アマゾネスとして生まれた私は〇〇になる。   作:だんご

7 / 12
なんだかんだでできたのですが、最初戦う予定はなかった。でも、描いてるうちに楽しくなってきたからOKです(恍惚)
前回の最後でベート戦の兆しを書いたのですが、その間の話がこの前編です。


ショタ攻め解釈違い論争は根深い(前編)

 最近嬉しいことがあった。

 なんと、私はこの世界でエロの芽生えを目の当たりにできたのだ。

 

 それは先日、娼館で顔なじみとなったエルフのお姉さんと、優雅にお酒を嗜んでいた時の話であった。

 

 このエルフのお姉さんは、先日出会ったロキ・ファミリアのエルフ、エロマンガという言葉ぐらいで顔を赤面させるレフィーヤとは格が違う。

 

 エルフに幻想を抱く冒険者たちの多くの童貞、それをこの歓楽街で食らいに食らった生粋のエロフである。

 

 その胸は豊満であり、そして上品だった。

 お尻もなんというか抱き着きたくなる代物。腰とお腹のライン、おへそにかけては、両手を地について拝んでしまうほどに尊い。

 

 「なんと素晴らしい」と見入ってしまう私に微笑み返し、怒ることなく「触ってみる?」といった彼女のご尊顔といったら、まるですべてを包み込む地母神のようであった。

 

 この世界のエルフはよくあるエロ同人設定のように、よっぽど気を許したものでなければ、自分の肌に触れられることを嫌がる種族である。

 しかし、このエロフのお姉さまはバッチコイスタイル。むしろエルフの触れられたくないという特性すらも設定として利用し、時には誘い受けという高等テクニックを用いて娼館に来る客たちを虜にしていた。

 

 まさに彼女こそがエルフの中のエロフ。

 

 少し前、私は「いたいけな少年が、村でよく遊んでもらっていた綺麗なエルフのお姉さんに憧憬を抱き、性に目覚め、こっそりと隠れて筆おろしをしてもらう」「その少年が青年冒険者となって村に帰ってきて、改めてその魅力にエルフのお姉さまが惹かれ、二人はラブラブエッチ」という、王道展開のエロマンガを上下巻で描いた。

 

 この本がもたらしたオラリオへの衝撃は、私の予想を超えてあまりにも大きかった。一部のエルフの方々から批判はあったものの、売れに売れて幾度も重版がかかった。

 

 エルフは清楚。清楚はエロい。

 年上のお姉さんの優しさ、そして年上のお姉さんへの憧れは尊い。オネショタはエロい。

 種族間を超えた恋愛は胸をうつ。種族間を超えたエッチは私たちのチンコを刺激する。

 

 それらの良さはこれまで言葉にされず、表現されることはなかった。しかし、オラリオの住人たちはその素晴らしさに薄々気がついてはいたのだろう。

 

 私がエルフが如何にエロいのかと形にして世に出したことによって、神々やオラリオ住人の心は大いに刺激されたらしい。そして、その溢れるリビドーの発散先を求めて歓楽街へ乗り出したのだった。

 

 そう、世はまさに大エロフ時代。

 エロフというひとつなぎのロマンを求めて、男たちは歓楽街へ舵をきったのである。

 

 これにより歓楽街はさらに大賑わい。エロフの娼婦はもとより人気があったが、今回の件でより一層人気がうなぎ上りに。

 これをきっかけにこのエロフのお姉さんと私の交友も始まり、なんだかんだで今ではぐだぐだとお酒を飲む仲に至った。エロいエルフのお姉さまは大好きです。

 

 一部、この騒動で「こっちに人が来てくれない!!」「いい男がみんなエルフのところにいく!!」とアマゾネスの娼婦達から抗議が上がったものの、「ソフィーネがそのうちアマゾネスで一冊描いてくれるでしょ」というレナの言葉によって鎮静化した。

 

 納得して帰っていくアマゾネス達を見て、「え、これ私描かなくちゃいけないの?」とレナに視線を向けると、「私もみたい」と満面の笑顔であった。

 

 私、今月エロマンガ以外も含めて5冊も新刊を出したんだが。

 来月の発刊予定だって、既にエロマンガだけで3冊決まっている。流石に死ぬぞ、私が。

 

 他にもエロマンガやマンガに乗じて出版事業に乗り出した副団長のタンムズが、ファッションだのスイーツだの、オラリオのトレンドについて掲載する新雑誌を企画。

 「前世のでこんなのあったよな」と相談に乗っていた私を編集長にしようとしているのだが、流石に体が追いつけねぇ。他の男あさりしているアマゾネスに頼めよ、アイシャとかレナとか。

 

 「そういえば、ソフィーネはあまり男あさりをしないわよね?アマゾネスなのに」

 

 不思議そうに此方を見るエロフのお姉さまに、私は遺憾であるとばかりに口をとがらせた。

 

 「全てのアマゾネスが性の喜びを知りまくっていると思ったら大間違い。私みたいに文化的に性の喜びを嗜むアマゾネスだっているのだから」

 

 「文化的なアマゾネスは、怪物趣味のエロマンガを描かないと思うわ」

 

 「怪物趣味じゃない、モン娘だ」

 

 「ねぇ、それってそこまで重要な違いがあるの?」

 

 「オークに襲われる女騎士と、オークを襲う女騎士ぐらい違う」

 

 エロフのお姉さまは遠い目になっていた。そんな姿もエロくて興奮してきた。

 

 「ほら、ならイシュタル様がわざわざ男娼を用意してくださったじゃない。それぐらいのご厚意は受け取っても良かったんじゃないかしら?」

 

 「えー、複数の美少年と乱交プレイとか、妄想の中だけでお腹いっぱいなんだけれど」

 

 「……少し噂になっているのだけど、もしかしてあなたって女の子の方が好き?そういうの私は初めてだけど、相手してあげよっか?」

 

 「めっちゃくちゃ嬉しいけど、股間に先勃つモノがないからちょっと……」

 

 「えっと、そういう道具が必要ってこと?」

 

 「違う、本当のいきり勃つあれが必要なんだ」

 

 「……あなた、女よね?」

 

 「生物学的上はね。それでも……私は本物のチンコが欲しいんだ」

 

 きっと、かの比企谷八幡もこんな気持ちで本物を求めていたに違いない。

 

 この嘘で塗り固められたエロマンガという世界を知りつつも、私は本物……チンコを心のどこかで追い求めている。アンニュイな気持ちになってしまった。

 

 遠く離れた幻想郷(アヴァロン)、そこに置かれてきた私の股間の剣(エクスカリバー)

 私が欲しいのは聖杯でもなければ、女性の股間にある士郎くん(鞘)でもない。

 私の股間のいちもつは、既に永久に遥か黄金の剣(エクスカリバーイマージュ)になってしまった。

 しかし、無銘があれを使う時に傍に騎士王の幻影をみるように、私だって心のチンコを奮うときにはいつだって幻想の右手をそこに添えている。

 

 例え、勃てなくなったとしても、恐れずに進んでいかなければいけない。

 思春期の少年はいつだって、インターネットのエロサイトという荒野を目指すものなのだから。

 

 「そう、でもとりあえず一回寝てみたら変わるかもしれないわよ?布団敷く?私、ソフィーネなら受けでも攻めでもいいわ」

 

 「なんでそこまで積極になってるん?」

 

 「普段オラオラ系の女の子が、ちょっとしおらしくなっているのってなんか、くるでしょ?」

 

 「わかるけど、わかりたくなかったでござる。誰だよそんな性癖目覚めさせたのは」

 

 恍惚とした顔のエロフの指先は私を指していた。マジかよ、やったぜ。いや、今回に限ってはやってないわ。こんなの予想外だわ。母性溢れすぎだぞこのエロフ。

 

 「かわいい……」

 

 「そういうジャンルはかわいいけど、本当に私はそういうのノーセンキューだから」

 

 「そう、いつでも誘ってね?どんなに忙しくても予定空けてあげるから」

 

 にっこり微笑むエロフのお姉さんに戦慄を隠せない。

 

 このエロフは今ほんっとうに忙しいので、金をただ積むだけでは予約をそうそうとれるものではない。

 そんなエロフがこんなことを言うなんて、その本気がうかがい知れるというもの。

 

 私が知らないところで、世界は既にエロの目覚めを迎えていたのか……?

 

 「そういえば、最近あなたが書いたオネショタってジャンル?あれ、よくない?」

 

 「良いよね!!」

 

 迎えているわ!これ絶対オラリオはエロの目覚めを迎えているわ!感動で涙が出そうだ……。

 

 「でも、同じ娼婦の亜人とは意見が合わないわよね。私は優しく無垢な少年を性の海に連れてってあげるような、お姉さんが主導権を持って守り導く展開が好きなのよ。なのに彼女は……」

 

 「彼女は?」

 

 「少年が主導権を握っているオネショタの方が好きだって言っているのよ。そんなのあなたでさえ描いたことがないっていうのに。本当に、信じられないわ……」

 

 「オネショタのショタ攻めっ!?」

 

 訂正しよう。このオラリオでは目覚めどころか、エロのカンブリア大爆発が起きているに違いない。

 

 これまで私は常に先駆者としてエロを描き続けてきたが、ついにこの歓楽街の猛者たちは私の描く範囲を飛び越えて、自分の力で性癖の極致の一つにいたらんとしているのだ。

 

 なんということか、感動で涙がでるどころの話ではない。私は今、まさに歴史のターニングポイントを目撃している……ッ!

 

 「しかも数が一定数はいるようなの……」

 

 「サークル活動も可能……だと……」

 

 最近やることが多くなってきて、私の時間は限られている。そして私の手もたった二本しかない。様々な要因で描きたくてもい描けないことが増えてしまった。

 

 ならば私ができることは一つ。

 エロフのお姉さんがいったような意欲ある人々にも、私と同じように創作活動に参加してもらえばいい。エロフのお姉さんに私の考えを打ち明けると、たいそう驚いているようであった。

 

 「ソフィーネ、あなたはあなた以外がエロマンガやマンガを描いてもいいの?あれはあなたが生み出したもので、あなただけのものなのよ。鍛冶のファミリアや薬師のファミリアが、自分の技術を大事に隠匿するように。あなたはもっと、そのマンガの技法を大事にするべきじゃないかしら?」

 

 エロマンガやマンガを文化として広めようという私の考えは、この世界では奇人変人の類らしい。

 

 自分の飯の種を、どうしてわざわざ他人と共有することがあるのだろうか。

 自分が働ける場所を、価値を認めてもらえる場所を、どうしてわざわざ他人と共有することがあるのだろうか。

 

 絵の描き方、コマ割りといった表現技法。マンガを描くために必要な、有益な道具の技術の提供。

 どれも日本という島国の中で、何百何千という先駆者達が長年をかけて築き上げてきた、大切な技術の継承の果てに生まれた宝物だ。

 どうしてそれを独り占めしないのかと、このエロフのお姉さまは私を心配してくれているのだろう。

 

 娼婦が男を喜ばせるための性交や、会話といった技術だって、他人から教えられるものではなく自分が経験から学ぶか、他人から聞いて見て盗むものである。

 誰かが私のようにマンガを描きたいと思ったならば、その技法を私から教わるか、盗むか、あるいは自分で気がつくしかない。

 

 この世界で唯一のマンガ家である私が教えるということ。

 別に偉ぶるつもりはこれっぽっちもないが、マンガの技術と私の時間にどんな値段をつけたとしても、エロフのお姉さまの言う通りで誰も文句はいえないらしい。

 

 それでも、それでも私は──

 

 「私は、私は待っていたんだ。料理を食べる側が、美食を追い求めて作る側に立つように。けが人を治す医者が、医学を取り入れた戦士になるように。私のエロマンガを読んだ人々が、性癖を拗らせて自分でエロを妄想し、描きだすその瞬間を……っ!」

 

 「変態だーッ!?」と叫ばれようが、大いに結構。

 私は妄想を吐き出すだけの存在ではない。私は多くのエロに出会いたかったのだ。

 

 エロは人生を、心を豊かにしてくれる。

 そんな素晴らしいものを私の心の中だけに閉じ込めてしまい、エロに導かれ、救われるはずであった人々を見捨てることがあってもいいのだろうか。いや、それは到底許せるものではない。

 

 エロは世界に広まり、多くの人々の心のよりどころになるべきものなのだから。

 

 「あと、私もいいかげんに私以外が描いたエロマンガが読みたいんだ。好きだけど自分が描きたいわけではないジャンルもあるし、描いてと言われても気が乗らないジャンルだってあるんだ。私だって普通の感性をもったアマゾネスなわけだし」

 

 「そう……。なら、私も描いてみようかしら?オネショタで一つ、あなたが描いたようなマンガを描いてみたいわ」

 

 「おおっ!完成したら是非とも私に拝見させてほしい」

 

 「……私、絵は上手くないわよ?」

 

 「最初から物書きが上手い人間なんていないよ。その成長を楽しむことも、読者が持つ楽しみの一つなのだからね」

 

 「絵を描くのが嫌なら、小説もある。挿絵を描こうか?」と申し出ると、「それもいいわね」と嬉しそうにエロフのお姉さんは笑っていた。

 

 彼女は結局、ショタ攻めを認めることはなかったが、それもまたエロの道。こうした対立の中で、磨かれ、光るエロの輝きもある。

 私だけで終わっていたエロの流れが、今や個々人にまで広まり、創作の輪が広がっていく。その事実が私を喜ばせ、興奮させた。

 

 現代日本のエロの先達の方々、諸先生方。あれだけ小さかったエロの芽は、この歓楽街で少しずつ育っていっていますよ。全て、あなた達のおかげです。

 

 ありがとう。エロよ、永遠なれ。

 

 「そういえば、あなたさっきテルスキュラの名前を出したけれど」

 

 「ん、何かあったの?」

 

 「イシュタル様がテルスキュラと手を組むことになったって本当?しかもこちらに来るって聞いたけど?」

 

 「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……イシュタル様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、本気ですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」

 

 「本気だ。その情けない顔を見せるな」

 

 肩を落とし、某海外版ポケモン映画のピカチュウのように、顔をくしゃらせている私。

 そんな私を見て呆れるイシュタル様と、最近なれてきて何も動じなくなってきた周囲のアマゾネス達。

 

 「だってテルスキュラですよ、テルスキュラ。文明都市のオラリオが誇るイシュタル・ファミリアが、どうして蛮族同然のカーリー・ファミリアを呼ぶことになるんですか?」

 

 「フレイヤ・ファミリアと戦うための布石だ。連中にはオラリオの南西にある港町、メレンに時が来るまで滞在してもらう。あと、お前もそこの蛮族ファミリア出身だろうに」

 

 「私は身も心も、もうオラリオ出身ですよ。ほら、こんなに文明的な活動をしていて、休日はオシャレなカフェでお茶をして。性格だって昔は誰彼構わずにぶちぎれてましたが、今ではちゃんと敬語だって、使う相手には使っているじゃないですか」

 

 ソフィーネ本人はテルスキュラを野蛮といって嫌がっているが、周囲のイシュタル・ファミリアのアマゾネス達からすれば十二分にソフィーネも危ないやつである。

 もちろん、最初ここに来た頃よりはマシになったが、あえて「マシになった」という言葉を使われているところから彼女の振る舞いのやばさを察してほしい。

 

 そしてそんなソフィーネがいた元ファミリアだから、どんなバケモノたちがいるのだろうかとイシュタル・ファミリアの面々は戦々恐々としていた。きっとゴジラが出てきても、イシュタル・ファミリアのアマゾネス達は驚かないだろう。

 

 「使えるものは何でも使う。憎らしいがフレイヤ・ファミリアは強い。カーリー達と挟撃し、開戦そうそうけりをつける」

 

 「いや、確かにイシュタル様の戦略は効果的だと思います。でも……」

 

 「オラリオの市壁か?あれならば商会を使ってもいいし、なんなら直接私が開けさせてやってもいい。心配は不要だ」

 

 「違うんですよ、そうじゃないんです」

 

 「なら何が問題なのだ?」

 

 「だって、カーリー・ファミリアって負けフラグっぽい気がするんですよ!!」

 

 負けフラグ?

 

 馴染みがない言葉に顔を見合わせるアマゾネス達の一方で、イシュタルは「まーた始まった」と目を細めて髪を手慰めにし始める。

 

 「強いですよ?確かに連中は世界有数の実力者たちですよ?でも、あるじゃないですか。グラップラーよろしく、壮大に説明があったり、意味付けがなされたら、それはだいたいは負ける前兆なのですよ。特にテルスキュラなんて、きっと刃牙におけるムエタイと同じような扱いですよ。ゼロの使い魔のサイト対ギーシュみたいに、あいつらをここで呼んだら、散々思わせぶりに周りを振り回した挙句、誰かに花を持たせて負けてしまうのが目に浮かぶようです。長年あそこにいた私は確信していますが、国の設立から闘争の歴史、褐色ロリペタのじゃ仮面主神にアマゾネス国家のアマゾネス姉妹がボスキャラとか、もうとことん負けフラグにしか思えません。縁起を担ぐどころか面倒くさくなるだけですってば。止めましょう、あいつらを帰らせて別の方法考えましょうよ」

 

 「長い、三行で言え」

 

 「どうせ

  みんな

  メス堕ちする」

 

 「良かったな、お前の好きなエロマンガのようではないか」

 

 「そうだけどそうじゃないんですよー……」

 

 「メス堕ちしないアマゾネスなんていないだろう」という愛の神イシュタルと、「メス堕ちにかませが組み合わさって最弱に見える」という現代対魔忍哲学を知るソフィーネの主観は、どうしようもないくらい完全にすれ違っていた。

 

 戦略的には、イシュタルが絶対に正しい。

 

 しかし、どうしてかソフィーネは不安がぬぐえなかった。

 アイズ・ヴァレンシュタインがいずれレベル6になると感じ取ったように、戦士としての勘が騒ぎに騒いでいた。

 

 自分がやったことながら、レベル5に負けたレベル6の姉妹。

 かつての強キャラは、次世代の強キャラの強さを表明するために無残に負ける鉄則がある。この状況ってそれに近くはないだろうかと、ソフィーネはどうしても嫌な予感をぬぐい切れなかったのである。

 

 「これは決定事項だ、諦めろ」

 

 「うー、死兆星ポイントがたまってしまう気がする。いや、まぁいいか。どうせあと六つは余裕があるし、大丈夫でしょう。……大丈夫だよね?」

 

 天に浮かぶ七つの星、死の運命を背負う者の上に輝くというといわれているが、現状輝いているフラグがまだ一つだけ。六つもフラグが積み重なることはなかなかないはずなので、流石に大丈夫だと信じたい。

 

 「じゃあ、私はお留守番でいいですかね?」

 

 心機一転、目を輝かせて主神へと懇願する。

 あんな古巣の連中と会いたくはない。都会に出た人間が、昔の自分を知っている地元の人間と都会で出来た友人を会わせたくないのと同じようなものだ。

 だが、必死にお願いする私を見て、イシュタル様は鼻で笑った。この神、やっぱり「ド」がつくSである。

 

 「お前もついてこい」

 

 「どうして」

 

 現場ネコ目線で静かに抗議する。

 

 「カーリーをお前と会わせること、そしてお前が戦うところをカーリーに見せることが依頼の条件に入っている。本来なら金銭や武具の提供で解決する依頼だったが、お前がいることがわかった瞬間にそうなった」

 

 なんだその条件。

 一瞬意識が天に召されるも、なんとかエロの力を頼りに現世に舞い戻る。

 

 「ちょ、私を売ったんですか?もう私、いらない子ですか!?」

 

 「お前ほどの戦士を手放すわけがないだろう。顔見せ程度だ、それぐらいは我慢するがいいさ」

 

 「そんな殺生な……」

 

 「お前のために方々に手をまわした私の心労も察しろ。それとも、褒美代わりに私と寝るか?」

 

 微笑むイシュタル様のお姿は、まさに美の化身。

 男は劣情をかきたてられ、女性でさえ我を忘れて見入ってしまうほどの黄金の体と美貌は、まさに人ならざる魔性の美である。

 

 他の男娼だけではなく、アマゾネス達もほぉっと吐息を漏らす中。私は満面の笑みで親指を立て、イシュタル様にぐっと向けた。

 

 「チンコが生えたらお願いします」

 

 「遠まわしに断りおって……。いや、まて、まさかこれは本気か?」

 

 「やだなー、私に魅了は通じないのはイシュタル様もご存じじゃないですか」

 

 「そっちではない、たわけ」

 

 苦笑から一点、戦慄するイシュタル様。やばいやつを見る目で私を囲む男娼とアマゾネス達。

 みんな魅了が効かないことを知っているのに、どうしてそこまで驚かれなくてはいけないのだろうか。これがわからない。

 

 時が少し経って、港町のメレンに私はいた。

 

 美味しい焼き魚が食べられると島国日本の血が騒いでいたので、なんだかんだ楽しみにしていた。しかし、見られてはマズいと忍ぶようにして夜間の到着であった。お店は当然やっていない。泣きたい。

 

 美味しい塩焼き魚。ホカホカのご飯。お煮つけ。ほうれん草のお浸し。あるいはゴマ添え。そしてほっかほかの熱燗をぐびっと。

 そんな幻想が木っ端みじんにイマジンブレイカーされたため、ただでさえ落ち込んでた気分はさらに急降下である。帰りたい。

 

 「ちょっとソフィーネ様、これからカーリー・ファミリアとの会談だよ?」

 

 「レナ、本当に行かなくてはいけないの?いろいろと理由はつけたけど、ぶっちゃけ、私は彼女達とあいたくないだけなんだと今気がついたんだ」

 

 「知ってたよ、ソフィーネ様。イシュタル様からの命令なんだ。どうせ行かなくちゃいけないんだから、心を決めたらどうだい?」

 

 「アイシャ、フリュネを私と偽って変装させればよくない?テルスキュラから出てしばらく経ったんだから、どうせばれないでしょ」

 

 「ゲゲゲ、お前のために何かするなんざお断りだよ。何より、お前と私とじゃあ美しさに差がありすぎるってもんさ」

 

 「なら春姫さん、代わりに私の役やりません?」

 

 「え、あ、その、種族的に難しいかと」

 

 神は死んだ。

 仕事で大ミスをやらかした翌日に出勤するような、心が重く陰鬱な居た堪れなさを感じる。辛い。

 

 見覚えのあるテルスキュラのアマゾネスに冷や汗をかかれながら案内され、カーリーのいる部屋へと入っていくイシュタル・ファミリアのアマゾネス達。

 移動の途中、テルスキュラのアマゾネス達は悉くイシュタル様に見惚れていたが、何故か後続を歩く私を見つけて顔を青くしていった。失礼極まりない連中だ。

 

 私はさりげなく団体の一番後ろに下がり、腰を丸めてどっこいどっこいとついていった。

 ダメだ、部屋に入ろうとしたけど足が重い。これはきっと大きな病に違いない。おい、そこのテルスキュラのアマゾネス。私は今から医者に診てもらう。お前が代わりに入って、みんなにそう伝えてきてくれないか。

 

 「そ、ソフィーネ。いくらなんでもそれは無茶だ、私がカーリー様に殺されてしまう」

 

 「私だって無茶を通し、テルスキュラ出ていったんだからきっと余裕余裕。気持ちの問題だって。ほら、松岡修造スピリッツで頑張ってこい」

 

 「それはお前がおかしいからだろッ!?お前のようなアマゾネスが他にいてたまるかっ!!」

 

 こいつはだめだ。

 そう思って他のアマゾネスに視線を向けるも、全員から視線を逸らされた。なんて酷いやつらなんだ。仮にもかつての仲間だぞ、助けてくれたっていいじゃないか。

 

 「おい、なにをやっているソフィーネ」

 

 部屋の中から私を呼ぶイシュタル様から大きな声が。

 テルスキュラのアマゾネス達はその声を天の助けのように喜んでいるが、私はますます気分が落ち込んでしまう。

 

 「カーリーがお前を呼んでいる。諦めて早く来い」

 

 「だってイシュタル様、私の心のチンコが萎えているんですもの」

 

 「ほう、なら勃たせてやろうか?」

 

 めっちゃくちゃ淫靡な声色だったので、なんとか気持ちを盛り上げる。

 肩を落とし、落ち込んだ気持ちを口から吐き出し、足を引きずるように私は部屋に入っていった。

 

 「おお、久しぶりじゃなソフィーネよ!」

 

 仮面の褐色少女つるぺたのじゃ神、カーリーが長椅子にあぐらをかいて私を出迎えた。

 

 本当にあえて嬉しいと、心から楽しそうに笑う姿はロリコンホイホイである。中身はぶっとんだ悪神そのものだが。

 

 あれだ、せめて私に「カーリーが触手とかモンスターとかにねっちょりされる同人誌」とかを描かせてくれたら、少しは嫌いなものも好きになれたと思うのだ。

 ただ、この同盟をイシュタル様が計画していたからか、結局描かせてはくれなかった。おかげで私の苦手意識は、オラリオに来てからも膨れる一方だ。

 

 カーリーの横でこっちを殺気満々で睨み、笑うアルガナ。能面のように感情を見せないバーチェのカリフ姉妹とも久しぶりの再会だ。もう面倒くさい空気を纏っていやがる。

 あんな別れ方をしたのだから、次に会う時はトラブル必至だろうと私だって分かっていたよ。本当、どうして私はここにいるのだろうか。泣きたい。

 

 「久しぶり、カーリー。相も変わらずちっこいですね、ちゃんとカルシウムとってます?」

 

 「かるしうむ?相も変わらずひょうきんなやつじゃのぉ。しかし、イシュタルのように以前と同じく、妾をカーリー様と呼んではくれぬのか?」

 

 「尊敬できる神なら敬称をつけますよ。足にキスだってしてもいい、エロい神ならむしろしゃぶりたい」

 

 「あはははは、つれないのぉ。だが壮健そうでなによりじゃな」

 

 いいえ、今ちょうど体調が優れません。原因はもちろんおわかりですね?あなたがこんな依頼の条件を出して、私のメンタルを損なったからです。本当に裁判できるのなら、いくらかかってもいいから訴えてやりたい。

 何が悲しくてエロマンガを描く時間を削って、カーリーと話さなければいけないのだろうか。

 

 その後、ぼーっとイシュタル様とカーリーのやりとりを聞いていたが、カーリーはやっぱりロキ・ファミリアのティオナとティオネにちょっかいをかけるらしい。

 

 イシュタル様がその話を聞いて軽くぶちぎれているが、フリュネからの提案で目的を隠すためにちょうどいいだろうという話になった。

 これにより、イシュタル・ファミリアは姉妹の決闘を邪魔するであろう、ロキ・ファミリアの足止めをしなければいけなくなったのである。

 

 ……いや、ダメじゃない?

 

 えーと、テルスキュラのカーリー・ファミリアとの連携という時点で、私の中では一敗は確定。

 あの運命力高そうなロキ・ファミリアと戦うというのでもう一敗。フリュネの提案ということでさらに一敗。やっていることが小悪党染みているという点でおまけに一敗。

 

 ……すでに四敗しているような気がするのだが、私の気のせいなのだろうか。

 

 なんとなく視線を「これでいいの?」とアイシャに向けると、「知らん」とばかりに顔を背けられた。ひょっとして、アイシャってうちのイシュタル・ファミリアのこと嫌いだったりする?

 

 「あのー、イシュタル様。本当によろしいので?ロキ・ファミリアとやりあうってマズい予感がするんですけど」

 

 「ゲゲゲゲゲ、怖くなったのかいソフィーネ。レベル6ともあろうアマゾネスが、情けない話だね」

 

 「フリュネ、あのバグファミリアは最近一気にレベル6が増えたんだ。ダンジョンで連携もとれる連中が、個人個人に重きを置くテルスキュラのアマゾネスに後れを取るとは到底──」

 

 私がフリュネに反論しようとした刹那。

 超弩級の殺気と不快感が部屋に満ち溢れた。原因は目の前の悪神達のせいである。

 

 「ほぉう……。レベル6になったのか、ソフィーネ」

 

 カーリーの声は幼声ながら、その口調と眼差しは悪神のそれ。ギャップ萌えは好きだが、こんなギャップ萌えはノーセンキュー。

 なんせ彼女は醜悪にして残虐、自分の想いや愉しみのために、幾百万の人間を犠牲にするくそったれの神様なのだから。

 

 『愛と美』こそイシュタルの神としての存在性であるとすれば、カーリーは『血と殺戮』の戦神である。

 戦士同士の殺し合いを好む神の好意的な視線の意味を、私はあのテルスキュラで嫌というほどに知っている。

 そしてそんなカーリーの傍にいるお気に入りの戦士二人も、もちろんそんなカーリーが治めるテルスキュラの色に染まり切っている。

 

 そんな三人からの視線を一身に受けた私はどう思うでしょうか。言わずもがな、早く帰ってエロマンガ描きたい。こんなアンスレの連中すら裸足で逃げ出すような奴らを、まともに相手なんてしていられるか。

 

 「……ふん。おい、ソフィーネ」

 

 「はい、わかってますよイシュタル様。こんなバカげた話なんて、もちろん乗ることは──」

 

 「一戦やって、格の違いを見せつけてやれ」

 

 「──ありません、って!?」

 

 思わず真横を振り向くと、長椅子に座って顎を優雅にさすっているイシュタル様。大変お美しいのですが、失礼ながらご正気でございますでしょうか。

 

 「見たところ、二人ともお前に勝てるようには思えん」

 

 「ほう、それほどか。それは楽しみじゃのう」

 

 イシュタル様の挑発によって、バーチェの視線が氷点下。アルガナの視線が沸騰。カーリーはニヤニヤで、私はおうちにかえりたい。

 

 イシュタル様は足を組みなおし、私の顔を見て楽しそうに笑っている。

 何を考えているのかわからないが、ただ一つわかることはこの状況を楽しんでおられるのだ。

 

 「ハイポーションなら余裕をもって持ってきている。私の戦士は最強だ、それを思い知らせる良い機会ではないか」

 

 「いや、やってみなければわかりませんが……。え?本当にやるの?だってこれからカリフ姉妹はティオナとティオネ、私はロキ・ファミリアとやるんですよね?」

 

 「ちょっと待つのじゃイシュタルよ、確かに今はお主のファミリアじゃが、ソフィーネはテルスキュラで一番の私の戦士でもある。妾が育て上げた、大切な子供じゃぞ?」

 

 「カーリー、余計に混乱するからちょっと黙っててくれない?」

 

 イシュタル様に必死にいやいやとサインを送っていたが、イシュタル様は私の気持ちを汲んでくれない。

 どうしてと焦りに焦ったその時。イシュタル様は口角を吊り上げて蛇のような笑みを見せた。

 

 「カーリーのところにいたお前と、私のところにいるお前の違いを見せつけてやれ。お前が否定されたものが、どれほどお前を変えたのかを改めて教えてやるといい」

 

 瞬間、私の混乱は那由他のかなたに吹き飛んでいった。

 なるほど、流石は私の主神。エロの道を示し、昏盲の闇を晴らしてくれた愛の神様である。

 

 一瞬にして表情を変えた私に驚く周囲のアマゾネス達。だが私はそれらに一切の気を払わず、ただ自身の主神だけを見つめて問いかけた。

 

 「なるほど、エロの名の下に戦えと」

 

 「愛し、性を確かめ、交わることで戦士は戦士として戦えるのだ。女を覚えて戦場に出た戦士は、戻った後の女との交わりのために戦い抜く。死にゆく戦士は、体を重ねた女を想って母に抱かれるような心持ちで死んでいく。この世において、愛と性は常に戦士の生きる道しるべであった」

 

 イシュタルはちらりと目線をカーリーに向ける。カーリーはその意図を知り、獰猛な笑みを隠そうともしていない。

 

 「戦いのための戦いなど、獣と何も変わりがないではないか。そこに私が認める美も愛もない。わかるかソフィーネよ、カーリーはお前をその獣と見定めて、自分のものと吠えおったのだ。愛と美を司る我が眷属を、お前のことをこの神はそう見定めたのだぞ?これをお前は認められるのか?」

 

 剣呑な光を目に宿し、イシュタル様は私に問いかけた。

 それに私は胸を張り、大地に両足を突き立てて宣言する。

 

 「否。我は愛と性のために生き、そしてエロのために死すもの。断じて我が本懐は殺戮と血の頂にあらず」

 

 アルガナとバーチェから極寒の殺意を向けられるも、何も怯えることはない。

 私にはエロがある。多くの描き連ねたエロマンガの歴史がある。アルガナよ、バーチェよ、お前たちは数多の屍の山を築いてきたが、私もまた多くの性癖の深い沼にもまれながら生き抜いてきた。絶対に負けられない。

 

 「言うようになったではないか、ソフィーネ」

 

 自身の在り方、存在を否定されたにも関わらず、カーリーは楽しくて仕方がないといった様子だ。わくわくと身体を震わせ、そして喜悦に顔を滲ませている。

 

 当然だ、この神は闘争と殺戮を求めて下界に降りてきた。

 闘争の行く末、そこに生まれる『最強の戦士』だけをカーリーは望んでいる。その間の過程や信念など、カーリーにとっては極めてどうでもいいものなのだから。

 

 「どちらとやる?アルガナか、バーチェか?」

 

 「時間がもったいない。二人まとめて相手をする」

 

 「くかかかかっ!二人ともに、あの頃よりもより強大な戦士に育っている。それを知らんわけではないだろう?」

 

 同胞のアイシャやレナが不安そうに此方を見ているが、どうか心配しないでほしい。

 エロのために戦う私は、常に多くの壁を乗り越えてきた。私はこのエロのための戦いで、また一つ強くなれる、

 

 「この二人がいくつもの壁を越えたことは、悍ましい気の流れから理解できる。だが、成長したのは二人だけではない」

 

 ずっとエロマンガを描き続けてきた私を舐めるなよ。……あれ?そういえば、オラリオに来てから戦った記憶があんまりない。

 いや、欠かさずに刃牙式妄想格闘訓練はしていたが、現実で真面目に戦ったのってあの変な触手ぐらいなのでは?

 

 少し不安に感じて視線をアイシャとレナに向けると、マジかよって視線で返された。いや、なんか、ごめん。

 

 「その心意気やよしッ!アルガナ、バーチェ、良いなッ!?妾はもう楽しみで仕方がないッ!!」

 

 深夜の大移動といったらロマンがあるが、実際はカーリーが戦う場として目星をつけていた海蝕洞に場所を移しただけである。

 雑木林を抜け、さらに深い洞窟を進んだ先に見えてくる大きな空洞。天井の細い裂け目から私たちに降り注ぐ月の光は、なんとも幻想的であった。

 そしてテルスキュラの神が、バビロニアの美の神が、連なる黒い岩肌の頂点に座し、数多のアマゾネス達が固唾をのんで中央に立つ私とカリフ姉妹を見守っていた。

 

 向き合ったアルガナは獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべ、私見て舌なめずりをしている。エロいんだけど、下手にこいつを知っている分妄想が捗らない。

 

 「楽しいなぁ、ソフィーネ。お前はテルスキュラでの戦いで私を殺さなかった。その事実が、どれだけ私に辛酸をなめさせたのかわかるか?」

 

 「知らんがな」

 

 会話の一刀両断に、目を白黒させるアルガナ。

 「お前の方は何かあるん?」とバーチェに目をやると、静かに目を伏せた。相も変わらず静かなアマゾネスである。

 ならばと私は拳を突き合わせ、呼吸を整え、気を高めながら目を見開く。

 

 「エロのための闘争、それに他の理由は不要。上等な料理に蜂蜜をぶちまけるが如き愚行。二人は私を殺したい、私はエロの求道を示したい。それ以上の理由が──必要ですか?」

 

 「……へぇ、テルスキュラを出てどんなぬるま湯につかっていたんだと思ったが」

 

 アルガナの顔が鬼のように歪んでいく。殺し合いの中で血を啜りに啜った女だ、そう見えても仕方がないだろう。殺してきた人間だけが持つ、人ならざる圧力をアルガナからは感じる。

 

 「お前はやはり、テルスキュラの戦士だ」

 

 おいこら、私はオシャンで文明的なオラリオ民だぞ。お前らと一緒にするんじゃない。

 顔を顰める私に、声を上げて笑い出すアルガナ。なんとなく視線を妹のバーチェに向けると、アルガナの言葉に納得している様子であった。本当に失礼な姉妹である。

 

 「これ以上ないぐらいに不快なことをいうんじゃないっての」

 

 「あはは、やっとお前のその調子に乗った顔を崩せたなぁ。……いくぞ、バーチェ」

 

 テルスキュラ最恐にして最凶の姉妹が並び、構えた。

 ああ、その構えを一目見て分かるとも。あれからまたずいぶんと殺し合ったんだな。お前たちの足元に、血まみれになったテルスキュラの亡者達の波が見えるよ。

 

 これが我が愛と美の神イシュタルと、闘争と殺戮の神カーリーの格を競う代理の戦いだとするのならば、私はやっぱり負けたくないし負けられない。

 

 ありがとう、アルガナ、バーチェ。

 もし、お前たちがあのエロフのお姉さまのように。オネショタ、あるいはショタ攻めに目覚めていたならば、私は……ここまで『ケツイ』を決められなかった。

 

 「アルガナ、バーチェ」

 

 「なんだ」

 

 「……」

 

 名前を呼ばれ、より闘気を高める二人へ向けて。

 私は歯を砕けそうになるほどに嚙みしめ、体内の気の経路を切り替えた。

 

 「食べられなかったから明日こそ、朝から新鮮とれたてのお魚を頂きたい。だから全力で、短時間でいきます──『偽・殺意の波動』

 

 ソフィーネの言葉に、アルガナは「ふざけやがって」と言葉が飛び出そうになる。

 

 だが、その言葉がアルガナの口から発せられることはなかった。ソフィーネが放つあまりにも大きすぎる殺意の濁流が、この黒色の空洞に吹き荒れたからだ。

 

 アルガナは口をすぐさま閉じ、歯を食いしばった。傍に立つ妹のバーチェも、目を見開き、瞬時に魔法を発動させて、全身に相手を蝕む毒液の鎧を身に纏う。

 

 バケモノめ。

 

 カリフ姉妹の心は同じ想いであった。

 己こそテルスキュラの真の戦士であると自認する彼女達ですら、これまで見たことのないソフィーネの変化には驚きと恐怖を感じた。

 

 昼行灯とした普段のふざけた様子は欠片も見られず、この戦場に立つ姿は破壊と殺人衝動に突き動かされる殺人拳の権化そのもの。

 

 人が本能から忌み嫌うような悍ましい気に取り込まれ、殺意の奔流を暴れさせる姿に、誰があのエロマンガをヨダレ垂らして描いているソフィーネの姿を重ねることができるだろうか。あまりの変わりように、ソフィーネをよく知る者ほど動揺を隠しきれない。

 

 戦いの神であるカーリーだけが、この戦いを笑って心の底から楽しんでいた。

 

 「おおおおおッ!ソフィーネめ、ずいぶんと親を楽しませてくれる孝行な娘ではないか……ッ!!」

 

 ソフィーネは紫の気炎を身に纏い、アマゾネスの勇敢な戦士達ですら怯えすくむ威圧を放っている。

 そして深紅に輝く両目は、荒ぶる竜のように殺気一色に染まっていた。

 

 だが、ソフィーネはまだ止まらなかった。

 

 「『偽・殺意の波動』、重ね合わせ──『偽・静動轟一』」

 

 瞬間、バーチェとアルガナは地を踏み抜いた。

 

 このままでは不味いと。このままでは何か良くないことが起こると、本能で理解したからだ。

 この場にいる誰よりも優れた戦士である二人は、より強烈な死のイメージを数瞬の未来からまざまざと見せられてしまった。 

 だからこそ、カリフ姉妹は瞬時にソフィーネへと襲い掛かっていったのである。

 

 それはまさに神速。まさにレベル6と感嘆するほどの驚くべき速さであった。

 このオラリオでさえ、この時の彼女達の速さを完全に見切れるものはそうはいない。

 

 アルガナは左上から。バーチェは右下から。

 互いに殺し合うべき定めを受けたと覚悟する姉妹は、生まれて初めて互いに真に心を合わせ、戦士として連携し、足を踏みしめ腕を振りぬいた。それはテルスキュラの生き字引であるあのカーリーですら、あっと見惚れるような素晴らしい拳と手刀であった。

 

 最高のタイミングだった。

 

 最高の一撃だった。

 

 カリフ姉妹の人生の中で、これ以上の一撃はなく、また、これからもないと確信する一撃が、一つの連なる龍の如くソフィーネを襲った。

 

 この時、カリフ姉妹の攻撃をかろうじて確認できたのは、オラリオ有数の実力者であるレベル5のフリュネ。そして、彼女達の殺戮を常に間近で見続けたことで、目を肥やしてきた神カーリーだけである。

 他はカリフ姉妹の攻撃を視認するどころか、その影を追うことで精いっぱいであった。

 

 故に、正しく二人の一撃を見ていたフリュネとカーリーは戦慄することになる。

 

 「『瞬獄殺』」

 

 二人の攻撃を放った手は無残に折られていた。

 

 二人の頭、胴体は大地に叩きつけられていた。

 

 二人は血反吐を吐き出し、涙と涎を吐き出し、大地をボールのように転がっていた。

 

 この間、フリュネとカーリーは何も見えなかった。

 何かが起こったことは分かる。しかし、それが何なのかは全くわからなかった。

 なんらかの魔法が発動したといってくれれば、まだ何かしらの納得ができただろうに。

 

 だがこれは魔法とは違う、これは武である。

 一つの武が、まるで魔法の如くテルスキュラ最高位の戦士を、テルスキュラの最高位の戦士の一撃を、羽虫を払うかのようにあっという間に蹂躙し尽くしたのだ。

 

 アルガナは失いそうになる意識をなんとか繋ぎ止めながら、地に伏すままに心の中で葛藤していた。

 

 これが戦い?

 こんなものは戦いとは言えない。ゴブリンとドラゴンが戦うことを、果たして戦いと言えるのか。それはもっと別のものだろうに。

 

 アルガナは大勢の戦士を殺し、血を啜り、彼らの命を自分のステータスに変えてきた。

 

 そんな道を歩んだからこそ、アルガナ自身もまた同じように殺される覚悟をもっている。

 カーリーに連れられてこの地に来て、自分と同じもう一つの姉妹、その姉とティオネと戦うよう命じられてから、その覚悟はより一層深まっていった。

 ティオネは良い目をしていた。アルガナはティオネが自分を殺すかもしれないと、期待と興奮を感じていたのだ。

 

 そう、狂戦士といわれるアルガナにも戦士の哲学がある。

 それは殺されたものは殺したものの中でずっと生き続けるというものだ。

 この哲学はファルナを与えられ、戦い続ける中で、アルガナに『呪詛』という明確な形で現れた。

 

 『血潮吸収』

 

 神より恩恵を得た者の血を吸った分だけ、アルガナのアビリティを上昇させる。

 

 まさにこれは天命であるとアルガナは受け止めた。

 殺し、殺され、命を繋いでいく。例えその先に一人になってしまっても、私は何も寂しくはない。

 何故ならば、私が殺してきた者たちの血は私の血と溶け合い、私の中でずっと一緒に生き続けるのだから。

 

 そして、やがては最強の──戦士になるか──その──糧──に?

 

 糧?私はソフィーネの糧になれるのか。あれはあまりにも傲慢に過ぎる武であった。

 ソフィーネの力にテルスキュラの戦士達の魂はない、血は流れていないと思えてしまった。そう、あれは全く別の次元の、より悍ましいなにかの集まりだ。

 

 ああ、私は殺すのも殺されるのも寂しくなかった、怖くなかった。何故ならずっと一緒に生き続けるのだから。

 だが、私がソフィーネに殺されたらどうなる。私の戦士としての歴史は、血の価値はどうなる。私の血をソフィーネは継いでくれない、見向きもしないと気がついてしまった。

 

 なら──ここで死ぬ私は、なんの意味があるのだ?

 

 「アルガナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 誰かの叫びによって、アルガナのどろどろになっていた意識が覚醒した。

 

 すぐに手をついて跳ね上がった。もう逃げろ、戦えないと悲鳴を上げる体を無視して体勢を整えた先にあったのは、驚くべき光景であった。

 

 「バーチェッ!?」

 

 それは『ヴェルグス』の魔法を発動させ、膨大な量の毒液と全身をもってソフィーネに組みつき、動きを拘束したボロボロの妹の姿であった。

 

 「ほぉう、バーチェのやつめ。この土壇場で自分を成長させるとは」

 

 姉妹の主神であるカーリーの口から、感嘆の声がこぼれ落ちた。

 

 習得時のバーチェの魔法の範囲は、発動の起点となる片腕だけにとどまっていた。

 しかし、彼女はテルスキュラで行われる殺し合いの中で、己と魔法をどんどんと成長させていった。その威力と範囲は増加していき、ついにはその毒は大地を溶かし、全身に纏うまでに至った。

 

 そして、ソフィーネという強大な敵との戦いにおいて、バーチェはさらに進化を遂げたのだ。

 

 ソフィーネを包む黒紫の毒液は絶えず流動し、圧力をもってソフィーネの全身を押さえつけている。そう、バーチェは毒のより細かな流体操作を可能としたのである。

 

 これほどの進化を短時間で成しえたということは、それだけのストレスをソフィーネがバーチェに与えたということだ。

 一体どれだけのストレスを、どれほどの命の危機をバーチェはソフィーネとの戦いで感じたのだろうか。想像するに余りあるものなのだろう。

 

 バーチェは意識がはっきりとした時から、記憶の繋がりを得たその時から、姉であるアルガナを恐ろしいバケモノとして認識していたという。

 

 才能を分けた姉は、いずれ私を殺すだろう。例えどこかに逃げたとしても、きっと追ってきて私を殺すとバーチェは確信していた。

 そして一度姉に殺されかけ、カーリーに止められて一命をとりとめたときから、バーチェは死を恐れる戦士に変貌を遂げたのであった。

 

 バーチェが口を閉ざすようになったことも、無表情になったことも、一度その苦しみと恐怖、想いを吐き出してしまえば立ち上がれなくなってしまうからこそ。

 生き残るという生存本能を闘争心に変えて戦ってきたバーチェであるが故に。これまで圧倒的強者であったアルガナよりも先に我を取り戻し、立ち上がり、ソフィーネに立ち向かっていけたのかもしれない。

 

 だが、その決死の拘束の代償は大きいものであった。

 

 「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 本来であれば、毒液をもって相手を骨の髄まで溶かし殺すバーチェであったが、ソフィーネを拘束することによって逆に甚大な被害を受け続け、負傷してしまっている。

 

 ソフィーネの放つ負の闘気が実体となってバーチェの毒を押し返し、逆にバーチェの肉体と心を蝕んでいっているのだ。

 なんと悍ましく、恐ろしい気の波動なのだろうか。このままではすぐにバーチェは力尽き、身も心も廃人となってしまうだろう。

 

 だからこそ、バーチェは叫んだのだ。

 

 沈黙というバーチェ自身の心を守る誓いは、他ならぬバーチェによって破られた。

 彼女の顔はずっと抑え込んでいた恐怖と、心を破壊するほどの苦痛によって歪みに歪み、もはや【蠱毒の王】と称された戦士の輝きは見る影もない。

 

 それでも、彼女が戦士として立脚するところの「生きる」という想いだけは失われていなかった。

 

 「生きる」ために己の誓いと戦士の心を犠牲にした。

 「生きる」ために、己の体と心を犠牲にした。

 

 それは目の前のバケモノを倒すために、少しでも可能性のある姉の力を生かすためのものであった。

 

 「おおおおおおオオおおぉぉぉぉォォぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 バーチェの『ケツイ』は、バーチェの魔法に変化を与えた。

 バーチェの『ケツイ』は、折れそうになったアルガナの心に火をともした。

 

 アルガナは立ち上がり、体に付着した自身と妹の血を啜り、叫び、ソフィーネに襲い掛かる。竜の皮の髪留めが離れ落ち、土と血に塗れたアルガナの灰色の長髪が天を舞う。

 

 だが、『ケツイ』はより大きな『ケツイ』によって踏みにじられるものだ。

 かのゲームの中でアンダインが、サンズが、全てを賭けてまで挑んだプレイヤーの『ケツイ』を超えることができなかったように。

 

 「──重ね合わせ三重、『偽・一刀修羅』」

 

 武の道を進む者に、破滅をもたらす三重奏。

 

 自爆技というロマン技の上に、さらに自爆技を積み重ねる暴挙。

 しかし、エヴァでマリさんも言っているではないか。『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』と。

 命を削ってタイムを削るTASさんのように、命をぎりぎりまで削ってモンスターを短時間で撃破するハンターのように。ソフィーネはさらに固い決意を武をもって示さんとした。

 

 アルガナとバーチェは強い。

 その執念、その勝利への渇望。彼女達の全ては本物の戦士であるとソフィーネは認めている。

 

 故に全力。故に破滅の三連発。

 

 あと一歩踏み出せば、廃人となりエロマンガを二度と書けなくなる。

 そのギリギリの瀬戸際で、ソフィーネは『ケツイ』を新たにした。

 

 襲い掛かったアルガナが。拘束するバーチェが。見守るイシュタルが。哄笑するカーリーが。恐れ戦くアマゾネス達が。

 

 戦いの壮絶な終わりを目撃する。

 

 「『偽・破壊殺終式・青銀乱残光』」

 

 人を超えたからこそ放てる人外の妙技。

 無数無影の拳の乱撃がまるで花火のように咲き乱れ、ソフィーネを包んでいた毒の乱流を跳ね飛ばし、決死の覚悟で戦ったアルガナとバーチェを飲み込んだ。

 

 刹那、殺意の波動と極技の衝撃が空洞を蹂躙。

 戦いを見守っていたアマゾネス達を壁に吹き飛ばし、黒い岩肌は亀裂が生じて振動し、僅かに見えていた天井の月明りは、空洞の崩壊によって月を露わにした。

 

 「あははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!!!」

 

 カーリーは大口を開けて笑った。笑い続けた。

 

 月明りが洞窟全体を照らし、ソフィーネがただ一人その中心で佇む。その足元にはぼろ雑巾のように転がったバーチェとアルガナの姿。

 

 誰もが口を閉ざし、ソフィーネに恐れ怯える中で、カーリーはただ一人笑い続けた。

 ソフィーネの主神であるイシュタルですら想像を超えた戦いに我を忘れていたというのに、カーリーはこの戦いをずっと正気で楽しんでいたのだ。

 

 ずっとカーリーは夢を見ていた。

 何百何千何万という下界の子供たちを犠牲にしても、恋焦がれて見たかった戦士の頂。ずっと至高の武を追い求めていた。

 

 そんなカーリーは、ついに真に価値ある戦いを目撃したと確信する。

 

 「最高じゃ、最高の気分じゃよソフィーネッ!妾はもう言葉が見つからないッ!お前であれば、きっと、きっと妾が夢見た最強の戦士へと至ることができるッ!間違いなく、お前が、お前こそテルスキュラ最強の戦士じゃッ!」

 

 笑い、笑い、笑い続け、そしてカーリーは咳き込んだ。

 

 「ぐぅえ、ごほ、がほ、ちぃッ!粉塵がまだまだ収まっておらんからな。吸い込んでしまったわ」

 

 ふぅ、と息をついて冷静さを幾分か取り戻したカーリー。

 しかし、神はソフィーネを見下ろし、そして何かに驚いたように感動の声を上げた。

 

 「む?まさかソフィーネよ、アルガナとバーチェを殺しておらんのか?あの技であれば確実に仕留められただろうに、あえて見逃したのか」

 

 嘘だろ、この光景に我を忘れていたアイシャやフリュネが声を漏らす。

 慌てて観戦していたアマゾネス達がアルガナとバーチェを見れば、確かに微かに呼吸をする様子が見てとれた。

 全身どこを見ても傷だらけで血を大量に流していたが、それでもカリフ姉妹は生き残っていたのである。

 

 そんな三人を見咎めたカーリーは、恐ろしい一言を放った。

 

 「しまらんのぉ。ソフィーネよ、お前が勝者じゃ。だから敗者は殺してしまって構わんぞ。お前がテルスキュラを出るときのように、二人を殺すことを止めはせんから」

 

 ひっと春姫が息を呑み、その体を支えていたアイシャが目を見開く。

 戸惑いが大きいイシュタル・ファミリアに対して、徐々に状況を飲み込めていったテルスキュラの戦士達は興奮に頬を染め上げ、期待に胸を膨らませて立ち上がっていく。

 

 「もう十分すぎるほどに楽しめたわ。ティオネとティオナの前菜代わりに戦ってもらったが、こんな前菜を超えるものはもう出てこんじゃろう」

 

 真の戦士の誕生に、テルスキュラの戦士達は叫喚して祝福した。そして叫ぶ、アルガナとバーチェを殺せと。その叫びは聞く者すべてが呪いのように感じるものであった。

 

 「そいつらは、お前の仲間じゃないのか……?」

 

 アイシャが目に怒りを宿して、カーリーへと疑念を呈する。だが、カーリーは不思議そうに首をかしげるばかりであった。

 

 「そうじゃな、アルガナとバーチェは素晴らしい妾の子供たちじゃ。故に、感謝をせねばなるまい。ここまでの戦士に育ってくれたことに、ここまでの戦いを妾に見せてくれたことにの。最強の戦士の可能性は、次世代であったティオネとティオナ、そしてソフィーネに引き継がれた。そしてソフィーネはその頂に手をかけておる。故に、アルガナとバーチェはもう十分じゃ」

 

 「お前ッ!?」

 

 「アルガナとバーチェはこれよりソフィーネに殺される。そしてソフィーネの血はさらに深まっていく。そのきっかけになったアルガナとバーチェへの感謝は、言葉に言い表せないほどじゃ。そうじゃな、妾はこの二人の姉妹をまさに愛しておるよ」

 

 カーリーの眷属達への慈愛は本物である。

 しかし、闘争と殺戮を司る神の愛はここまで歪んだものかと、アイシャとイシュタル・ファミリアのアマゾネス達は心臓が凍り付いた。

 

 イシュタルも同じ美の女神であるフレイヤへと、異常とも言える憎しみと執着を見せている。

 イシュタル・ファミリアの面々は、カーリーもイシュタルとはまた違う形に心の向け方を変えただけであり、自身の快楽と興奮に従う快楽主義者なのだと正しく理解させられた。

 

 もう、止めることができない。

 

 誰もがそう考え至って、終わりを今か今かと待つばかりであった。……一人のアマゾネスと、神を除いて。

 

 「え、いやですけど」

 

 「「「「は?」」」」

 

 このソフィーネ、空気を読むならエロマンガなんて描き始めていない。

 

 いつだってマイペース。そこにエロがあるのであれば突き進む彼女が、そもそも闘争の神のいうことを聞くわけがなかった。

 

 「なんで私がカーリーのいうことを聞かなくちゃいけないんですか。あの、イシュタル様?マジでやるんですか?そしたら私たちが今回ここに来た理由も、私がわざわざ戦った理由も全部なくなってしまうんですけど」

 

 彼女がこの場で従うべき存在は、決してカーリーではなかった。

 従うべきは己が敬愛するファミリアの主神、イシュタルの言葉である。

 

 イシュタルはポカンと呆けたカーリーへ、嘲り目を向けて嗤った。

 

 「まだそいつらは使えるのか?」

 

 「急所も外しているので、ハイポーション使えばだいたい治ると思いますよ。むしろ、強引にアビリティを高めたことと、彼女たちの急所を外すために少し無理をした私の方が、回復にもっと時間がかかるような……?」

 

 「やれとはいったが、ここまでやれとはいっておらん」

 

 「一時のテンションに身を任せた結果です。でも、十分示せたのでは?」

 

 「だ・か・ら、ここまでやれとはいってないだろうに。まったく、お前というやつは……」

 

 「ご、ごめんなさい……」

 

 イシュタルからの指示によって、慌てた様子でアマゾネスの一人がハイポーションをもって三人へと駆け寄っていく。一本受け取ってその場から離れていくソフィーネ。アマゾネス達がまるでモーゼの海割りのように、ソフィーネの道を開けていく。

 

 ざわめきが生まれ始める中、カーリーは不満いっぱいといった様子で頬を膨らませ、苦い顔を晒していた。

 

 「……イシュタルよ、妾のソフィーネをここまで至らしめたことには感謝しよう。しかし、よくもここまで難儀なこいつの心を盗みよったな。魅了でもしおったのか」

 

 じろりとイシュタルをカーリーは怒りのままに睨んだ。

 

 「ふっ」

 

 イシュタルはそれを鼻を鳴らして一蹴。余裕綽々と言った表情に、カーリーの額には怒りの四つ角がいくつも浮かび上がった。

 

 「おい、調子にのるなよ。絶対にソフィーネはいつかテルスキュラに連れて帰るからの」

 

 「お前の言葉をそのまま返そう、『女神の嫉妬ほど醜いものはない』だったか?ん?」

 

 「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎ。こうなればティオネとティオナは絶対に連れて帰ってやるわ。その時までの楽しみとして取っておくだけじゃからの」

 

 鼻高々に機嫌が良いイシュタルと、悔しさを顔に滲ませて歯ぎしりするカーリー。二人のやり取りをソフィーネは遠くからちゃっかり耳にしていたが、流石に付き合いきれないと足早に去っていた。

 

 次の日、ソフィーネはハイポーション使ったのにめっちゃ筋肉痛になっていた。そして胃が食べ物を受け付けなかったために、結局は魚を食べ逃した。ソフィーネは泣いた。




二万字とかどうした私。
ネタ系って最適な読みやすさは8000字ぐらいだと個人的には思うのですが、長くなってしまった。ひょっとすると、本編はエロフのお姉さまとのやり取りであとはおまけなのかもしれない。長くなったのは、自爆技の自爆技を書く楽しさとロマンに勝てなかったから。

次でソードオラトリア6巻は終了予定。

ちょっと面倒くさくなったアルガナバーチェとティオネティオナの戦い、あと持ち越された主人公とベートさんを中心にしたロキ・ファミリアの軽い戦いを挟んで、戦闘遊戯でベル君との出会いを書くんだ!

感想ありがとうございます。だいたいノリで書いているので、皆さんの暇つぶしになれたら幸いです。あと誤字報告してくれる方ありがとうございます。後書きでも誤字やらかしてるポンコツです。

最近は友人といろんなアマゾネスについてズームで飲み会しながら話していたら、「テルスキュラのアマゾネスってあの環境だともれなく愛着障害を根底に、様々な精神障害を発症してそうでやばいわ。テルスキュラのSAN値やばいわ。あと、ダンまちのアマゾネスの父性原理と女性原理がやばそうで草」って話で盛り上がりました。

友人が糖尿になって仕事がめっちゃこっちに来そうになってますが、どうか皆様も糖尿と花粉症に気をつけて、お体をご自愛くださいませ。

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