいに、目の前の女をぶっ潰してやりたくて仕方がなかった。

 

 対するソフィーネは、無言でティオナの怒気を受け止めていた。

 こうなることを覚悟していたのだろう。だが、ソフィーネにも理由がある。

 

 「どうか、落ち着いて聞いてください。たった数日程度、【普通】の鍛錬で人間が強くなれるわけがないでしょう」

 

 ソフィーネは目を細め、ティオナやリリルカたちに語りかける。

 

 「たった数日でなんの技を教えればいいんですか。たった数日でなんの技を覚えられるというのですか。そんな付け焼刃で戦えるほど、人間は器用ではないし万能ではない。そして、レベルという壁は甘くはないじゃないですか」

 

 いきなりエロい絵を描きたいって言ったって、一週間で自分ですらぬける絵を描き上げることは難しいだろう。

 

 あんなに絵の描き方講座が、無料・有料問わずにネットに溢れているというのに、コツを掴んだだけでは自分が納得する絵は描けない。

むしろ、そのコツを自分が生かせるように、血肉に染みこませるためより多くの時間が必要になってくる。

 

 戦いとて同じようなもの。

 

 時間と経験と修練の積み重ねが、戦いの結果に大きく影響を与える。

 つけ焼刃で勝てる相手は二流三流、今回のベルの相手はレベル3でほぼ一流だ。

 何かを学んだつもりにさせれば、それは逆にベルの足を引っ張りかねないとソフィーネは考えていた。

 

 では、彼女ができることは何か。

 

 「だから、こうして実戦を通して体に覚えさせます。頭で理解するものは忘れますが、体に刻んだ記憶は忘れない。たった一回の拳が、熟練の戦士の心を戦えないほどに砕くように。たった一回の拳が、自分の体を壊す流れをベルは心と体で学ぶことができる」

 

 命の危機に叩きこめ。

 極限の中で言い訳ができないぐらいに、自分の限界を命のやり取りの中で確認し、その中でできることを磨き上げろ。

 

 恐怖というセンサーを高めろ。戦い、死という経験を一生分体に染みこませろ。

 たとえ頭が追いつかなくても、たとえ心が諦めても、たとえ気絶しても、体に刻み込まれた戦いの歴史は裏切らない。

 

 真なる達人は意識を失っても戦い続けることができる。

 自分に対処できないと感じた攻撃が来ても、本能から自然と攻撃を躱し受け流すことができる。

 磨き上げられた危機察知能力は予言と等しいものに変わり、敗北の致命的一撃から身を守ることができる。

 

 技術は不要。技も不要。体力や力の向上も不要。

 ソフィーネが唯一、この短い時間で伝えられることは戦いのセンス、そして自分の戦いの歴史である。

 血に濡れたテルスキュラで生き抜いた自分が戦ってきた多くの強者たちの命が、この鍛錬の中でベルの前に立ちふさがり、彼を打ちのめす。

 

 今のベルは私ではなく、テルスキュラの名もなき数多の戦士達と戦い合っているのだ。

 

 「ティオナパイセン、いや、ティオナさん。あなたとアイズさんだって何か特別な戦い方や技を教えたわけではないのでしょう?私も形は違えど、同じです」

 

 「ここまで無茶苦茶だと、あの子の体と心がもたないよ。体に教え込むのであれば、それは最低限の攻撃と言葉での注意だけで足りるじゃない。どうしてあそこまで痛みを与えるの?」

 

 「痛くなければ心は覚えない、体は覚えない。心の傷はその身を守り、導く戦いの中での重要なセンサーになる。それは命の危機の中でしか磨かれません」

 

 「テルスキュラではそうかもしれない。でも、ここはオラリオだよ。そんなにしなくても、学ぶことはできる」

 

 「学べるかもしれない。しかし、私はそれをこういうやり方の中でしか知りません。そしてそれが最も確実であると知っているのです」

 

 ティオナとアイズの方が正しいのかもしれない。私は間違っているのかもしれない。

 実は、私が人に自信をもって教えられるのはエロマンガに関することぐらいだからだ。

 

 エロマンガは前世の先達の方々のお力に依るところが大きい。

 私はエロマンガの描写、展開、魅せるシーンやコマ割りの良さを、素晴らしいエロマンガに触れることによって自然と磨いていくことができた。これも学びの一つだったのだろう。

 

 しかし、戦いはこの世界の中で、たった一人で学んできたものだ。

 

 ティオナやアイズとは違って、誰か私に戦いを教えてくれる人はいなかった。

 私が期待されていなかったからだ。だからずっと一人で実戦の中で学んできた。

 

 ティオナやアイズは、ロキ・ファミリアの中でフィンやリヴェリアといった素晴らしい先駆者からより正しい教えを受けてきたのだろう。

 

 この人間は今この段階にいるから、ここまで教えてあげればいい。ここまでやれたら上出来だ。こうやって学び、能力を高めていけばいい。

 彼女達はそれを教えられているからこそ、それは一つの価値観と物差しになり、誰かにも教え伝え行くことができるのだろう。

 

 羨ましいな、と思う。

 妬んでいるわけではない。純粋に、羨ましいのだ。人を導ける能力があるなんて、素敵なことじゃないか。

 

 私は一人でここに来て、一人で戦っている。

 教えられたこともないから、教え方もよくわからない。どこまでやったらいいのかもわからない。

 おかしいと言われても、こうしなければいけない状況があると知っているから、その教え方を止める気にはならない。

 

 守りたいエロがあるのであれば、この世界は自分が強くなって守るしかない。

 国も他の人間にも、ましてや神にも期待してはいけない。この世界には祈るべき神がいないのだ。

だからこそ自己防衛、自分の力をこれでもかってぐらいに磨かないといけないのだ。

 

 私も退かず、ティオナも退かない。

 一触即発の空気の中、流れを変えたのは他ならぬ当人のベルであった。

 

 「これは、僕が望んだことです」

 

 震える足で立ち上がったベル。

 

 ティオナたちが、サミラたちが驚き、ベルへと視線を動かす。

 ベルは必死に支えようとするリリルカを優しく押し返し、ふらつきながらもソフィーネの下へと歩み寄っていく。

 

 最初は不確かな足取りであったが、一歩進むごとにそれはしっかりと地に足をつけたものに変わっていく。

 

 「全部聞いていました。どんなに危ないか、どんなに大変なことか、ソフィーネさんは最初に僕に教えてくれました。それを受け入れたのは、それを望んだのは僕です」

 

 強い目だった。彼の綺麗な瞳は、まっすぐに私へと向けられていた。彼の視線には私以外の何者も映ってはいなかったのである。

 

 「僕は、強くならなくてはいけない。強くならなければダメなんだ、守るものも守れない」

 

 震える足に拳を叩きつけ、強引に震えを抑えつける。

 強い光を宿した瞳、『ケツイ』を新たに、ベルはティオナやアイズの横を通り過ぎ、私の下へ進み出ていく。

 

 「どうしても追いつきたい人に、どうしても守りたい人に、手が届くように……。僕は、僕は……っ!!」

 

 ああ、と感嘆の吐息が私の口からこぼれ出る。

 

 私という壁に抗い、立ち向かおうとする英雄の卵。

 自分の限界を知りつつも絶望せずに抗い続け、苦痛と恐怖を知りながらも自分を信じて立ち上がる。言うは易く行うは難し。

 

 この命の輝きがエロに、ハーレムに向かっているなんて。

 私は彼の輝く道の先にあるエロを愛している、慈しんでいる、尊んでいる、絶やしたくはない。

 

 素晴らしい、実に実に素晴らしい!

 

 彼のハーレムに向かう姿勢にはガッシュベルの優しい王様のように、優しいエロに繋がる何かがある!全てが光り輝いている!これほどの祝福が天下にあろうか!

 

 私はまだ見誤っていた、本音を言えば私のやり方に迷うところも確かにあった。だが、それは確かに彼の決意を侮っていたことに他ならないのだ。

 許してほしい、私も間違う。しかし間違いを認めて変われるからこそ人は人足り得るのだ。

 

 私はもう、躊躇わない。

 

 「ここで諦めるわけにはいかないんだ!」

 

 見てほしい。私以外の他の人たちも皆、彼の輝きに見入っている。

 

 あのリリルカさんのお顔を見なさい。心配をしながらも、頬を赤くして彼を信じようと彼女自身も『ケツイ』を固めたようだ。

 

 『ケツイ』はジョジョのスタンドと同じように呼び水となる。

 ベルはこれからもより多くの女性と関わり合い、輝きと質を魅せてくれるに違いない。

 そこに間違いなく、真善美のエロがあるのだ。

 

 他の人たちとベルが言葉を交わしているが、私はある決意を固めていた。

 私はベルに問いかけなければならない。私もさらに一歩、彼のためにあの修行を解禁すべきかと。

 

 「それで、僕はまた強くなれますか?」

 

 「才能がなく、ただ努力の天才と言われた凡才の青年は、達人たちに磨かれた天才をうち破った。その一つの契機とされる修行です。間違いなく、これまでとは隔絶したものです。ベルさんはそれでも──」

 

 「やります!」

 

 気分は「払いますとも!」と言われたブラックジャック先生、承太郎の快諾を受けたダービー兄、いや、メスガキに誘われて「わからせてやる」と決意したおじさんそのもの。

 

 「グッド!それが聞きたかった」

 

 本気だ、私は本気でベルと戦う。

 これまでのように、私が戦ったアマゾネスたちの戦いの模倣ではない。正真正銘、私の本気だ。

 

 ベルはこれまで私が殺してきた全てのテルスキュラのアマゾネスたちの猛攻を乗り越え、全て生き延びた。既に私にベルに与えられる彼女たちの戦いのストックはない。

 

 あるのは残り一人、この私の積み重ねた武のみ。

 

 「おい、ソフィーネ様!?まさか、本当にやるのかよ!?今、ここで!?」

 

 私の闘気の高まりを見て、サミラの顔は真っ白になった。

 カリフ姉妹の戦いを見ていたイシュタル・ファミリアの面々には理解できるのだろう。この闘気の高まり、ソフィーネは本気なのだと。

 

 「ああっ!私は本気で戦い、ここで決める!!」

 

 「こいつはレベル2だぞ!?レベル6のソフィーネ様が本気でやったら、骨のひとつも残らないだろうが!?」

 

 サミラはベルの真剣さを受け止め、彼を一人の戦士として認めている。

 認めているからこそ、私の暴挙ともいえる言葉に耐えられなかったのだろう。

 

 レベル6、その言葉を聞いたリリルカやヴェルフが驚愕。

 そしてアイズとティオナは「流石にこれはマズい」と前に出ようとするが、私は右手を前にして彼女たちを手で制した。

 サミラたちの反応は間違っていない。そのまま本気で戦えば私はベルを殺してしまうかもしれない。

 

 だが、そうならない方法がある。

 

 「古来より、武術家は如何に子孫に技を伝え、どう鍛えるのか苦悩してきた。父・母という情が弟子の育成を妨げる。だからこそ、時に顔を隠して自分を偽って弟子と戦ったり、時に実戦の中で見守りながら鍛え上げた。これもその修行法の一つ……っ!」

 

 目を閉じる、呼吸を乱す、気の経路を滅茶苦茶にする。

 筋肉の質を落とし、感覚の機能を鈍らせ、自分の体のありとあらゆる能力を強引に低下。

 

 自分にバフができるのであれば、ナーフの仕方だってわかっている。

 戦いにおいては自殺行為、馬鹿げた行為だが、この場においてはこれ以上ないぐらいに最高のコンディションだ。

 

 「これは……っ!」

 

 唯一、アイズだけは私の意図を完全に理解したようだ。

 信じられないといった様子だ。こんなふざけた方法をどうしてと思うのだろうが、私だってふざけた方法だと思っている。

 

 しかし、これであれば私はベルに自信をもって本気で戦うことができる。アイズやティオナと同じように、戦い方をベルに伝えることができる。

 

 自分の力を強引に抑え込むことで、組手の相手の適性にまで実力を落とし込む。

 それはまるでノロマな亀がさらに弱ったような有様。しかし今のベルにとってはそれでもなお、十分な脅威足りうる。

 

 この状態で本気で戦うことによって実戦を学ばせ、また情を通わせずに弟子を鍛え上げられる。無敵超人と呼ばれた男の指導法。

 

 『偽・0.0002%組手』

 

 自分の力をギリギリまで落とし込み、本気で戦う。

 流石に名前通りまでパーセンテージを落としたら問題があるために、パーセンテージは名前よりも高めではあるものの。

 この状態であれば安全に、ベルにとって現状最大の壁となれるだろう。

 

 「ベルさん、覚悟はよろしいですか?私は、あなたの力を信じています」

 

 「はい、僕も、僕の力を信じます!」

 

 さぁ、踏み台として私を乗り越えていけっ!

 

 超えていかれる快感に酔いしれ、気分が高揚する。

 これが踏み台転生者の醍醐味みたいなものなのだろうか。なるほど、理解した。

 

 自分が好きな存在が、自分を契機としてより強く、壁を越えていってくれる。気分が高まり、興奮してきた。

 これも推しが大好きな、ある意味での「んほぉ」の形なのかもしれない。

 

 なるほど。私は今、ベルさんを「推し」ているし、「すこ」っているし、「んほぉ」っているのだ。

 推している時のファンの心と活力は無限大、だからこそ今の私もエロのパワーに満ち溢れているのだろう。最高の気分だ。

 

 ベルよ、私を倒してくれ。よきエロのために、ハーレムのために私を踏んで先に進んでくれ。そのためであれば、敗北の痛みなど喜んで受け入れる。

 

 だってその先にハーレムがあるんだぜ?エロがあるんだぜ?敗北の痛みなんてすぐに忘れられるさ。だって想像するだけでエロいんだもの、興奮してくるよ。

 

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 私は雄たけびを上げ、全力でベルに襲い掛かる。

 

 これまでとは全く違う様子にベルは戸惑いを見せる。

 私が本気で殺す気でかかっているのが分かったからだ。

 これまでとは違って、強い私はここにいない。今の私は弱い。私の動きは鈍い。だけど私の一撃一撃は先ほどよりもずっと鋭い。

 

 生半可な防御をしたベルを防御ごと打ち抜いた。

 あえて隙を見せ、それを好機として飛び込んできたベルの腹を打ち据えた。

 迷ったベルの剣を手の甲で逸らし、そのまま腕を掴み上げて地面に叩きつけた。

 全て。今の抑え込んだ私が出せる全力の戦い方だった。

 

 「『偽・陸奥圓明流』」

 

 甘い動きは刈り取る。

 油断した気持ちを思い知らせる。

 一瞬の気の緩みが、そのまま後悔するような重い技に繋がっていく。

 虚実が入り混じった動きに、ベルはまだ追いつけていない。

 

 攻撃をかいくぐり、懐へと潜り込んだ私にベルは目を見開く。

 そうだ、離れるのではなく接近することで死中に活を見出すのだ。

 モンハンだって攻撃される際には、離れるよりも接近した方が良いこともある。接近することで相手の間合いを外すのだ。

 

 掌打をベルの顔面に向けて一撃。腰、足に気を張り巡らせ、大地を支えにした一発の重さは素手とは思えない威力となる。

 

 「『巌颪』

 

 ベルの顔を掴み上げ、地面に叩きつける。

 さらにくるりと体を捩じらせて回転のエネルギーを集約、威力を上げた膝を顔面に落とした。

 

 「ベルっ!?」

 

 「ベル様っ!?」

 

 ベルの仲間たちの悲鳴を耳に、確かな技の決まりを感じ取る。

 決まった。ベルの呼吸が途切れ、目が虚ろになった。

 両手をついてねじらせる様に逆立ちとなり、さらに追撃をしようとした刹那。

 

 ベルの瞳に、強い光が再び灯った。

 

 「があぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 「ッ!!」

 

 勢いよく跳ね上がったベルが私に接近。

 避けるのではなく、逃げるのではなく、間合いを取ろうとすることもなく、あえて私の懐に入って間合いを外す。

 

 とっさに膝を折り曲げて盾に。

 ベルの拳が叩き込まれるが、防御には間に合った。

 

 ──と、魔法の発動の予兆。驚愕。

 

 不味い、彼の使う魔法は速攻魔法。

 無詠唱という、この世界の戦いにおける最高峰の魔法形態。

 

 これまではむやみやたらに発動されていたために見切って躱せていたが、この状況が避けられない決め技になることをベルは理解している。

 こんなここぞというところで魔法を使えるなんて。これまでの戦いから彼は学び、もう実戦に活かし始めているのだ。

 

 「『ファイアボルト』っ!」

 

 「ぐぉっ!?」

 

 いなづまのように走った炎が防御を貫通し、私の体の芯をとらえて燃やす。

 そのまま吹き飛ばされた私に向かって、剣を回収したベルが襲い掛かる。速い。

 

 ベルの動きがどんどんと研ぎ澄まされていく。ベルの攻撃が鋭くなっていく。ベルの一撃が速くなっていく。

 彼は戦いの中で学んでいる、彼は戦いの中で強くなっていく、彼は戦いの中で成長していっている。

 

 いつしか一方的な戦いは拮抗するものとなり、さらに激しさが増していく。

 周囲の誰もがこの光景に見入ってしまい、そしてベルの急激な成長に驚きを隠せない。

 

 今、私たちはお互いを高め合っている。

 

 「──っ!」

 

 歓喜の声を上げたかった。素晴らしいと声をかけてあげたかった。

 

 だが、もう今の私では言葉を話す余裕はない。気炎を上げる瞬間もない。

 それだけベルの戦いは恐ろしいものへと変わってきている。あと一歩、あと一歩で彼は──。

 

 ならば、この技を超えていけ。

 

 回り込んで背後からベルを拘束、ダブルアーム・スープレックスの構えをとる。

 

 「『偽・スピン・ダブルアーム』

 

 大地に両足を突き刺し、踏み割るほどに力を込めて技への軸とする。

 そのまま回転、回転、回転。遠心力がかけにかけられ、ベルの体は浮き上がっていく。

 

 ベルはこれから何が起こるかわからない。

 しかし、これが確実に自分を敗北に至らしめるものであると理解したようだ。

 

 だが、脱出はできない。

 

 ベルの目が見開かれた。

 声を上げるどころか魔法への意識を割くこともできず、受け身も取れず、体に力を込めることもできないからだ。

 

 この技は不破の技にして、魔性の一撃。

 一度発動の体勢に入ってしまえば、抜け出すことも防ぐことも不可能。

 あのキン肉マンですら、耐えることしか対処ができない絶技であり、ベルではこれまでの技のように耐えることも叶わないだろう。

 

 私は、今のベルはこの技を超えられないと確信している。

 しかし、ここまでの成長を短期間で見せてくれた彼ならば、この技を超えてくれるのではないかと期待している。

 

 ああ、きっと今の私は笑っているのだろう。その予感に恋焦がれているのだろう。

 

 ベルを高く上空に放り投げた。

 恩恵が無い冒険者であれば、落ちるだけで十分に死ねるほどの高さだ。

 この状態では、ベルはもうどこか上でどこが下かもわからないだろう。きっと世界がグルグルと回っているに違いない。

 

 「あれは、不味いッ!?」

 

 この場にいるイシュタル・ファミリアの中で、私の戦いを見てきた一番の実力者であるサミラが叫んだ。

 同じように、ティオナが、アイズがベルの死を感じ取る。それだけにこの技は重く、これまでとは絶する技だからだ。恐るべし、悪魔将軍。

 

 「『偽・地獄の九所封じ』

 

 私はベルの下へと飛翔。

 空中で相手の首筋を足で確実にとらえ、さらには足はもちろんのこと、全身を気でこれまでないぐらいに堅め上げた。

 

 今の私はベルを巻き込んだ一つの彫像、一つのアダマンタイトの塊。

 勢いそのままに、私と技を決められたベルは、大地へ向けて凄まじい速さで落ちていく。それはまさに処刑台の一撃。

 

 「『ラストワン』

 

 正真正銘、これが私とベルの鍛錬における最後の大技。

 

 「『地獄の断頭台』」

 

 アイズが、ティオナが、リリルカが、ヴェルフが、サミラが、この技を前に息を呑む。

 必殺技とはかくあるべし。本来の技の完成度で言えば、この技は超人の神でしか破られない代物だ。

 

 ベルは足掻こうとするが、首にしっかりと組み込まれた足と、宙から落ちる加速が抵抗を許さない。

 

 動く手で、かろうじて発せられる声で撃てる速攻魔法で脱出できるかと言えば、気によって全身の硬度が上がり、力が満ち溢れている私の体を跳ね除けるにはどうやっても至らない。

 

 では、キン肉マンのようにベルは耐えられるだろうか。

 全身がボロボロであり、レベル2の今のベルの耐久力では、格上として戦う私の力に耐えられないだろう。

 

 行く末は敗北が待ち受けるのみ。

 だが、ベルの目は光を失っていない。私は笑みを深めた。

 

 見せてくれ、あなたの輝きをっ!!

 

 「『ファイア──』」

 

 ベルは魔法を唱えようと苦しそうに口を開く。

 私は失望を露わにした。

 

 無駄だ。

 

 その程度の魔法では、私の技は破れない。

 今の技の完成した私は、ベルの『ファイアボルト』ぐらいで動じることはない。

 

 仮に彼がこの時のために、この魔法の本当の力を温存していたとしても、これまでの百倍の『ファイアボルト』を放ったとしても、私は止まることはないだろう。

 

 「『ボルト』ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 ベルの放ったファイアボルトは、案の定、私に通じることはなく、私の技はフィニッシュを迎え──。

 

 「っ!?」

 

 私の顔が驚きに染まる。

 

 ベルの放った魔法は私ではなく、ベル自身の体を焼いたのだ。

 最大限まで込められた衝撃と威力は、ベルの体を突き動かし、完全に固定されていたはずの『地獄の断頭台』から体が外れる。

 

 馬鹿なっ!?

 

 いや、確かにこの技にも解決策はある。

 あり得もしないが、強引に神にも等しい力で足をどかせばいい。

 

 あるいは、技をかけられた側の体勢に異常が生じてしまえば、本来の威力を発揮できなくなったりする。

 キン肉マンは、偶然リングのロープに腕が触れたことでこの技から生き延びられたのだから。

 

 ベルの『ファイアボルト』は雷のように速く、そして炎のように威力があった。

 この速さと威力、どちらが欠けてもベルは技から脱出することが出来なかった。

 自分の体を炎が焼く。どれほど苦しいことか、どんな馬鹿だってわかることだろう。しかしベルならできるだろう。だって、彼はずっと『ケツイ』を固めてきたのだから。

 

 ベルの視線と私の視線が交差する。

 

 技の再現のために、体中を気で強引にコーティングした私は、体の柔軟性を完全に失ってしまっている。

 この状態では何をどうやったってベルの後手に回る。そして、それは致命的な隙になる。

 

 「そうか、私は、私は──」

 

 「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 「──負けるのか」

 

 ベルはそのまま体勢を一瞬にして入れ替え、私を抑え込んだままに地面に落ちていく。

 

 ベルを襲うはずであった加速の威力は、そのままに私に返っていった。これに対応できる力が今の段階の私にあるわけもなく、私は動けず逃れられない。

 

 「『ファイアボルト』っ!!」

 

 追撃の雷の如き炎が私を貫き、衝撃でさらにスピードは加速。

 地面まで一瞬。その一瞬で彼はさらに速攻魔法を放つべく口を開く。

 そうだ、躊躇ったらいけない。油断したらいけない。決めるときには決めなくてはいけない。

 

 「『ファイア──』」

 

 それらは全て、私がこの戦いの中でベルにやってきたこと。

 因果応報、その全てがこの時の一瞬のために。

 

 ああ、この場の誰もがあの時、あなたの敗北を見据えていた。仲間も、あなたの恐らくは憧れの人も。

 そして私もそうだったというのに、あなたはそれを乗り越えた。素晴らしい、万歳。

 

 「──ベルさん、あなたの、勝ちです」

 

 笑った私へ、ベルの最後の一撃が放たれた。

 

 「『ボルト』ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

 

 決まるはずであったはずの『地獄の断頭台』の衝撃が、そのまま私の全身を打ち据える。

 さらに落下と同時にベルの魔法が発動。重なった衝撃は恐ろしい一撃へと変わり、私の体中を駆け巡った。

 

 轟音、猛煙、熱気。

 それら全てが空間を駆け巡り、風が私を中心に周囲を荒れ狂う。

 

 アイズたちが息を呑み、イシュタル・ファミリアの団員たちが手を握りしめ、リリルカたちが祈る中。

 

 煙が消えていき、最後にそこに立っていたのは……。

 

 「……ベル、さまぁ」

 

 ヘスティア・ファミリアの団長、ベル・クラネルの姿だった。

 

 ベルは呆然と立っていた。

 どうして立っているのかわからない、どうして意識があるのかわからないといった様子であった。

 恐らく、空中でも半ば無我夢中であったのだろう。

 

 両腕、両足を投げ出すように倒れている私を見て、ようやく勝った実感が湧いてきたのか。

 全身から力が抜け、その場にドスンと座り込んだ。とっくの昔に、彼の体は限界だったのだ。

 

 誰が見ても明確な勝利に、歓声がダンジョンに響き渡る。

 リリルカたちがベルに駆け寄っていき、彼の体を抱きしめる。戦いを見ていたイシュタル・ファミリアの団員たちが皆頬を赤く染め、ベルに熱い眼差しを向けていた。

 

 アイズやティオナもベルへ向かっていく中で、サミラがただ一人、倒れている私の方へと歩み寄っていく。

 

 「……起きないのかよ、ソフィーネ様」

 

 声をかけられ、思わずびくっと身体が揺れ動いてしまう私。ダメだな、私も修行が足りない。

 

 「えーと、いつから気がついていたの?」

 

 「素のあんたは、あれぐらいで気絶するたまじゃないだろ」

 

 「いやぁ、ここで起きたらなんか感動が薄れてしまうっていうか、ね?」

 

 「あんたの気の使い方はおかしいんだって」

 

 呆れるサミラに、私はお返しとばかりににんまりとほほ笑んだ。

 

 「そういうあなただって、ベルさんへ心配して叫んでいたじゃないの。あなたもベルさんの戦いに魅せられたんでしょう?私も同じだって」

 

 サミラは何とも言えない表情だ。

 彼女自身、あの叫びがどういう心から飛び出たものかを測りかねているのかもしれないが。

 

 「もうちょっとだけ、悪者は倒れていよっかなぁ。余韻ってやつは大事だからね」

 

 「はいはい、付き合うよ」

 

 遠くでたくさんの人に笑顔で囲まれ、困っているベルの気配を感じつつ目を閉じる。

 

 「待っているだけの人たちにも何かが起こるかもしれないが、それは努力した人の残り物に過ぎない」、というリンカーンの言葉がある。

 

 ベルは何かが起こるかもしれないとここに来て、そして知ったのだ。この世界では待っているだけでは何も得ることも、守ることもできないと。

 そうして異常な業績を積み上げ、この戦いの中でも格上の私をうち破った。その努力と進化は私からしても想像を超えるものであった。

 

 ベルの努力は彼だけではなく、これからも多くの人たちに影響を与えていくに違いない。そしてその先に、ハーレムや多くの出会い、エロがある。

 

 PLUSULTRA、とまるんじゃねぇぞ。その先のエロに、私もいる。

 いつか100%中の100%の本気の私が、彼と戦える日も近いのかもしれない。

 

 「……ソフィーネ様って、ゲスい顔でも、エロいこと考えている顔でもなく、そんなに純粋に笑うことってできるんだな」

 

 「サミラ、流石にそれは私でも泣けるから止めて」

 

 いや、まずは私も精進しよう。

 私ももっと強くなるし、もっとエロを探求しないとな。

 

 さて、こんな戦いをしたベルの最終的なアビリティは、十二分にレベル3と戦えるものになっていたのだろう。

 ちなみに、この時ベルと戦った時の私の実力はレベル4相当近く、レベル3最上位ランクはある。

 一方、戦争遊戯のアポロン・ファミリアの団長で、最高実力者は普通のレベル3ぐらいであった。

 

 戦争遊戯の結果は、言葉にするまでもない。

 

 ただ一つ言えることもある。

 ベルさん、あの最後の技の連撃って、私だから耐えられているわけで、普通のレベル3が受けたら普通に死ねるからね?

 伸びている瀕死のアポロン・ファミリアの団長を見て、思わず笑ってしまった私は悪くないはずだ。

 

 ほら、そこの戦争遊戯を見ているアマゾネスたち。

 私は悪くないって言ったら悪くないんだから、こっちをそんな目でみるんじゃあない。サミラもため息を吐き出さないでくれ、私は無実だ。

 




文字が2万超えてしまったのは、ダンまちを推してたら楽しくなりすぎました。切りどころもないし、読むの大変でごめんなさい(´・ω・`)

皆さん、誤字の訂正ありがとうございます。
また、感想たくさんありがとうございます。
見ていて面白い感想や考えさせられる感想などがあって、楽しくて嬉しい。考察系は見ててなるほどって思うし、紳士は見てて魂が震えますね。もっと人は変態になっていいはずなんだ

それとティオナの名前間違いしてた件ですが、感想でこうするといいよってコメントがありましたので皆さんにも紹介します。

>ワイもよくティオナとティオネを間違えていたけど、あ"ね"(姉)だからティオ"ネ"って覚えたら間違えなくなりました^^

なるほど、そうですね。語呂合わせは勉強でもあるようなとてもいい考えです。参考になります。
ちなみにもう一方いました。

>AカップがティオN(A)
EカップがてぃおN(E)
って覚えとけば間違えなくなったなぁ

素晴らしいセンスだ(脱帽)。

なんだかんだで戦争遊戯も終了。
長くなってしまうのでいろいろと端折ったところもありましたが、ソフィーネがソフィーネらしい気がしたので個人的には満足。
そして次からついにラストスパートです。のんびり書いていこうかなって。
しかし、まさかあの一発ネタがここまで来るとはなぁ……。

風邪が強く、気温が温かくなってまいりました。どうか皆様もお体に気をつけて、ご自愛ください。


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