アマゾネスとして生まれた私は〇〇になる。   作:だんご

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続きも書いていたのですが、続けてしまったら四万近くなりそうなので、一旦切りました。
最終章のプロローグみたいな感じです


私、全部終わったらまたエロマンガを描くんだ①

 戦争遊戯が無事に終わり、オラリオに平穏が戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……かと思えば、全然そんなことはなかったりする。

 この都市、わかっていたことだが厄ネタが多すぎる。お気楽な神々とか、最近復活しつつある闇派閥とか。

 

 つい最近も、ロキ・ファミリアのダンジョン探索において大規模な戦闘があったそうだ。

 ダンジョン内で闇派閥の強襲が行われ、甚大な被害がロキ・ファミリアに発生した。

 負傷者が多く、ロキ・ファミリアは半壊。彼らはしばらくダンジョンへの遠征も叶わないそうだ。

 

 なお、奇跡的に死者はゼロだったらしい。不幸中の幸いといったところだろう。

 

 「何故、ロキ・ファミリアを手助けするような真似をした?」

 

 「ごめんなさい」

 

 「謝るよりも先に、理由を言え、理由を」

 

 全力で頭を下げる私に、「お前いい加減にしろや」と額に怒りの四つ角が浮かんでいるイシュタル様。

 

 いつも違って、大広間には眷属の私とタンムズ、そして主神のイシュタル様しかいない。

 今回の件は内容が内容だけに、いつものサミラやアイシャといったメンツは参加することが許されなかった。

 

 そうです。闇派閥と繋がりがあるイシュタル・ファミリアがまたやらかしました。

 そして、私もやらかしました。

 

 イシュタル・ファミリアが、ダンジョンに入って怪しいことをやらかしている間に、ロキ・ファミリアがダンジョンにやってきた。

 

 闇派閥の連中はロキ・ファミリアと戦闘開始、イシュタル様も興味深げに煙管片手に観戦を開始。

 フレイヤにぶつける前に試してみるかと、前回私に見せてくれた穢れた精霊をロキ・ファミリアにぶつけるイシュタル様。

 そして「ティオナパイセンに恩返しすっか」とこっそりロキ・ファミリアを手助けしていた私と、なんか私にも襲い掛かってきてしまった穢れた精霊。

 

 結果、私はロキ・ファミリアの連中と組んで闇派閥を撃退。

 ロキ・ファミリアは死人ゼロ。闇派閥とほとんど痛み分け状態となる。

 

 穢れた精霊?

 やつは死んだ、もういない。私はきっと悪くねぇ、なんか私に襲いかかってきた精霊のやつが悪いんだ。

 そして「助けに来てくれたの!?ありがとう!!」って笑ったティオナパイセンの笑顔が、素敵すぎたのが悪い。

 

 「何やら怪しい動きをして途中抜け出したかと思えば、何をやっているんだお前は」

 

 イシュタル様の目はいつもよりも厳しいものであった。

 強い威圧感に、私の額から一筋の汗が流れ落ちていく。

 

 「私がなぜ、あの処女神の眷属の手助けを許したと思う?あれがどうでもいい連中だからだ」

 

 イシュタル様にとって、ヘスティア様は道端に生えている雑草ぐらいの認識である。

 どうでも良すぎて、話題に出しても気にも留めない。だから私が何かしら関わっても、何も気にするところはなかったようだ。

 

 「だが、ロキ・ファミリアは別だ。フレイヤ・ファミリアを倒すために用意させた穢れた精霊、その力を確認するための丁度よい機会でもあった。それを貴様は──」

 

 イシュタル様は言葉も出ないといったご様子である。

 私はもう頭を下げる以外にできることがないので、ただただ床に額をこすりつけている。あ、床が割れた。

 

 「闇派閥の連中など、はっきり言えばどうでもいい。だからお前が闇派閥の謀から、ロキ・ファミリアの団員を何人助けようが気にもしなかった。しかし、穢れた精霊だけは別だ」

 

 私の視界は床しか見えないが、きっとイシュタル様のご尊顔は阿修羅みたいになっているのだろう。

 それでもお美しいのだから、美の女神ってやっぱりすごい。そして威圧感がやばい。怖い。

 

 「穢れた精霊は、フレイヤ・ファミリアへの切り札の一つであった。それをよりにもよってお前が討伐するなど……。切り札同士が潰し合ってどうする」

 

 私にはティオナパイセンへの恩があった。

 

 だから危機に陥り、瀕死になっていたロキ・ファミリアの団員たちを助け、気による治療法を施した。

 最後にはガレスやヒリュテ姉妹と共に、穢れた精霊も滅殺した。

 

 だが、恩があるからという理由だけで、彼らを手助けをしたわけではない。

 ここでロキ・ファミリアの団員が死ねば、ロキ・ファミリアと全面戦争になるんじゃないかと私は恐れていた。

 

 フレイヤ・ファミリアに加え、今この時にロキ・ファミリアと敵対することだけは避けたかった。

 

 いくら隠し種の春姫や、穢れた精霊がいるとはいえ、とてもではないが融通が利くような切り札ではない。

 こんな不安定な状態で、ロキ・ファミリアやフレイヤとも戦いたくはなかった。

 

 もちろん、準備が万全まで至れば、強大なフレイヤやロキのファミリアであっても、勝利の道が見えてくるに違いない。

 しかし、万全の準備が整うまで、あちらがわざわざ待ってくれているとは限らない。

 

 しかも、私たちが着々と準備をする間にも、ロキやフレイヤのファミリアは成長していくのだ。

 冒険者の成長を甘く見てはいけない。アイズやベルの成長なんて化け物じみている。

 

 というか、時代の流れを味方にして台頭してきた勢いある連中と、勢いあるうちに戦うことは避けるべきだと私は思っている。

 

 主人公補正のついた主人公に勝てるだろうか。BGM付きの主人公に勝てるのだろうか。

 TASさんだってムービー中ぐらいしか倒せないのに、勝てるわけがないと思うのは間違っているのだろうか。

 

 「恐れながら、ロキ・ファミリアを試金石とするのは控えられたほうがよろしいかと。あそこは波にのっています。今、彼らと事を構えるようなことをするのは非常にマズい」

 

 「ふん、お前が味方さえしなければ、闇派閥と穢れた精霊によって、団員はほぼ壊滅していただろうに。そう考えると、やつらも確かに波にのっているか。お前という助けが現れたのだからな」

 

 とげのあるイシュタル様の言葉に、顔を上げることもできない。そして、やらかした私が言えるような言葉も見つからない。

 

 正論だ、イシュタル様の言葉はどこまでも正しい。

 

 ただ、それでも私はあの行動が間違っていたとは断言しきれない。

 

 違う、違うのですイシュタル様。

 あの程度で負けるほど、折れるほどロキ・ファミリアは弱くないのです。

 

 あの信念、あの戦い、あの『ケツイ』。

 恐らく私が手助けに入らなくても、彼らは生き残っていた。

 ガレスやティオナたちは確かに追い詰められていたが、最後まで諦めていなかった。

 運命の女神が微笑むとすれば、それは諦めずに現実に負けずに戦い続けた者だけだ。

 

 ああ、イシュタル様の言うように、私が助けに入らなければロキ・ファミリア団員の何名かは死んでいただろう。

 酷い状態、ヴァレッタに殺されそうだった団員を見るに、確かに全員が生きて帰ることは叶わなかっただろう。

 

 しかし、ロキ・ファミリアの戦いには光るものがあった。ラウルをはじめとする団員たちは、各々が限界を超えながら戦っていた。

 ベート、そしてアイズを知る私からすれば、彼らは必ずこのピンチを乗り越え、大きく成長したと確信する次第である。

 

 私は結果として、恩を返すという形で彼らの成長の機会を奪い、彼らの『ケツイ』を妨げ、そして此方への疑念を深めさせた。

 

 イシュタル様は、オラリオに守られ、ギルドに守られた歓楽街に攻め込まれることはないと考えているが、仮に利害打算を超えた頭バカがいるとすればそんなことは関係ない。

 ジャンヌダルクを思い出せ。あいつは頭ゴリラだから当時の戦争のルールを破りまくって勝ちまくったのだ。

 

 ロキや眷属が仲間を殺され、やけになってしまえば、歓楽街という地位と立場の安全性も、絶対的なものではなくなってしまう。

 逆に疑惑・疑念だけが深まれば、理性が働いて滅茶苦茶なことをやらかす可能性は低くなり、頭が冷えて冷静に慎重に動くようになるだろう。

 

 この緊張状態こそが、今一番時間が必要なイシュタル・ファミリアの有利な状況を作り出していくのではないだろうか。

 

 「理由は分かった。しかし、そのお前の根拠となるべきものはなんだ。理屈ばかりで話の証拠となるものがない」

 

 「……勘、あるいは予感としか」

 

 苦しい、あまりにも苦しすぎる言葉だ。

 

 勝負には賭ける瞬間というものがある。運命の女神、天の采配。そう呼ばれるそれらの時勢を誤れば、どんなに有利であっても敗北しうる。

 

 人はどこかで、その世界の流れを感じる力がある。

 

 アカシックレコードとか、根源と繋がるとか、運命を感じるとか、言い方はいろいろあってなんだかわからない。

 だが、マンガを読んでいて「あ、これ死亡フラグだわ」とか「これは勝ったな、風呂入ってくる」という感覚がそれなのだ。

 

 しかし、イシュタル様の本質は神であり、女神である。

 

 神がどうして天運を信じる。神がどうして運命の女神に祈る。

 神こそが世界の理であり、絶対であり、運命なのだ。その世界を操る絶対的上位者が、どうして自分の外で働く理を認め、許容するだろうか。

 

 私のような人間と神が見る視点は違う。この価値観の相違は絶対に埋まらないものである。

 私にとって全ては未知に見えるが、神にとって全ては既知に見えるのが当たり前なのだから。

 

 だが、その認識の違いが、どこかで最悪の間違いを呼び寄せる気がしてならない。

 

 これも勘だ、予感でしかない。

 だが、あのアポロンだってオラリオの外に追放されたではないか。

 

 普通に考えたら、あの状況はアポロン全賭けが正しいに決まっている。

 数名対ファミリア連合とか、結果は火を見るよりも明らかではないか。アポロンだってベルの強奪の成功は、自信というよりも必然であると感じていた。

 

 だが、ベル・クラネルはこの逆境を乗り越えていった。まさに可能性の獣である。流石はハーレムの意思を継ぐものだ。

 私はベルの躍進に驚くことはない。ベルはいつだってまっすぐ前を向き続けていたし、そんな彼の下にはアイズをはじめとした多くのフラグ、流れが味方したのは当たり前のことのように感じる。

 

 英雄とはその時代の流れを逃さない者であり、時代を味方にしたものとは己の予感を信じ間違わなかった者なのだ。

 

 ご都合主義とか批判されるかもしれないが、歴史に名を遺す人間なんてものは、学べば学ぶほどにご都合主義のオンパレードである。みんなのフリー素材、信長公なんてその最たるものではないか。

 

 だが、私の言葉はイシュタル様には届かなかった。

 

 「お前の危惧も、不安もわかった。その上で言わせてもらう、あれは余計なことであったとな。フレイヤを倒した後に邪魔になるのは、お前が助けたロキ・ファミリアだった。遅いか早いかの違いだけであったが、お前は間違いなくその機会を奪った。分かるか」

 

 「分かります」

 

 「謹慎だ。エロはもちろん、他のマンガの活動の創作も禁じる。一人で地下の房にこもってしばらく反省していろ」

 

 「……かしこまりました」

 

 おい、タンムズ。お前今、驚きの声をもらしただろう。なんて失礼な奴なんだ。

 エロを取り上げられて暴走しなかったからって、世界の終りのような空気を出すことはないじゃないか。

 

 ファミリアの主神の意向を完全に無視してしまった以上、流石に反省と罰が必要だ。

 集団に属する責任を持ち、敬愛する主神の立場を示すためであれば、ものすっごく辛いし苦しいし泣きたくなるけど我慢するしかないのである。

 

 「……はぁ、そんな顔をするな。あれだ。エロや創作に関わらない暇つぶし程度の持ち物であれば、謹慎中でも持ち込んで構わん」

 

 よっぽど私が悲惨な顔をしていたのか、イシュタル様からまさかの助け舟。マジか。

 

 「一日時間をくれてやるから、もろもろを準備してから謹慎していろ。タンムズ、お前が取り計らっておきなさい」

 

 「ご厚意、痛み入ります」

 

 「いきなりお前が謹慎に入っては、お前が関わっている事業も混乱する。一日ですべての仕事に区切りをつけるのは多少無茶かもしれんが、それを含めての罰だ」

 

 「はい、かしこまりました」

 

 「いけ」

 

 「はい」

 

 私は静かに頭を下げると、部屋から退出する。

 ずいぶんと温情を頂いてしまったが、それに甘えてはいけないだろう。

 

 「とりあえず、瞑想して気を整えて、気の経路や気の循環を磨いて……。久しぶりにゆっくりした時間が取れるのです。汚名を返上するためにも、努力しなければいけないか」

 

 閉じられた扉を前に気を持ち直すと、方々に仕事の中断を謝るために歩き出す。

 ベルやアイズは異常な成長を遂げた。私もまだまだ負けてしまうわけにはいかない。日々精進、日々エロ道。

 

 「いや、エロはしばらくおあずけ……。なら、今日一日で溜めとかないといけない!」

 

 決意を新たに、ソフィーネはその場から走り去っていた。

 

 気配が遠ざかるのを確認したタンムズは、主神であるイシュタルに向き直る。イシュタルは何を思っているか、深く考え込んでいるようであった。

 

 「よろしいのですか?」

 

 タンムズの問いかけに、イシュタルが端麗な顔を上げる。

 

 「穢れた精霊の実力は確認できた。そして、ソフィーネレベルの冒険者が対応すれば容易に打倒できることもな」

 

 嬉しい誤算もあった。

 ソフィーネの能力は、ロキ・ファミリアのヒリュテ姉妹を超え、さらには古参のガレスをも上回っているとイシュタルは判断した。

 

 「お前も見ただろう、穢れた精霊との戦いを。ソフィーネは穢れた精霊を圧倒し、ロキ・ファミリアの冒険者たちはソフィーネに助けられていただけに過ぎん」

 

 ソフィーネはロキ・ファミリアの実力をやたらと高く見積もっているように見えた。

 自分の力を謙遜しており、あのアマゾネス姉妹やドワーフを評価していたが、イシュタルからすれば勘違いもいいところだ。

 

 「ソフィーネのやつめ……。生まれの問題や不遇の期間が長かったのが原因かもしれぬが、あいつには強者としての自信が足りない。あいつは私のファミリアの最強であり、オッタルからオラリオ最強の看板を奪う戦士だ。なのに何を躊躇い、何を迷う」

 

 イシュタルは苦々し気に自分の爪を噛みしめる。

 

 「ソフィーネはもっと傲慢になるべきだ。もっと強者たる振る舞いをするべきだ。他の誰にもぺこぺこと頭を下げる必要もない。気にかける必要もない。あいつが唯一、フリュネと比べて足りないところは、そこだけだというのに」

 

 既にイシュタルには、輝かしい未来が見えていた。

 自分のファミリアがオラリオで頂点のファミリアとなり、最高の美の神であるイシュタルと並び立つのは、オラリオ最強の戦士であるソフィーネ。

 

 誰もがイシュタルを美とオラリオの頂点と認め、認められない有象無象もソフィーネの力を恐れて屈する。

 そんな輝かしい未来にイシュタルは焦がれている。しかし、そんなソフィーネの唯一の欠点があの小物感と自信のなさだ。

 

 イシュタルがソフィーネの暴走に対して、他者から見ても異常な寛容性があったのはそこにある。

 

 強者とは得てして他者を顧みないものだ。

 

 強者として偉業を成し遂げ、他者を踏みにじり、己の欲望を貫き通す。

 傲慢と強者であるが故の威風が、人を惹きつけて虜にする。そしてそれが強者としての格を示すことにも繋がるというもの。

 

 メソポタミアの神話において、本来のイシュタルが強者で唯我独尊なギルガメッシュに惚れた話があるが、人間もオラオラ系とかDV男に惚れたりするので似たようなものだ。強者や支配する者に惹かれるのは人も神も変わりがない。

 

 この世界においては、イシュタルはギルガメッシュと同じようにソフィーネの力に惚れ込んでいる。

 イシュタルを主神とさえ認めていれば、イシュタルへ対してもソフィーネが必要以上にペコペコしなくても構わないと思えるほどに。

 

 イシュタルという女神は、あの問題児であるフリュネでさえ団長として認めており、その行動を咎めることも滅多になかった。

 力があり、ちゃんと自分の命令に従って、その力を発揮してさえくれれば、傲岸不遜であっても強者の振る舞いとしてイシュタルは許容するからだ。

 

 自分にさえ従えば、無理に魅了を使って身の振る舞いを正すようなことはしない。

 何かを使って脅す必要もない。痛めつけることもしない。それだけの度量をイシュタルという女神は持っていた。

 

 しかし、そうであるからこそイシュタルは解せない。

 

 ソフィーネの特殊な趣向は、性愛を司る神である自分からすれば問題はない。生物として当たり前のもので、好ましくもある。

 

 だが美の神に並び立ち、支える強者としての在り方には不安が残る。威が足りない。

 ソフィーネは一見すれば他者を顧みないバカだが、本当にそうであれば、ソフィーネに敵対的で挑発的なフリュネはとうの昔に殺されている。

 

 むしろ、ソフィーネがたまにフリュネを心配する様子を見ていると、頭が痛くなりそうだ。

 だからフリュネも調子にのって、人前でソフィーネへ下らぬ戯言を言えているのである。

 ソフィーネにもそんなフリュネの振る舞いを許すんじゃないと思うが、あの人間性では言っても変わらないだろう。

 

 カーリーと戯れに話した際に知ったことは、ソフィーネはあのテルスキュラでも初めからあんな残念な性格だったそうだ。

 

 ある程度の屍を積み重ねれば、カリフ姉妹のような強者たる振る舞いになるのが普通。

 しかしソフィーネの小物感は一切変わることはなく、強者故の傲慢になることもなく、趣向も相まって変わり者扱いだったらしい。

 

 「……いったいどこから、あんな精神性を引きずってきたのか。仮に前世で奴隷であっても、もう少しはマシなものになるだろうに」

 

 まさかソフィーネの前世が、イシュタルの知る奴隷よりも酷いような、替えが利く社会の歯車の社畜であったとは神であっても知る由もないだろう。

 

 満員電車で通勤とか、ちょっと見方を変えると毎日奴隷船に乗っているようなものだ。

 しかも奴隷のように引きずられて入れられるわけではなく、自分から乗り込むように躾けられている。これぞ現代の闇だ。

 

 「まぁ、いい。ロキ・ファミリアの底は見えた。ソフィーネの実力も把握できた。ソフィーネのアビリティも、穢れた精霊を撃破したことでさらに上昇を見せた。穢れた精霊はまた用意すればいい。闇派閥の連中との関係は悪化したが、もとより金によって繋がった利用し合うだけの関係だ。むしろ、ソフィーネの強さを見せつけたことで交渉におけるアドバンテージをとれる」

 

 悪いことだけではない、ソフィーネがいれば全て取り戻せる。いや、それ以上だ。

 価値があるのはどちらかと言えば、あんなロキ・ファミリア程度をやすやすと仕留められない穢れた精霊よりも、レベル7に成りうるソフィーネの方が重要だ。

 

 ふと、ソフィーネがこのファミリアに入らなかったら……。

 そんな在りえなかった未来を想像し、くだらんと一笑の下に切り捨てる。

 

 「タンムズ、春姫の、儀式の方はどうなっている?」

 

 「全て滞りはなく」

 

 「そうか」

 

 全てが滞りなく進んでいる。

 若干の予想外のイベントも起きたが、結果からすれば悪くはないものになった。

 

 残る懸念は一つ。

 

 「ベル・クラネルか……」

 

 先日、顔を合わせた少年。

 レナやアイシャに連れ込まれ、偶然出会った処女神の眷属。

 そしてヘルメスから聞き出した、あのフレイヤがご執心の冒険者であり、フレイヤの弱みだ。

 

 イシュタルの眷属に囲まれ、顔を赤くして萎縮している姿からは、ただの小便臭いガキにしか見えない。

 あんな小僧に入れ込んでいるなど、フレイヤの気が知れない。そう思っていた。

 

 だが、ソフィーネが目をかけて鍛錬を施したとなれば、話は恐ろしいほどに変わる。

 

 ソフィーネはベルに大きな期待を寄せており、その実力や成長も評価していた。

 最初はフレイヤを煩わせるような、ただの嫌がらせぐらいにしか思っていなかった。

 しかし、あのソフィーネが入れ込んでおり、あそこまで褒めちぎっているのだとすれば、他の場面でも十二分に利用価値はある。

 

 「ふん、ソフィーネも弟子ができれば少しは変わるかもしれんな」

 

 聞けばソフィーネはずっと孤独であったために、力や威厳を示す必要はなかったとも考えられる。

 

 ベル・クラネルの指導者であり、その関係がファミリア内に生まれれば、ソフィーネに何らかの変化も起こるだろう。

 王になれば王らしくなるように、立場が変われば人もまた変わるもの。弟子が出来て師となれば、上に立つ者としての心構えも生まれるだろう。

 

 「レベル3、か。ソフィーネの指導によりさらに化けると考えれば、あれの利用価値は寝取るだけに留まらないか」

 

 フレイヤへの嫌がらせにもなり、ソフィーネの心の成長を促し、ファミリアとしての力も蓄えられる。

 そして──ソフィーネが気にかけた初めての雄でもある。

 

 神としての見解から、イシュタルが決断するのは早かった。

 

 「タンムズ」

 

 「はい」

 

 「アイシャとフリュネたちを呼べ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「え、ベルさんが歓楽街に来ていた?」

 

 無事に一日かけて仕事と謹慎の準備を一段落させ、地下に入ろうとしていた私。

 たまたまレナと出会って話がはずんでしまったのだが、どうにもおかしな話題になってしまった。

 

 レナは戸惑う私を見て、しっかりと頷いた。

 

 「うん、ソフィーネがいない間に、アイシャがファミリアに連れ込んで来たよ。逃げられちゃったけどね」

 

 「歓楽街の外に遠征して、そのままひっぱりこんだってわけじゃないよね?」

 

 うちは高級娼館とか銘打っているが、イシュタル・ファミリアの団員であるアマゾネスたちにそんな心構えはない。

 

 いい男がいれば強引にだって連れ込んで、ズッコンバッコンするのがアマゾネスの流儀。

 だから団員のアマゾネスが歓楽街をうろついて、目ぼしい男を連れ込んでくるなんて話は、少しも珍しくもないわけだが……。

 

 話の内容が内容だ。ベルがこんなところに来るなど、私は自分の耳を信じられない。

 

 「いや、歓楽街にお仲間と一緒に来ていたみたい。ご丁寧に、高級品の精力剤も持っていたらしいよ」

 

 「あのベルさんが?人は変わるものだけど、こんな短期間でそこまで肉食系になるだなんて信じられないかな。誰かにはめられたって方が、まだ納得できるんだけど」

 

 「アイシャたちは、ベルのベルを股間にハメそこなったけどね!」

 

 「うっせぇわ」

 

 なんで歓楽街なんてところにやって来たのだろうか。

 ベルの主神は、こんなところに来ることを認めるようなタイプではない。

 仮に迷い込むにしたって、お仲間のヴェルフとリリルカが一緒なら、この街に詳しいはずの二人は必ず止めるだろうに。

 

 「うぅむ……?」

 

 では何のために。

 依頼、もしくは誰かを探しに来たのだろうか。

 

 「……やぁな、予感がする」

 

 金田一とコナン、二人と一緒に宿泊施設に泊まったような、そんな嫌な予感。

 

 ベルはイベントメーカー、フラグ製造機であるが、言い換えればトラブルメーカーということだ。

 イベントの舞台がこの歓楽街になるとすれば、非情に面倒くさいことになるかもしれない。

 

 ベルはこれまで、嵐を呼ぶ幼稚園児なみにイベントをこなしているから、私はなおのこと不安だ。

 こっちに来てからほんの数か月であれだぞ。その流れがここに来て収まったと考えられるほど、私はお気楽にはなれない。

 

 ちなみに、金田一とコナンがクロスオーバーしたゲームでは、死者が14人だったらしい。

 小学生一クラス分が死んでいる。ちょっとした災害だ。あいつらマジ死神である。

 

 ベルがこんな死神たちと同じだとは言わないが、それでも不安は不安だ。

 

 「不安だなぁ……」

 

 「ん?あ、そういえばフリュネがあのソフィーネの教え子ってことで、すごい目をつけていたよ。不安っていうのはそのこと?」

 

 フリュネぇ……。

 

 思わずゲッソリとしてしまった。相も変わらず趣味が悪いやつだ。

 あいつは二つ名が【男殺し】になってしまうぐらいに、男への執着や扱いが酷い。テルスキュラばりに男を壊している。

 あいつとセックスする男たちには同情を禁じえない。きっとこの世の地獄だろう。

 

 きっと私がベルに関わったことを知って、実力では勝てない私への当てつけ代わりに、ベルをなんやかんやするつもりだったに違いない。

 

「なんでもかんでも手を貸すのは違いますよ。無事逃げられたのでしょう?ならわざわざ過保護になって、フリュネに忠告する必要はありませんよ」

 

 経営者の二代目三代目がボンボンでクソというのはよくある話だが、苦労してきた親が苦労させないようにと、子供に障害を経験させなかったことが原因というケースもある。

 

 困難は人格を高め、人生を生き抜く経験を積む上で必要になることも多い。

 私がお気に入りだからとあれこれ気をやってしまっては、成長の機会を奪われてきたベルは、いつか私の手が届かないところで死んでしまうだろう。

 

 レナは私の顔をじっと見つめている。

 その眼差しはなんというか、何かを試しているように思えた。私は思わず眉をしかめる。

 

 「レナ、あなた、ひょっとして私に何か本当に聞きたいことがあったりする?」

 

 「……そうだねぇ」

 

 レナは視線を上に、下に。そして。

 

 「じゃあこれは知っている?あのイシュタル様がね、命令を──」

 

 イシュタル様と聞いて耳を澄ませる、その時であった。

 

 「あ、ソフィーネ様だ!」

 

 「また謹慎?こんどはどれぐらいよ?」

 

 「全く話が聞こえてこないのですが、何かやらかされたのですか?」

 

 レナの背後から、団員のアマゾネス達が現れた。

 各々が様々な表情で私を取り囲んでいく。

 

 そのままいろいろと話しかけられるが、流石は女性。めっちゃくちゃ姦しい。聞き取れない。

 私は飛鳥文化アタックしない方の聖徳太子じゃないんだぞ。

 

 「ほらぁ、ソフィーネのことが大好きな連中が嘆いていたよ?自分が作ったマンガを見てもらったり、論評をしてもらえなくなるって。謹慎中に面会もできないんでしょう?よっぽどイシュタル様を怒らせたのね」

 

 「そうなんだよ、おかげでエロ関係も没収されてさ。しばらくは罰としてエロにも触れちゃだめだって」

 

 アマゾネスたちがざわりとして、沈黙。

 それぞれが目で会話しているその内容が、猛獣注意のそれと同じのように思えたことは、果たして気のせいなのだろうか。

 

 「いや、そんなドラゴンを飢えさせるような、ラージャンに閃光玉投げつけるような扱いしなくてもよくない?」

 

 私の言葉にアマゾネスたちは首を横に振った。

 

 「いや、あのソフィーネ様からエロを取り上げるとか、ファミリアの損害がやばそうだなぁと」

 

 「暴走状態突入?」

 

 「ここ、更地にならない?」

 

 「本拠地は壊滅でも、せめて歓楽街だけは残ってほしいね」

 

 「おい、待て。私はどこぞの怪獣王じゃないんだけど?」

 

 お前らの中で私はどうなっているんだ。

 最近は精神的にも成長できたのか、それなりにエロへの我慢も覚えることができた。前だったらすぐに街に飛び出していたのに、この前だって我慢して仕事できていたじゃないか。なんて酷い言いぐさだ。

 

 そう言ったら、「イシュタル様の躾けが実を結んだのか」と、全員が驚いていた。私は犬かよ。

 いやまぁ、彼女たちの言っている通り、イシュタル様のおかげなのは確かだ。間違ってはないから、なんか複雑である。

 

 「まぁ、そんなわけで今日はいろいろと忙しかったんだ。謹慎中、私がいない間にいろいろと業務が回るようにしないといけないからさ……」

 

 「連載はどうするの?」

 

 「幸い、貯めておいた原稿があるので今月分は問題ないよ。大変なのは、雑誌などの企画ものとスポンサーへの対応かな」

 

 こち亀を見習って、もしものための原稿貯金があった。

 以前も謹慎のために外に出られなかったことがあったので、有事に備えて掲載分以上の原稿を用意していたからだ。

 

 そもそも有事を起こすな、というご指摘には反省する次第である。ごめん。

 

 「特集の企画・精査に関しては、まぁしばらくやっていたので。もうそんなに深く関わらなくても大丈夫でしょう。スポンサーへの対応も、むしろこれまでの労働量からして体調不良を装えば納得されるはず」

 

 「なんか、ソフィーネ様って謹慎慣れしてるよね!」

 

 「いい顔して言いましたね、あなた」

 

 私の頬が引き攣るが、アマゾネスたちはよく言ったと笑っていた。

 

 昔ほど周囲に畏れられなくなったのは気持ち的に楽だが、親しくなったアマゾネスたちからは最近こんな扱いである。珍獣扱いには変わりがないようだ。

 

 「そういえばソフィーネ様って知ってる?ほら、【未完の少年】の話」

 

 「ベル・クラネルさんのことでしょう?さっきレナから聞きましたよ」

 

 「え、ほんと!?じゃあ、本当にいいんだ」

 

 アマゾネスたちの顔が驚きに染まり、そしてレナの顔が険しくなる。

 これって、私の知らないところで何か大変なことが起こっているとかそんな話だろうか。それもベルに関することで。

 

 まぁ、ベルのことだから何があってもおかしくはない。

 今度はどこともめ事を起こしたのだろうか。オラリオのファミリア、例えばロキ・ファミリアか。あるいは外のアレスのところだろうか。

 

 「そういえば、さっきレナが何か言いかけていたけど、いったい何を……」

 

 私は言葉を投げかけようと口を開く。

 だが、急にファミリアの屋敷の中が騒がしくなった。とっさに耳と感覚に集中する。

 

 いくつもの足音が、慌てたようにファミリア内を走り回っている。

 外敵か、まさかフレイヤのファミリアか。いや、それにしては戦闘の音や気配を感じ取れない。いったい、ここで何が起こっている。

 

 妙な雰囲気へ変わった私に、疑問に思った一人のアマゾネスが声を掛けた。

 

 「あれ?ソフィーネ様、どうしたの?」

 

 「いや、ここが騒がしくなってる。何かあったのかなってさ」

 

 「本当に?何も聞こえないけれど……」

 

 その時、奥の廊下からサミラが顔色を変えて走ってくるのが見えた。

 

 サミラは私たちの一団を発見し、声をかけようとして立ち止まる。その視線の先には私の姿があった。そして彼女の目は、どうしてか失敗を悟ったように見えた。

 

 私の周囲のアマゾネス達はそんなサミラの様子に気がつくことなく、普通に声を上げて手を振っている。

 

 「あ、サミラじゃん」

 

 「おーい、サミラ。ちょうどいいところに来てくれたな。ソフィーネ様が何か起こったんじゃないかって言っているけど、本当に何かあったの?」

 

 「い、いや、その──」

 

 何故か私を見ながら言葉を詰まらせるサミラ。

 きょとんとするアマゾネス達に、目を細める私。あちゃーといった様子のレナ。

 

 そしてサミラの後方から現れたアマゾネスが、サミラを見つけて慌てた様子でサミラに声を投げかける。

 

 「おい、サミラ!ベル・クラネルは見つかったかっ!?くそ、あのヒキガエルめ。よりにもよって、こんな時にさらってきたベル・クラネルを横からかっさらうだなんてっ!!」

 

 私は目を見開いた。

 

 おい、こら、待て。こいつ、今なんて言った。誰を、どうしたって?

 頭がくらくらしてきた。言葉自体は確かに耳にしており、一言一句逃さずに聞き取ったというのに、内容がいまいち理解できない。こんな体験は初めてだ。

 

 「このバカっ!?よりにもよってソフィーネ様の前でっ!!」

 

 「え?あ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 

 サミラが顔から滝のように汗を流し、怒鳴られたアマゾネスが私を遅れて見つけて悲鳴を上げる。ムンクばりの悲鳴と顔をしていたが、そんなことは今ではどうでもいい。

 

 何故か私の周囲を囲んでいたアマゾネスたちが、すごい勢いで私から遠ざかる。

 レナは口を尖らせて天井を見つめ、先ほど叫んだアマゾネスは床にへなへなと座り込み、サミラは歯をガチガチと震わせて苦悶の表情を浮かべている。

 

 まぁ、これは、あれだ。聞く相手は決まっている。

 

 「サミラ、ちょーーーーーーっとお話をしませんか。お急ぎのところ申し訳ございませんけど、ね?」

 

 何故か身内であるのに丁寧口調になってしまった私。余計に震えあがる周囲のアマゾネス達。

 私はどこか諦めたような顔になったサミラに一瞬で詰め寄ると、静かに彼女の腕を掴み、握りこんだ。

 

 サミラは笑っていた。勿論私も笑っていた。笑顔があふれるいい職場だな、イシュタル・ファミリアは。

 

 さ、話し合おうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは少し前の出来事である。

 

 「未完の少年を攫ってこい」

 

 イシュタルの王座、その両脇に並んだアマゾネスたちは、イシュタルの言葉に驚きを隠せないようであった。

 

 特にサミラをはじめとする一部のアマゾネスたちは、戸惑うように共に顔を見合わせている。

 一方、アイシャはどこか諦めたように静かに目を閉じており、フリュネは何か悪いことを考えているのか顔を歪めて笑っていた。

 

 各々の反応を見せる眷属に、イシュタルはさらに笑みを深める。

 

 「あのベル・クラネルにフレイヤはご執心らしい。なのに何故か手を出さないままだ。それを搔っ攫おうというわけさ」

 

 イシュタルは手に持った煙管を口に含み、吸った煙をゆっくりと吐き出す。その姿は艶々しく、なんとも官能的で蠱惑的なものであった。

 

 「ガキが私の虜になったと知ったら、あの女どんな顔をするだろうねぇ?」

 

 毒々しい表情を見せるイシュタルに、団員のアマゾネスたちが「恐ろしやイシュタル様」とくすくす笑う中、その輪に馴染めない者たちの姿もあった。

 それはベル・クラネルの鍛錬に居合わせていたアマゾネスたちであった。

 彼女たちの何とも複雑な視線を集めたサミラは、躊躇いがちにイシュタルへと顔を向けた。

 

 「その、イシュタル様」

 

 「なんだ、サミラ」

 

 文句があるのか。

 

 そうして言外に意味を含ませ、鋭い視線を向けられたサミラは震えあがる。

 イシュタルとて、サミラたちの様子がおかしいことは理解している。イシュタルの方針に戸惑いがあることを理解している。

 その上で、文句があれば潰すとイシュタルはサミラたちを睨みつけた。

 

 これによってベルに懸念、或いは心配していたアマゾネスたちは顔を下に落とす。

 悲し気に、悔し気に、仕方がないと拳を握るアマゾネスたちをイシュタルは冷たい目で一瞥した。

 

 これに戸惑ったのは、何も知らないアマゾネスたちであった。

 こんなことはこれまでに何回もあった話。そうやってイシュタル・ファミリアは暗躍を重ねてきたというのに、どうしてか奇妙な空気になっている。

 

 戸惑いはベルと関わったことのないアマゾネスたちにも広がっていき、いつしか場は沈黙に包まれた。フリュネはニヤニヤしていた。

 

 やがて張り詰めた空気に耐えられなくなったのか、歯を噛みしめていたサミラが声を上げる。

 

 「……このことは、ソフィーネ様も知っているのかよ」

 

 「知らん」

 

 「なっ!?」

 

 「謹慎するあいつに知らせる必要もない。ソフィーネには黙っておけ」

 

 サミラが驚き、ベルに関わったアマゾネスたちも驚き戸惑い、互いに顔を見合わせる。

 そんな彼女たちを他のアマゾネスは怪訝な様子で眺め、フリュネに至っては大きな声で笑い始めた。

 

 「ゲゲゲゲゲゲっ!こいつは傑作じゃないか!イシュタル様、私は元から文句はないが、だいぶ乗り気になったよ!」

 

 「攫うついでにつまみ食いをしたりするんじゃないよ。特にフリュネ、お前だ。ベル・クラネルを潰したいわけじゃないんだ、お前は手を出すんじゃないからね」

 

 「ケケケケ、そんな言い方は心外だよ。男の方からアタイに夢中になるんだからしょうがないだろう?」

 

 「最初は私、そして事が終わってからあいつはイシュタル・ファミリアの一員になる算段だ。どうしてもというなら、全てが終わってからにしておけ」

 

 イシュタルの全てを見通すような視線に、フリュネは不満そうに顔をしかめる。しかし、すぐに機嫌が戻ったのか、フリュネの哄笑が部屋に響き渡った。

 納得が唯一いっていなかったサミラは、焦ったように声を張り上げた。

 

 「ほ、本当にいいのかよ。イシュタル様は一番知っているだろう?もし、これがソフィーネ様に知られでもしたら、絶対に面倒くさいことになる」

 

 「私がすることを、あいつに咎められる謂れはどこにもない。そうだろう?」

 

 「それは……っ!」

 

 サミラは頭を抱えそうになった。

 どうして自分がここまで、イシュタルに食い掛かっているのか自分でもわからない。

 だが、これがベルにとっても、ソフィーネにとっても良いことにならないと確信があった。

 

 ああ、くそったれ。

 あの少年が仲間になるのは嬉しい。嬉しいが……。

 ベルの輝きに一度でも見入ってしまった己の戸惑いは大きい。こんなのは間違っているのではないかと、迷いから脱しきれない。

 

 「……そうだ。この時期にベル・クラネルにも手を出すのかよ?どうせなら、俺は殺生石の儀式が終わってからの方が良いと思うんだけど」

 

 サミラの言葉にアイシャの目が吊り上がる。だが、必死といった様子のサミラはアイシャの変化に気がつかなかったようだ。

 そしてこの提案を、イシュタルは不敵な眼光とともに切り捨てる。

 

 「この情報源の男神は信用できない。私が弱みを握ったことは、遠からずフレイヤも知ることになる。囲われる前に奪い取る、これはソフィーネのためにもなることだ。これ以上は言うつもりもない」

 

 「……分かった、分かったよ」

 

 「お前たちはしらないが、誤算によってソフィーネのアビリティが大きく上昇した。儀式が終わり、ソフィーネが殺生石に馴染む時間が少しでもあれば問題はない。だいぶ前倒しにはなるが、これが終わればフレイヤとの戦争だ」

 

 サミラはうなだれ、他のアマゾネスたちはついに来たかと唾を飲み込んだ。

 ベルに思い入れがあるアマゾネスたちも、サミラとイシュタルのやり取りを見て、自身の想いに区切りをつけたようであった。

 

 眷族たちを見咎めたイシュタルは、煙管を口元に寄せ一服。

 

 「お前たちも、区切りがつけばベル・クラネルと寝ようが私は構わない。あれに懸想しているなら、良い機会になるだろう」

 

 「あいつを掴まえる手段はどうする?」

 

 俯いたサミラに変わって、アイシャが会話に割って入る。イシュタルはその問いに答えた。

 

 「ヘスティア・ファミリアは今、注目を集めている。地上は避け、ことを表立たせるな。ギルドやフレイヤに知られてはならない」

 

 「てことか、あそこしかないね。ケケケケ」

 

 フリュネが舌なめずりをしながら笑い、アイシャは何かを感じ入るように目を閉じて、サミラが苛立たし気に自身の灰髪をガシガシと掻き毟る。

 

 犯罪を起こすのであれば、人目につかない場所は一つしかない。全員の総意を、アイシャは口にした。

 

 「ダンジョンだ」

 




実は二行で終わる今話。

イシュタル様「よっしゃ、ソフィーネのためにもなるしやったろ!」
ソフィーネ「止めてクレメンス」

「こうしてあげたら喜ぶよね」ってことをやると、たまに悲しいことなる人生の罠よ……。

皆さん、感想と誤字訂正をいつもありがとうごさいます。
感想の量が毎度すごいので、全然お返しは出来ておりませんが、全部読ませてもらってます。ベルくんの人気すげぇや。

ぶっちゃけ私は頭ゴリラなのです。
感想とか感想のの反応とか見て、「あ、こういうの喜んでもらえるんだ。あ、こういう考え方があるんだ。欲望のままに勢いで書いていたから、なんもわからなんかった」なんて気がつくことザラにあります。バナナ美味しい。

あと五、六話以内で終わりかな?
終わりに向かって書いているので、少し内容を端折っていってます。ヒロアカの体育祭を全シーン書こうとすると、私は絶対に心折れるタイプな気がする。
なんだかんだ最終章っぽいところまで楽しんで書いてこれて嬉しい。のんびり続きを書いてます。
これが皆さんの暇つぶしに少しでもなれたら幸いです。

気温が温かくなってまいりました。どうか皆様もご自愛ください。

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